元拍手連載『which?』
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
おっと、部屋の準備の前にしとかなきゃならない事があったな。
「ちょっとばかし待ってろ」
事務所からすぐの居住スペースに引っ込んだオレが持ってきたのは、水がポタポタ滴るタオル。そしてどこかでもらったままだった真新しい毛布。
「薬はねーからな……。ほら、氷水で冷やしたタオルあてとけ」
うちに薬がない以上、他の方法で熱を下げるしかない。
なんで薬がないかっていうのは、オレの正体考えればわかるよな。そんなもんひいても気合と魔力で吹き飛ばしゃいいんだ。
「あてるってどこに?」
「は?」
熱いのは額だというのに、わからないということは何も知らないのか。
もしかしたら風邪の対処法はもちろん、親に看病された経験もないのかもしれない。
ジャパニーズフェアリーテイルは知ってたみたいだが。
「デコだよ」
貸してみろ、とタオルを受け取り、勝手に悪いとは思ったがレインに触れ、その濃紺の前髪を上げてやる。
びく、と目をつぶりまつ毛ごと震わしたその体を眺めつつ、冷たいタオルを額に押し付けた。
震えたのは冷たさゆえか、それとも突然触れたからか。後者だな。
「ohh……ネコのデコってマジに狭いんだな」
オレはというと、ものすごい範囲にはみ出したタオルに驚きを隠せなかった。
ネコの額、なんて言葉があるが、ほんとに狭かった。
思わず呟くほどには。
「バージルとは大違いだ」
「バー、何?」
「なんでもねーやい」
ちなみにバージルだって別に額が広いわけでも、前髪が後退しているわけでもない。ただ単に掻き上げてオールバックにしているだけである。
失礼なダンテめ。ぷんぷん。
バフ!
それ以上言わせないためかなんなのか自分でもよくわからないが、オレはレインの顔に向かって持っていた毛布を投げた。
「わっ」
「デコは冷やしとけ。でも体はあっためねぇと風邪悪化するぞ。毛布にくるまってろ」
これでよし。
さて、ベッドメイキングしに行きますか。
「あったかい……」
もぞもぞ動く毛布の塊から小さなつぶやきが漏れたのか階下では聞こえた。
どう比べてもレインが持っていたボロ毛布よりは暖かいだろうそれに顔を埋め、レインはようやっと一息ついたようだった。
うむ、よきかなよきかな。
……が、戻ってきたらその空気は一変していた。
「待たせたな。部屋の準備できたぞ」
呼びかければ、その視線が壁にずっと縫いとめられているのが見えた。
壁……というと、デビルハンターとしての戦利品たる悪魔の首がかかっているところか。
ネコの時はその目線の低さで気がつかなかったらしいそれも、今はばっちり視界に入るようだ。
怖がるわけでもなく、興味津々なわけでもなく。
ただただ、飴玉のような朱色の瞳に、恐ろしい形相の悪魔の首というコレクションを映しているだけに見える。
しかし、氷のように冷えていく感情が読み取れた。
こんなビフォーアフター要らね。
オレが席を外した10分ほどの間に一体何があったというのか。
「どうした?」
まさかとは思うが、死してなお呪いや攻撃を放ってきそうな悪魔の首に何かされたのではないだろうか。
今までレディやネロなんかがこの首をジロジロ見たりしてきたが、特に何もなかった。
いや、オレの見ていないところで一悶着あったこともあるようなないような……その辺ハッキリしない。
依頼者である一般人なんかは、恐ろしい目にあったかもしれないな。悪夢見るとか。
目の前の少年も、もしかしたらそのクチかもな。
レディやネロのようなヒトとは思えんガッツある奴ならともかく、一般人と同等の精神力で耐えられぬものではない。
壁にかかるこいつら、生前はスケアクロウなんぞより、もっと強大な力を持っていた悪魔なのだから。
「『亜人は高く売れる』」
そんな折、ボソッと聞こえたレインのつぶやき。
「?」
「本当は貴方も僕をオークションに売る気でここに置こうとするんでしょう。
それか珍しいものを集めたいコレクターなんじゃないですか?」
ああ、壁の悪魔の首達を見て、オレのことを酔狂なコレクターだと思ったのか。
うめき声を上げ、時折目をギョロリと動かす、まるで生きているような(というか半分は生きている)それは、確かによっぽど変なモンが好きで集めてる奴か、そういったモンを研究する学者かしかいないからな。
ましてや入って目の前の壁に、目立つように飾るなんて……どう考えても前者としか思えなかったのだろう。
大半の一般人はそんな考えに至る前に恐ろしい、一刻も早くここを立ち去りたい、等という気持ちに支配されるようだからわからなかったぜ。
「バカいうな。しないっての」
オークションに出された悪魔の品や悪魔への生贄を救出する側だぞ。
それにコレクター趣味なんて一つもない。
「どうだか。
僕が今まで関わってきた人間は、悪魔から守ってくれる、大事にしてくれる、家族になってくれる……みんな口々にそう言ってくれた。
なのに、その甘言で僕はたくさん騙された。ひどい目にあった。……信じたのに。信じてたのに、裏切られた」
本人も言うつもりなさそうだし、何をされたかまでは聞かない。
でも、言葉だけである程度わかるのは職業柄かもな。
自分でも言っていたように亜人は高く売れるし、研究しがいもある。見目も悪くないから愛玩動物として飼われたりもしただろう。
言葉通り信じたところにことごとくそれでは、裏切り甚だしい。
だが、オレはわざわざそんな優しい言葉言った後に裏切るなんて面倒な真似はしない。
「裏切りねぇ。オレがんなめんどくさいことにすると思うか?」
「するかもしれない。だって僕は貴方のことを何も知らないから」
やれやれ、よっぽど人間不信に陥ってるなこりゃ。
ん?でもここまで来たのだから、少しは信用している……とも取れるかもしれん。
人間不信を極めているのなら、絶対知らねーやつになんかついて来たりはしないだろうし、壁のブツを見て思うところがあるならその瞬間に逃げ出しているだろう。
ま、朝になったら出てく気で今夜だけ泊まるのかもしれねぇけど。
……朝になったら何も言わずに消えてたりしてな。それはそれでショックだ。
「当たり前だろ。オレだってお前のことなんも知らん。会ったばっかりで知ってたら逆に怖いだろ?」
「確かに……」
おっと、少しは固い表情が和らいだ気配を察知。
体調も戻っていないだろうし、このまま寝かせちまおう。
「ンな事これから知ればいいこった。
さあ、良い子は水分こまめにとってしっかり寝ちまいな。汚ねぇ言葉で言うと『クソして寝ろ』だ」
「……汚すぎるでしょ」
「HAHAHA!!」
グイグイと階段に押し上げ上がらせ、部屋に案内してやる。
そして、オレは一旦階下へ下がる、と。
オレの気配があったんでは、気になって眠れないだろうしな。
「あ、気になるなら部屋に内鍵があるからかけろよー」
こっちが見えなくなる瞬間までを目で追っているレインに、手をひらと振りながら告げてやる。
もっとも、内鍵なんぞあってもないのと同じ。
オレが力任せにドアノブを捻れば、簡単にブッ壊れちまう。
「…………」
無言だったが、部屋に入ったようだ。
小さな音がする。
内鍵をかける音がしたが、少ししてからまた鍵を外す音がした。
そして、毛布にくるまるような気配。
鍵はかけようとしたが、結局かけなかったらしい。
少しだけ心の距離が縮まった気がした。
「ちょっとばかし待ってろ」
事務所からすぐの居住スペースに引っ込んだオレが持ってきたのは、水がポタポタ滴るタオル。そしてどこかでもらったままだった真新しい毛布。
「薬はねーからな……。ほら、氷水で冷やしたタオルあてとけ」
うちに薬がない以上、他の方法で熱を下げるしかない。
なんで薬がないかっていうのは、オレの正体考えればわかるよな。そんなもんひいても気合と魔力で吹き飛ばしゃいいんだ。
「あてるってどこに?」
「は?」
熱いのは額だというのに、わからないということは何も知らないのか。
もしかしたら風邪の対処法はもちろん、親に看病された経験もないのかもしれない。
ジャパニーズフェアリーテイルは知ってたみたいだが。
「デコだよ」
貸してみろ、とタオルを受け取り、勝手に悪いとは思ったがレインに触れ、その濃紺の前髪を上げてやる。
びく、と目をつぶりまつ毛ごと震わしたその体を眺めつつ、冷たいタオルを額に押し付けた。
震えたのは冷たさゆえか、それとも突然触れたからか。後者だな。
「ohh……ネコのデコってマジに狭いんだな」
オレはというと、ものすごい範囲にはみ出したタオルに驚きを隠せなかった。
ネコの額、なんて言葉があるが、ほんとに狭かった。
思わず呟くほどには。
「バージルとは大違いだ」
「バー、何?」
「なんでもねーやい」
ちなみにバージルだって別に額が広いわけでも、前髪が後退しているわけでもない。ただ単に掻き上げてオールバックにしているだけである。
失礼なダンテめ。ぷんぷん。
バフ!
それ以上言わせないためかなんなのか自分でもよくわからないが、オレはレインの顔に向かって持っていた毛布を投げた。
「わっ」
「デコは冷やしとけ。でも体はあっためねぇと風邪悪化するぞ。毛布にくるまってろ」
これでよし。
さて、ベッドメイキングしに行きますか。
「あったかい……」
もぞもぞ動く毛布の塊から小さなつぶやきが漏れたのか階下では聞こえた。
どう比べてもレインが持っていたボロ毛布よりは暖かいだろうそれに顔を埋め、レインはようやっと一息ついたようだった。
うむ、よきかなよきかな。
……が、戻ってきたらその空気は一変していた。
「待たせたな。部屋の準備できたぞ」
呼びかければ、その視線が壁にずっと縫いとめられているのが見えた。
壁……というと、デビルハンターとしての戦利品たる悪魔の首がかかっているところか。
ネコの時はその目線の低さで気がつかなかったらしいそれも、今はばっちり視界に入るようだ。
怖がるわけでもなく、興味津々なわけでもなく。
ただただ、飴玉のような朱色の瞳に、恐ろしい形相の悪魔の首というコレクションを映しているだけに見える。
しかし、氷のように冷えていく感情が読み取れた。
こんなビフォーアフター要らね。
オレが席を外した10分ほどの間に一体何があったというのか。
「どうした?」
まさかとは思うが、死してなお呪いや攻撃を放ってきそうな悪魔の首に何かされたのではないだろうか。
今までレディやネロなんかがこの首をジロジロ見たりしてきたが、特に何もなかった。
いや、オレの見ていないところで一悶着あったこともあるようなないような……その辺ハッキリしない。
依頼者である一般人なんかは、恐ろしい目にあったかもしれないな。悪夢見るとか。
目の前の少年も、もしかしたらそのクチかもな。
レディやネロのようなヒトとは思えんガッツある奴ならともかく、一般人と同等の精神力で耐えられぬものではない。
壁にかかるこいつら、生前はスケアクロウなんぞより、もっと強大な力を持っていた悪魔なのだから。
「『亜人は高く売れる』」
そんな折、ボソッと聞こえたレインのつぶやき。
「?」
「本当は貴方も僕をオークションに売る気でここに置こうとするんでしょう。
それか珍しいものを集めたいコレクターなんじゃないですか?」
ああ、壁の悪魔の首達を見て、オレのことを酔狂なコレクターだと思ったのか。
うめき声を上げ、時折目をギョロリと動かす、まるで生きているような(というか半分は生きている)それは、確かによっぽど変なモンが好きで集めてる奴か、そういったモンを研究する学者かしかいないからな。
ましてや入って目の前の壁に、目立つように飾るなんて……どう考えても前者としか思えなかったのだろう。
大半の一般人はそんな考えに至る前に恐ろしい、一刻も早くここを立ち去りたい、等という気持ちに支配されるようだからわからなかったぜ。
「バカいうな。しないっての」
オークションに出された悪魔の品や悪魔への生贄を救出する側だぞ。
それにコレクター趣味なんて一つもない。
「どうだか。
僕が今まで関わってきた人間は、悪魔から守ってくれる、大事にしてくれる、家族になってくれる……みんな口々にそう言ってくれた。
なのに、その甘言で僕はたくさん騙された。ひどい目にあった。……信じたのに。信じてたのに、裏切られた」
本人も言うつもりなさそうだし、何をされたかまでは聞かない。
でも、言葉だけである程度わかるのは職業柄かもな。
自分でも言っていたように亜人は高く売れるし、研究しがいもある。見目も悪くないから愛玩動物として飼われたりもしただろう。
言葉通り信じたところにことごとくそれでは、裏切り甚だしい。
だが、オレはわざわざそんな優しい言葉言った後に裏切るなんて面倒な真似はしない。
「裏切りねぇ。オレがんなめんどくさいことにすると思うか?」
「するかもしれない。だって僕は貴方のことを何も知らないから」
やれやれ、よっぽど人間不信に陥ってるなこりゃ。
ん?でもここまで来たのだから、少しは信用している……とも取れるかもしれん。
人間不信を極めているのなら、絶対知らねーやつになんかついて来たりはしないだろうし、壁のブツを見て思うところがあるならその瞬間に逃げ出しているだろう。
ま、朝になったら出てく気で今夜だけ泊まるのかもしれねぇけど。
……朝になったら何も言わずに消えてたりしてな。それはそれでショックだ。
「当たり前だろ。オレだってお前のことなんも知らん。会ったばっかりで知ってたら逆に怖いだろ?」
「確かに……」
おっと、少しは固い表情が和らいだ気配を察知。
体調も戻っていないだろうし、このまま寝かせちまおう。
「ンな事これから知ればいいこった。
さあ、良い子は水分こまめにとってしっかり寝ちまいな。汚ねぇ言葉で言うと『クソして寝ろ』だ」
「……汚すぎるでしょ」
「HAHAHA!!」
グイグイと階段に押し上げ上がらせ、部屋に案内してやる。
そして、オレは一旦階下へ下がる、と。
オレの気配があったんでは、気になって眠れないだろうしな。
「あ、気になるなら部屋に内鍵があるからかけろよー」
こっちが見えなくなる瞬間までを目で追っているレインに、手をひらと振りながら告げてやる。
もっとも、内鍵なんぞあってもないのと同じ。
オレが力任せにドアノブを捻れば、簡単にブッ壊れちまう。
「…………」
無言だったが、部屋に入ったようだ。
小さな音がする。
内鍵をかける音がしたが、少ししてからまた鍵を外す音がした。
そして、毛布にくるまるような気配。
鍵はかけようとしたが、結局かけなかったらしい。
少しだけ心の距離が縮まった気がした。