勝又春
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お仕事の帰り道。
すっかり暗くなった夜道を、私と同期の勝又春は並んで歩いていた。
お互いの肩が時々かすれ合うくらいの距離。
静かな夜の中に、ふたりの足音だけが規則正しく響いている。
ふと見上げると、夜空にはぽっかりと、驚くほど綺麗な満月が浮かんでいた。
ゆめ(あ……満月だ。本当に、すごく綺麗……)
その瞬間、私の頭の中に、ある有名な文学の言葉が浮かんでしまう。
『月が綺麗ですね』――それは、日本人らしい、遠回しな「愛しています」のサイン。
春の横顔を盗み見る。
月明かりに照らされた春の輪郭はどこか幻想的で、胸がぎゅっと締め付けられた。
ゆめ「ねぇ、春」
はる「ん? なぁに、ゆめ」
ゆめ「……なんでもない。ちょっと、月がよく見えるなと思って」
本当は、その言葉を口にしたかった。
でも、私から言うのはどうしても恥ずかしい。
だから……できれば、春の口からその言葉を言わせたい。
そんな小さな欲張りが、私の心に芽生えてしまった。
ゆめ「今日の月、本当に丸くて大きいね。春、こういうロマンチックな夜って、何か言いたくなったりしない?」
はる「言いたくなること? うーん、お腹空いたなー、とか?」
ゆめ「違う、そうじゃなくて……!」
春はクスッと悪戯っぽく笑った。
その笑顔を見て、私は気づく。
……あ、この人、わざと言ってる。
はる「ふふ、冗談だよ。ねぇ、ゆめ。私に、なんて言ってほしいの?」
春は立ち止まり、私の方をまっすぐに向いた。
夜風にさらりと髪が揺れる。
少し上目遣いで私を覗き込む春の瞳には、夜空の月がそのまま映り込んでいるみたいに輝いていた。
ゆめ「それは……春が自分で気づいてよ」
はる「ずるいなぁ。自分からは言わへんのに、私には言わせようとするんや」
ゆめ「……っ。気づいてたの?」
はる「当たり前やん。ゆめ、さっきからチラチラ私のこと見て、分かりやすすぎるんよ。……でもね、私も同じこと思ってた」
春は一歩、私との距離を詰めた。
心臓が跳ねる。
春の優しくて温かい香りが、一気に私を包み込んだ。
はる「私も、ゆめの口から聞きたかった。月が綺麗だねって。そう言われたら私なんて返そうかずっと考えてたんやで?」
ゆめ「春……」
はる「だから……お互いちょっと意地張りすぎやね」
春は困ったように、でも愛おしそうに眉を下げて微笑んだ。
言わせたい、言われたい、とお互いに探り合っていた時間が、急に愛おしくてたまらなくなる。
ゆめ「……じゃあ、もう遠回しにするのやめよ?」
はる「うん。私もそう思ってた」
私たちはどちらからともなく、静かな夜道の街灯の影へと一歩踏み込んだ。
周りには誰もいない。
見上げる月だけが、私たちを静かに見守っている。
私は春の手をそっと握りしめた。
春も同じ強さで、ギュッと私の手を握り返してくれる。
ゆめ「春。月が綺麗だねなんて言葉じゃ全然足りないくらい……」
はる「……うん」
ゆめ「春のことが、大好きだよ」
その瞬間、春の顔がパッと赤くなったのが、月明かりの下でもよく分かった。
春は恥ずかしそうに私の胸元に顔を埋めると、小さな声で、でもしっかりと呟いた。
はる「……私もゆめのことが大好き」
その可愛い返答に、今度は私の胸が限界を迎える。
私は春の顎をそっと指先で持ち上げると、お互いに真っ赤な顔のままどちらからともなくゆっくりと唇を重ね合わせた。
夜空の満月よりもずっと熱くて甘い特別な夜だった。
すっかり暗くなった夜道を、私と同期の勝又春は並んで歩いていた。
お互いの肩が時々かすれ合うくらいの距離。
静かな夜の中に、ふたりの足音だけが規則正しく響いている。
ふと見上げると、夜空にはぽっかりと、驚くほど綺麗な満月が浮かんでいた。
ゆめ(あ……満月だ。本当に、すごく綺麗……)
その瞬間、私の頭の中に、ある有名な文学の言葉が浮かんでしまう。
『月が綺麗ですね』――それは、日本人らしい、遠回しな「愛しています」のサイン。
春の横顔を盗み見る。
月明かりに照らされた春の輪郭はどこか幻想的で、胸がぎゅっと締め付けられた。
ゆめ「ねぇ、春」
はる「ん? なぁに、ゆめ」
ゆめ「……なんでもない。ちょっと、月がよく見えるなと思って」
本当は、その言葉を口にしたかった。
でも、私から言うのはどうしても恥ずかしい。
だから……できれば、春の口からその言葉を言わせたい。
そんな小さな欲張りが、私の心に芽生えてしまった。
ゆめ「今日の月、本当に丸くて大きいね。春、こういうロマンチックな夜って、何か言いたくなったりしない?」
はる「言いたくなること? うーん、お腹空いたなー、とか?」
ゆめ「違う、そうじゃなくて……!」
春はクスッと悪戯っぽく笑った。
その笑顔を見て、私は気づく。
……あ、この人、わざと言ってる。
はる「ふふ、冗談だよ。ねぇ、ゆめ。私に、なんて言ってほしいの?」
春は立ち止まり、私の方をまっすぐに向いた。
夜風にさらりと髪が揺れる。
少し上目遣いで私を覗き込む春の瞳には、夜空の月がそのまま映り込んでいるみたいに輝いていた。
ゆめ「それは……春が自分で気づいてよ」
はる「ずるいなぁ。自分からは言わへんのに、私には言わせようとするんや」
ゆめ「……っ。気づいてたの?」
はる「当たり前やん。ゆめ、さっきからチラチラ私のこと見て、分かりやすすぎるんよ。……でもね、私も同じこと思ってた」
春は一歩、私との距離を詰めた。
心臓が跳ねる。
春の優しくて温かい香りが、一気に私を包み込んだ。
はる「私も、ゆめの口から聞きたかった。月が綺麗だねって。そう言われたら私なんて返そうかずっと考えてたんやで?」
ゆめ「春……」
はる「だから……お互いちょっと意地張りすぎやね」
春は困ったように、でも愛おしそうに眉を下げて微笑んだ。
言わせたい、言われたい、とお互いに探り合っていた時間が、急に愛おしくてたまらなくなる。
ゆめ「……じゃあ、もう遠回しにするのやめよ?」
はる「うん。私もそう思ってた」
私たちはどちらからともなく、静かな夜道の街灯の影へと一歩踏み込んだ。
周りには誰もいない。
見上げる月だけが、私たちを静かに見守っている。
私は春の手をそっと握りしめた。
春も同じ強さで、ギュッと私の手を握り返してくれる。
ゆめ「春。月が綺麗だねなんて言葉じゃ全然足りないくらい……」
はる「……うん」
ゆめ「春のことが、大好きだよ」
その瞬間、春の顔がパッと赤くなったのが、月明かりの下でもよく分かった。
春は恥ずかしそうに私の胸元に顔を埋めると、小さな声で、でもしっかりと呟いた。
はる「……私もゆめのことが大好き」
その可愛い返答に、今度は私の胸が限界を迎える。
私は春の顎をそっと指先で持ち上げると、お互いに真っ赤な顔のままどちらからともなくゆっくりと唇を重ね合わせた。
夜空の満月よりもずっと熱くて甘い特別な夜だった。
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