長編
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被服室の隅。
人の声が少し遠くなる場所で、石森璃花はミシンの音を聞いていた。
一定のリズム。
それだけが、心を落ち着かせてくれる。
りか(……美青ちゃん)
視線を上げると、少し離れたところで的野美青が、黙々とボタンを付け直している。
男装用のシャツ。
袖をまくった手首が、やけに目に入る。
りか(前より……)
近づいた気がする。
でも、それは気のせいかもしれない。
みお「りか」
名前を呼ばれて、びくっと肩が揺れる。
みお「これ、サイズ合ってる?」
美青が差し出したシャツ。
りか「……うん」
受け取って確認する。
距離は近い。
でも、心は遠い。
りか(言いたいこと、あるのに)
言葉が喉まで来て、いつもそこで止まる。
みお「……文化祭、楽しみ?」
唐突に聞いたのは、美青の方だった。
りか「え?」
みお「男装カフェ」
少し考えてから、璃花は頷いた。
りか「……うん」
本当は。
“みおちゃんがいるから”
それだけだった。
みお「そっか」
美青はそれ以上、踏み込まない。
りか(やっぱり)
璃花は視線を落とす。
美青は、優しい。
でも、それは“誰にでも”。
——それが、怖かった。
休憩時間。
二人で並んで座るベンチ。
沈黙が長い。
でも、不思議と居心地は悪くない。
りか「……ねぇ」
璃花が、意を決して口を開く。
りか「もしさ」
美青が顔を向ける。
りか「文化祭、終わったら……」
そこで、言葉が途切れた。
りか(何を聞くつもりだったんだろ)
“これからも一緒にいる?”
“私のこと、どう思ってる?”
どれも、聞く勇気がない。
りか「……やっぱ、いい」
そう言うと、美青は少しだけ眉を下げた。
みお「……無理しなくていい」
その一言が、なぜか胸に刺さった。
りか(無理、してないよ。ただ……)
一歩、踏み出せないだけ。
男装の最終チェック。
美青は、シンプルな王子役。
派手さはない。
でも、視線を奪う静かな存在感。
りか「……似合ってる」
璃花がそう言うと、美青は少し驚いた顔をした。
みお「そう?」
りか「……うん」
みお「ありがと」
その“ありがとう”が、ただの礼に聞こえてしまう。
りか(私だけなんだ)
特別だと思ってるのは。
文化祭前日。
教室の電気を消す直前。
璃花は、誰もいなくなった席で、立ち止まった。
りか(このままじゃ……)
気づいている。
美青は、待っている。
でも——
りか(今のままじゃ届かない)
一方、廊下。
一人で歩きながら、美青は立ち止まっていた。
みお(……言ってくれたらいいのに)
璃花が何か言いたそうなのは、ずっと前から分かっている。
でも、自分から踏み込んでいいのか、分からない。
みお(壊したくない)
この距離を。
——だからこそ、
二人の歩幅は、少しずつずれていく。
同じ方向を向いているのに。
同じ気持ちを抱いているのに。
言葉にしないまま、文化祭当日が近づいていた。
人の声が少し遠くなる場所で、石森璃花はミシンの音を聞いていた。
一定のリズム。
それだけが、心を落ち着かせてくれる。
りか(……美青ちゃん)
視線を上げると、少し離れたところで的野美青が、黙々とボタンを付け直している。
男装用のシャツ。
袖をまくった手首が、やけに目に入る。
りか(前より……)
近づいた気がする。
でも、それは気のせいかもしれない。
みお「りか」
名前を呼ばれて、びくっと肩が揺れる。
みお「これ、サイズ合ってる?」
美青が差し出したシャツ。
りか「……うん」
受け取って確認する。
距離は近い。
でも、心は遠い。
りか(言いたいこと、あるのに)
言葉が喉まで来て、いつもそこで止まる。
みお「……文化祭、楽しみ?」
唐突に聞いたのは、美青の方だった。
りか「え?」
みお「男装カフェ」
少し考えてから、璃花は頷いた。
りか「……うん」
本当は。
“みおちゃんがいるから”
それだけだった。
みお「そっか」
美青はそれ以上、踏み込まない。
りか(やっぱり)
璃花は視線を落とす。
美青は、優しい。
でも、それは“誰にでも”。
——それが、怖かった。
休憩時間。
二人で並んで座るベンチ。
沈黙が長い。
でも、不思議と居心地は悪くない。
りか「……ねぇ」
璃花が、意を決して口を開く。
りか「もしさ」
美青が顔を向ける。
りか「文化祭、終わったら……」
そこで、言葉が途切れた。
りか(何を聞くつもりだったんだろ)
“これからも一緒にいる?”
“私のこと、どう思ってる?”
どれも、聞く勇気がない。
りか「……やっぱ、いい」
そう言うと、美青は少しだけ眉を下げた。
みお「……無理しなくていい」
その一言が、なぜか胸に刺さった。
りか(無理、してないよ。ただ……)
一歩、踏み出せないだけ。
男装の最終チェック。
美青は、シンプルな王子役。
派手さはない。
でも、視線を奪う静かな存在感。
りか「……似合ってる」
璃花がそう言うと、美青は少し驚いた顔をした。
みお「そう?」
りか「……うん」
みお「ありがと」
その“ありがとう”が、ただの礼に聞こえてしまう。
りか(私だけなんだ)
特別だと思ってるのは。
文化祭前日。
教室の電気を消す直前。
璃花は、誰もいなくなった席で、立ち止まった。
りか(このままじゃ……)
気づいている。
美青は、待っている。
でも——
りか(今のままじゃ届かない)
一方、廊下。
一人で歩きながら、美青は立ち止まっていた。
みお(……言ってくれたらいいのに)
璃花が何か言いたそうなのは、ずっと前から分かっている。
でも、自分から踏み込んでいいのか、分からない。
みお(壊したくない)
この距離を。
——だからこそ、
二人の歩幅は、少しずつずれていく。
同じ方向を向いているのに。
同じ気持ちを抱いているのに。
言葉にしないまま、文化祭当日が近づいていた。