長編
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——朝から、調子がおかしかった。
教室に入った瞬間、森田ひかるは無意識に視線を走らせてしまう。
ひかる(……いた)
窓際、いつもの席。
ノートを広げて、ペンを回している田村保乃。
それだけで、胸がきゅっと縮む。
ひかる(昨日の、男装のせいだ)
そう自分に言い聞かせても、脳裏には何度もあの姿が浮かぶ。
シャツの襟元。
少し低くなった声。
距離が近くなった時の、あの視線。
ひかる「……無理」
小さく呟いて、ひかるは席に座った。
ほの「おはよ〜」
隣から聞こえる、いつもと同じ声。
ひかる「おはよ」
返事はできる。
でも、顔を上げられない。
ほの「ひーちゃん、今日なんか静かじゃない?」
保乃が首を傾げる。
ひかる(やめて、その距離)
ひかる「……眠いだけ」
嘘。
心臓がうるさすぎて、
ちゃんと眠れなかっただけ。
授業中も、集中できなかった。
先生の声。
チョークの音。
全部遠くて。
ひかる(ほの、今どんな顔してるんだろ)
考えた瞬間、自分で自分に嫌気がさす。
ひかる(意識しすぎ)
友達なのに。
それ以上のはずがないのに。
——そう思いたかった。
昼休み。
ほの「ひーちゃん、一緒に食べよ」
声をかけてきたのは、やっぱり保乃。
ひかる「……うん」
断れない自分が、また苦しい。
ベンチに並んで座る。
肩が触れそうで、触れない距離。
ほの「ね、文化祭さ」
保乃が箸を止める。
ほの「ひーちゃん、役どうする?」
ひかる「……え?」
ほの「男装カフェ。ひーちゃんも男役?」
一瞬、言葉を失う。
ひかる(それ、私がほのみたいな格好するってこと……?)
想像しただけで、頭が真っ白になる。
ひかる「……まだ、決めてない」
ほの「そっか」
それだけなのに、なぜか安心してしまう自分がいた。
ひかる(私だけ、こんな……)
ほの「昨日さ」
保乃が続ける。
ほの「ひーちゃん、途中から目合わせてくれなかったよね」
——心臓が跳ねた。
ひかる「え……」
ほの「嫌だった?」
不安そうな目。
違う。
全然、違う。
ひかる(好きだから、見れなかった)
でも、そんなこと言えるわけがない。
ひかる「……嫌じゃない」
ひかるはぎゅっとお弁当箱を握る。
ひかる「ただ……びっくりしただけ」
ほの「そっか」
ほっとしたように笑う保乃。
その笑顔が、また胸を締めつける。
ひかる(ずるい)
無自覚で、優しくて。
近くにいすぎる。
午後の準備時間。
衣装の最終確認で、被服室に集まる。
れな「田村、ちょっとこっち」
呼ばれた保乃が、また“あの”格好になる。
——だめだ。
ひかるは反射的に視線を逸らした。
ほの「ひーちゃん?」
背後から声。
ひかる「……何?」
振り返ると、男装した保乃が、すぐそこにいた。
距離、近すぎ。
ほの「また顔赤い」
ひかる「だから、暑いだけ!」
思わず声が大きくなる。
一瞬、空気が止まる。
ひかる「……ごめん」
慌てて謝ると、保乃は少し困ったように笑った。
ほの「ひーちゃんさ」
少しだけ、声が低くなる。
ほの「私、なんかした?」
——違う。
何もしてない。
してないから、こんなに苦しい。
ひかる「してない」
ひかるは、ぎゅっと目を閉じた。
ひかる「……してないよ」
でも、心の中では叫んでいた。
ひかる(してるよ……無意識で、全部)
その様子を、少し離れたところから見ていたのが
守屋麗奈だった。
れな「……ねぇかりんちゃん」
隣の藤吉夏鈴に小さく聞く。
れな「あれ、どう思う?」
かりん「どうもこうも」
夏鈴は肩をすくめる。
ひかる「ひかる、完全に詰んでるでしょ」
れな「……だよね」
麗奈は視線を伏せる。
れな(気づいてないの、本人だけ)
ひかるはまだ知らない。
この気持ちに名前をつけてしまった瞬間、もう“今まで通り”ではいられなくなることを。
そして——
その瞬間は、確実に近づいていた。
教室に入った瞬間、森田ひかるは無意識に視線を走らせてしまう。
ひかる(……いた)
窓際、いつもの席。
ノートを広げて、ペンを回している田村保乃。
それだけで、胸がきゅっと縮む。
ひかる(昨日の、男装のせいだ)
そう自分に言い聞かせても、脳裏には何度もあの姿が浮かぶ。
シャツの襟元。
少し低くなった声。
距離が近くなった時の、あの視線。
ひかる「……無理」
小さく呟いて、ひかるは席に座った。
ほの「おはよ〜」
隣から聞こえる、いつもと同じ声。
ひかる「おはよ」
返事はできる。
でも、顔を上げられない。
ほの「ひーちゃん、今日なんか静かじゃない?」
保乃が首を傾げる。
ひかる(やめて、その距離)
ひかる「……眠いだけ」
嘘。
心臓がうるさすぎて、
ちゃんと眠れなかっただけ。
授業中も、集中できなかった。
先生の声。
チョークの音。
全部遠くて。
ひかる(ほの、今どんな顔してるんだろ)
考えた瞬間、自分で自分に嫌気がさす。
ひかる(意識しすぎ)
友達なのに。
それ以上のはずがないのに。
——そう思いたかった。
昼休み。
ほの「ひーちゃん、一緒に食べよ」
声をかけてきたのは、やっぱり保乃。
ひかる「……うん」
断れない自分が、また苦しい。
ベンチに並んで座る。
肩が触れそうで、触れない距離。
ほの「ね、文化祭さ」
保乃が箸を止める。
ほの「ひーちゃん、役どうする?」
ひかる「……え?」
ほの「男装カフェ。ひーちゃんも男役?」
一瞬、言葉を失う。
ひかる(それ、私がほのみたいな格好するってこと……?)
想像しただけで、頭が真っ白になる。
ひかる「……まだ、決めてない」
ほの「そっか」
それだけなのに、なぜか安心してしまう自分がいた。
ひかる(私だけ、こんな……)
ほの「昨日さ」
保乃が続ける。
ほの「ひーちゃん、途中から目合わせてくれなかったよね」
——心臓が跳ねた。
ひかる「え……」
ほの「嫌だった?」
不安そうな目。
違う。
全然、違う。
ひかる(好きだから、見れなかった)
でも、そんなこと言えるわけがない。
ひかる「……嫌じゃない」
ひかるはぎゅっとお弁当箱を握る。
ひかる「ただ……びっくりしただけ」
ほの「そっか」
ほっとしたように笑う保乃。
その笑顔が、また胸を締めつける。
ひかる(ずるい)
無自覚で、優しくて。
近くにいすぎる。
午後の準備時間。
衣装の最終確認で、被服室に集まる。
れな「田村、ちょっとこっち」
呼ばれた保乃が、また“あの”格好になる。
——だめだ。
ひかるは反射的に視線を逸らした。
ほの「ひーちゃん?」
背後から声。
ひかる「……何?」
振り返ると、男装した保乃が、すぐそこにいた。
距離、近すぎ。
ほの「また顔赤い」
ひかる「だから、暑いだけ!」
思わず声が大きくなる。
一瞬、空気が止まる。
ひかる「……ごめん」
慌てて謝ると、保乃は少し困ったように笑った。
ほの「ひーちゃんさ」
少しだけ、声が低くなる。
ほの「私、なんかした?」
——違う。
何もしてない。
してないから、こんなに苦しい。
ひかる「してない」
ひかるは、ぎゅっと目を閉じた。
ひかる「……してないよ」
でも、心の中では叫んでいた。
ひかる(してるよ……無意識で、全部)
その様子を、少し離れたところから見ていたのが
守屋麗奈だった。
れな「……ねぇかりんちゃん」
隣の藤吉夏鈴に小さく聞く。
れな「あれ、どう思う?」
かりん「どうもこうも」
夏鈴は肩をすくめる。
ひかる「ひかる、完全に詰んでるでしょ」
れな「……だよね」
麗奈は視線を伏せる。
れな(気づいてないの、本人だけ)
ひかるはまだ知らない。
この気持ちに名前をつけてしまった瞬間、もう“今まで通り”ではいられなくなることを。
そして——
その瞬間は、確実に近づいていた。