Short Story(parody)
「うわあ、広い!」
「そうでもないさ。ああ、なにか飲むか?」
「ココア!」
さすが、金持ちの家は違う。外観からして、日本とは別世界のような洋風な……それも、気取った館というよりかは、森のなかにひっそり佇む別荘のような、庭の綺麗な建物。
玄関を開けてすぐに出迎えるのはやや小ぶりなグランドピアノ。彼いわく、家にはピアノが3台ほどあるという。さすが、大手楽器店のお偉いさんは違う。
それと壁には所々に絵画が飾ってある。有名な画家の絵から、動植物のスケッチから、様々な絵がセンスよく配置されている。家具はアンティークなものが多い。
ひとつ気づいたことは、『人間』が飾られていないこと。たくさん絵画があるのに、人物絵はなく、写真にも人間は写っていなかった。
まあ、それも個人の趣味だから兎や角言う筋合いはない。
「こっちだ。まあ、適当に座ってくれ」
ドアを2つほどくぐり、案内された部屋。大きなテレビと大人何人分座れるのだろう、それくらい大きなソファが目をひく。
「え、すごい!ふかふかそう!座ってもいい?」
「ああ、汚すなよ」
「はーい」
ソファの中心にぼふん、と体を預ける。
これは──、私の布団よりも心地がいい。
素晴らしい座り心地だ。いや、寝心地といってもいいだろう。ここでなら安眠できそうだ。それに、とても気持ちがいい。
「これは世のオトナ達がソファでなだれこみセックスするのも分かるわ……」
まあ私はそんなことしたことないが。
この国永も、べつに恋仲だとかそういうわけでもない。今日はお薦めの映画とお笑い番組がある、と誘われただけだ。
彼にとってはお笑い番組がメインであろう。映画も、どんな驚きが待っているかわからない。
「そうだな。そこでのセックスは最高だった」
いや、したことあるのかよ。
なんだか急に居心地が悪くなった。
「へえー……」
「はは、冗談だ。そんなふしだらなこと、そこではやらん」
「気持ち悪い冗談言わないでよ……」
すまんすまん、と言いながらマグカップを2つ持ってきて、ソファの前のテーブルに置く。湯気が立ち上っている。私にはココアを、彼はいつものブラックコーヒーだろうか。
「それで、なに見るの?」
「ああ!君に見せたい映画があってな」
珈琲を手に持ちながら、テレビのリモコンをいじる。
細い指。長くて、整っている。まだピアノを弾くらしいから、爪も短めに切り揃えられている。
悔しいほどに綺麗な手だ。
「あんまり見られると照れるな」
「……見てない」
彼は背中を向けながら、自惚れたことを言う。まあ、本当は見ていたのだが。
「そうだったか?」
DVDプレイヤーにディスクを入れながら言う。
「そうだよ。あんまり自惚れないでよね」
「そうか。それじゃあ、きみも嫉妬しないでもらえるかい?」
「はあ?」
「ああ、なんだ。これも外れたか?」
DVDの再生が始まる。映画のロゴが写し出される。
鶴丸はソファに、いや、私に近づいてきた。
「え、なに」
「てっきりこのソファで俺が誰かと抱き合ったことに、嫉妬したのかと思ったのだが」
正面から、私の座るソファの背もたれに手をつく鶴丸。整った顔が近い。
一体なんだっていうんだ。だいたい嫉妬もなにも、私達は恋仲とかでもない。
「ちょ、っと、鶴丸」
「それとも、きみが、ここで、そういうことをしたい、と?」
落ち着いたジャズのBGMがテレビから流れ始めた。私の鼓動の速さとは正反対のテンポだ。
私は混乱でなにも言えずにいた。
だって、こんなに『男の人』を感じる鶴丸は初めてだったから。
鶴丸は私の体をソファに寝転ばすようにゆっくり押し倒した。私は初めてのこんな距離に固まるしかなかった。
いつものあっけらかんな表情はどこかへいっていた。見たことない、初めてだらけの鶴丸が私を見下ろしていた。
──怖い。
「……ふはっ、そんなに固くなるなよ。すまんすまん。ちょっといたずらが過ぎたな」
覆い被さっていた鶴丸が体をお越し、いつもみたいな笑いかたをした。私は安堵とともに、おちょくられた怒りがふつふつと沸く。
「もう帰る」
「すまんって。そんなに怒ることないじゃないか」
「怖いことする鶴丸は嫌い。危ないから帰る」
「まあまあ、落ち着けって。もうしないから」
今度はまるで子供を相手にするように頭を撫でた。
全くなんなんだ。
「ほら、映画始まってる。これはなあ、アメリカのジャズの映画で……」
そう楽しげに話始める鶴丸。
本当に、翻弄されっぱなしだ。これが長い信頼を置く彼だから危険はないと分かるが……。
私はため息をついて、彼の話とテレビからの音楽に耳を傾けた。
鶴丸はそれからしばらく私の方を振り向かなかった。
「そうでもないさ。ああ、なにか飲むか?」
「ココア!」
さすが、金持ちの家は違う。外観からして、日本とは別世界のような洋風な……それも、気取った館というよりかは、森のなかにひっそり佇む別荘のような、庭の綺麗な建物。
玄関を開けてすぐに出迎えるのはやや小ぶりなグランドピアノ。彼いわく、家にはピアノが3台ほどあるという。さすが、大手楽器店のお偉いさんは違う。
それと壁には所々に絵画が飾ってある。有名な画家の絵から、動植物のスケッチから、様々な絵がセンスよく配置されている。家具はアンティークなものが多い。
ひとつ気づいたことは、『人間』が飾られていないこと。たくさん絵画があるのに、人物絵はなく、写真にも人間は写っていなかった。
まあ、それも個人の趣味だから兎や角言う筋合いはない。
「こっちだ。まあ、適当に座ってくれ」
ドアを2つほどくぐり、案内された部屋。大きなテレビと大人何人分座れるのだろう、それくらい大きなソファが目をひく。
「え、すごい!ふかふかそう!座ってもいい?」
「ああ、汚すなよ」
「はーい」
ソファの中心にぼふん、と体を預ける。
これは──、私の布団よりも心地がいい。
素晴らしい座り心地だ。いや、寝心地といってもいいだろう。ここでなら安眠できそうだ。それに、とても気持ちがいい。
「これは世のオトナ達がソファでなだれこみセックスするのも分かるわ……」
まあ私はそんなことしたことないが。
この国永も、べつに恋仲だとかそういうわけでもない。今日はお薦めの映画とお笑い番組がある、と誘われただけだ。
彼にとってはお笑い番組がメインであろう。映画も、どんな驚きが待っているかわからない。
「そうだな。そこでのセックスは最高だった」
いや、したことあるのかよ。
なんだか急に居心地が悪くなった。
「へえー……」
「はは、冗談だ。そんなふしだらなこと、そこではやらん」
「気持ち悪い冗談言わないでよ……」
すまんすまん、と言いながらマグカップを2つ持ってきて、ソファの前のテーブルに置く。湯気が立ち上っている。私にはココアを、彼はいつものブラックコーヒーだろうか。
「それで、なに見るの?」
「ああ!君に見せたい映画があってな」
珈琲を手に持ちながら、テレビのリモコンをいじる。
細い指。長くて、整っている。まだピアノを弾くらしいから、爪も短めに切り揃えられている。
悔しいほどに綺麗な手だ。
「あんまり見られると照れるな」
「……見てない」
彼は背中を向けながら、自惚れたことを言う。まあ、本当は見ていたのだが。
「そうだったか?」
DVDプレイヤーにディスクを入れながら言う。
「そうだよ。あんまり自惚れないでよね」
「そうか。それじゃあ、きみも嫉妬しないでもらえるかい?」
「はあ?」
「ああ、なんだ。これも外れたか?」
DVDの再生が始まる。映画のロゴが写し出される。
鶴丸はソファに、いや、私に近づいてきた。
「え、なに」
「てっきりこのソファで俺が誰かと抱き合ったことに、嫉妬したのかと思ったのだが」
正面から、私の座るソファの背もたれに手をつく鶴丸。整った顔が近い。
一体なんだっていうんだ。だいたい嫉妬もなにも、私達は恋仲とかでもない。
「ちょ、っと、鶴丸」
「それとも、きみが、ここで、そういうことをしたい、と?」
落ち着いたジャズのBGMがテレビから流れ始めた。私の鼓動の速さとは正反対のテンポだ。
私は混乱でなにも言えずにいた。
だって、こんなに『男の人』を感じる鶴丸は初めてだったから。
鶴丸は私の体をソファに寝転ばすようにゆっくり押し倒した。私は初めてのこんな距離に固まるしかなかった。
いつものあっけらかんな表情はどこかへいっていた。見たことない、初めてだらけの鶴丸が私を見下ろしていた。
──怖い。
「……ふはっ、そんなに固くなるなよ。すまんすまん。ちょっといたずらが過ぎたな」
覆い被さっていた鶴丸が体をお越し、いつもみたいな笑いかたをした。私は安堵とともに、おちょくられた怒りがふつふつと沸く。
「もう帰る」
「すまんって。そんなに怒ることないじゃないか」
「怖いことする鶴丸は嫌い。危ないから帰る」
「まあまあ、落ち着けって。もうしないから」
今度はまるで子供を相手にするように頭を撫でた。
全くなんなんだ。
「ほら、映画始まってる。これはなあ、アメリカのジャズの映画で……」
そう楽しげに話始める鶴丸。
本当に、翻弄されっぱなしだ。これが長い信頼を置く彼だから危険はないと分かるが……。
私はため息をついて、彼の話とテレビからの音楽に耳を傾けた。
鶴丸はそれからしばらく私の方を振り向かなかった。