Long Story
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建物の内部に進むにつれて、どんどん淀んだ空気が強くなる。一定に張りつめた緊張感にまとわりつく偽りの匂い。
大きめのサイズのエレベーターに乗り込む。階数のボタンがたくさんある。点灯するのは上から5番目。
ここは何をする場所なの。怖い。普通の空気ではない。
疲労とストレスで人の形を保てない。抑え込むのが持たない。
私は思考を反らすために、赤井さんの匂いに集中した。力を入れても逃げていくように、彼にしがみつく腕が震え始めてきた。ダメだ、保てない。
「……この子、大丈夫ですか?人目の少ない部屋を確保したので、もう少し時間がかかるかと……」
「ここの施設に警察犬は出入りするか?」
「普段は滅多にしませんが……それがどうかしましたか」
「そうか。まあ、適当に口実をつけておてくれ。……ユイ、もう我慢しなくていいぞ」
「ん……」
その言葉に促され、私は抑え込む力を緩めた。
エレベーターの床にそっと寝かされる。遠退く意識。瞼を閉じる。一時的に聞こえなくなる耳。痛みはない。むしろ、睡眠に入るときのような浮遊感に溺れる。
「おい赤井、本当に大丈夫なのか……?」
「ああ」
──嗅覚が研ぎ澄まされる。太い針のような精神がピンと張り詰める。目を開けると、広がる視界の角度。キーンと鳴る機械の動作する音が、さっきよりもハッキリと聞こえる。視線の位置は低いけど、見える範囲はこっちの方が広い。
「……犬になった……?」
「白いから分かりづらいと思うが、シェパードだ。君の国の警察犬もこの種はいるだろう」
私は軽くなった体を起こして座り直し、背筋を伸ばして赤井さんの隣に並んだ。
「いますけど、ホワイトシェパードは始めて見ますね。この状態でも僕たちの言葉は理解しているんですか?」
「ああ、勿論だ」
私は頷いて返事をする。人間の姿のときよりも赤井さんの優しい匂いがしっかりと感じられる。
チン、と到着をしらせるチャイムが鳴った。
「この階の奥の部屋です」
『ねえねえ赤井さん、けいさつけん、ってなに。それの真似をした方がいいのかな』
「ユイ、もう着くから。もう少し辛抱してくれ」
この体の不満なところは、口を開いても言葉が通じないことだ。
正義の匂いを纏うこの人は、感情がないのだろうか。
私を見ても、この人の香りは変わらなかった。