Short Story
霧崎
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「……ええと…」
状況を説明しよう。
ここは迷宮と呼ばれる新宿駅の構内。昼を過ぎて少したったこの時間ですら、人は蟻の大群のように右へ左へと動きを止めない。スーツを勝負服にする営業マンや、派手な勝負服…なのかは知らないが、とにかく見た目からして新宿駅にいる人間は特有さを持つ。
そんな中、俺の目の前に蹲る女の子は質素な風貌だ。
少女ともいっていい年齢くらいだろうか。そんな女の子が蹲っていても、靴を鳴らして行き交う人々は手をさしのばさない。冷たい世界だ。
自分自身もそう立ち止まる性格ではないが、もし体調不良だったりしたら…、と考えれば放っておけない。万が一そうだったとしたら、いまから向かう先生の病院に連れていこう。
「大丈夫、ですか…?」
声を掛けたが、反応はなし。寝ているのだろうか。
「あの…」
しゃがんで再度声をかければ、ピクリと動いた肩。しかし顔は上げない。
背後で行き交う人達の視線はこちらの様子すら気にしていな い。捨て猫とお人好し、というように風にでも写っているのだろうか。
「具合でも悪いんですか…?」
「……っ!」
少女の線の細い肩を軽く叩けば、まさかの倍返しで手を叩かれた。しまった、これはセクハラか?やっぱり自分なんかが声をかけるべきじゃなかった。余計に少女の不安を煽ってしまったか。それも自分のせいか。全部自分のせいだ。自分がこんなだから。ああ…。
「あ、す、すみません…!」
「いや、こちらこそ、すみません…。セクハラとか、そういうつもりじゃなかったんです…。えっと、大丈夫ですか?」
「あ、えっと、」
なんだこのコミュ障のような言葉の交わしあい。もっとスマートにコミュニケーションできないと、営業としても人間としても底辺ではないか。ああ…これも自分の実力か…。
「大丈夫、じゃ、ないです…」
そう尻すぼみに言うと再び頭を膝につけ顔を落とした。
「え、ええっ。えっと、電車酔いとかしたんですか?どこかで休みましょう」
「いや、そういうわけじゃ…」
蚊の鳴くような声で言う少女の細い指は震えていた。
「…すぐ近くに良い病院を知っているので、一緒に行きましょう。案内します」
「いえ…それは、」
さっきから尽く否定されているな…。何か理由があるのか、自分に原因があるのか。…後者だろうな。どうやってこの子を安心させればいいんだろう。
「遠慮しないでください。…心配です」
「…お金、ないし、保険証もないので」
ああ、なるほど。これは本当に先生のところに連れていくしかない。
「大丈夫ですよ。先生はお優しい方なので、診てくださいます」
「いや、でも…」
顔をあげた少女の瞳は揺れていた。焦点が定まらない視線にマズイな、と思ったと同時にぐらりと細い体から力が抜けた。
「えっ、ちょ、」
こんな汚い床に寝かすわけにはいかない。見るからに華奢な体を支えれば、更にその細さを実感した。
栄養失調だろうか。先生に点滴でも打ってもらうのがいいだろう。…これは、どのようにして運ぶのが良いのだろうか。
人命に関わるのだ。これは仕方がない。自分の評価を気にしてはいけない。
気休めだが少女にスーツのジャケットをかけ、背中に左腕を、棒のような脚に右腕をまわし立ち上がる。軽い。冗談抜きで餓死したのではないかというほど、軽い。胸が浅く上下しているから、生きてはいるのだが…。
ぐったりした体を自分の体にもたれかけるようにしなければ、このまま溶けて消えてしまいそうだ。
はやく元気になってほしい。
誰かに何かを望むのは久しぶりのことだった。
状況を説明しよう。
ここは迷宮と呼ばれる新宿駅の構内。昼を過ぎて少したったこの時間ですら、人は蟻の大群のように右へ左へと動きを止めない。スーツを勝負服にする営業マンや、派手な勝負服…なのかは知らないが、とにかく見た目からして新宿駅にいる人間は特有さを持つ。
そんな中、俺の目の前に蹲る女の子は質素な風貌だ。
少女ともいっていい年齢くらいだろうか。そんな女の子が蹲っていても、靴を鳴らして行き交う人々は手をさしのばさない。冷たい世界だ。
自分自身もそう立ち止まる性格ではないが、もし体調不良だったりしたら…、と考えれば放っておけない。万が一そうだったとしたら、いまから向かう先生の病院に連れていこう。
「大丈夫、ですか…?」
声を掛けたが、反応はなし。寝ているのだろうか。
「あの…」
しゃがんで再度声をかければ、ピクリと動いた肩。しかし顔は上げない。
背後で行き交う人達の視線はこちらの様子すら気にしていな い。捨て猫とお人好し、というように風にでも写っているのだろうか。
「具合でも悪いんですか…?」
「……っ!」
少女の線の細い肩を軽く叩けば、まさかの倍返しで手を叩かれた。しまった、これはセクハラか?やっぱり自分なんかが声をかけるべきじゃなかった。余計に少女の不安を煽ってしまったか。それも自分のせいか。全部自分のせいだ。自分がこんなだから。ああ…。
「あ、す、すみません…!」
「いや、こちらこそ、すみません…。セクハラとか、そういうつもりじゃなかったんです…。えっと、大丈夫ですか?」
「あ、えっと、」
なんだこのコミュ障のような言葉の交わしあい。もっとスマートにコミュニケーションできないと、営業としても人間としても底辺ではないか。ああ…これも自分の実力か…。
「大丈夫、じゃ、ないです…」
そう尻すぼみに言うと再び頭を膝につけ顔を落とした。
「え、ええっ。えっと、電車酔いとかしたんですか?どこかで休みましょう」
「いや、そういうわけじゃ…」
蚊の鳴くような声で言う少女の細い指は震えていた。
「…すぐ近くに良い病院を知っているので、一緒に行きましょう。案内します」
「いえ…それは、」
さっきから尽く否定されているな…。何か理由があるのか、自分に原因があるのか。…後者だろうな。どうやってこの子を安心させればいいんだろう。
「遠慮しないでください。…心配です」
「…お金、ないし、保険証もないので」
ああ、なるほど。これは本当に先生のところに連れていくしかない。
「大丈夫ですよ。先生はお優しい方なので、診てくださいます」
「いや、でも…」
顔をあげた少女の瞳は揺れていた。焦点が定まらない視線にマズイな、と思ったと同時にぐらりと細い体から力が抜けた。
「えっ、ちょ、」
こんな汚い床に寝かすわけにはいかない。見るからに華奢な体を支えれば、更にその細さを実感した。
栄養失調だろうか。先生に点滴でも打ってもらうのがいいだろう。…これは、どのようにして運ぶのが良いのだろうか。
人命に関わるのだ。これは仕方がない。自分の評価を気にしてはいけない。
気休めだが少女にスーツのジャケットをかけ、背中に左腕を、棒のような脚に右腕をまわし立ち上がる。軽い。冗談抜きで餓死したのではないかというほど、軽い。胸が浅く上下しているから、生きてはいるのだが…。
ぐったりした体を自分の体にもたれかけるようにしなければ、このまま溶けて消えてしまいそうだ。
はやく元気になってほしい。
誰かに何かを望むのは久しぶりのことだった。
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