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Short Story(parody)

 今日は日曜日。金曜も祝日で、私は三連休を謳歌していた。ただし、二人暮らしの家のなかで一人で、だ。

 どこかに遊びに行くのも気が引けて、食品の買い出し以外はずっと家にこもりっきり。

 今日も朝から夜までソファの上でスマホをいじるか、寝るかを繰り返して過ごした。

 そろそろ晩ご飯を作るか、と動画サイトを閉じて立ち上がる。
 すると真っ暗にしたスマホが小さな通知ランプを点滅させた。

 わたしを引き留めた通知は、同居人の彼から送られてきたメッセージだった。

『最寄りについた。なにか買って帰るはあるか?』

 最寄り駅から家まで五分ほどだ。いまから晩ご飯を作るのでは間に合わないなあ、と考えて、私はなんとなくテレビをつけてもう一度ソファにどっかりと座った。
 テレビからは日本の恋愛ドラマが流れている。

 いっそスーパーのお総菜とビールにしてしまおうか。
 でも明日は私が仕事だからなあ。

 彼は私とは反対に、明日から久しぶりの休日だ。
 だからなにか食べやすくて、栄養のあるものを……。

 そう考えていたとき、テレビの画面に突然見慣れた顔が登場し、知らない女優とキスをし始めた。

 カメラワークは二人の口付けを拡大して写す。男は女優の下唇を摘まむように口に含んだ。
 そして再び口を開け、女を食べるように熱を合わせていた。

 その様を撮してから、カメラは引いた。
 画面は暗い部屋のなかのベッドに雪崩れ込む二人を追従した。

 そのとき、玄関から鍵が開けられる小さな衝撃音がした。

 ギイ、とドアの閉まる音。鍵をかける重い音。

 しばらくして、リビングのドアが開くと共に、
「あー、家は暖かくていいな」
 疲れた声が入ってきた。

 私はソファから勢いをつけて立ち上がり、ずかずかと彼に歩み寄った。

 黒いニット帽、黒いマスク、黒いジャケットをきている、全身真っ黒な彼は腕を広げた。

「お、なんだなんだ」
「チューしたなあ!? 鶴丸、チュー、した、なあ!?」

 私はさっきまで画面のなかで熱烈なキスをしていた鶴丸を見上げ、ずいぶん高い位置にある襟首を掴んだ。

「きみ、見てくれたのかい。いつもはバラエティー番組でもみてくれないのに」

 そう言う彼の顔はイタズラが成功した男の子みたいな笑みを浮かべていた。

「それで、どうだった?」

 重ねられた手はとても冷えていた。風邪をひかれたら寂しいので私は彼の襟首のかわりに手を掴むように包んだ。

「……むかついた」
「そうきたか」

 彼はあっけらかんとして笑った。
 わたしも明日が休みだったら良かったとに、と思った。
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