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彼の元気がないらしい。
『結』の情報網でそのことを知った。それ以外の情報提供よりも、彼の具合の方が私には重大に響いた。
もともと元気だとか活気だとかとは無縁かもしれないが、ここ最近の問題のせいで床に伏せることも多いという。
私は手土産の老舗の干菓子と金平糖を手に、洗足家の門を静かに乗り越え、庭の方へ回った。
茶の間がある縁側に腰を下ろし、その板をコツコツとノックした。
「お久しぶりです、棗さん」
障子が滑り良く開き、現れたのは夷さんだ。
「ご無沙汰しておりました。……伊織さんは?」
「炬燵でくつろいでいます。どうぞ、あがってください。すぐに温かいお茶をいれますね」
「あ、これ。お茶の席にでも使ってください」
黒い紙袋を夷さんに手渡せば、「助かります」といってすんなり受け取ってくれた。
「伊織、元気ないって伝達がまわっているよ」
夷さんが開けておいてくれたところから、にじるように縁側に体を乗り上げ、まだ視界には入らない彼へ声をかけた。
「それはどこぞの馬鹿のせいで取り越し苦労をしたあとの『結』だったのでしょうね。あたしは問題ないですよ」
「炬燵で寝たりしたらきっとすぐに風邪をひくでしょうから、気を付けるんだよ」
「はいはい」
彼の開放されているはずの目は閉じられ、ため息でもついた後みたいな撫で肩。
私はそれを観察しながら、座布団も敷かれていないから空いているのであろう場所へ座った。
横にいるマメくんが「座布団、大丈夫なんでしたっけ?」と聞いてきたので、「うん。私は畳の上に座りたい派なの」と答えた。
「それで、用はなんです。なにか手がかりでも持っているのかね」
「手がかりは持ってないけど、お菓子は持ってきた」
「干菓子は近いうちに使わせていただきますので、金平糖の方を出させていただきますね」
夷さんは煎茶セットのお盆と、小皿に星屑を出して持ってきた。
「わあ! 青色の金平糖、綺麗ですね」
「ソーダ味なんだよ。限定のものでね、すぐ売り切れちゃうんだけど、ちょうど最後の一個を買えたの。幸運のお裾分けだよ」
そう言うと、目の前に座る伊織が、ふ、と息をもらした。
「まったく、『結』の使いかたから教えなおさないといけないかねえ」
「おししょさん。私が飲み込み悪いのは百も承知でしょう。また取り越し苦労やらくたびれ損やらを被るよ」
「自己分析は上手なのにね」
彼は呆れた声を出したが、表情は明るかった。
まだ、そこまで悪くはなっていないみたいだ。
これから先、彼に降りかかる困難。それは私の妖人としての特技で知ってしまっているのだが、あえてその未来を彼に知らせることはないだろう。
「粗茶です。熱いので気をつけてください」
夷さんから湯呑みをもらい、やっと炬燵は全ての席が埋まった。
「今日来た理由はこれよ」
私は花札を炬燵の卓の上に置いた。
「のんびり勝負しましょ。負けた人は勝った人の好物を奢る。いいわね?」
伊織はわざとらしく息を重く吐き、自分の湯呑みを手に包んでグイッと呷った。
「芳彦、まずはお前から相手をしておやり」
「いえ、先生からどうぞ」
「棗さん、花札お強いですもんね! 僕また負けちゃうと思います」
私は「手加減は失礼だからさ」と言って笑った。
こういう時間が、少しでも長く流れていますように。
そう願いながら、花札を混ぜ始めた。
『結』の情報網でそのことを知った。それ以外の情報提供よりも、彼の具合の方が私には重大に響いた。
もともと元気だとか活気だとかとは無縁かもしれないが、ここ最近の問題のせいで床に伏せることも多いという。
私は手土産の老舗の干菓子と金平糖を手に、洗足家の門を静かに乗り越え、庭の方へ回った。
茶の間がある縁側に腰を下ろし、その板をコツコツとノックした。
「お久しぶりです、棗さん」
障子が滑り良く開き、現れたのは夷さんだ。
「ご無沙汰しておりました。……伊織さんは?」
「炬燵でくつろいでいます。どうぞ、あがってください。すぐに温かいお茶をいれますね」
「あ、これ。お茶の席にでも使ってください」
黒い紙袋を夷さんに手渡せば、「助かります」といってすんなり受け取ってくれた。
「伊織、元気ないって伝達がまわっているよ」
夷さんが開けておいてくれたところから、にじるように縁側に体を乗り上げ、まだ視界には入らない彼へ声をかけた。
「それはどこぞの馬鹿のせいで取り越し苦労をしたあとの『結』だったのでしょうね。あたしは問題ないですよ」
「炬燵で寝たりしたらきっとすぐに風邪をひくでしょうから、気を付けるんだよ」
「はいはい」
彼の開放されているはずの目は閉じられ、ため息でもついた後みたいな撫で肩。
私はそれを観察しながら、座布団も敷かれていないから空いているのであろう場所へ座った。
横にいるマメくんが「座布団、大丈夫なんでしたっけ?」と聞いてきたので、「うん。私は畳の上に座りたい派なの」と答えた。
「それで、用はなんです。なにか手がかりでも持っているのかね」
「手がかりは持ってないけど、お菓子は持ってきた」
「干菓子は近いうちに使わせていただきますので、金平糖の方を出させていただきますね」
夷さんは煎茶セットのお盆と、小皿に星屑を出して持ってきた。
「わあ! 青色の金平糖、綺麗ですね」
「ソーダ味なんだよ。限定のものでね、すぐ売り切れちゃうんだけど、ちょうど最後の一個を買えたの。幸運のお裾分けだよ」
そう言うと、目の前に座る伊織が、ふ、と息をもらした。
「まったく、『結』の使いかたから教えなおさないといけないかねえ」
「おししょさん。私が飲み込み悪いのは百も承知でしょう。また取り越し苦労やらくたびれ損やらを被るよ」
「自己分析は上手なのにね」
彼は呆れた声を出したが、表情は明るかった。
まだ、そこまで悪くはなっていないみたいだ。
これから先、彼に降りかかる困難。それは私の妖人としての特技で知ってしまっているのだが、あえてその未来を彼に知らせることはないだろう。
「粗茶です。熱いので気をつけてください」
夷さんから湯呑みをもらい、やっと炬燵は全ての席が埋まった。
「今日来た理由はこれよ」
私は花札を炬燵の卓の上に置いた。
「のんびり勝負しましょ。負けた人は勝った人の好物を奢る。いいわね?」
伊織はわざとらしく息を重く吐き、自分の湯呑みを手に包んでグイッと呷った。
「芳彦、まずはお前から相手をしておやり」
「いえ、先生からどうぞ」
「棗さん、花札お強いですもんね! 僕また負けちゃうと思います」
私は「手加減は失礼だからさ」と言って笑った。
こういう時間が、少しでも長く流れていますように。
そう願いながら、花札を混ぜ始めた。
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