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Short Story(parody)

「あー!待って待って敵いる!280の方向!あ、ナイス!」
『よっしゃあ8キルだぜ!』
「貞ちゃん流石!あー、あと生存11人かあ」

 響く銃声。足音を聞くために過敏になる聴覚。
 私はスマホを横向きにして両手で操作するFPSゲームにハマってしまった。
 今は友達の貞宗と通話を介して一緒にプレイしているところだ。

「おい、そろそろゲームやめろ」

 大倶利伽羅が溜息をつきながらソファの隣へ座った。彼の手にはなにやら難しそうな書類の束。
 私はいま、彼の家に泊まっている。家に帰るのが面倒すぎるのだ。
 決してふしだらな思惑ではない。通学距離が長すぎるので、学校の近くに一人暮らしをする彼の家にはよく世話になっている。
 あまりにも滞在しすぎているから、家事を分担して行っているほどである。
 しかし、付き合っているわけではない。

「あと少しで終わるからぁー」
『伽羅は厳しいなぁ……あれ、雨降ってきた?』
「うん?それはゲーム内の?」

 いや、確かにリアルな雨音が聞こえる。
 窓の方へ視線を移すと、さっきまでは晴れていたのに急な土砂降り。

「せ、洗濯物が……!ちょっと、伽羅、代わりにこれやって!取り込んでくるから!」

 中断ができないゲーム故に、こういう時が困る。さすがに彼に取り込みに行ってもらうのも気が引けるし。
 代わりに、とは言ったが伽羅はこのゲームやったことあるのだろうか。……やらなさそうだな。
 しかし私はスマホを伽羅に託し、天気がいいからとたくさん干した洗濯物と布団を取り込みに走った。



「ん。終わった」

 調子に乗って干しすぎた為、わりと時間を食ってしまった。ソファに戻ると、伽羅がスマホを私に差し出した。

「あれ、早くない?負けちゃった?」
「ふん」

 ……なんだその態度は。伽羅は再び視線を小難しい書類へ戻した。
 しかし私は手に戻ってきた画面を見て驚いた。

「ドン勝……?」
『やっぱ伽羅は強いよなー!伽羅とは敵になりたくねえなあ』

 通話越しにそう笑う貞宗。私が伽羅にスマホを渡したとき、敵はまだ11人いたはずだ。ものの5分くらいで全て倒してしまったのか……。
 いや、そこに驚くのもそうだが、まず伽羅がこんなにゲームが上手いとは思わなかった。
 普段からあまりスマホを見ていないし、今みたいに紙媒体を見ていることの方が多いからだ。

「うっそ……。伽羅、このゲームやったことあるの?」
「まあな」
「え、知らなかった!一緒にやろうよ!いまアプリ入ってるの?」
「入ってない」

 えー、そっかあ。
 容量の大きいアプリだからインストールに時間がかかるし、無理に入れてもらうのも気が引ける。

『伽羅、嘘つくなって!』
「おい、貞」

 伽羅は再び溜息をついた。
 私は目を輝かせて伽羅の方を見る。伽羅は、うっ、とした顔を見せてから何度目かの溜息をついた。

「……一回だけだぞ」
「やったあ!」
『よっしゃ!サンキュー伽羅!』

 ズボンのポケットからスマホを取り出す伽羅。あ、本当にアプリ入ってる。
 アイコンをタップし、ゲームにログインを始める。少々時間が掛かるのが難点だ。

「貞ちゃんは伽羅と一緒にやったことあるの?」
『あるぜ!最近はあんまりーだけどな』
「そっかあ。早くに知っておけば良かった。そうしたらやり方教えてもらえたかもなのに……」
『伽羅にレクチャーしてもらうなんて、贅沢すぎるなあ』

 貞ちゃんはそう言って笑った。そ、そんなに伽羅は強いのか……。

「入った。貞、チームに招待してくれ」
『お!了解!』

 すでにフレンドになっている貞が伽羅をチームに呼ぶ。
 そしてロビーに表示されたアバターとユーザー名を見て、私は驚愕した。

「まって、伽羅……」

 そこには、知る人ぞ知る世界チャンピオンが表示されていた。
 つまり、私の隣にいる人は、このゲームの世界大会を制した人……。
 様々な実況者のプレイ動画のゲストに頻繁に呼ばれ、誰も声は聞いたことはないけれどその腕の良さは広く認知されている謎多き凄腕プレイヤー。
 それが、なんと、伽羅だったのだ。

「はやくやるぞ」

 た、楽しそうでなにより……。
 私はとんでもない人が身近にいたという事実と、生で見る彼の強さに、何度驚いたかわからない。






「あんた、下手すぎないか」
「うるさいわね!伽羅が強すぎるだけでしょ!あ、医療キットありがとう」
「前に敵いるぞ」
「ああもう!!」
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