ハロウィンちっくな魔界遠征
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ブワア…………!!
まっくろくろすけが飛び出したのかと思ってしまうような黒い空気が、そこから噴き出した。
空気というか、とてもカビ臭い。
「ぎゃあ!?」
「おー……こりゃスゲェ」
「埃とカビとゴミと……なんかとにかく汚い部屋……!?いやぁぁぁ……!」
空気が逃げて少しだけクリアになった視界の先、現れたのは何年も掃除せずに放置し尽くした腐海の森。壁もカビで黒く、埃は何センチも積もり、汚れきっている。
これではカビというより毒ガスだ。ずっと吸っていたら病気になるだろう。
初めてダンテの事務所にお邪魔した時よりも、ずっと酷い有様だった。
「この階のフロア全部こんな感じらしいぜ。ほい、ガスマスク」
急いで受け取ったそれを装着する。
ガスマスクで良かった。こんなところ、普通のマスクではなりたたないだろうし。
しゅこー、しゅこーと呼吸音を奏でながらもダンテに礼を言うと笑われた。ガスマスクだもの、しょうがないじゃない。
「ぷっ。ダー●ベイダーかよ。
ディーヴァの仕事はフロア全体を綺麗にすることだ」
「掃除……いつもやってることと変わんない。……なんか腑に落ちない……得意分野だけどさ……。せっかく悪魔の姿してるのに、あたしの相手は『ば●きんまん』なのかぁ」
「相手はディーヴァお得意の、頑固で強~い悪魔だろ」
「頑固で強そうなカビ菌なのは見たらわかるよ。ダンテは何するの?」
「オレは大量のネズミ悪魔の駆除だ。御誂え向きに、ネコの悪魔になってるしちょうど良かったぜ。
それともオレと交換するか?」
「いい。適材適所だもの」
ダンテに掃除は任せられない。それに、悪魔退治は自分には無理だ。
交換なぞしたら、悲惨なことになるのが目に見えている。
ガスマスクだけでなく、ゴム手袋と三角巾を装備しつつ、ディーヴァはそう思った。
「じゃあ、終わったら、さっきの階のフロア集合な」
「ん、わかった。
掃除かあ。掃除……悪魔……黒い奴等……ウッ頭が……!
ダンテ、ここ、黒い悪魔は出ないでしょうね?」
ダンテの事務所が汚かったあの時、ディーヴァはアレと対峙した。ディーヴァが世界一嫌いな、黒くてテカテカしてカサカサ蠢く、ゴ……んっんー!と。
今では嫌いな虫の種類は蜘蛛、ハエ、ムカデと多々増えたが、それでも元祖ディーヴァの嫌いな虫No. 1を飾るのはソイツ。
ディーヴァが危惧するのは当たり前だった。
「ほっほう!出て欲しいのか?」
「そんなわけないでしょ!」
「だよな!
残念ながらディーヴァの嫌いな黒い悪魔は出ないぜ。この界隈で出る虫型悪魔なんてハエ悪魔やギガピートの幼虫くらいじゃねえかな」
「それはもっと困るんですけど」
「あいつらなら、魔界の路地裏にしか蔓延ってない。心配すんな」
「ならいいや」
いくら悪魔化していたとて嫌いなものは嫌い、苦手なものは苦手。虫型悪魔なんて、自分の前に出てもらっては困る。
元々好きじゃないが蜘蛛、ハエ、ムカデが嫌いになった原因も悪魔だ。
「このフロアなら大丈夫だと思うが、悪魔の男から声かけられても顔上げたり、話したりするなよ」
「ガスマスクかぶったこの状態で誰か声かけてくると思うの?」
目の前にあるのは、ディーヴァの愛しくもかわいらしいかんばせではない。
隠れた顔の代わりにゴテゴテと厳ついダー●ベイダーの仮面そっくりなガスマスクをかぶった姿。
異様……明らかに異様!
さらには、そのディーヴァのポージング。
どっからどう見てもレロレロの人であり、背後からはズァッ!という擬音が聞こえてきそうなのであった。
ぜったい声かけたくない。
「…………それもそうだな。
でも物好きはどこにでもいるし、感のいい悪魔は人間だと気がつくかもしれねえからな。気ィつけろ」
「はーい。ダンテも怪我しないようにね」
ダンテは「任せろ」とサムズアップしてみせると、ディーヴァを残しエレベーターで違う階へ向かう。
その背中へ声をかけるディーヴァ。
「アッ、ねえダンテ。この香水の効力ってどのくらいなの?」
香水というのは、数時間で匂いが消えていくものだ。
効力が切れたら、悪魔化が解かれる。
ここは魔界のど真ん中だというのに、人間の…それも天使の血をひく人間に戻ってしまったら……。
だからこれを聞くのはすごく大事なことである。そんな大事な事を聞くのをうっかりと、ずっと忘れていた。
「匂いしなくなるまでだろ」
投げキッスとともに軽く言い放ったダンテは、閉じたエレベーターの扉の向こうへ消えてしまった。
軽いなぁ。もともと戦う手段持ってる人はこれだから…!
「匂い……。くんくん。まだ全然大丈夫そうだね」
香水の甘い香りに混ざって、悪魔な香りはまだ体からしっかり香っていた。匂いというより臭いなので、どうしても眉を顰めてしまったが。
……そして、1時間とちょっと。
掃除用具一式は、人間界にあるどんな器具、どんな洗剤よりも強力だったといえよう。
カビはひとつもなく、埃も落ちていない。真っ黒な空気はどこへやら、ディーヴァのいるそこは真っ白でクリアな空気に満ちるフロアへと様変わりを果たしていた。
とはいえ、久しぶりに重労働だった気もする。
掃除と聞いて、ディーヴァのやる気スイッチに火がついてしまったのがはじまり。
やる気を出したディーヴァは、カビや埃がなくなったあとの壁や床を、雑巾掛けで隅々まで磨いた。
ピカピカしすぎてリノリウムらしき床に反射する光が目に痛い。
そこまで頑張らずとも、ディーヴァの神聖な天使の力が手のひらから勝手に放出され、魔界のカビや埃は綺麗になるようにできていたのだが。ちなみにそのことはダンテしか知らない。
その不思議な天使パワーと掃除用具一式のせいか、カビはしばらく生えないであろう。
「あー、終わった終わった!」
掃除用具を片付け、呼吸が苦しく感じるガスマスクを取ったディーヴァは息を大きく吸い込む。
うん、いい空気。新しい下着を履いたばかりの元旦の朝のように、すごーく爽やかな気分になる。
今度は事務所も徹底して綺麗にしようと密かに誓った。もちろん、ダンテにも手伝ってもらう。
気分一新したディーヴァは、るんるん気分で呼んで到着したエレベーターに乗り込む。
時間はおやつタイム。会社勤めの悪魔たちはもしかしたら、三時の休憩だったりするかもしれない時間か。
「ふぃ~、汗かいちゃったなー。シャワー浴びたい……って、ちょっと待って。汗かいたってことは……」
くんくん。
自分から悪魔の匂いがするのは好きじゃあないし何度もそれを嗅ぐのは嫌だ。
けれど、観念して自分の匂いを嗅いでみたディーヴァは、一瞬でぎくりとした。
ほんのりと汗の匂いに混じって香るのは、いつものシャンプーや柔軟剤の匂いで、悪魔の匂いは薄れつつある。
「匂い、落ちてきてる……!」
急いで、香水つけ直さなきゃ……!
そう思ったと同時、今まで他の階に止まらなかったエレベーターが止まった。
チン!
軽い音とともに止まったエレベーターの中ぞろぞろと乗り込んでくるのは、会社勤めの男性悪魔数名。ディーヴァの読み通り三時の休憩時間だったようだが、正直このタイミングで的中して欲しくなかった。
あまり近づくのはまずい。
奥に追いやられる形で、ディーヴァは壁際に立つしかない。
とりあえずダンテの忠告通り、下を向いていよう……。
「ん、なんだか人間の匂いがしないか?」
「おいおい、そんなわけないだろ。まーた社長が人間界のモン持ち込んだとかじゃないのか」
「ふむ……そうかもしれないが……」
きっちり整えられた髪、そしてピシッと着こなした上等そうなスーツとドクロ模様のネクタイ姿の会社員、彼が放つその言葉にドキッとした。
そして同時に、その社長とやらに感謝もした。たぶん、ダンテの依頼主の事だと思うが、ありがとう名は知らぬ悪魔さん!
ディーヴァがドキドキしながらその会話をやり過ごしていると、次の階でもまた止まった。
またもや、会社員風の悪魔が乗り込んでくる。
今度もなかなかに多い人数で、もうぎゅうぎゅう詰めである。うぬぅ、休憩タイム侮りがたし……!
しかもディーヴァ以外、みな男性型ときた。女性、プリーズ!
焦っちゃうよ……はやく、目的の階につかないかなあ……。
現在の階の表示をちらりと見ながら、ディーヴァはそれだけを思った。
「いや、それにしてはかなりの匂いの強さだ」
「まだ匂いの話続いてたのか。お前、頭固いなー」
「私は気になったことは、きちんと片付けておかないと安心して眠れないのだ」
うげ。なんてしつこい悪魔だ。
そんな些細なことを気にしなくても、安心して眠れると思うよ。
いや、どうかな。どっちにしろ魔界じゃ、どこにいても安心して眠れないかも……少なくとも人間や天使は。
まっくろくろすけが飛び出したのかと思ってしまうような黒い空気が、そこから噴き出した。
空気というか、とてもカビ臭い。
「ぎゃあ!?」
「おー……こりゃスゲェ」
「埃とカビとゴミと……なんかとにかく汚い部屋……!?いやぁぁぁ……!」
空気が逃げて少しだけクリアになった視界の先、現れたのは何年も掃除せずに放置し尽くした腐海の森。壁もカビで黒く、埃は何センチも積もり、汚れきっている。
これではカビというより毒ガスだ。ずっと吸っていたら病気になるだろう。
初めてダンテの事務所にお邪魔した時よりも、ずっと酷い有様だった。
「この階のフロア全部こんな感じらしいぜ。ほい、ガスマスク」
急いで受け取ったそれを装着する。
ガスマスクで良かった。こんなところ、普通のマスクではなりたたないだろうし。
しゅこー、しゅこーと呼吸音を奏でながらもダンテに礼を言うと笑われた。ガスマスクだもの、しょうがないじゃない。
「ぷっ。ダー●ベイダーかよ。
ディーヴァの仕事はフロア全体を綺麗にすることだ」
「掃除……いつもやってることと変わんない。……なんか腑に落ちない……得意分野だけどさ……。せっかく悪魔の姿してるのに、あたしの相手は『ば●きんまん』なのかぁ」
「相手はディーヴァお得意の、頑固で強~い悪魔だろ」
「頑固で強そうなカビ菌なのは見たらわかるよ。ダンテは何するの?」
「オレは大量のネズミ悪魔の駆除だ。御誂え向きに、ネコの悪魔になってるしちょうど良かったぜ。
それともオレと交換するか?」
「いい。適材適所だもの」
ダンテに掃除は任せられない。それに、悪魔退治は自分には無理だ。
交換なぞしたら、悲惨なことになるのが目に見えている。
ガスマスクだけでなく、ゴム手袋と三角巾を装備しつつ、ディーヴァはそう思った。
「じゃあ、終わったら、さっきの階のフロア集合な」
「ん、わかった。
掃除かあ。掃除……悪魔……黒い奴等……ウッ頭が……!
ダンテ、ここ、黒い悪魔は出ないでしょうね?」
ダンテの事務所が汚かったあの時、ディーヴァはアレと対峙した。ディーヴァが世界一嫌いな、黒くてテカテカしてカサカサ蠢く、ゴ……んっんー!と。
今では嫌いな虫の種類は蜘蛛、ハエ、ムカデと多々増えたが、それでも元祖ディーヴァの嫌いな虫No. 1を飾るのはソイツ。
ディーヴァが危惧するのは当たり前だった。
「ほっほう!出て欲しいのか?」
「そんなわけないでしょ!」
「だよな!
残念ながらディーヴァの嫌いな黒い悪魔は出ないぜ。この界隈で出る虫型悪魔なんてハエ悪魔やギガピートの幼虫くらいじゃねえかな」
「それはもっと困るんですけど」
「あいつらなら、魔界の路地裏にしか蔓延ってない。心配すんな」
「ならいいや」
いくら悪魔化していたとて嫌いなものは嫌い、苦手なものは苦手。虫型悪魔なんて、自分の前に出てもらっては困る。
元々好きじゃないが蜘蛛、ハエ、ムカデが嫌いになった原因も悪魔だ。
「このフロアなら大丈夫だと思うが、悪魔の男から声かけられても顔上げたり、話したりするなよ」
「ガスマスクかぶったこの状態で誰か声かけてくると思うの?」
目の前にあるのは、ディーヴァの愛しくもかわいらしいかんばせではない。
隠れた顔の代わりにゴテゴテと厳ついダー●ベイダーの仮面そっくりなガスマスクをかぶった姿。
異様……明らかに異様!
さらには、そのディーヴァのポージング。
どっからどう見てもレロレロの人であり、背後からはズァッ!という擬音が聞こえてきそうなのであった。
ぜったい声かけたくない。
「…………それもそうだな。
でも物好きはどこにでもいるし、感のいい悪魔は人間だと気がつくかもしれねえからな。気ィつけろ」
「はーい。ダンテも怪我しないようにね」
ダンテは「任せろ」とサムズアップしてみせると、ディーヴァを残しエレベーターで違う階へ向かう。
その背中へ声をかけるディーヴァ。
「アッ、ねえダンテ。この香水の効力ってどのくらいなの?」
香水というのは、数時間で匂いが消えていくものだ。
効力が切れたら、悪魔化が解かれる。
ここは魔界のど真ん中だというのに、人間の…それも天使の血をひく人間に戻ってしまったら……。
だからこれを聞くのはすごく大事なことである。そんな大事な事を聞くのをうっかりと、ずっと忘れていた。
「匂いしなくなるまでだろ」
投げキッスとともに軽く言い放ったダンテは、閉じたエレベーターの扉の向こうへ消えてしまった。
軽いなぁ。もともと戦う手段持ってる人はこれだから…!
「匂い……。くんくん。まだ全然大丈夫そうだね」
香水の甘い香りに混ざって、悪魔な香りはまだ体からしっかり香っていた。匂いというより臭いなので、どうしても眉を顰めてしまったが。
……そして、1時間とちょっと。
掃除用具一式は、人間界にあるどんな器具、どんな洗剤よりも強力だったといえよう。
カビはひとつもなく、埃も落ちていない。真っ黒な空気はどこへやら、ディーヴァのいるそこは真っ白でクリアな空気に満ちるフロアへと様変わりを果たしていた。
とはいえ、久しぶりに重労働だった気もする。
掃除と聞いて、ディーヴァのやる気スイッチに火がついてしまったのがはじまり。
やる気を出したディーヴァは、カビや埃がなくなったあとの壁や床を、雑巾掛けで隅々まで磨いた。
ピカピカしすぎてリノリウムらしき床に反射する光が目に痛い。
そこまで頑張らずとも、ディーヴァの神聖な天使の力が手のひらから勝手に放出され、魔界のカビや埃は綺麗になるようにできていたのだが。ちなみにそのことはダンテしか知らない。
その不思議な天使パワーと掃除用具一式のせいか、カビはしばらく生えないであろう。
「あー、終わった終わった!」
掃除用具を片付け、呼吸が苦しく感じるガスマスクを取ったディーヴァは息を大きく吸い込む。
うん、いい空気。新しい下着を履いたばかりの元旦の朝のように、すごーく爽やかな気分になる。
今度は事務所も徹底して綺麗にしようと密かに誓った。もちろん、ダンテにも手伝ってもらう。
気分一新したディーヴァは、るんるん気分で呼んで到着したエレベーターに乗り込む。
時間はおやつタイム。会社勤めの悪魔たちはもしかしたら、三時の休憩だったりするかもしれない時間か。
「ふぃ~、汗かいちゃったなー。シャワー浴びたい……って、ちょっと待って。汗かいたってことは……」
くんくん。
自分から悪魔の匂いがするのは好きじゃあないし何度もそれを嗅ぐのは嫌だ。
けれど、観念して自分の匂いを嗅いでみたディーヴァは、一瞬でぎくりとした。
ほんのりと汗の匂いに混じって香るのは、いつものシャンプーや柔軟剤の匂いで、悪魔の匂いは薄れつつある。
「匂い、落ちてきてる……!」
急いで、香水つけ直さなきゃ……!
そう思ったと同時、今まで他の階に止まらなかったエレベーターが止まった。
チン!
軽い音とともに止まったエレベーターの中ぞろぞろと乗り込んでくるのは、会社勤めの男性悪魔数名。ディーヴァの読み通り三時の休憩時間だったようだが、正直このタイミングで的中して欲しくなかった。
あまり近づくのはまずい。
奥に追いやられる形で、ディーヴァは壁際に立つしかない。
とりあえずダンテの忠告通り、下を向いていよう……。
「ん、なんだか人間の匂いがしないか?」
「おいおい、そんなわけないだろ。まーた社長が人間界のモン持ち込んだとかじゃないのか」
「ふむ……そうかもしれないが……」
きっちり整えられた髪、そしてピシッと着こなした上等そうなスーツとドクロ模様のネクタイ姿の会社員、彼が放つその言葉にドキッとした。
そして同時に、その社長とやらに感謝もした。たぶん、ダンテの依頼主の事だと思うが、ありがとう名は知らぬ悪魔さん!
ディーヴァがドキドキしながらその会話をやり過ごしていると、次の階でもまた止まった。
またもや、会社員風の悪魔が乗り込んでくる。
今度もなかなかに多い人数で、もうぎゅうぎゅう詰めである。うぬぅ、休憩タイム侮りがたし……!
しかもディーヴァ以外、みな男性型ときた。女性、プリーズ!
焦っちゃうよ……はやく、目的の階につかないかなあ……。
現在の階の表示をちらりと見ながら、ディーヴァはそれだけを思った。
「いや、それにしてはかなりの匂いの強さだ」
「まだ匂いの話続いてたのか。お前、頭固いなー」
「私は気になったことは、きちんと片付けておかないと安心して眠れないのだ」
うげ。なんてしつこい悪魔だ。
そんな些細なことを気にしなくても、安心して眠れると思うよ。
いや、どうかな。どっちにしろ魔界じゃ、どこにいても安心して眠れないかも……少なくとも人間や天使は。