Long Story
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この国に降りてから、湿度の高い空気と、独特の匂いが鼻を埋める。無臭に近いけど、それでもやっぱりアメリカとは違う食べ物の匂い。慣れない土地では余計に私の鼻は働いた。
空港に着いた頃にはすでに明るい空だった。時差ボケ、というらしい。私は眠い目をこする。視界に映るのは『スーツ』というモノクロのものを纏った人間ばかり。
漢字や平仮名は読めないが、日本語を話す彼の元で育ったから、この国の言葉は分かる。それなのに、全然その言語を耳にしていない。この国の者はとても無口なのかもしれない。
「FBIの赤井秀一だ。公安の者に呼ばれて来た」
空港からさらにタクシーで約30分。大きな建物が建ち並ぶ場所へ来た。
彼が受付の女に何か見せながら、そう伝える。すると女は張り付けた笑顔のまま私達を迎え入れた。
偽りの匂いがする。鼻腔に、香水でもない嫌な匂いがこびりつく。
ここは一体どこなんだろう。正義と偽りと、葛藤と絶望が混じっている。正反対の匂いや、普段嗅がない匂いが充満していて気持ちが悪い。
「ただいま呼んで参ります。お部屋にご案内致しますので、そちらでお待ちください」
「ああ」
大の大人の横にぽつんと立つ私のことを見ても、なにも顔色を変えない。私のことも知られているのかな。
なんだか怖い。私はここで利用されるの?
「ユイ。そんなに袖を握らなくても、俺は逃げない」
私は首を横に降る。そういうわけじゃない。黒いシャツの袖を、私は離したくない。
「おい、FBI!あなたは到着時刻の連絡もできないんですか?まったく、本当に報連相がなってませんね。僕だって暇じゃないんですから、円滑にスケジュールを進める協力くらいしてくださいよ。まったく、あなたは本当に昔から……」
ここに来てから、初めてこんなに日本語を聞いた気がする。
この金髪の男の人は誰だろう。彼の何なのだろう。
この男の服から、少しだけ犬の匂いがする。まだ若い犬かな。
それと、──強い正義の匂い。この人は、悪い人ではないのかもしれない。
「ユイ、紹介しよう。彼は降谷零。この国を守る、偉い人だ。こう見えて彼はとても優しい。怖がらなくていいぞ」
「こう見えて、は余計だろう赤井秀一!」
一度だけ聞いたことのある日本語、犬猿之仲、とはこの事をいうのだろうか。
何はともあれ、赤井さんとは仲が良いみたいで安心した。
「ユイちゃん、宜しくね。君のことはまだ少ししか知らない。詳しく話を聞かせてもらってもいいかな?」
「うん。わかった」
私の目線に合わせるため、降谷さんは膝をついてこちらをじっと見据えた。綺麗な青色の瞳だ。
しかし、ふわりと漂ったのは微かな血の匂い。最近のではない。もっと何年も前の、後悔も含んだ僅かな血の匂い。
血は嫌いだ。歯が疼く。体の奥深くに眠る獣の本能が揺さぶられる。ダメだ、一度意識したらこの匂いが離れない。『犬』としての精神が隠せない。喉が鳴る。
「──降谷くん。すまないが彼女も疲れてきているみたいだ。はやく部屋に案内してくれないだろうか」
赤井さんは黒いニット帽を私に被せ、私の体には大きすぎるジャケットを肩にかけた。
『犬』の耳と尻尾が隠せなくなるのを察知してくれたみたいだ。私も自分の力で抑え込む努力はしているが、それよりもこの匂いの方が強い。
一体、この男の過去に何があったのだ。
この笑顔の裏に、どんな思いがあるんだ。
後悔。醜悪。復讐。迷い。偽り。そして、正義。
──この人間は情報量が多すぎる。たった一人の人生ではないくらいに。
「ああ、すみません。長旅で負担もかかっていますよね。こっちです」
「さあ、ユイ。行くぞ」
赤井さんの優しい声音と、大きな腕に包まれる。
硬直した私を抱き抱え、赤ん坊をなだめるように背中を擦った。私は息を深く吸い込んで、彼の穏やかな空気を肺に満たした。
空港に着いた頃にはすでに明るい空だった。時差ボケ、というらしい。私は眠い目をこする。視界に映るのは『スーツ』というモノクロのものを纏った人間ばかり。
漢字や平仮名は読めないが、日本語を話す彼の元で育ったから、この国の言葉は分かる。それなのに、全然その言語を耳にしていない。この国の者はとても無口なのかもしれない。
「FBIの赤井秀一だ。公安の者に呼ばれて来た」
空港からさらにタクシーで約30分。大きな建物が建ち並ぶ場所へ来た。
彼が受付の女に何か見せながら、そう伝える。すると女は張り付けた笑顔のまま私達を迎え入れた。
偽りの匂いがする。鼻腔に、香水でもない嫌な匂いがこびりつく。
ここは一体どこなんだろう。正義と偽りと、葛藤と絶望が混じっている。正反対の匂いや、普段嗅がない匂いが充満していて気持ちが悪い。
「ただいま呼んで参ります。お部屋にご案内致しますので、そちらでお待ちください」
「ああ」
大の大人の横にぽつんと立つ私のことを見ても、なにも顔色を変えない。私のことも知られているのかな。
なんだか怖い。私はここで利用されるの?
「ユイ。そんなに袖を握らなくても、俺は逃げない」
私は首を横に降る。そういうわけじゃない。黒いシャツの袖を、私は離したくない。
「おい、FBI!あなたは到着時刻の連絡もできないんですか?まったく、本当に報連相がなってませんね。僕だって暇じゃないんですから、円滑にスケジュールを進める協力くらいしてくださいよ。まったく、あなたは本当に昔から……」
ここに来てから、初めてこんなに日本語を聞いた気がする。
この金髪の男の人は誰だろう。彼の何なのだろう。
この男の服から、少しだけ犬の匂いがする。まだ若い犬かな。
それと、──強い正義の匂い。この人は、悪い人ではないのかもしれない。
「ユイ、紹介しよう。彼は降谷零。この国を守る、偉い人だ。こう見えて彼はとても優しい。怖がらなくていいぞ」
「こう見えて、は余計だろう赤井秀一!」
一度だけ聞いたことのある日本語、犬猿之仲、とはこの事をいうのだろうか。
何はともあれ、赤井さんとは仲が良いみたいで安心した。
「ユイちゃん、宜しくね。君のことはまだ少ししか知らない。詳しく話を聞かせてもらってもいいかな?」
「うん。わかった」
私の目線に合わせるため、降谷さんは膝をついてこちらをじっと見据えた。綺麗な青色の瞳だ。
しかし、ふわりと漂ったのは微かな血の匂い。最近のではない。もっと何年も前の、後悔も含んだ僅かな血の匂い。
血は嫌いだ。歯が疼く。体の奥深くに眠る獣の本能が揺さぶられる。ダメだ、一度意識したらこの匂いが離れない。『犬』としての精神が隠せない。喉が鳴る。
「──降谷くん。すまないが彼女も疲れてきているみたいだ。はやく部屋に案内してくれないだろうか」
赤井さんは黒いニット帽を私に被せ、私の体には大きすぎるジャケットを肩にかけた。
『犬』の耳と尻尾が隠せなくなるのを察知してくれたみたいだ。私も自分の力で抑え込む努力はしているが、それよりもこの匂いの方が強い。
一体、この男の過去に何があったのだ。
この笑顔の裏に、どんな思いがあるんだ。
後悔。醜悪。復讐。迷い。偽り。そして、正義。
──この人間は情報量が多すぎる。たった一人の人生ではないくらいに。
「ああ、すみません。長旅で負担もかかっていますよね。こっちです」
「さあ、ユイ。行くぞ」
赤井さんの優しい声音と、大きな腕に包まれる。
硬直した私を抱き抱え、赤ん坊をなだめるように背中を擦った。私は息を深く吸い込んで、彼の穏やかな空気を肺に満たした。