長編
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文化祭二日目の昼。
男装カフェは昨日以上の盛況で、教室の外まで列が伸びていた。
ひかる「次のお客様どうぞー」
森田ひかるは、少し低めに作った声でそう言って微笑んだ。
その瞬間、客席から小さなどよめきが起こる。
「え、かっこよ…」
「この子当たりじゃない?」
その反応に、ひかる自身は気づいていない。
ただ“役”として、ちゃんとやろうとしているだけだった。
——でも。
その様子を、少し離れた位置から見ている人がいた。
田村保乃。
同じ男装でも、保乃はどこか余裕のある立ち振る舞いをしている。
笑顔も、声のトーンも、完璧だった。
……はずなのに。
ほの(なんで、こんなに落ち着かないんだろ)
ひかるが、別の客に「手、綺麗ですね」なんて言われているのを見て、胸の奥がきゅっと縮む。
——別に。
——付き合ってるわけじゃない。
そう、何度も自分に言い聞かせる。
「ほの、ちょっと休憩入っていいよ」
クラスメイトに言われて、
保乃は控室へ向かった。
控室は少し静かで、外の喧騒が嘘みたいだった。
ほの「……はぁ」
ベンチに座って、ネクタイを緩める。
ほの(私、何やってるんだろ)
ひかるが人気なのは、今に始まったことじゃない。
それなのに——
ほの「……嫌だな」
小さく漏れた本音に、自分で驚いた。
“嫌”だと思う資格なんて、ないはずなのに。
その時、ドアが開いた。
ひかる「ほの?」
ひかるだった。
男装のまま、少し困った顔をして立っている。
ひかる「今、入ってよかった?」
ほの「うん……大丈夫」
ひかるは隣に座る。
近い。
いつもより、近い。
ひかる「さっきさ」
ひかるがぽつりと言う。
ひかる「ほの、ちょっと元気なかった」
保乃は笑おうとして、やめた。
ほの「……そう見えた?」
ひかる「うん」
ほの「ひーちゃんはさ」
保乃は、視線を床に落としたまま言った。
ほの「……男装、楽しい?」
ひかる「楽しいよ」
ひかる「みんなとやるのも楽しいし、文化祭も楽しい」
一拍置いて。
ひかる「でも」
ひかるは少しだけ言葉を探してから、続ける。
ひかる「ほの、がいない時間は、ちょっとだけ落ち着かない」
その言葉に、保乃の心臓が跳ねる。
ほの「……それ、どういう意味?」
ひかるは一瞬だけ迷って、でも正直に言った。
ひかる「ほのが見てくれてないと、ちゃんとできてるのか不安になる」
——それだけ?
期待してしまった自分が、情けない。
保乃は小さく息を吐いた。
ほの「そっか」
ひかる「……ごめん」
ひかるが言う。
ひかる「私、うまく言えなくて」
保乃は首を振る。
ほの「いいよ。ひーちゃんは、悪くない」
本当は、言いたかった。
“誰にも見せないでほしい”って。
“私だけのひーちゃんでいて”って。
でも、それを言うには——
今の自分たちは、近すぎて、遠すぎた。
外から、誰かの声が聞こえる。
「ひかるくーん!次お願い!」
ひかる「はーい」
ひかるは立ち上がる。
ひかる「ほの、また後でね」
その背中を見送りながら、保乃は胸元をぎゅっと掴んだ。
ほの(……好きだ)
認めた瞬間、簡単に言えなくなる言葉。
“好き”は、
一番近くにいる人ほど、
一番遠くなる。
男装カフェは昨日以上の盛況で、教室の外まで列が伸びていた。
ひかる「次のお客様どうぞー」
森田ひかるは、少し低めに作った声でそう言って微笑んだ。
その瞬間、客席から小さなどよめきが起こる。
「え、かっこよ…」
「この子当たりじゃない?」
その反応に、ひかる自身は気づいていない。
ただ“役”として、ちゃんとやろうとしているだけだった。
——でも。
その様子を、少し離れた位置から見ている人がいた。
田村保乃。
同じ男装でも、保乃はどこか余裕のある立ち振る舞いをしている。
笑顔も、声のトーンも、完璧だった。
……はずなのに。
ほの(なんで、こんなに落ち着かないんだろ)
ひかるが、別の客に「手、綺麗ですね」なんて言われているのを見て、胸の奥がきゅっと縮む。
——別に。
——付き合ってるわけじゃない。
そう、何度も自分に言い聞かせる。
「ほの、ちょっと休憩入っていいよ」
クラスメイトに言われて、
保乃は控室へ向かった。
控室は少し静かで、外の喧騒が嘘みたいだった。
ほの「……はぁ」
ベンチに座って、ネクタイを緩める。
ほの(私、何やってるんだろ)
ひかるが人気なのは、今に始まったことじゃない。
それなのに——
ほの「……嫌だな」
小さく漏れた本音に、自分で驚いた。
“嫌”だと思う資格なんて、ないはずなのに。
その時、ドアが開いた。
ひかる「ほの?」
ひかるだった。
男装のまま、少し困った顔をして立っている。
ひかる「今、入ってよかった?」
ほの「うん……大丈夫」
ひかるは隣に座る。
近い。
いつもより、近い。
ひかる「さっきさ」
ひかるがぽつりと言う。
ひかる「ほの、ちょっと元気なかった」
保乃は笑おうとして、やめた。
ほの「……そう見えた?」
ひかる「うん」
ほの「ひーちゃんはさ」
保乃は、視線を床に落としたまま言った。
ほの「……男装、楽しい?」
ひかる「楽しいよ」
ひかる「みんなとやるのも楽しいし、文化祭も楽しい」
一拍置いて。
ひかる「でも」
ひかるは少しだけ言葉を探してから、続ける。
ひかる「ほの、がいない時間は、ちょっとだけ落ち着かない」
その言葉に、保乃の心臓が跳ねる。
ほの「……それ、どういう意味?」
ひかるは一瞬だけ迷って、でも正直に言った。
ひかる「ほのが見てくれてないと、ちゃんとできてるのか不安になる」
——それだけ?
期待してしまった自分が、情けない。
保乃は小さく息を吐いた。
ほの「そっか」
ひかる「……ごめん」
ひかるが言う。
ひかる「私、うまく言えなくて」
保乃は首を振る。
ほの「いいよ。ひーちゃんは、悪くない」
本当は、言いたかった。
“誰にも見せないでほしい”って。
“私だけのひーちゃんでいて”って。
でも、それを言うには——
今の自分たちは、近すぎて、遠すぎた。
外から、誰かの声が聞こえる。
「ひかるくーん!次お願い!」
ひかる「はーい」
ひかるは立ち上がる。
ひかる「ほの、また後でね」
その背中を見送りながら、保乃は胸元をぎゅっと掴んだ。
ほの(……好きだ)
認めた瞬間、簡単に言えなくなる言葉。
“好き”は、
一番近くにいる人ほど、
一番遠くなる。