長編
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その夜、保乃はなかなか眠れなかった。
天井を見つめたまま、ひかるの声が、何度も頭の中で再生される。
――「何も、残らなかった」
あの言い方は、もう何度も自分に言い聞かせてきた人の声だった。
ほの(……重いとかじゃない)
ただ、長い時間を一人で生きてきた音がした。
保乃は、自分のことを振り返る。
特別つらい過去があるわけでもない。
守られて育ってきた。
だからこそ、ひかるの痛みを「わかった気になる」資格はない。
ほの(でも)
知ってしまった。
知ってしまった以上、何もしない選択肢はなかった。
翌朝。
校門の前で、ひかるの姿を見つけた。
少し俯いて歩く、いつもの姿。
声をかけるべきか、一瞬迷う。
ほの(……いや)
今日は、違う距離でいい。
教室。
ひかるは、いつも通り席に座っている。
周りと、ちゃんと同じ空間にいる。
でも。
ふとした瞬間、視線が泳ぐ。
小さな音に、肩が揺れる。
ほの(……気づいた)
今まで、見えていなかっただけだ。
昼休み。
ひかるが、一人で席を立つ。
屋上だ。
保乃は、少し遅れて教室を出た。
直接は行かない。
でも、近くにはいる。
屋上のドアの前。
中から、ひかるの声が聞こえた。
誰かと話しているわけじゃない。
独り言。
ひかる「……平気」
ひかる「大丈夫」
何度も、言い聞かせるような声。
保乃は、ドアに手をかけるのをやめた。
ほの(今は、隣に立たなくていい)
でも。
ここにいる。
午後の授業。
ひかるが、問題を当てられる。
一瞬、詰まる。
教室が、少しだけ静まる。
そのとき。
ひかる「時間、ください」
ひかるの声は、はっきりしていた。
先生が頷く。
数秒後、答えを言い切る。
正解。
小さな拍手。
ひかるは、照れたように俯いた。
保乃は、机の下で拳を握った。
ほの(……強い)
壊れそうなんかじゃない。
壊れながら、立ってきた人だ。
放課後。
校舎を出るとき、ひかるが一人で靴を履いていた。
ほの「森田」
声をかけると、
少し驚いた顔で振り向く。
ひかる「……保乃」
ほの「一緒に帰ろ」
短い言葉。
でも、逃げない。
並んで歩きながら、保乃は言った。
ほの「昨日の話」
ひかるが、一瞬だけ身構える。
ほの「全部、背負おうとは思ってない。でも……」
保乃は、歩く速度を落とす。
ほの「知ってるまま、そばにいたい」
ひかるは、足を止めた。
ひかる「……それって」
ほの「森田が弱いからじゃない」
保乃は、はっきり言った。
ほの「大事だから」
風が、二人の間を通り抜ける。
ひかるは、ゆっくりと息を吐いた。
ひかる「……ありがとう」
その声は、少しだけ、柔らかかった。
夜。
保乃は、スマホを机に置き、目を閉じた。
守る、なんて大げさなことは言わない。
ただ。
逃げない。
知らないふりをしない。
離れる選択をしない。
それだけの覚悟が、静かに、胸に落ちた。
ほの(ここにいていいって。私が言うんじゃない。森田自身が、思えるまで)
その日、保乃は初めて、
「一緒にいる」という意味を自分なりに掴んだ気がしていた。
天井を見つめたまま、ひかるの声が、何度も頭の中で再生される。
――「何も、残らなかった」
あの言い方は、もう何度も自分に言い聞かせてきた人の声だった。
ほの(……重いとかじゃない)
ただ、長い時間を一人で生きてきた音がした。
保乃は、自分のことを振り返る。
特別つらい過去があるわけでもない。
守られて育ってきた。
だからこそ、ひかるの痛みを「わかった気になる」資格はない。
ほの(でも)
知ってしまった。
知ってしまった以上、何もしない選択肢はなかった。
翌朝。
校門の前で、ひかるの姿を見つけた。
少し俯いて歩く、いつもの姿。
声をかけるべきか、一瞬迷う。
ほの(……いや)
今日は、違う距離でいい。
教室。
ひかるは、いつも通り席に座っている。
周りと、ちゃんと同じ空間にいる。
でも。
ふとした瞬間、視線が泳ぐ。
小さな音に、肩が揺れる。
ほの(……気づいた)
今まで、見えていなかっただけだ。
昼休み。
ひかるが、一人で席を立つ。
屋上だ。
保乃は、少し遅れて教室を出た。
直接は行かない。
でも、近くにはいる。
屋上のドアの前。
中から、ひかるの声が聞こえた。
誰かと話しているわけじゃない。
独り言。
ひかる「……平気」
ひかる「大丈夫」
何度も、言い聞かせるような声。
保乃は、ドアに手をかけるのをやめた。
ほの(今は、隣に立たなくていい)
でも。
ここにいる。
午後の授業。
ひかるが、問題を当てられる。
一瞬、詰まる。
教室が、少しだけ静まる。
そのとき。
ひかる「時間、ください」
ひかるの声は、はっきりしていた。
先生が頷く。
数秒後、答えを言い切る。
正解。
小さな拍手。
ひかるは、照れたように俯いた。
保乃は、机の下で拳を握った。
ほの(……強い)
壊れそうなんかじゃない。
壊れながら、立ってきた人だ。
放課後。
校舎を出るとき、ひかるが一人で靴を履いていた。
ほの「森田」
声をかけると、
少し驚いた顔で振り向く。
ひかる「……保乃」
ほの「一緒に帰ろ」
短い言葉。
でも、逃げない。
並んで歩きながら、保乃は言った。
ほの「昨日の話」
ひかるが、一瞬だけ身構える。
ほの「全部、背負おうとは思ってない。でも……」
保乃は、歩く速度を落とす。
ほの「知ってるまま、そばにいたい」
ひかるは、足を止めた。
ひかる「……それって」
ほの「森田が弱いからじゃない」
保乃は、はっきり言った。
ほの「大事だから」
風が、二人の間を通り抜ける。
ひかるは、ゆっくりと息を吐いた。
ひかる「……ありがとう」
その声は、少しだけ、柔らかかった。
夜。
保乃は、スマホを机に置き、目を閉じた。
守る、なんて大げさなことは言わない。
ただ。
逃げない。
知らないふりをしない。
離れる選択をしない。
それだけの覚悟が、静かに、胸に落ちた。
ほの(ここにいていいって。私が言うんじゃない。森田自身が、思えるまで)
その日、保乃は初めて、
「一緒にいる」という意味を自分なりに掴んだ気がしていた。