元拍手連載『which?』
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これは……なんだ?
え、ネコだったレインが、耳と尾を生やした人間に?
レインと同じ警戒心を丸出しにしつつ、怯えも孕んだ表情で、オレを見つめるストロベリーピンクの瞳。
この表情は、先ほど散々見たもの。
光り、そしてこの姿形に変わったところは見ていたはずなのに、オレがこの少年をレインだと確信したのは同じ表情からだった。
「……お前、レインか?」
面白いくらいビクッと震える体。髪の毛すらもその対象か、全身の毛を逆立てている。
ビンゴ!レイン確定。
だが、警戒心と怯え。
そこにはそれしかない。
これまで幾多の悪魔の相手をしてきたし、その形状も様々。
中には目の前のレインのように、獣の耳を生やした限りなくヒトに近い姿の悪魔もいた。
しかし、纏う空気でわかる。
清い。ピュアだ。
悪魔が持つ、偽りの清さではない。誤魔化しじゃない。
よって、レインが悪魔という可能性はゼロ。
「えっと……。悪魔?ではねぇ、な……?」
後で思い返してみれば不躾にも程があったが、本物かどうか確かめるため、オレはその耳に触れようとゆっくりと手を伸ばしてしまった。
それがいけなかった。
「っ!触んな!!」
伸ばした手は、バシリと思い切り払いのけられてしまったのだ。
その力は悪魔とは比べ物にならないほど微弱だったが、オレは拒否されたことそのものに心が少し傷ついた、そんな感覚を覚えた。
気性の荒いネコそのものの状態、警戒心の頂点にいるであろうレイン。
そんなレインの態度はもっともだというのに。
……だって仕方ないだろう?ネコなんて飼ったことないんだから。
払いのけられた手を見つめて固まったままのオレに気がつき、今度はレインがしまった!と表情を変えた。
「…………さわ、らないで…くれますか?この耳は本物、なので……」
しゅん、と耳を僅かに垂れさせ、顔ごと視線を逸らすレイン。
触らずとももうそれが本物なのはわかった。
耳と尻尾のある、人間。
遠い昔、依頼の際にどこかで聞いたことがある気がした。
その種族の名は……。
「亜人、だな?」
ビクッ!
ものすごい勢いでレインの体が震えた。
だがその怯え方、正解と言っているようなものだぜ。
「お」
「お?」
「おせわになりました。
何も見なかったことにしてくれると嬉しい、です」
律儀なやっちゃなぁ。
そう礼を述べたかと思うと。
ダッ!
レインのすぐ近くは先ほど土を持ってきた裏口の扉。
そこから、レインは逃げるように出て言ったのだ。
脱兎のごとく。ウサギじゃなくてネコだけど。
「おい、待……!」
このオレが止める間もなかった。
……おいおいおいおい。
依頼はないし、今夜は悪魔どもが活発になる満月でもねぇ。
けど、オレの住む界隈は夜に一歩出ればそこはいつ悪魔に襲われてもおかしくない魔の気配漂う場所。
夜という時間帯でも安全なのは、この事務所が決壊になっているからに過ぎないのだ。
え?悪魔が来るたびに退治しろ?
ンなこと毎日やってみろ、寝る間もねーぜ。さすがのオレも過労死するわ!
週休6日制は今も健在だ。
それに脅威となるのは、何も悪魔だけではない。
理由は単純。ここが無法地帯たるスラム街だからだ。
ゴロツキどころか人身売買や薬物依存する輩はいるわ、凶暴な野犬はいるわ、少年愛好家の変態はいるわ……。
人殺しも強盗もいるようなところだ。
ま、ここ数年オレの目の届く範囲ではそんな輩減ってきたがな。
一度助けた身。
なのに、また同じ危険に突っ込んでいって死なれでもしてみろ。目覚めが悪い。
レインが出て行ってから、外ではすでに魔の気配が排水溝やゴミ捨て場、汚泥の底から漂い、悪魔のナリを形成し始めている感覚がした。
多分、フォルトゥナで嫌ってほど相手取ったスケアクロウだと思う。
「やれやれ」
オレは長年使い込んだリベリオンを手に、
確実に悪魔が襲来するであろうレインの元へと向かった。
どこにいるかも、悪魔の気配を追えば簡単だろうと踏んで。
さて、案の定というかなんというか……。
たどり着いた廃墟であるそこには、スケアクロウが発生していた。
大量、なんてちゃちなもんじゃあねえ。数の暴力だ。スケアクロウ祭りだ。
おい誰だPC版LDKモードスケアクロウ祭りって言ったやつ出てこい。ありゃ死ぬぞ主にプレイヤーの指がな。
オレがうんざりするほどの数のスケアクロウが、一点集中でアリの大群のように群がっている。
あの中心付近にレインがいるのが嫌でもわかる。
「悪魔のヤロー多過ぎじゃないか?こりゃ減らすのに時間がかかりそうだ……なっ!」
リベリオンを一振りして近場のスケアクロウどもを一気に薙ぎ払うと、その攻撃に体力の少ない奴等は耐えきれずあっけなく塵芥へと還る。……少量のレッドオーブを残して。
その衝撃と攻撃に気づいたのだろう、倒れたスケアクロウが壁となり無事だった残りのスケアクロウがこちらを向く。
相手が最強のデビルハンターにして裏切り者の息子という、悪魔の細胞に刻まれた敵であるオレなのを理解したか、一斉に牙を剥いて飛びかかってきた。
相変わらず中心部の悪魔だけは、レインの方を担当しているようだが。
肉薄するスケアクロウの手や足の鎌、そして鉈。
あれで斬りつけられれば、斬られて痛いよりも錆びた刃物から侵入するウイルスによる感染が恐ろしく思える。傷口もスッパリというよりギザギザでエグそうだ。
そんな事を考えつつそれらが頭や体に届く直前で、オレはコートを翻してひらりと避ける。
捉えた!と思った直前で消えたオレに驚いたか、スケアクロウどもはその勢いを殺せず、仲間同士でぶつかり合い、地面とキスすることとなった。
そこに振り下ろされる、広範囲型に改良された空中兜割り。
まずハイタイムで宙に浮かせてから兜割りでもよかったかもしれないと後で考えた。
叩きつけて斬りつける今までの兜割りではなく、叩きつけながらも刺身でも斬りおろすような鋭い動き。
だからこそ広範囲なのだが、そのぶん威力は低下する。
向かってきたスケアクロウの中でも取りこぼした数匹。
オレはそいつらを数回、舌打ち混じりに斬り払い、足で蹴りつけて悪魔としての生を終わらせた。
面倒クセェな。魔人化して一掃したい。
そう思ったが、レインが襲われている悪魔の隙間から見ていないとも限らない。
亜人だとバレてだろう、パニックを起こしている彼に、目の前の男が自身が襲われている悪魔の端くれだと知られるのはまずい気がした。
荒い呼吸音とくぐもったような小さなうめき声が聞こえる。
時折、刃物がぶつかり合うような音も。
鈍い刃物音の他に、高い刃の音。
鈍い方はスケアクロウの鎌や鉈だろう。高い方はそれとは違い、よく研ぎ澄まされた刃物の音に聞こえた。
……もしや、レインは何か武器を持っていて、それでスケアクロウに対抗している?
疑問に思う間にも、キン、キィンと響く金属音。
どの程度の力量なのかはわからないが、急いだ方が良いのに変わりはない。
「無事か!今、なんとかしてやっから死ぬなよ!!」
半ば叫ぶようにして言い、残りのスケアクロウを退治していると、いつのまにか音と声が止んでいる。
鍔迫り合いのまま刃と刃が拮抗し、止まっている?
まさかそれとも……。
「レイン!?
おい!死んでねーなら返事しな!」
「簡単には死にませんよ!勝手に殺すな!!」
直ぐ様そんな返答が飛んできた。
最悪の事態を想定していたが、その腹の立つ罵倒に予想以上にホッとしたぞおい。
ホッとしたのが大きかったか、そこからは最強のデビルハンターの真骨頂。
残りのスケアクロウにはさっさと永遠に沈黙していただいた。
え、ネコだったレインが、耳と尾を生やした人間に?
レインと同じ警戒心を丸出しにしつつ、怯えも孕んだ表情で、オレを見つめるストロベリーピンクの瞳。
この表情は、先ほど散々見たもの。
光り、そしてこの姿形に変わったところは見ていたはずなのに、オレがこの少年をレインだと確信したのは同じ表情からだった。
「……お前、レインか?」
面白いくらいビクッと震える体。髪の毛すらもその対象か、全身の毛を逆立てている。
ビンゴ!レイン確定。
だが、警戒心と怯え。
そこにはそれしかない。
これまで幾多の悪魔の相手をしてきたし、その形状も様々。
中には目の前のレインのように、獣の耳を生やした限りなくヒトに近い姿の悪魔もいた。
しかし、纏う空気でわかる。
清い。ピュアだ。
悪魔が持つ、偽りの清さではない。誤魔化しじゃない。
よって、レインが悪魔という可能性はゼロ。
「えっと……。悪魔?ではねぇ、な……?」
後で思い返してみれば不躾にも程があったが、本物かどうか確かめるため、オレはその耳に触れようとゆっくりと手を伸ばしてしまった。
それがいけなかった。
「っ!触んな!!」
伸ばした手は、バシリと思い切り払いのけられてしまったのだ。
その力は悪魔とは比べ物にならないほど微弱だったが、オレは拒否されたことそのものに心が少し傷ついた、そんな感覚を覚えた。
気性の荒いネコそのものの状態、警戒心の頂点にいるであろうレイン。
そんなレインの態度はもっともだというのに。
……だって仕方ないだろう?ネコなんて飼ったことないんだから。
払いのけられた手を見つめて固まったままのオレに気がつき、今度はレインがしまった!と表情を変えた。
「…………さわ、らないで…くれますか?この耳は本物、なので……」
しゅん、と耳を僅かに垂れさせ、顔ごと視線を逸らすレイン。
触らずとももうそれが本物なのはわかった。
耳と尻尾のある、人間。
遠い昔、依頼の際にどこかで聞いたことがある気がした。
その種族の名は……。
「亜人、だな?」
ビクッ!
ものすごい勢いでレインの体が震えた。
だがその怯え方、正解と言っているようなものだぜ。
「お」
「お?」
「おせわになりました。
何も見なかったことにしてくれると嬉しい、です」
律儀なやっちゃなぁ。
そう礼を述べたかと思うと。
ダッ!
レインのすぐ近くは先ほど土を持ってきた裏口の扉。
そこから、レインは逃げるように出て言ったのだ。
脱兎のごとく。ウサギじゃなくてネコだけど。
「おい、待……!」
このオレが止める間もなかった。
……おいおいおいおい。
依頼はないし、今夜は悪魔どもが活発になる満月でもねぇ。
けど、オレの住む界隈は夜に一歩出ればそこはいつ悪魔に襲われてもおかしくない魔の気配漂う場所。
夜という時間帯でも安全なのは、この事務所が決壊になっているからに過ぎないのだ。
え?悪魔が来るたびに退治しろ?
ンなこと毎日やってみろ、寝る間もねーぜ。さすがのオレも過労死するわ!
週休6日制は今も健在だ。
それに脅威となるのは、何も悪魔だけではない。
理由は単純。ここが無法地帯たるスラム街だからだ。
ゴロツキどころか人身売買や薬物依存する輩はいるわ、凶暴な野犬はいるわ、少年愛好家の変態はいるわ……。
人殺しも強盗もいるようなところだ。
ま、ここ数年オレの目の届く範囲ではそんな輩減ってきたがな。
一度助けた身。
なのに、また同じ危険に突っ込んでいって死なれでもしてみろ。目覚めが悪い。
レインが出て行ってから、外ではすでに魔の気配が排水溝やゴミ捨て場、汚泥の底から漂い、悪魔のナリを形成し始めている感覚がした。
多分、フォルトゥナで嫌ってほど相手取ったスケアクロウだと思う。
「やれやれ」
オレは長年使い込んだリベリオンを手に、
確実に悪魔が襲来するであろうレインの元へと向かった。
どこにいるかも、悪魔の気配を追えば簡単だろうと踏んで。
さて、案の定というかなんというか……。
たどり着いた廃墟であるそこには、スケアクロウが発生していた。
大量、なんてちゃちなもんじゃあねえ。数の暴力だ。スケアクロウ祭りだ。
おい誰だPC版LDKモードスケアクロウ祭りって言ったやつ出てこい。ありゃ死ぬぞ主にプレイヤーの指がな。
オレがうんざりするほどの数のスケアクロウが、一点集中でアリの大群のように群がっている。
あの中心付近にレインがいるのが嫌でもわかる。
「悪魔のヤロー多過ぎじゃないか?こりゃ減らすのに時間がかかりそうだ……なっ!」
リベリオンを一振りして近場のスケアクロウどもを一気に薙ぎ払うと、その攻撃に体力の少ない奴等は耐えきれずあっけなく塵芥へと還る。……少量のレッドオーブを残して。
その衝撃と攻撃に気づいたのだろう、倒れたスケアクロウが壁となり無事だった残りのスケアクロウがこちらを向く。
相手が最強のデビルハンターにして裏切り者の息子という、悪魔の細胞に刻まれた敵であるオレなのを理解したか、一斉に牙を剥いて飛びかかってきた。
相変わらず中心部の悪魔だけは、レインの方を担当しているようだが。
肉薄するスケアクロウの手や足の鎌、そして鉈。
あれで斬りつけられれば、斬られて痛いよりも錆びた刃物から侵入するウイルスによる感染が恐ろしく思える。傷口もスッパリというよりギザギザでエグそうだ。
そんな事を考えつつそれらが頭や体に届く直前で、オレはコートを翻してひらりと避ける。
捉えた!と思った直前で消えたオレに驚いたか、スケアクロウどもはその勢いを殺せず、仲間同士でぶつかり合い、地面とキスすることとなった。
そこに振り下ろされる、広範囲型に改良された空中兜割り。
まずハイタイムで宙に浮かせてから兜割りでもよかったかもしれないと後で考えた。
叩きつけて斬りつける今までの兜割りではなく、叩きつけながらも刺身でも斬りおろすような鋭い動き。
だからこそ広範囲なのだが、そのぶん威力は低下する。
向かってきたスケアクロウの中でも取りこぼした数匹。
オレはそいつらを数回、舌打ち混じりに斬り払い、足で蹴りつけて悪魔としての生を終わらせた。
面倒クセェな。魔人化して一掃したい。
そう思ったが、レインが襲われている悪魔の隙間から見ていないとも限らない。
亜人だとバレてだろう、パニックを起こしている彼に、目の前の男が自身が襲われている悪魔の端くれだと知られるのはまずい気がした。
荒い呼吸音とくぐもったような小さなうめき声が聞こえる。
時折、刃物がぶつかり合うような音も。
鈍い刃物音の他に、高い刃の音。
鈍い方はスケアクロウの鎌や鉈だろう。高い方はそれとは違い、よく研ぎ澄まされた刃物の音に聞こえた。
……もしや、レインは何か武器を持っていて、それでスケアクロウに対抗している?
疑問に思う間にも、キン、キィンと響く金属音。
どの程度の力量なのかはわからないが、急いだ方が良いのに変わりはない。
「無事か!今、なんとかしてやっから死ぬなよ!!」
半ば叫ぶようにして言い、残りのスケアクロウを退治していると、いつのまにか音と声が止んでいる。
鍔迫り合いのまま刃と刃が拮抗し、止まっている?
まさかそれとも……。
「レイン!?
おい!死んでねーなら返事しな!」
「簡単には死にませんよ!勝手に殺すな!!」
直ぐ様そんな返答が飛んできた。
最悪の事態を想定していたが、その腹の立つ罵倒に予想以上にホッとしたぞおい。
ホッとしたのが大きかったか、そこからは最強のデビルハンターの真骨頂。
残りのスケアクロウにはさっさと永遠に沈黙していただいた。