Short Story
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「失礼。この本を探しているのだが」
幾度となく向けられるその問い掛けに、私は笑顔を張り付けて振り向いた。
男のグリーンの目はアメリカでは少し珍しい。だが、その人は私にとって馴染みが深かった。
「ご案内します」
差し出されたメモを受け取り、私は彼を先導した。
行く先は、監視カメラもなく人目にもつかない非常口。
フロアから離れたここは薄暗く、スタッフもあまり通ることはない。
「はい、これ」
私は彼に催促される前に、彼がほしがっているものを渡した。文庫本の表紙と同じくらいの紙に、書名とそれを借りた人間の名前が羅列されているものだ。
「準備がよくて助かるよ」
「ここの潜入にもだいぶ慣れたからね」
本来はプライバシーの関係で絶対に漏らしてはいけない情報だが、彼はFBIだし許されるだろうと無理やり丸め込んでいる。
「次はこの人たちのを調べればいいのね?」
赤井さんはポケットに手を入れて「ああ」と答えた。
私は先ほど渡された四つ折りのメモを開き、目を通していく。見慣れない名前ばかりだ。
「望みは薄いかもよ」
「構わんさ。少しの手掛かりでもあれば、それで十分だ。……ところで」
そう言うと、彼の整った顔がズイと近付いた。
「だいぶお疲れのようじゃないか。目の下の隈がひどい」
「っふ、あはは。赤井さんには言われたくないわよ」
「俺はきみを心配しているんだ」
グリーンの瞳が私を射抜いた。彼の大きな手が私の手首を掴み、ブラウスの袖越しに彼の体温を感じる。
私の乾燥した手が、じわりと熱くなったのがわかった。
「ユイ、今日は一緒に帰ろう。俺もさっさとこれを本部に届けて、きみを迎えに戻る」
彼は握っていた手を離し、かわりに私の目元を指先で撫でた。
その触れた心地よさと彼の穏やかな声に、一気に体の緊張が解けてしまった。
私は小さく頷いた。
彼は満足そうに微笑んで、手を私の頭の上に乗せた。彼の体が近付き、ふわりと匂いが濃くなる。
額に口付けを受け、彼はまた満足そうに私を見下ろした。
「さあ、もう一踏ん張りだな」
「うん。ありがとう、赤井さん」
わざわざ会いに来てくれて。