短編
夜更かしのできる、金曜の夜。
今日も私たちは映画を観ていた。
ソファに座って観ている彼の後ろで、私は自分が飲むお酒の準備を進めた。とはいえツマミは用意していない。そのまま酒だけで飲むのが常だ。
「……どうして、こうなるんでしょうね」
主人公がサイコパスに成長する映画に、彼は素直な疑問を口に出す。
珍しいセレクトだと思ったが、倫理の自主学習中のようだ。
私は「さあ」とだけ答えて、グラスに白ワインをついだ。
彼は酒に弱いので飲まない。私も弱い方だが、今日は飲みたい気分だった。
「家庭環境は大きい要因なんでしょう」
先生へそう確かめる。彼は顎を引いて頷いた。
私はソファの空いている右側へ、グラスを持って腰かけた。
「想像できないなら、実践してみたら」
自分で、父として子どもを育てることを。
「……僕の方が覚悟できていません」
横目でチラと見てみれば、彼は意外な表情をしていた。
「……なにその顔」
彼は「えっ」と素頓狂な声を出した。
私は手のなかのアルコールをさっさと体に流し込んだ。
まだまだ進展はしないらしい。
でも、それもいいか、と思ってしまう。
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