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Short Story

「それでは、お休みなさいませ」

 蝋燭の灯火を吹き消されれば、満月の薄い明かりだけか部屋を照らす。
 明日の予定を確認したら、すぐに消灯だ。いつもなら夜更かしして、こっそり本を読んだりするけど、今日は昼から眠かったし、どうにも心が不安定だったから早々に寝ることにした。

「……就寝の挨拶は済んだじゃない。さっさと出ていきなさいよ」
「お嬢様のことが気にかかるのです。今日は一日中ぼんやりしていたではないですか。なにか、悩み事でも?」
「やけに優しいじゃない。シエルの差し金かしら」

 セバスチャンは鼻で笑った。柔らかく握った手を口許にあてているが、意味もない。その嫌な弧を描く微笑みは隠れていない。

「そのようにどろどろに甘い香りを漂わせて、ご機嫌も損ねていれば、お嬢様の体のことは貴女よりも分かりますよ。私に委ねてくださらないのならば、こちらから干渉するまでです」

 足音はしなかった。しかしベッドの軋む音は、静まった屋敷に鳴り響いたんじゃないかというくらい、鮮明に耳に付いた。
 漆黒の髪が、長い睫毛と同じようにこちらに垂れる。両脇につかれた腕によって、私の身動きは制限させられた。

「ああ……いい香りですよ、お嬢様。世界中を探したって、こんなに食欲をそそる香りはありません。さあ、何が欲しいか言ってごらんなさい。肉欲に飲み込まれそうな、お嬢様のその口で」

 セバスチャンは月に一度、私の体を欲する。
 それは決まって満月の夜。薄い明かりで照らされている部屋で、まるで獲物を捕らえたような目をした狼のように目を赤くして。
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