元拍手連載『which?』
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残ったのは息切れを起こして這い蹲っている猫耳少年レインと、長剣を肩にかけてその者を見つめ佇む一人のデビルハンター、オレのみ。
元は何かの工場だったのだろう、瓦礫と砂塵舞う廃墟には、レインの荷物らしき薄汚れたバッグパックと、缶詰めや空き瓶などの生活感溢れるゴミがまとめて置いてあった。
その周辺だけやけに綺麗で、少し埃っぽそうだが毛布が畳んで置いてあるのも目に入る。
「ここを拠点にしてやがったのか?」
「……そうだよ。三日くらい前からだけどね」
スケアクロウを相手取っていた時に握っていたのだろう、時代を感じさせる彫刻が施された精巧なナイフを革の鞘へ静かに戻し、バッグパックへと入れるレイン。
そのバッグの中には悪魔にとって、そしてオレ自身もあまり好きではない魔を退ける小瓶が入っているのが見えた。
「きたねー荷物だな。
ここがシンガポールなら、置いてるだけでゴミを落としたと勘違いされて罰金ものだぜ」
「ここはシンガポールじゃない。余計なお世話」
「ホーリーウォーターか。あるなら使えばよかったんじゃねぇか?」
「残り数が少ない……命が本当に危ない時以外使わないようにしてるんです」
あれだってかなりの窮地だと思ったが違うのだろうか。
オレが来なかったらどうなっていたことやら。
にしたって、悪魔に囲まれるその量が明らかに多すぎである。なんだあのスケアクロウの量は。
それがオレの事務所にいた事実があるということを含めても、多すぎだ。
どこかの天使レベルか、それ以上の数だったぞ。
オレじゃなきゃ捌けなかっただろう。
「なあお前悪魔が好む香水でもつけて歩いてるのか」
「失礼な……」
まあ、そうだよな。
そんなものついてたら、半分悪魔のオレだって気がつく。
「悪魔とは昔から相性が悪いんですよ。特にあの頭陀袋、次から次に襲って来て……逃げ続けているうちにあんなに数を増やして…」
「頭陀袋?……ああ、スケアクロウのことか」
「へえ、悪魔に名前があるんだ?」
「オレがつけたわけじゃねぇけどな。ふぅん、相性、ねぇ……」
「何か?」
「いや、なんでもねぇよ」
悪魔との相性が悪いということは、半分悪魔であるオレとも相性がよくないということだろうか。
アッだからあんまり撫でさせてくれなかったんだなよし詳しく理解した。
「また助けてもらいましたね。ありがとうございます」
「おう」
感謝を述べてきたということは、礼儀はなっているようだな。偉い。
「……では」
そう言ってレインの奴、自分の足元の荷物をまとめだした。
え、ちょっと待て。
このままどっか行くってか。徐々に夜の帳下りてくるこの時間帯に?
「ではって……どっか行くつもりなのか」
「あれだけの悪魔が襲ってくるようなところに、いつまでもいられません」
「たまには一週間くらいゆっくり一ヶ所にいたかったんですけどね……」なんて宣い、まとめた荷物を肩にかけて立ち上がるレイン。
返答次第ではそのまま行かせようとも思ったのだが、一ヶ所に数日しか居られぬ生活と聞いて待ったをかけ止めたのは普通の感覚なハズだ。
「どこ行く気だ」
「どこって……あてのない旅路です。貴方に関係があります?」
「ちょお待ち。お前は一宿一飯や助けた恩義ってのを知らないのか」
「僕はネコです。鳥じゃないのでその赤い外套は縫えませんし、甲羅もないので海の中のお城にも連れて行けません。それに泊まった覚えはありませんが?」
「……言葉の綾だよ」
こいつ、ジャパニーズフェアリーテールなんてよく知ってたな。
そんなことより、だ。
「オレのところに来いって。な?」
自分のデカイ図体で退路を塞ぐように立ち塞がれば、一歩下がってビビった様子を見せた。
その中で唯一目だけは尖った色をたたえている。
「やです」
「やって……お前、気がついてないのか?自分がまだ熱があるってのをよ」
風邪は万病のもと。
風邪を侮っちゃいけないってのは、あまり風邪をひいた経験のないオレでもわかること。
レインは今気がついた、とでも言うのか自分の頬をペタと触って熱さを確認している。
少年から青年になるくらいの頃の、柔らかそうなその頬を何故だか無性につついてみたくなった。しないけど。
「ちゃんと休んどけよ。こんな廃墟じゃなくて屋根があって、ふかふか……とは言えないかもしれないがベッドのあるような場所でよ。オレんとこが最適じゃねーか」
屋根があってふかふかとは言いづらいベッドがあるのはオレんとこだ、と言えばわかってた、と返ってきた。バレバレかよ。
「手持ちの路銀が少ないのでホテルにも貴方のところにも泊まれません」
「オレがそんなの要求するわきゃねぇだろ。ピザやミルク、風呂の時だって要求したか?」
なんだ。金の心配してたのか。
取る気なんぞねーってのに。
ただし、よっぽど気にいらねぇ奴や悪魔が相手ならぶんどる。
そんな奴にはもともとお帰り頂いてるか。
悪魔?論外だね。見つけ次第命貰う。
「それはネコだったからでしょうが!
ネコにまで金払えなんて言ってたら、貴方相当なヒトデナシですよ!?」
「ソーデスネ」
元々ヒトじゃなくて、半分悪魔だが言わないでおくか。
「はあ、お金取られるホテルよりはましか。熱も下げないとですし。……朝になったら出て行きますのでよろしくお願いします」
「ハイハイ」
逃げ道を奪い、袋小路に追い詰め、そして退路を断ったせいか、観念したレインがやっと首を縦に振った。
相手がネコなのだけども、ネズミを前にしているネコの気分だった。
最初の時とは違い、今度はネコではなくヒトの姿のレインを連れて、戻ってきましたオレの事務所。
借りてきたネコみたいに入った事務所でおとなしく佇むレインを置いて、オレは二階への階段に足をかけた。
空いてる部屋はあっても、そこのベッドがどうなってるか確認してこないとな。
「部屋を用意してくる」
「いいです。……ここでいいです」
ここというと、階段と二階の廊下が見え放題の、所謂吹き抜けで天井がやたら高い事務所の事か。
風邪ひいてるくせにこんなクソ寒いところでなんて寝かせられん。
「ここ暖房が効きづらいんだぞ。それに寝るとこどうすんだ」
「ここでいいです!」
言っても聞かないか。
ならせめてベッドくらい運んでくるか。
仕事場でもあるが、ベッドの一つや二つあったって誰も気にしない。
だいたいどう見ても仕事に関係ないビリヤード台やジュークボックス、ドラムセットなんていう、娯楽のモンばっかあるからな。
「ベッド持ってくる」
「寝るところはソファーでいいんです!!」
「お前の体ならソファーでもじゅうぶんかもしれないけどな。おじさんは力持ちだからベッド持ってくるくらいわけないんだよ」
おじさんって自分でいっちまった。そんな歳じゃない……多分。
ゴツゴツとブーツを鳴らし、再びフロアに立つオレ。
レインが今しがたベッドがわりにしようとしていた長ソファー、それに手をかけると。
ヒョイ。
なんでもないように、片手で持ち上げてみせた。
オレが置いた後、半信半疑でレインも持ち上げようとしたが、ビクともしなかった。レインはその重さと、オレの行動に目を白黒させた。
そりゃそうか。どう考えても簡単には持ち上がらなそうなソファーだもんな。ましてや片手でなんて。
「……部屋、借りる……」
「ン~、GOOD!」
いい判断だ。
このままではオレが本当に部屋からベッドを運びかねないと思ったか、レインは諦めて部屋を借りると言ってきた。
押し問答もオレの勝ちー。
これが今までの経験と生きてきた年数の差ってやつだ。
最強のデビルハンターの名は伊達じゃない。
元は何かの工場だったのだろう、瓦礫と砂塵舞う廃墟には、レインの荷物らしき薄汚れたバッグパックと、缶詰めや空き瓶などの生活感溢れるゴミがまとめて置いてあった。
その周辺だけやけに綺麗で、少し埃っぽそうだが毛布が畳んで置いてあるのも目に入る。
「ここを拠点にしてやがったのか?」
「……そうだよ。三日くらい前からだけどね」
スケアクロウを相手取っていた時に握っていたのだろう、時代を感じさせる彫刻が施された精巧なナイフを革の鞘へ静かに戻し、バッグパックへと入れるレイン。
そのバッグの中には悪魔にとって、そしてオレ自身もあまり好きではない魔を退ける小瓶が入っているのが見えた。
「きたねー荷物だな。
ここがシンガポールなら、置いてるだけでゴミを落としたと勘違いされて罰金ものだぜ」
「ここはシンガポールじゃない。余計なお世話」
「ホーリーウォーターか。あるなら使えばよかったんじゃねぇか?」
「残り数が少ない……命が本当に危ない時以外使わないようにしてるんです」
あれだってかなりの窮地だと思ったが違うのだろうか。
オレが来なかったらどうなっていたことやら。
にしたって、悪魔に囲まれるその量が明らかに多すぎである。なんだあのスケアクロウの量は。
それがオレの事務所にいた事実があるということを含めても、多すぎだ。
どこかの天使レベルか、それ以上の数だったぞ。
オレじゃなきゃ捌けなかっただろう。
「なあお前悪魔が好む香水でもつけて歩いてるのか」
「失礼な……」
まあ、そうだよな。
そんなものついてたら、半分悪魔のオレだって気がつく。
「悪魔とは昔から相性が悪いんですよ。特にあの頭陀袋、次から次に襲って来て……逃げ続けているうちにあんなに数を増やして…」
「頭陀袋?……ああ、スケアクロウのことか」
「へえ、悪魔に名前があるんだ?」
「オレがつけたわけじゃねぇけどな。ふぅん、相性、ねぇ……」
「何か?」
「いや、なんでもねぇよ」
悪魔との相性が悪いということは、半分悪魔であるオレとも相性がよくないということだろうか。
アッだからあんまり撫でさせてくれなかったんだなよし詳しく理解した。
「また助けてもらいましたね。ありがとうございます」
「おう」
感謝を述べてきたということは、礼儀はなっているようだな。偉い。
「……では」
そう言ってレインの奴、自分の足元の荷物をまとめだした。
え、ちょっと待て。
このままどっか行くってか。徐々に夜の帳下りてくるこの時間帯に?
「ではって……どっか行くつもりなのか」
「あれだけの悪魔が襲ってくるようなところに、いつまでもいられません」
「たまには一週間くらいゆっくり一ヶ所にいたかったんですけどね……」なんて宣い、まとめた荷物を肩にかけて立ち上がるレイン。
返答次第ではそのまま行かせようとも思ったのだが、一ヶ所に数日しか居られぬ生活と聞いて待ったをかけ止めたのは普通の感覚なハズだ。
「どこ行く気だ」
「どこって……あてのない旅路です。貴方に関係があります?」
「ちょお待ち。お前は一宿一飯や助けた恩義ってのを知らないのか」
「僕はネコです。鳥じゃないのでその赤い外套は縫えませんし、甲羅もないので海の中のお城にも連れて行けません。それに泊まった覚えはありませんが?」
「……言葉の綾だよ」
こいつ、ジャパニーズフェアリーテールなんてよく知ってたな。
そんなことより、だ。
「オレのところに来いって。な?」
自分のデカイ図体で退路を塞ぐように立ち塞がれば、一歩下がってビビった様子を見せた。
その中で唯一目だけは尖った色をたたえている。
「やです」
「やって……お前、気がついてないのか?自分がまだ熱があるってのをよ」
風邪は万病のもと。
風邪を侮っちゃいけないってのは、あまり風邪をひいた経験のないオレでもわかること。
レインは今気がついた、とでも言うのか自分の頬をペタと触って熱さを確認している。
少年から青年になるくらいの頃の、柔らかそうなその頬を何故だか無性につついてみたくなった。しないけど。
「ちゃんと休んどけよ。こんな廃墟じゃなくて屋根があって、ふかふか……とは言えないかもしれないがベッドのあるような場所でよ。オレんとこが最適じゃねーか」
屋根があってふかふかとは言いづらいベッドがあるのはオレんとこだ、と言えばわかってた、と返ってきた。バレバレかよ。
「手持ちの路銀が少ないのでホテルにも貴方のところにも泊まれません」
「オレがそんなの要求するわきゃねぇだろ。ピザやミルク、風呂の時だって要求したか?」
なんだ。金の心配してたのか。
取る気なんぞねーってのに。
ただし、よっぽど気にいらねぇ奴や悪魔が相手ならぶんどる。
そんな奴にはもともとお帰り頂いてるか。
悪魔?論外だね。見つけ次第命貰う。
「それはネコだったからでしょうが!
ネコにまで金払えなんて言ってたら、貴方相当なヒトデナシですよ!?」
「ソーデスネ」
元々ヒトじゃなくて、半分悪魔だが言わないでおくか。
「はあ、お金取られるホテルよりはましか。熱も下げないとですし。……朝になったら出て行きますのでよろしくお願いします」
「ハイハイ」
逃げ道を奪い、袋小路に追い詰め、そして退路を断ったせいか、観念したレインがやっと首を縦に振った。
相手がネコなのだけども、ネズミを前にしているネコの気分だった。
最初の時とは違い、今度はネコではなくヒトの姿のレインを連れて、戻ってきましたオレの事務所。
借りてきたネコみたいに入った事務所でおとなしく佇むレインを置いて、オレは二階への階段に足をかけた。
空いてる部屋はあっても、そこのベッドがどうなってるか確認してこないとな。
「部屋を用意してくる」
「いいです。……ここでいいです」
ここというと、階段と二階の廊下が見え放題の、所謂吹き抜けで天井がやたら高い事務所の事か。
風邪ひいてるくせにこんなクソ寒いところでなんて寝かせられん。
「ここ暖房が効きづらいんだぞ。それに寝るとこどうすんだ」
「ここでいいです!」
言っても聞かないか。
ならせめてベッドくらい運んでくるか。
仕事場でもあるが、ベッドの一つや二つあったって誰も気にしない。
だいたいどう見ても仕事に関係ないビリヤード台やジュークボックス、ドラムセットなんていう、娯楽のモンばっかあるからな。
「ベッド持ってくる」
「寝るところはソファーでいいんです!!」
「お前の体ならソファーでもじゅうぶんかもしれないけどな。おじさんは力持ちだからベッド持ってくるくらいわけないんだよ」
おじさんって自分でいっちまった。そんな歳じゃない……多分。
ゴツゴツとブーツを鳴らし、再びフロアに立つオレ。
レインが今しがたベッドがわりにしようとしていた長ソファー、それに手をかけると。
ヒョイ。
なんでもないように、片手で持ち上げてみせた。
オレが置いた後、半信半疑でレインも持ち上げようとしたが、ビクともしなかった。レインはその重さと、オレの行動に目を白黒させた。
そりゃそうか。どう考えても簡単には持ち上がらなそうなソファーだもんな。ましてや片手でなんて。
「……部屋、借りる……」
「ン~、GOOD!」
いい判断だ。
このままではオレが本当に部屋からベッドを運びかねないと思ったか、レインは諦めて部屋を借りると言ってきた。
押し問答もオレの勝ちー。
これが今までの経験と生きてきた年数の差ってやつだ。
最強のデビルハンターの名は伊達じゃない。