長編
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都内のダンススタジオ。
防音扉の向こう側から、空気を震わせるような激しい重低音と、幾十もの足音が響いてくる。
ゆめは、スタッフに促されるまま、その扉の前に立っていた。
心臓の鼓動が、今まで感じたことがないほど速く、痛い。
スタッフ「みんなー、ちょっと止まって! 秋元先生から話があった、新しい子を連れてきたよ」
音楽が不自然に止まり、静寂が訪れる。
一瞬にして、数十人の視線が入り口のゆめに集中した。
そこには、テレビの画面越しに見ていた、あの「櫻坂46」がいた。
激しい練習の後なのだろう。メンバーたちの肌は上気し、首筋には光る汗が流れている。
その生命力溢れる姿は、暗い部屋で一人息を潜めてきたゆめにとって、暴力的なまでの眩しさだった。
ゆめ「…………っ」
声が出ない。
彼女は無意識に、古びたパーカーのフードを深く被り直し、視線を床の板目に固定した。
ここには、自分を否定する者も、殴る者もいないはずなのに、なぜか呼吸が苦しい。
まつだ:「こんにちは! 櫻坂46二期生の松田里奈です。あなたが、特例で入ることになった……ゆめちゃん、で合ってるかな?」
キャプテンの松田が、汗を拭いながら真っ先に歩み寄ってきた。
その笑顔は太陽のように明るく、濁りがない。
だからこそ、ゆめは逃げ出したくなった。
ゆめ「……あ、……はい。……ゆめ、です」
まつだ「よろしくね! 突然でびっくりしてると思うけど、私たちはみんな仲間だから。ね、みんな!」
松田の呼びかけに、メンバーたちが次々と歩み寄ってくる。
てん「山﨑天です。……ふーん、あんまりアイドルっぽくないね。でも、なんか面白い雰囲気」
山﨑の真っ直ぐな、射抜くような瞳。ゆめは射すくめられた蛇のように硬直した。
ひかる「森田ひかるです。……顔、見せて? そんなに隠れてたら、振り付けの先生に怒られちゃうよ」
森田が静かに、けれど拒めない強さで覗き込んでくる。
ゆめは一歩、後ずさりした。彼女たちとの距離が縮まれば縮まるほど、自分の内側の「空っぽ」が露呈してしまいそうで怖かった。
れな「……あの、大丈夫? 具合悪い?」
守屋麗奈が心配そうに顔を曇らせる。その美しさにさえ、ゆめは劣等感を刺激される。
ゆめ「……大丈夫、です。……ただ、こういう場所、慣れてないから」
三期生たちは、少し離れた場所で固まって様子を伺っていた。
あいり「(小声で)ねえ、あの子……全然笑わないね」
なぎさ「(小声で)なんか、近寄りがたいっていうか……。私たち、どう接したらいいのかな」
小島凪紗がそっと声を漏らす。彼女たちの戸惑いは、そのまま冷たい空気となってゆめの肌を刺した。
厳しいオーディションを勝ち抜いてきた彼女たちにとって、突然「特例」として現れたゆめは、異物でしかなかった。
努力の結晶であるこの場所に、ふらりと現れた影。
ゆめ(……場違いだ。ここにいる全員が、私を見て『何なのこの子』って思ってる)
彼女は、スタジオの隅にあるパイプ椅子に向かい、逃げるように腰を下ろした。
膝の上で拳を強く握りしめる。
鏡に映る自分は、色鮮やかなレッスン着に身を包んだメンバーたちの中で、一人だけ泥を被った石ころのように見えた。
まつだ「ゆめちゃん、今日はひとまず見学でいいからね。私たちのリハーサル、見てて」
再び音楽が鳴り出す。
一瞬で空気が変わり、彼女たちは一糸乱れぬ動きで踊り始めた。
激しく、鋭く、それでいて儚い。
それは「仲間」という名の強い絆がなければ成立しない芸術だった。
ゆめはその光景を、指の間からじっと見つめていた。
彼女たちがぶつかり合い、笑い、支え合う姿。
それは、ゆめが18年間、一度も手に入れることができなかった、そして「一生手に入らない」と諦めていたものだった。
ゆめ(愛なんて……。仲間なんて……。そんなの、脆くてすぐ壊れるものなのに)
そう否定しながらも、彼女の心臓は、ダンスのビートに合わせて微かに震えていた。
その揺らぎに、ゆめ自身はまだ気づいていない
防音扉の向こう側から、空気を震わせるような激しい重低音と、幾十もの足音が響いてくる。
ゆめは、スタッフに促されるまま、その扉の前に立っていた。
心臓の鼓動が、今まで感じたことがないほど速く、痛い。
スタッフ「みんなー、ちょっと止まって! 秋元先生から話があった、新しい子を連れてきたよ」
音楽が不自然に止まり、静寂が訪れる。
一瞬にして、数十人の視線が入り口のゆめに集中した。
そこには、テレビの画面越しに見ていた、あの「櫻坂46」がいた。
激しい練習の後なのだろう。メンバーたちの肌は上気し、首筋には光る汗が流れている。
その生命力溢れる姿は、暗い部屋で一人息を潜めてきたゆめにとって、暴力的なまでの眩しさだった。
ゆめ「…………っ」
声が出ない。
彼女は無意識に、古びたパーカーのフードを深く被り直し、視線を床の板目に固定した。
ここには、自分を否定する者も、殴る者もいないはずなのに、なぜか呼吸が苦しい。
まつだ:「こんにちは! 櫻坂46二期生の松田里奈です。あなたが、特例で入ることになった……ゆめちゃん、で合ってるかな?」
キャプテンの松田が、汗を拭いながら真っ先に歩み寄ってきた。
その笑顔は太陽のように明るく、濁りがない。
だからこそ、ゆめは逃げ出したくなった。
ゆめ「……あ、……はい。……ゆめ、です」
まつだ「よろしくね! 突然でびっくりしてると思うけど、私たちはみんな仲間だから。ね、みんな!」
松田の呼びかけに、メンバーたちが次々と歩み寄ってくる。
てん「山﨑天です。……ふーん、あんまりアイドルっぽくないね。でも、なんか面白い雰囲気」
山﨑の真っ直ぐな、射抜くような瞳。ゆめは射すくめられた蛇のように硬直した。
ひかる「森田ひかるです。……顔、見せて? そんなに隠れてたら、振り付けの先生に怒られちゃうよ」
森田が静かに、けれど拒めない強さで覗き込んでくる。
ゆめは一歩、後ずさりした。彼女たちとの距離が縮まれば縮まるほど、自分の内側の「空っぽ」が露呈してしまいそうで怖かった。
れな「……あの、大丈夫? 具合悪い?」
守屋麗奈が心配そうに顔を曇らせる。その美しさにさえ、ゆめは劣等感を刺激される。
ゆめ「……大丈夫、です。……ただ、こういう場所、慣れてないから」
三期生たちは、少し離れた場所で固まって様子を伺っていた。
あいり「(小声で)ねえ、あの子……全然笑わないね」
なぎさ「(小声で)なんか、近寄りがたいっていうか……。私たち、どう接したらいいのかな」
小島凪紗がそっと声を漏らす。彼女たちの戸惑いは、そのまま冷たい空気となってゆめの肌を刺した。
厳しいオーディションを勝ち抜いてきた彼女たちにとって、突然「特例」として現れたゆめは、異物でしかなかった。
努力の結晶であるこの場所に、ふらりと現れた影。
ゆめ(……場違いだ。ここにいる全員が、私を見て『何なのこの子』って思ってる)
彼女は、スタジオの隅にあるパイプ椅子に向かい、逃げるように腰を下ろした。
膝の上で拳を強く握りしめる。
鏡に映る自分は、色鮮やかなレッスン着に身を包んだメンバーたちの中で、一人だけ泥を被った石ころのように見えた。
まつだ「ゆめちゃん、今日はひとまず見学でいいからね。私たちのリハーサル、見てて」
再び音楽が鳴り出す。
一瞬で空気が変わり、彼女たちは一糸乱れぬ動きで踊り始めた。
激しく、鋭く、それでいて儚い。
それは「仲間」という名の強い絆がなければ成立しない芸術だった。
ゆめはその光景を、指の間からじっと見つめていた。
彼女たちがぶつかり合い、笑い、支え合う姿。
それは、ゆめが18年間、一度も手に入れることができなかった、そして「一生手に入らない」と諦めていたものだった。
ゆめ(愛なんて……。仲間なんて……。そんなの、脆くてすぐ壊れるものなのに)
そう否定しながらも、彼女の心臓は、ダンスのビートに合わせて微かに震えていた。
その揺らぎに、ゆめ自身はまだ気づいていない