Short Story
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「えー、でもさぁー、エリのカレシってぇ…」
「はァ?何か文句あんの?」
「え、なになに、初耳なんだけど。私、ついていけてない」
本当に、ついていけない。今時の女子高生のノリに。
私は今日も一人、 苦悩した。
放課後の教室に射す夕日は、今日も眩しい。
なぜ成人済みの人間が高校にいるのか。それは嫌々ながらの潜入だからだ。それも、組織の方での仕事だ。
公安での捜査ならわざわざ潜入せずとも情報を入手できるが、正規ルートを通れない組織はリスクを負って潜入せねばならない。
今回の標的は、この学校の理事長だ。裏の世界と繋がっており、何やらモメているようで、どうにか負かす為の駒として潜入させられている。
転入生としてこの高校に入り、運が良いのか悪いのか、理事長の娘と友達になれた。その友達が今会話している頭の弱そうな喋り方の、エリという女の子だ。
「そなことよりぃ、ユイ、あんた彼氏いるんだって?なんでエリ達に内緒にしたのよ~」
「は?!それこそアタシ初耳なんだけど!」
ただでさえ濃いメイクで目力が強いというのに、こういった話になるとさらにその目がギョロリと開く。
「え、私、彼氏なんていないよ?」
「噂になってるよぉ?放課後、イケメンがお迎えに来ているって。しかも車で!」
「ユイ、年上と付き合ってんの?しかもお迎えって…そのままカレの家でお泊まりィ~?」
「いや、ないない!ていうか、誰からの噂なのよ」
私は笑って誤魔化した。気を付けてはいたが、見られていたらしい。
彼女達の言う『イケメン』はおそらく、仕事仲間であるバーボン…降谷零のことだろう。
降谷とは単なる仕事仲間。恋人でも、何でもない。
「4組のサッカー部の男が噂、撒き散らしてたよぉ?走り込みしてるときに見た、って騒いでた。白い車で、金髪に高級そうなスーツ着てたモデルみたいな男、って!」
「金髪に高級スーツ?!ユイ、あんた、ホストと付き合ってんの…?」
「だから違うって!あの人は…、そう、あの人はお兄ちゃんなの!ホストでもないし!」
金髪にスーツ、やはり降谷のことだ。
迎えは公安へ向かうためだ。 まさか校内に私の車を停めるわけにもいかないし、潜入報告と打ち合わせのために合流している。
「兄~?なーんだ、彼氏じゃないんだ」
「てか、金髪に高級スーツ着て迎えに来る兄ってどうよ。意外すぎるし派手すぎじゃね?」
「まあ、そうよね、確かに…」
金髪とはいっても、奇抜な髪型をしているわけではないから、見た目はそれほど派手ではないと思うが…。
目立ちはするよな、と私は同意した。
「でもさー、高校生になってまで学校に迎えに来る?ちょっとキモいよね~」
「あ、シスコンとか?うわー、それは流石にナイわ」
「…。」
疑われるくらいならいいが、馬鹿にするような言い方は癪に障る。彼はそんな人間ではないのだから。
私は溜め息をついて頭の弱い彼女達に呆れた。
「あ、ユイ怒った?」
「ごめんごめん!…それとも、やっぱり彼氏?大好きな彼を馬鹿にされて腹立ったとか?」
本当に、この女達にはイライラする。潜入じゃなかったら胸倉掴んで叱責してやったのに。
私は内心で悪態をついた。その時、ブレザーのポケットにいれた私用のスマホが、メッセージの着信を知らせるバイブを鳴らした。
送り主は噂の彼、降谷だ。メッセージを開くと『到着』の二文字。なんというタイミングだ。
「ごめん、私、先に帰るね」
「…その連絡、噂の彼?」
笑顔を心掛け、だったらなんだ、と内心毒づく。
「…まあ、そうだけど」
「え、マジか!着いていってもいい?どんな人か見てみたい!」
「アタシも!ね、ユイ、良いでしょ…?一生のお願い!」
君たちの一生はまだまだ長いというのに、そう薄いお願いに使うべきではないと思うが。
「…しょうがないなあ。どうせダメって言っても、追いかけてくるんでしょ?」
「うん!」
「そりゃね!」
もうどうとでもなれ。むしろ勝手に追いかけてくる方が迷惑極まりない。
私はヤケ気味で答えた。
「それじゃあ、絶対に写真は撮らないって約束して。彼、写真撮られるのが大嫌いなの。機嫌を損ねられるのは面倒だから、それを守ってくれれば会わせてあげる」
最近の高校生はなにかとすぐ写真を撮りたがる。さらにはそれをネットにばらまくのだから、それは組織としても公安としても危険だ。
二人の女子高生は激しく頷いている。それを信用して、私達は一緒に教室を出た。
「…白い車って、アレだよね?」
「てことは、あの中に…」
キャーッと黄色い歓声をあげる二人をよそに、私は運転席を見つめ、必死にアイコンタクトを送る。ここは穏便に事を済ませたい。貴方は兄だ。兄を演じろ。
すると、運転席のドアが開いた。
「ユイ、おかえり。今日もお疲れさま」
にこり、と微笑みながら肩肘をつき愛車へもたれ掛かる降谷。
私の念は通じなかったらしい。彼は何を思ったのやら、彼氏面だろうか。いかにも馴れ馴れしく、そして得意の営業スマイルで話しかけてきた。
二人の女子高生はというと、口をパクパクし、声を殺しながらもヤバイ、ヤバイ、と騒いでいた。
「あれ、そちらの二人はお友達?ユイがいつもお世話になってるね。ありがとう」
とびきりの営業スマイルに、二人は黄色い歓声をあげた。
「ユイ、あんた、こんなイケメンな人がいたなんて…!」
「結局どうなのよ!兄なの?彼氏なの?!」
「だから、兄だって…」
餌を欲しがる鳥のように騒がしい彼女達。若さのパワーは恐ろしい。私は圧倒気味だ。
「おや?ユイは僕の可愛い彼女ですよ。ユイ、恥ずかしいからって嘘はいけないなぁ」
誰が貴方の何だって?
降谷は一体何を考えてるのか、私には理解できない。鳥の一層大きな鳴き声も加わり、頭痛がしてきた。
「さあ、早く車に乗ってください。今日のデート、楽しみにしてるんですよ」
「…そういうことなんで、じゃ、じゃあ、また明日ね。バイバイ」
引き笑いしかできないが、一刻も早くこの場から逃げたかった私は早口で二人に別れを告げた。
「また明日詳しい話聞かせてもらうから!」
「楽しんでね!ユイ!」
ぶんぶんと手を降る彼女達に軽く振り替えし、降谷の車に乗り込んだ。もちろん、営業スマイルをした降谷のエスコートで助手席へ。
私は早く立ち去りたい一心だった。
「ぶはっ、あはは!随分おもしろいことになりましたね!」
アクセルを踏んでしばらく。二人の女子高生の姿が見えなくなってから、降谷は笑いだした。
「笑い事じゃないわよ。なんなの?さっきの演技は。ああもう…明日からどんな顔して学校行けばいいのよ…」
「いやぁだって、『高校生になってまで車で迎えに行くキモい兄』だとか、『シスコン』だなんて言われたら、僕も悔しいのでね。まだ彼氏の方が格好がつくでしょう?」
「そのドヤ顔と営業スマイルやめて」
私はできるだけ冷たく言いながら胸ポケットに刺していたペン型の無線機のスイッチを切った。
この機械を通して、私の学校生活での音声は共有されている。勿論、放課後の会話も降谷には届いている。降谷が女子高生の言葉を知っているのはそういうことだ。
「さて、ではデートにでも行きますか」
「そうね、庁舎へ戻らないとね」
「ノリが悪いなあ、ユイは」
降谷の悪のりをよそに、私は鞄から書類を取り出し仕事モードへ切り替えた。首もとの赤いリボンを外し、後部座席へ投げる。
少し置いて、降谷は再度口を開いた。
「…本当に、僕の彼女になってみませんか?」
「嫌よ」
「はは、即答とは。これは手強そうだなあ。でも、強情な子も僕は好きですよ」
「…冗談よね?」
「ふふ、ご想像にお任せします」
「…はあ」
降谷の突然の言葉に、また頭痛の種が増えたと何度目か分からない溜め息をついた。
庁舎に着くまであと40分。平穏に乗り越えたいと私は切実に願った。
「はァ?何か文句あんの?」
「え、なになに、初耳なんだけど。私、ついていけてない」
本当に、ついていけない。今時の女子高生のノリに。
私は今日も一人、 苦悩した。
放課後の教室に射す夕日は、今日も眩しい。
なぜ成人済みの人間が高校にいるのか。それは嫌々ながらの潜入だからだ。それも、組織の方での仕事だ。
公安での捜査ならわざわざ潜入せずとも情報を入手できるが、正規ルートを通れない組織はリスクを負って潜入せねばならない。
今回の標的は、この学校の理事長だ。裏の世界と繋がっており、何やらモメているようで、どうにか負かす為の駒として潜入させられている。
転入生としてこの高校に入り、運が良いのか悪いのか、理事長の娘と友達になれた。その友達が今会話している頭の弱そうな喋り方の、エリという女の子だ。
「そなことよりぃ、ユイ、あんた彼氏いるんだって?なんでエリ達に内緒にしたのよ~」
「は?!それこそアタシ初耳なんだけど!」
ただでさえ濃いメイクで目力が強いというのに、こういった話になるとさらにその目がギョロリと開く。
「え、私、彼氏なんていないよ?」
「噂になってるよぉ?放課後、イケメンがお迎えに来ているって。しかも車で!」
「ユイ、年上と付き合ってんの?しかもお迎えって…そのままカレの家でお泊まりィ~?」
「いや、ないない!ていうか、誰からの噂なのよ」
私は笑って誤魔化した。気を付けてはいたが、見られていたらしい。
彼女達の言う『イケメン』はおそらく、仕事仲間であるバーボン…降谷零のことだろう。
降谷とは単なる仕事仲間。恋人でも、何でもない。
「4組のサッカー部の男が噂、撒き散らしてたよぉ?走り込みしてるときに見た、って騒いでた。白い車で、金髪に高級そうなスーツ着てたモデルみたいな男、って!」
「金髪に高級スーツ?!ユイ、あんた、ホストと付き合ってんの…?」
「だから違うって!あの人は…、そう、あの人はお兄ちゃんなの!ホストでもないし!」
金髪にスーツ、やはり降谷のことだ。
迎えは公安へ向かうためだ。 まさか校内に私の車を停めるわけにもいかないし、潜入報告と打ち合わせのために合流している。
「兄~?なーんだ、彼氏じゃないんだ」
「てか、金髪に高級スーツ着て迎えに来る兄ってどうよ。意外すぎるし派手すぎじゃね?」
「まあ、そうよね、確かに…」
金髪とはいっても、奇抜な髪型をしているわけではないから、見た目はそれほど派手ではないと思うが…。
目立ちはするよな、と私は同意した。
「でもさー、高校生になってまで学校に迎えに来る?ちょっとキモいよね~」
「あ、シスコンとか?うわー、それは流石にナイわ」
「…。」
疑われるくらいならいいが、馬鹿にするような言い方は癪に障る。彼はそんな人間ではないのだから。
私は溜め息をついて頭の弱い彼女達に呆れた。
「あ、ユイ怒った?」
「ごめんごめん!…それとも、やっぱり彼氏?大好きな彼を馬鹿にされて腹立ったとか?」
本当に、この女達にはイライラする。潜入じゃなかったら胸倉掴んで叱責してやったのに。
私は内心で悪態をついた。その時、ブレザーのポケットにいれた私用のスマホが、メッセージの着信を知らせるバイブを鳴らした。
送り主は噂の彼、降谷だ。メッセージを開くと『到着』の二文字。なんというタイミングだ。
「ごめん、私、先に帰るね」
「…その連絡、噂の彼?」
笑顔を心掛け、だったらなんだ、と内心毒づく。
「…まあ、そうだけど」
「え、マジか!着いていってもいい?どんな人か見てみたい!」
「アタシも!ね、ユイ、良いでしょ…?一生のお願い!」
君たちの一生はまだまだ長いというのに、そう薄いお願いに使うべきではないと思うが。
「…しょうがないなあ。どうせダメって言っても、追いかけてくるんでしょ?」
「うん!」
「そりゃね!」
もうどうとでもなれ。むしろ勝手に追いかけてくる方が迷惑極まりない。
私はヤケ気味で答えた。
「それじゃあ、絶対に写真は撮らないって約束して。彼、写真撮られるのが大嫌いなの。機嫌を損ねられるのは面倒だから、それを守ってくれれば会わせてあげる」
最近の高校生はなにかとすぐ写真を撮りたがる。さらにはそれをネットにばらまくのだから、それは組織としても公安としても危険だ。
二人の女子高生は激しく頷いている。それを信用して、私達は一緒に教室を出た。
「…白い車って、アレだよね?」
「てことは、あの中に…」
キャーッと黄色い歓声をあげる二人をよそに、私は運転席を見つめ、必死にアイコンタクトを送る。ここは穏便に事を済ませたい。貴方は兄だ。兄を演じろ。
すると、運転席のドアが開いた。
「ユイ、おかえり。今日もお疲れさま」
にこり、と微笑みながら肩肘をつき愛車へもたれ掛かる降谷。
私の念は通じなかったらしい。彼は何を思ったのやら、彼氏面だろうか。いかにも馴れ馴れしく、そして得意の営業スマイルで話しかけてきた。
二人の女子高生はというと、口をパクパクし、声を殺しながらもヤバイ、ヤバイ、と騒いでいた。
「あれ、そちらの二人はお友達?ユイがいつもお世話になってるね。ありがとう」
とびきりの営業スマイルに、二人は黄色い歓声をあげた。
「ユイ、あんた、こんなイケメンな人がいたなんて…!」
「結局どうなのよ!兄なの?彼氏なの?!」
「だから、兄だって…」
餌を欲しがる鳥のように騒がしい彼女達。若さのパワーは恐ろしい。私は圧倒気味だ。
「おや?ユイは僕の可愛い彼女ですよ。ユイ、恥ずかしいからって嘘はいけないなぁ」
誰が貴方の何だって?
降谷は一体何を考えてるのか、私には理解できない。鳥の一層大きな鳴き声も加わり、頭痛がしてきた。
「さあ、早く車に乗ってください。今日のデート、楽しみにしてるんですよ」
「…そういうことなんで、じゃ、じゃあ、また明日ね。バイバイ」
引き笑いしかできないが、一刻も早くこの場から逃げたかった私は早口で二人に別れを告げた。
「また明日詳しい話聞かせてもらうから!」
「楽しんでね!ユイ!」
ぶんぶんと手を降る彼女達に軽く振り替えし、降谷の車に乗り込んだ。もちろん、営業スマイルをした降谷のエスコートで助手席へ。
私は早く立ち去りたい一心だった。
「ぶはっ、あはは!随分おもしろいことになりましたね!」
アクセルを踏んでしばらく。二人の女子高生の姿が見えなくなってから、降谷は笑いだした。
「笑い事じゃないわよ。なんなの?さっきの演技は。ああもう…明日からどんな顔して学校行けばいいのよ…」
「いやぁだって、『高校生になってまで車で迎えに行くキモい兄』だとか、『シスコン』だなんて言われたら、僕も悔しいのでね。まだ彼氏の方が格好がつくでしょう?」
「そのドヤ顔と営業スマイルやめて」
私はできるだけ冷たく言いながら胸ポケットに刺していたペン型の無線機のスイッチを切った。
この機械を通して、私の学校生活での音声は共有されている。勿論、放課後の会話も降谷には届いている。降谷が女子高生の言葉を知っているのはそういうことだ。
「さて、ではデートにでも行きますか」
「そうね、庁舎へ戻らないとね」
「ノリが悪いなあ、ユイは」
降谷の悪のりをよそに、私は鞄から書類を取り出し仕事モードへ切り替えた。首もとの赤いリボンを外し、後部座席へ投げる。
少し置いて、降谷は再度口を開いた。
「…本当に、僕の彼女になってみませんか?」
「嫌よ」
「はは、即答とは。これは手強そうだなあ。でも、強情な子も僕は好きですよ」
「…冗談よね?」
「ふふ、ご想像にお任せします」
「…はあ」
降谷の突然の言葉に、また頭痛の種が増えたと何度目か分からない溜め息をついた。
庁舎に着くまであと40分。平穏に乗り越えたいと私は切実に願った。