Short Story
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赤井秀一から連絡が返ってこない。
いや、長期的に音信不通だとかそういうわけではなく、正しくは『ライ』からの任務完了の連絡が入ってこないのだ。
普段なら遅くとも指定された日から2日もせず終わらせて来るのに、今回は既に4日目の夜が更け始めている。私はソファに横になりながらずっとスマホの液晶を睨んでいた。
「ねえ、バーボン。やっぱり助けに行った方がいいんじゃないかな……」
私は別件の処理でパソコンに向かうバーボンに声をかけた。彼は振り返らず、カチャカチャとキーボードを打ち込み続けながら答える。
「あいつはそう簡単にくたばる奴じゃありませんよ」
そうは言っても、任務遂行のためにも確認くらいは取った方がいい気がするのだが……。彼はライのことになるとなんだか意地を張っていて、なかなか聞き入れてくれない。ライの安否も心配だが、これで任務失敗してジンに知られたら更に面倒なことになりそうだという危惧もある。
「じゃあ私がライを迎えに行ってくる」
カチャ、とタイピングの軽い音が止まった。
バーボンはやっとこちらを振り向き、得意の笑顔を顔に張り付けて言った。「それはダメです」と。
「なんでよ。だったら貴方が行ってくれるわけじゃないんでしょう?それなら私が向かえばいいじゃない。私の勝手でしょう」
「貴女にはまだ危険すぎる」
「見くびらないで」
貴方の方がベビーフェイスのくせに、と言ってやりたいところだが、そんな幼稚な言い争いをしているほど戯れの時間はない。私は早急にスマホと手頃な銃と車の鍵を持ってソファから立ち上がる。敵の潜伏場所は分かっている。そいつらと交渉して取引をすればいいだけだから、荷物は軽くていいだろう。
「勝手な真似はしないでください」
バーボンが私の腕を強く掴んだ。
「離して。痛い」
「離しません。……僕が行くので、あなたはここで待っていてください」
嫌々なその声色でそう言う彼。本当にライを助けてくれるのか疑いそうになるが、ここはパートナーとして信頼するべきか。
「……どうせ嫌って言っても聞かないんでしょ」
「ご名答」
バーボンは向かっていたノートパソコンをこちらに向けた。
「貴女にはその代わり、この案件を終わらせてほしい。明日の朝8時までに」
明日の朝8時。タイムリミットは9時間。画面に映るのは見慣れたプログラミング言語。パソコンの横に置かれたノートには走り書きのメモがある。これに書かれた通りやればいいだろう。特に問題なくこなせそうだ。
「分かった。……それじゃあ、ライのことは頼んだから」
「ええ」と一言返事をして、バーボンはまとめてあった荷物を右手に持ち、さっさと玄関へ向かっていった。
バーボンが出てから約4時間。日付けをまたぎ、深夜2時半。そろそろ任されたプログラミングも終わりそうだ。それにだいぶ眠くなってきた。あと少し、30分ほどで終わらせられるか。
「……おい」
「うわぁっ」
まったく気配を感じなかった。バッと振り向けば、そこには黒づくめのライが佇んでいた。しかし、バーボンの姿はない。入れ違いになったか。これはまた面倒なことになってしまった……。
「ら、ライ……おかえり、無事だった?心配したんだから……っ」
まだ言葉紡ぎは終わっていないのに、急に両腕を掴まれた。とても強い力で。なのに少し震えている。
「ライ……?」
もしかして、全然無事じゃない?
そう思って顔色を見たいのに、ライはずっと俯いている。暖色の照明に照らされる黒が闇のように深かった。
「ユイ」
コードネームではないその名前。彼の低い声には熱が籠っていた。
──まさか。
そう思った頃には、私は既にすぐ横のソファに押し倒されていた。
長い黒髪が頬を擽る。やっと表情が見れたライの顔は、今までにないくらい野生の雄を感じた。本能的に逃げようとする私の身体。しかし覆いかぶさられた男の力に敵うわけがない。
「ライ、待って、あなた、」
「うるさい」
「んぐ……っ」
もはや無理矢理な行為に近い。普段の彼はこんなことしない。ということは、やっぱり。口を塞がれ、すぐに入ってきた舌は強いアルコールと何か甘い味がした。
「ん、ふ、ぁ」
貪るように口腔を蹂躙する。おそらくドラッグも入っているのだろう。薄目を開けて確認したライの瞳は濡れそぼっていて、少し虚ろだ。まさか、この四日間薬漬けにされたんじゃないだろうか。
私はどうにか渾身の力で彼の厚い胸板を押し、唇を離させる。
「待って、やだ、やめて、」
「すまん。無理だ」
「や……っ」
まるで獣が獲物を貪るように再び荒い口付けをしてきた。薄い部屋着ごしに胸を揉みしだかれ、彼が私の両足を割って密着してくる。抵抗しようにも、口は塞がれ両手も彼の力強い左手によって頭上でまとめられていて、成す術がない。──これはまるで強姦だ。
「う……ふ、ぅ……っ」
普段とは全然違う彼の行動と、無理矢理の行為に涙が出そうになった。彼と密着している部分からは、硬くなったそれが押し付けられている。たぶん、きっと彼だって本意での行動ではないのに。それなのに私は彼に恐怖した。
彼の手によって括られた手。顔をかくすこともできない。こんな弱い女みたいな顔をライに見られたら失望される。彼は仕事には忠実な男だ。こんな頼りない女が一緒のメンバーだなんて、絶対にあとで捨てられる。
私の脳内はどんどんネガティブに悪化した。
「いや……っ、ほん、と、お願い…だから……!」
情けない。声が震えてしまっている。
「……」
ライが動きを止めた。
視界の横に垂れる黒い髪が、まるで御簾のようで。じっと見つめられると目を逸らせない。
そしてしばらくして、頭上の両手が解放された。そして同時に重い溜息。ライの身体はゆっくり離れていった。
「……どうかしていた。……頭を冷やしてくる」
ソファから立ち上がるライ。どこに行くのか。他の女のところへ発散しにいくの?それとも、またしばらく姿を消すの?そんなことを聞きたいと思っても、言えるほど私は強くない。
「まって!……違うの、その、ただ、少し怖かっただけなの。いつもと、違うライだった、から……」
立ち去る背中にそう言えば、ライは扉の前で足を止め、振り向いた。
「や、優しくしてくれれば、私の体、使っていいから」
自分で言っててガキくさいと思う。
つまりは、嫉妬だ。
自覚はしたくないが、私は、ライのことが好きなんだ。
この思いを告げる気はない。職業柄、恋人を作るのにはリスクがあるから。
ライは再び深い溜息をついた。失望に拍車をかけてしまったか。面倒な女だと、そう思われてしまったかもしれない。
「もう止まれないからな」
その声色は、普段のように落ち着いて、冷静な声が滲んでいた。
私は肯定の返事をして、ベッドルームへライと向かった。
結論から言うと、あのあと私はライの手によってどろどろに溶かされた。そして情事の最中の愛の囁きに紛れて、つい本音を言ってしまえば、予想外に両想い。まさかの一晩でハッピーエンドになってしまった。
今はそれからおよそ3時間後。もうすっかり朝日も昇り、カーテン越しの光が眩しかった。
そこで私は思い出した。バーボンに「翌朝8時までに」と言われた、作業途中のプログラミングを。
私はひとまずスマホで時間を確認しようと、大慌てで枕元に投げ出された液晶をとり、スリープを解除すると、画面に一件のメール着信の通知がされていた。
送り主はバーボン。タイトル『そろそろ家に入ってもいいですか?』。
つまりバーボンにはこうなることが予測されていたらしい。
百歩譲って彼なりの配慮だったんだと、そう思うようにして、とりあえず残りの作業を終わらせるために小鹿のように震える足を叱咤してベッドから抜け出た。ライがくぐもった声で微かに唸ったが、私は後ろ髪を引かれながら部屋を出た。
いや、長期的に音信不通だとかそういうわけではなく、正しくは『ライ』からの任務完了の連絡が入ってこないのだ。
普段なら遅くとも指定された日から2日もせず終わらせて来るのに、今回は既に4日目の夜が更け始めている。私はソファに横になりながらずっとスマホの液晶を睨んでいた。
「ねえ、バーボン。やっぱり助けに行った方がいいんじゃないかな……」
私は別件の処理でパソコンに向かうバーボンに声をかけた。彼は振り返らず、カチャカチャとキーボードを打ち込み続けながら答える。
「あいつはそう簡単にくたばる奴じゃありませんよ」
そうは言っても、任務遂行のためにも確認くらいは取った方がいい気がするのだが……。彼はライのことになるとなんだか意地を張っていて、なかなか聞き入れてくれない。ライの安否も心配だが、これで任務失敗してジンに知られたら更に面倒なことになりそうだという危惧もある。
「じゃあ私がライを迎えに行ってくる」
カチャ、とタイピングの軽い音が止まった。
バーボンはやっとこちらを振り向き、得意の笑顔を顔に張り付けて言った。「それはダメです」と。
「なんでよ。だったら貴方が行ってくれるわけじゃないんでしょう?それなら私が向かえばいいじゃない。私の勝手でしょう」
「貴女にはまだ危険すぎる」
「見くびらないで」
貴方の方がベビーフェイスのくせに、と言ってやりたいところだが、そんな幼稚な言い争いをしているほど戯れの時間はない。私は早急にスマホと手頃な銃と車の鍵を持ってソファから立ち上がる。敵の潜伏場所は分かっている。そいつらと交渉して取引をすればいいだけだから、荷物は軽くていいだろう。
「勝手な真似はしないでください」
バーボンが私の腕を強く掴んだ。
「離して。痛い」
「離しません。……僕が行くので、あなたはここで待っていてください」
嫌々なその声色でそう言う彼。本当にライを助けてくれるのか疑いそうになるが、ここはパートナーとして信頼するべきか。
「……どうせ嫌って言っても聞かないんでしょ」
「ご名答」
バーボンは向かっていたノートパソコンをこちらに向けた。
「貴女にはその代わり、この案件を終わらせてほしい。明日の朝8時までに」
明日の朝8時。タイムリミットは9時間。画面に映るのは見慣れたプログラミング言語。パソコンの横に置かれたノートには走り書きのメモがある。これに書かれた通りやればいいだろう。特に問題なくこなせそうだ。
「分かった。……それじゃあ、ライのことは頼んだから」
「ええ」と一言返事をして、バーボンはまとめてあった荷物を右手に持ち、さっさと玄関へ向かっていった。
バーボンが出てから約4時間。日付けをまたぎ、深夜2時半。そろそろ任されたプログラミングも終わりそうだ。それにだいぶ眠くなってきた。あと少し、30分ほどで終わらせられるか。
「……おい」
「うわぁっ」
まったく気配を感じなかった。バッと振り向けば、そこには黒づくめのライが佇んでいた。しかし、バーボンの姿はない。入れ違いになったか。これはまた面倒なことになってしまった……。
「ら、ライ……おかえり、無事だった?心配したんだから……っ」
まだ言葉紡ぎは終わっていないのに、急に両腕を掴まれた。とても強い力で。なのに少し震えている。
「ライ……?」
もしかして、全然無事じゃない?
そう思って顔色を見たいのに、ライはずっと俯いている。暖色の照明に照らされる黒が闇のように深かった。
「ユイ」
コードネームではないその名前。彼の低い声には熱が籠っていた。
──まさか。
そう思った頃には、私は既にすぐ横のソファに押し倒されていた。
長い黒髪が頬を擽る。やっと表情が見れたライの顔は、今までにないくらい野生の雄を感じた。本能的に逃げようとする私の身体。しかし覆いかぶさられた男の力に敵うわけがない。
「ライ、待って、あなた、」
「うるさい」
「んぐ……っ」
もはや無理矢理な行為に近い。普段の彼はこんなことしない。ということは、やっぱり。口を塞がれ、すぐに入ってきた舌は強いアルコールと何か甘い味がした。
「ん、ふ、ぁ」
貪るように口腔を蹂躙する。おそらくドラッグも入っているのだろう。薄目を開けて確認したライの瞳は濡れそぼっていて、少し虚ろだ。まさか、この四日間薬漬けにされたんじゃないだろうか。
私はどうにか渾身の力で彼の厚い胸板を押し、唇を離させる。
「待って、やだ、やめて、」
「すまん。無理だ」
「や……っ」
まるで獣が獲物を貪るように再び荒い口付けをしてきた。薄い部屋着ごしに胸を揉みしだかれ、彼が私の両足を割って密着してくる。抵抗しようにも、口は塞がれ両手も彼の力強い左手によって頭上でまとめられていて、成す術がない。──これはまるで強姦だ。
「う……ふ、ぅ……っ」
普段とは全然違う彼の行動と、無理矢理の行為に涙が出そうになった。彼と密着している部分からは、硬くなったそれが押し付けられている。たぶん、きっと彼だって本意での行動ではないのに。それなのに私は彼に恐怖した。
彼の手によって括られた手。顔をかくすこともできない。こんな弱い女みたいな顔をライに見られたら失望される。彼は仕事には忠実な男だ。こんな頼りない女が一緒のメンバーだなんて、絶対にあとで捨てられる。
私の脳内はどんどんネガティブに悪化した。
「いや……っ、ほん、と、お願い…だから……!」
情けない。声が震えてしまっている。
「……」
ライが動きを止めた。
視界の横に垂れる黒い髪が、まるで御簾のようで。じっと見つめられると目を逸らせない。
そしてしばらくして、頭上の両手が解放された。そして同時に重い溜息。ライの身体はゆっくり離れていった。
「……どうかしていた。……頭を冷やしてくる」
ソファから立ち上がるライ。どこに行くのか。他の女のところへ発散しにいくの?それとも、またしばらく姿を消すの?そんなことを聞きたいと思っても、言えるほど私は強くない。
「まって!……違うの、その、ただ、少し怖かっただけなの。いつもと、違うライだった、から……」
立ち去る背中にそう言えば、ライは扉の前で足を止め、振り向いた。
「や、優しくしてくれれば、私の体、使っていいから」
自分で言っててガキくさいと思う。
つまりは、嫉妬だ。
自覚はしたくないが、私は、ライのことが好きなんだ。
この思いを告げる気はない。職業柄、恋人を作るのにはリスクがあるから。
ライは再び深い溜息をついた。失望に拍車をかけてしまったか。面倒な女だと、そう思われてしまったかもしれない。
「もう止まれないからな」
その声色は、普段のように落ち着いて、冷静な声が滲んでいた。
私は肯定の返事をして、ベッドルームへライと向かった。
結論から言うと、あのあと私はライの手によってどろどろに溶かされた。そして情事の最中の愛の囁きに紛れて、つい本音を言ってしまえば、予想外に両想い。まさかの一晩でハッピーエンドになってしまった。
今はそれからおよそ3時間後。もうすっかり朝日も昇り、カーテン越しの光が眩しかった。
そこで私は思い出した。バーボンに「翌朝8時までに」と言われた、作業途中のプログラミングを。
私はひとまずスマホで時間を確認しようと、大慌てで枕元に投げ出された液晶をとり、スリープを解除すると、画面に一件のメール着信の通知がされていた。
送り主はバーボン。タイトル『そろそろ家に入ってもいいですか?』。
つまりバーボンにはこうなることが予測されていたらしい。
百歩譲って彼なりの配慮だったんだと、そう思うようにして、とりあえず残りの作業を終わらせるために小鹿のように震える足を叱咤してベッドから抜け出た。ライがくぐもった声で微かに唸ったが、私は後ろ髪を引かれながら部屋を出た。