Short Story
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あー今日も疲れた…」
今日の仕事は組織での情報収集。だいぶ長引き、セーフハウスに帰れたのはもう日付も変わる頃だ。
玄関には靴の一足も残っておらず、自分のヒールだけが寂しく置かれた。
「ライもバーボンもまだ帰ってない…のか。二人とも頑張るなあ」
同じセーフハウスに暮らす二人は、この組織のノックということは互いに理解している。同類ということもあり、命を狙われる危険性はないと分かっているから、異性とはいえ同じ屋根の下で安心して寝れるのだ。
廊下を抜け3人で交代しあって使う狭いベッドルームに入る。
クローゼットを開き、自分の趣味ではない、華美すぎるパーティードレスと毛皮のコートを皺がつかないようハンガーにかけて扉を閉めた。
「とりあえず、お風呂入るか。明日は休みだし、久しぶりにゆっくり湯船に浸かろう…」
眠い目を擦りながら、下着のみを身に残しバスルームへ向かう。
女がこんな格好で歩くのはマズイとは分かっているが、誰も見るものはいないのだから、まあいいだろう。
「あー、寒い寒い。あ、洗濯物回さないとか…だいぶ溜まってるな」
男二人に女一人。三人とはいえ、みんな多忙のため落ち着いて家事をできるわけではない。洗濯物はたまり、部屋のゴミは増える一方だ。
「私がやるのが早いか、バーボンの怒りに触れるのが早いか。うん、まあバーボンがやるだろうな」
彼は三人のなかでもお母さんのようなポジションだ。ライはずっと煙草を吸っているお父さんか。ということは、私は娘、かな?
なかなか一般家庭のようでクスリと笑った。
「家族、かあ…」
こんな職業柄、一生を共にするパートナーに出逢えるのはなかなか無いだろう。
溜め息を溢しながら、身につけた少しの布切れを洗濯機へ放り込み浴槽のカーテンを開けた。
視界の隅に写った時計はもう新しい一日を刻み始めていた。
カチャリ。
夜中2時になる頃、静かに玄関の扉を開き、バーボンが帰宅した。
赤色のヒールだけが揃えられているのをみて、マティーニが家に居るのを確認し、物音をたてないよう細心の注意を払い家へ揚がった。寝ているところを起こすと、それはそれは面倒なことになるのである。それに、彼女は音に敏感だ。職業柄、少しの気配にも過敏になる。
靴を脱ぎ廊下を抜けリビングへ行くと、電気がついておらず暗かった。既にベッドルームで寝ているのだろう。
起こしてはまずいので、ソファーの背もたれにネクタイやジャケットをかけた。
今日のバーボンの任務は取引交渉だった。普通の会社の営業ならともかく、組織に関わる相手だ。普段以上に神経を使う任務は体の筋肉にまで緊張を及ぼす。
温かい湯船に浸かりたい。
そう思うと我慢がならず、風呂に入りたい衝動にかられた。
…起きない…よな?
シャワー音で目を覚まさないことを信じて、バーボンは首もとを緩めながらバスルームへ向かった。
廊下を通ってバスルームの扉に手をかけると、違和感に気づいた。
明かりがドアの隙間から漏れているのだ。
既に寝ていたと思ったが、彼女も入浴中だったようだ。
だが、彼女がこんな時間に風呂に入るなど、珍しい。
普段なら風呂よりもまず睡眠を優先してとる。まさか、溺れて数時間経つ…とかはないよな。
バーボンはドアノブに手をかけながら悩み続けた。
この家のバスルームは、ドア一枚を隔てて浴槽と洗面所とトイレがまとめて設置されている。
まさか、不躾にドアを開け放つわけにはいかない。そんなことをしたら、何が飛んでくるか分かったものではない。
なにより彼女は大人とはいえ、まだあどけなさの残る女の子だ。そんな子のまっさらな姿を見てしまうのは、罪悪感に苛まれるだろう。
扉を開けるか、否か、少し迷ってバーボンは耳を澄ませた。浴槽からあがっているなら、タオルの布擦れの音がするだろう。
音がしなければ…、入浴中か、電器の消し忘れか。はたまた溺れているか。
最後の考察はとても冗談ではすまされないが、ともかくドアの向こうからは音が聞こえない。
コンコンコン、と扉を叩いた。さすがに意識があれば気づくはずだ。
「……」
まさかな。いや、電気の消し忘れと信じたい。
やや焦燥にかられながら、もう一度ノックした。
コンコンコン。
──物音ひとつたたなかった。
本当に溺れていたとしたら洒落にならないし、一刻も早く助けるべきだ。この際、もう躊躇わずドアを開けよう。もし洗面器が飛んできたら、避ければいい話だ。
「…おーい、マティーニ。ドア、開けますよ」
カチャリ。
ドアを開けバーボンの目に写ったのは───
「…っ、…寝てるんですか?まさか死んでいないよな…」
湯をたっぷり張った浴槽に、瞼を閉じ幸せそうにくつろぐ彼女の姿が。もちろん、生まれたままの姿を曝け出して。
白い肌は湯の温かさでやや赤みを帯び、濡れた髪や唇が艶っぽく色気があった。
服の上からはなんとも思わなかったが、意外にも胸の膨らみが柔らかそうで、たわわなことにも気がついた。
幼い顔つきをしているが、彼女は充分大人の体をしていた。
「って、僕は一体なにを考えて…」
バーボンは理性を取り戻そうと、深く溜め息をついた。
無防備な彼女は未だ目を覚まさない。胸の双丘が緩く上下しているから、呼吸をしていることは分かった。
溺死は免れて良かったが、一体いつからこの状態なのだろうか。もしかすると、脱水症状を起こしかねない。
バーボンに再び焦りが襲った。
「マティーニ。おーい、マティーニ。起きてください。…マティーニ!」
「っうわあ!え、バーボンッ、なんで?!」
最後の一声が効いたのか、彼女はやっと眠りから覚めた。
バーボンはマティーニの意識がもどり呆れと安堵の表情だが、彼女自身は突然の男の侵入に慌てふためき、バチャバチャと水しぶきをたて取り敢えず両腕で胸を隠し、伸ばしていた脚を縮ませてガードした。
「なんっ、なんで入ってくるのよ馬鹿!この変態!」
「馬鹿って…。僕が気が付かなかったら、あなたこのまま浴槽の中で一夜を越していましたよ。体も冷えるし、もし溺れたら命の危険もあるというのに」
変態、というところは否定できなかったが、バーボンは負けじと捲し立てた。
「もう、いいから、出ていってよ!そうじゃないと、私だって出られないじゃない!」
長い間浸かっていたからやはり逆上せているのか、彼女の焦点は定まらず言葉も途切れ途切れだ。頬も紅い。
「はいはい、出ていきますよ。一応ドアの向こうにいるので、何かあったら呼んでくださいね」
「誰が呼ぶかっ」
そう告げ、今にも横におかれた洗面器を投げられそうだったので、バタン、と逃げるようにバスルームからでた。
廊下側のドアにもたれ掛かると、バスルームの方から長い溜め息が聞こえた。
5分後、一向に出てくる気配がなく、一体なにをしているのやら。
ノックをしてみると、ドアの向こうからくぐもった声が聞こえてきた。なにを言っているかはよく分からない。
「マティーニー?どうかしましたかー?見ないので、少しドア開けますよー」
ドアに少し隙間を開けてみると再度彼女が何か言っているのが聞こえた。
「…立てない」
ほら、言わんこっちゃない。
バーボンは何度目か分からない溜め息をついた。
「…入ってもいいですか?」
「…あんまり、見ないでね」
先程までの勢いはどこへいったのやら。
バーボンは扉を開き、近くにしまってあるバスタオルを一枚取り換気扇のスイッチをいれた。
「ほら、腕貸してあげますから、立てますか?」
「…目が回って、立てない」
「…それじゃあ、僕の首に両腕をまわしてください」
バーボンはしゃがみ、浴槽のなかに座るマティーニと同じ目線の高さになった。
「バーボンの服、濡れるよ」
「べつに気にしないでください。浴槽から引き上げたらタオル巻いてあげますから」
ほら、とバーボンは腕を広げた。
[#da=1#]はうやむやな気持ちを押さえ、バーボンの首に両腕をまわした。
上半身が湯船から離れ、つつ、と水滴が落ち、バーボンのシャツを濡らし素肌を透かせた。
逆上せた女の子の力だけでは全体重を預けられないだろう。
バーボンは素早く袖を捲り、マティーニの細い腰へ腕をまわし支えた。
「持ち上げますよ。しっかりつかまっていてください」
マティーニの身体を密着させるように抱きしめ、バーボンは立ち上がる。このときばかりは身長に大きく差があって良かったと思った。
「あぁもうやだ…かっこわるい…」
「こんなときまで格好つけなくていいですよ。ほら、バスタオル巻きますよ」
体と体の隙間にバスタオルを通し、マティーニの背中側で挟み込んで留めた。
しかしバーボンも男だ。ベッドルームへ行くまでこのままの姿勢はとても気まずいものだ。現に、ワイシャツ越しに感じるマティーニの温かくて柔らかい身体と、鼻孔をくすぐるシャンプーの香りはとても刺激的だ。
「ちょっと腕離してください。…暴れないでくださいよ」
そういってマティーニの身体をまるでお姫様を扱うように抱きかかえた。バスタオルを巻いて隠れているし、この方が断然動きやすい。
バーボンは足早にベッドルームへ向かった。途中、冷蔵庫からペットボトルに入った水を一本持って。
「本当に、あなた…私にどれだけの屈辱を与えたいのよ…」
「仕方がないことです。我慢してください」
たしかに仕方がないことだ。何が、とは言わないが。
「はい、着きましたよ。しばらく横になっていれば動けるようになるでしょう。ほら、お水も」
マティーニをベッドへ下ろし、寝かしつけペットボトルの蓋を緩めて、ベッド横のデスクに置いた。
白いシーツに乗る、タオル一枚のみを身につけたその姿は、まるでこれから夜の情事が始まるみたいで妖艶だった。
「それじゃあ、僕はこれで失礼しますよ。服は自分で取れますよね?」
マティーニは無言で頷いた。
「では、また何かあったら呼んでください」
「…ありがとう」
「…お気になさらず」
パタン、とベッドルームの扉を閉め、バーボンは何度目かわからない溜め息を重く長くついた。
バーボンとて女性経験が無いわけではないが、共に長く暮らした彼女の全てを晒した姿を見るのは初めてだった。
思い出すだけで降谷の中の雄の本能が警鐘を鳴らし、下半身は正直に反応を示していた。彼女と密着を離したのはこれが原因だ。
「…どうすっかな、コレ」
仕事仲間で抜くのはとても気がひけ、しばらくバーボンの葛藤は続くのだった。
今日の仕事は組織での情報収集。だいぶ長引き、セーフハウスに帰れたのはもう日付も変わる頃だ。
玄関には靴の一足も残っておらず、自分のヒールだけが寂しく置かれた。
「ライもバーボンもまだ帰ってない…のか。二人とも頑張るなあ」
同じセーフハウスに暮らす二人は、この組織のノックということは互いに理解している。同類ということもあり、命を狙われる危険性はないと分かっているから、異性とはいえ同じ屋根の下で安心して寝れるのだ。
廊下を抜け3人で交代しあって使う狭いベッドルームに入る。
クローゼットを開き、自分の趣味ではない、華美すぎるパーティードレスと毛皮のコートを皺がつかないようハンガーにかけて扉を閉めた。
「とりあえず、お風呂入るか。明日は休みだし、久しぶりにゆっくり湯船に浸かろう…」
眠い目を擦りながら、下着のみを身に残しバスルームへ向かう。
女がこんな格好で歩くのはマズイとは分かっているが、誰も見るものはいないのだから、まあいいだろう。
「あー、寒い寒い。あ、洗濯物回さないとか…だいぶ溜まってるな」
男二人に女一人。三人とはいえ、みんな多忙のため落ち着いて家事をできるわけではない。洗濯物はたまり、部屋のゴミは増える一方だ。
「私がやるのが早いか、バーボンの怒りに触れるのが早いか。うん、まあバーボンがやるだろうな」
彼は三人のなかでもお母さんのようなポジションだ。ライはずっと煙草を吸っているお父さんか。ということは、私は娘、かな?
なかなか一般家庭のようでクスリと笑った。
「家族、かあ…」
こんな職業柄、一生を共にするパートナーに出逢えるのはなかなか無いだろう。
溜め息を溢しながら、身につけた少しの布切れを洗濯機へ放り込み浴槽のカーテンを開けた。
視界の隅に写った時計はもう新しい一日を刻み始めていた。
カチャリ。
夜中2時になる頃、静かに玄関の扉を開き、バーボンが帰宅した。
赤色のヒールだけが揃えられているのをみて、マティーニが家に居るのを確認し、物音をたてないよう細心の注意を払い家へ揚がった。寝ているところを起こすと、それはそれは面倒なことになるのである。それに、彼女は音に敏感だ。職業柄、少しの気配にも過敏になる。
靴を脱ぎ廊下を抜けリビングへ行くと、電気がついておらず暗かった。既にベッドルームで寝ているのだろう。
起こしてはまずいので、ソファーの背もたれにネクタイやジャケットをかけた。
今日のバーボンの任務は取引交渉だった。普通の会社の営業ならともかく、組織に関わる相手だ。普段以上に神経を使う任務は体の筋肉にまで緊張を及ぼす。
温かい湯船に浸かりたい。
そう思うと我慢がならず、風呂に入りたい衝動にかられた。
…起きない…よな?
シャワー音で目を覚まさないことを信じて、バーボンは首もとを緩めながらバスルームへ向かった。
廊下を通ってバスルームの扉に手をかけると、違和感に気づいた。
明かりがドアの隙間から漏れているのだ。
既に寝ていたと思ったが、彼女も入浴中だったようだ。
だが、彼女がこんな時間に風呂に入るなど、珍しい。
普段なら風呂よりもまず睡眠を優先してとる。まさか、溺れて数時間経つ…とかはないよな。
バーボンはドアノブに手をかけながら悩み続けた。
この家のバスルームは、ドア一枚を隔てて浴槽と洗面所とトイレがまとめて設置されている。
まさか、不躾にドアを開け放つわけにはいかない。そんなことをしたら、何が飛んでくるか分かったものではない。
なにより彼女は大人とはいえ、まだあどけなさの残る女の子だ。そんな子のまっさらな姿を見てしまうのは、罪悪感に苛まれるだろう。
扉を開けるか、否か、少し迷ってバーボンは耳を澄ませた。浴槽からあがっているなら、タオルの布擦れの音がするだろう。
音がしなければ…、入浴中か、電器の消し忘れか。はたまた溺れているか。
最後の考察はとても冗談ではすまされないが、ともかくドアの向こうからは音が聞こえない。
コンコンコン、と扉を叩いた。さすがに意識があれば気づくはずだ。
「……」
まさかな。いや、電気の消し忘れと信じたい。
やや焦燥にかられながら、もう一度ノックした。
コンコンコン。
──物音ひとつたたなかった。
本当に溺れていたとしたら洒落にならないし、一刻も早く助けるべきだ。この際、もう躊躇わずドアを開けよう。もし洗面器が飛んできたら、避ければいい話だ。
「…おーい、マティーニ。ドア、開けますよ」
カチャリ。
ドアを開けバーボンの目に写ったのは───
「…っ、…寝てるんですか?まさか死んでいないよな…」
湯をたっぷり張った浴槽に、瞼を閉じ幸せそうにくつろぐ彼女の姿が。もちろん、生まれたままの姿を曝け出して。
白い肌は湯の温かさでやや赤みを帯び、濡れた髪や唇が艶っぽく色気があった。
服の上からはなんとも思わなかったが、意外にも胸の膨らみが柔らかそうで、たわわなことにも気がついた。
幼い顔つきをしているが、彼女は充分大人の体をしていた。
「って、僕は一体なにを考えて…」
バーボンは理性を取り戻そうと、深く溜め息をついた。
無防備な彼女は未だ目を覚まさない。胸の双丘が緩く上下しているから、呼吸をしていることは分かった。
溺死は免れて良かったが、一体いつからこの状態なのだろうか。もしかすると、脱水症状を起こしかねない。
バーボンに再び焦りが襲った。
「マティーニ。おーい、マティーニ。起きてください。…マティーニ!」
「っうわあ!え、バーボンッ、なんで?!」
最後の一声が効いたのか、彼女はやっと眠りから覚めた。
バーボンはマティーニの意識がもどり呆れと安堵の表情だが、彼女自身は突然の男の侵入に慌てふためき、バチャバチャと水しぶきをたて取り敢えず両腕で胸を隠し、伸ばしていた脚を縮ませてガードした。
「なんっ、なんで入ってくるのよ馬鹿!この変態!」
「馬鹿って…。僕が気が付かなかったら、あなたこのまま浴槽の中で一夜を越していましたよ。体も冷えるし、もし溺れたら命の危険もあるというのに」
変態、というところは否定できなかったが、バーボンは負けじと捲し立てた。
「もう、いいから、出ていってよ!そうじゃないと、私だって出られないじゃない!」
長い間浸かっていたからやはり逆上せているのか、彼女の焦点は定まらず言葉も途切れ途切れだ。頬も紅い。
「はいはい、出ていきますよ。一応ドアの向こうにいるので、何かあったら呼んでくださいね」
「誰が呼ぶかっ」
そう告げ、今にも横におかれた洗面器を投げられそうだったので、バタン、と逃げるようにバスルームからでた。
廊下側のドアにもたれ掛かると、バスルームの方から長い溜め息が聞こえた。
5分後、一向に出てくる気配がなく、一体なにをしているのやら。
ノックをしてみると、ドアの向こうからくぐもった声が聞こえてきた。なにを言っているかはよく分からない。
「マティーニー?どうかしましたかー?見ないので、少しドア開けますよー」
ドアに少し隙間を開けてみると再度彼女が何か言っているのが聞こえた。
「…立てない」
ほら、言わんこっちゃない。
バーボンは何度目か分からない溜め息をついた。
「…入ってもいいですか?」
「…あんまり、見ないでね」
先程までの勢いはどこへいったのやら。
バーボンは扉を開き、近くにしまってあるバスタオルを一枚取り換気扇のスイッチをいれた。
「ほら、腕貸してあげますから、立てますか?」
「…目が回って、立てない」
「…それじゃあ、僕の首に両腕をまわしてください」
バーボンはしゃがみ、浴槽のなかに座るマティーニと同じ目線の高さになった。
「バーボンの服、濡れるよ」
「べつに気にしないでください。浴槽から引き上げたらタオル巻いてあげますから」
ほら、とバーボンは腕を広げた。
[#da=1#]はうやむやな気持ちを押さえ、バーボンの首に両腕をまわした。
上半身が湯船から離れ、つつ、と水滴が落ち、バーボンのシャツを濡らし素肌を透かせた。
逆上せた女の子の力だけでは全体重を預けられないだろう。
バーボンは素早く袖を捲り、マティーニの細い腰へ腕をまわし支えた。
「持ち上げますよ。しっかりつかまっていてください」
マティーニの身体を密着させるように抱きしめ、バーボンは立ち上がる。このときばかりは身長に大きく差があって良かったと思った。
「あぁもうやだ…かっこわるい…」
「こんなときまで格好つけなくていいですよ。ほら、バスタオル巻きますよ」
体と体の隙間にバスタオルを通し、マティーニの背中側で挟み込んで留めた。
しかしバーボンも男だ。ベッドルームへ行くまでこのままの姿勢はとても気まずいものだ。現に、ワイシャツ越しに感じるマティーニの温かくて柔らかい身体と、鼻孔をくすぐるシャンプーの香りはとても刺激的だ。
「ちょっと腕離してください。…暴れないでくださいよ」
そういってマティーニの身体をまるでお姫様を扱うように抱きかかえた。バスタオルを巻いて隠れているし、この方が断然動きやすい。
バーボンは足早にベッドルームへ向かった。途中、冷蔵庫からペットボトルに入った水を一本持って。
「本当に、あなた…私にどれだけの屈辱を与えたいのよ…」
「仕方がないことです。我慢してください」
たしかに仕方がないことだ。何が、とは言わないが。
「はい、着きましたよ。しばらく横になっていれば動けるようになるでしょう。ほら、お水も」
マティーニをベッドへ下ろし、寝かしつけペットボトルの蓋を緩めて、ベッド横のデスクに置いた。
白いシーツに乗る、タオル一枚のみを身につけたその姿は、まるでこれから夜の情事が始まるみたいで妖艶だった。
「それじゃあ、僕はこれで失礼しますよ。服は自分で取れますよね?」
マティーニは無言で頷いた。
「では、また何かあったら呼んでください」
「…ありがとう」
「…お気になさらず」
パタン、とベッドルームの扉を閉め、バーボンは何度目かわからない溜め息を重く長くついた。
バーボンとて女性経験が無いわけではないが、共に長く暮らした彼女の全てを晒した姿を見るのは初めてだった。
思い出すだけで降谷の中の雄の本能が警鐘を鳴らし、下半身は正直に反応を示していた。彼女と密着を離したのはこれが原因だ。
「…どうすっかな、コレ」
仕事仲間で抜くのはとても気がひけ、しばらくバーボンの葛藤は続くのだった。