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Short Story

 京都で柴犬と暮らしたい。
 その念願を口にしてしまったのが事の発端だった。
「私では務まりませんか」
 五月雨の如く話は進み、未来の仮定である伴侶の座を、まだ居もしない柴犬と取り合っている。
 五月雨江は、そんな具合の真面目すぎる近侍だ。
「だいたい、犬を伴侶にするなら私でいいではないですか。四足の犬は貴女を抱きしめることもできませんよ」
「それはそうだけど……」
 熱の入った言葉はいつになく積極的だ。手綱を引く……いや、散歩に行こうと手綱を押し付ける犬はこんな感じだろう。
「私は言葉で伝えることもできます。一句で足りないのでしたら、一作の小説でも。貴女のことを想って書くのですから、すぐに出来上がりますよ」
 じりじりと詰め寄ってくる。
 この手の嫉妬はもはや慣れてきてもいる。対処法は単純だ。ちょっと背伸びをして、彼の頭に手をやり、
「おお、よしよし」
 と愛情込めて撫でてやる。
「……わん」
 まったく、仕方がないですね。
 彼はそんな目をしつつも主の手の下で幸せそうに口角を上げるのだった。 



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