Short Story
霧崎
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毎朝毎晩、朝早く夜遅く、電車に揺られ眠気と戦い、痴漢に舌打ち脳内撲殺。
こんな毎日、さっさと終わらせてしまいたい。
そう思いもするが、私はまだ死ねない。
『まもなく新宿ー、新宿です。左側のドアが開きます』
この駅は人がたくさん行き交う。乗車しているうちに波にのまれてドア付近まできてしまうので、これが開けば一度外に出なければならない。私はまだこの電車に乗らなければならないから。
だが、ここから先は同じ電車とはいえ、状況が違う。
ガタンと揺れてぎゅうぎゅう詰めの箱が止まり、プシューと音がして開放される。
幾らばかり新鮮な空気を感じ、並ぶ列の後ろにひとり、赤髪にストライプのワイシャツを中に着るスーツを見つける。
「おかえり。碧」
濃い隈に疲弊した表情筋。それでも彼は優しく、柔らかく微笑んで両腕を差し出した。
「ただいま。独歩」
束の間の癒しだ。軽く抱き合い、彼に手を引かれて人の少ない方へ寄せられる。
ずらずらと多くの乗車していた人が階段へと出ていく。もう日付けが変わるのも近いというのに、たくさんの人間が溢れるここは日本の闇が見える。
「今日はすぐ帰る?」
「ううん。もう人混み嫌だから一本見送る」
「そうだね、そうしよう」
一番後ろに並んでいたから、電車に乗り込むのはきつきつな状態でだ。そんなの嫌だ。疲れてる体に満員電車は精神まで磨り減る。
『扉閉まりまーす。ご注意くださーい』
駅員の間延びした声が欠伸を誘発した。
これで家に帰って、風呂にはいって、布団に横になって、陽が昇る前に目を覚ます。帰る意味を疑うスケジュールだが、彼と少しでも一緒にいられるのが幸いだ。
「今度いつ休みなの?」
「明後日…日曜は休みだよ」
「あ、その日私も休み」
「どこか行く?」
デートなんてどれくらいしてないんだろう。まず、二人ともどこかへ行く元気がないからな…。行くとしても、一二三の勤める店に遊びに行くくらいだ。もちろんシャンパンタワーを注文する。
「家でゆっくりしたいかな…」
次の電車が来るアナウンスが聞こえる。彼らも夜遅くまで大変だ。
「うん、そうしよう」
彼はまた肯定した。なんだか無理やり私の意見を貫いているような気がして焦る。なにかやりたいことがあっただろうか、行きたいところがあったかもしれない。
「独歩は何かしたいことある?」
「んー…いいのかな」
なんだろうか。まず、その前置きもなんだろうか。いつもなら、俺なんかの…とか、俺はべつに…とか言うのだが。…気になる。
「いいよ。独歩のしたいこと私もやりたい」
「言ったな?」
電車がホームに入ってきた。ごうっと風が吹き、独歩の小さな唇も同時に動いた。
「一日中ベッドにいたい。碧と、一緒に」
さっきみたいな柔らかい笑顔で、小首を傾げて目を合わせてきた。それは反則だろう。
「…なーんて。俺みたいなやつと丸一日ずっと一緒にいたら、碧まで暗いやつになっちゃうからやめよう。俺なんかの欲望に付き合わせるのも悪いし。全部俺が…」
「ハイ、ストップストップ!」
開いた電車のドアをくぐりながら、どこかの誰かさんみたいな制止。ちょっと格好いいことしたと思えばコレだ。…まあ、本人は少し笑いながら言っていたから本心ではないのだろうが。
しかし翻弄されてしまうのは、しょうがないことだろう?
空いた座席に並んで座り、あと20分間は幸せな話し合いの時間にしよう。
こんな毎日、さっさと終わらせてしまいたい。
そう思いもするが、私はまだ死ねない。
『まもなく新宿ー、新宿です。左側のドアが開きます』
この駅は人がたくさん行き交う。乗車しているうちに波にのまれてドア付近まできてしまうので、これが開けば一度外に出なければならない。私はまだこの電車に乗らなければならないから。
だが、ここから先は同じ電車とはいえ、状況が違う。
ガタンと揺れてぎゅうぎゅう詰めの箱が止まり、プシューと音がして開放される。
幾らばかり新鮮な空気を感じ、並ぶ列の後ろにひとり、赤髪にストライプのワイシャツを中に着るスーツを見つける。
「おかえり。碧」
濃い隈に疲弊した表情筋。それでも彼は優しく、柔らかく微笑んで両腕を差し出した。
「ただいま。独歩」
束の間の癒しだ。軽く抱き合い、彼に手を引かれて人の少ない方へ寄せられる。
ずらずらと多くの乗車していた人が階段へと出ていく。もう日付けが変わるのも近いというのに、たくさんの人間が溢れるここは日本の闇が見える。
「今日はすぐ帰る?」
「ううん。もう人混み嫌だから一本見送る」
「そうだね、そうしよう」
一番後ろに並んでいたから、電車に乗り込むのはきつきつな状態でだ。そんなの嫌だ。疲れてる体に満員電車は精神まで磨り減る。
『扉閉まりまーす。ご注意くださーい』
駅員の間延びした声が欠伸を誘発した。
これで家に帰って、風呂にはいって、布団に横になって、陽が昇る前に目を覚ます。帰る意味を疑うスケジュールだが、彼と少しでも一緒にいられるのが幸いだ。
「今度いつ休みなの?」
「明後日…日曜は休みだよ」
「あ、その日私も休み」
「どこか行く?」
デートなんてどれくらいしてないんだろう。まず、二人ともどこかへ行く元気がないからな…。行くとしても、一二三の勤める店に遊びに行くくらいだ。もちろんシャンパンタワーを注文する。
「家でゆっくりしたいかな…」
次の電車が来るアナウンスが聞こえる。彼らも夜遅くまで大変だ。
「うん、そうしよう」
彼はまた肯定した。なんだか無理やり私の意見を貫いているような気がして焦る。なにかやりたいことがあっただろうか、行きたいところがあったかもしれない。
「独歩は何かしたいことある?」
「んー…いいのかな」
なんだろうか。まず、その前置きもなんだろうか。いつもなら、俺なんかの…とか、俺はべつに…とか言うのだが。…気になる。
「いいよ。独歩のしたいこと私もやりたい」
「言ったな?」
電車がホームに入ってきた。ごうっと風が吹き、独歩の小さな唇も同時に動いた。
「一日中ベッドにいたい。碧と、一緒に」
さっきみたいな柔らかい笑顔で、小首を傾げて目を合わせてきた。それは反則だろう。
「…なーんて。俺みたいなやつと丸一日ずっと一緒にいたら、碧まで暗いやつになっちゃうからやめよう。俺なんかの欲望に付き合わせるのも悪いし。全部俺が…」
「ハイ、ストップストップ!」
開いた電車のドアをくぐりながら、どこかの誰かさんみたいな制止。ちょっと格好いいことしたと思えばコレだ。…まあ、本人は少し笑いながら言っていたから本心ではないのだろうが。
しかし翻弄されてしまうのは、しょうがないことだろう?
空いた座席に並んで座り、あと20分間は幸せな話し合いの時間にしよう。
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