長編
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雨が降っていた。
朝からずっと、細く、静かに。
教室の窓に当たる雨粒が、
一定のリズムで音を立てている。
ひかるは、その音を聞きながら、ぼんやりと外を見ていた。
(雨、嫌いじゃない)
濡れるのは苦手だけど、世界が少しだけ静かになる感じがする。
「森田、体調大丈夫?」
隣の席から、遠藤光莉が声をかけてきた。
ひかり「顔色、ちょっと薄いかも」
ひかる「……大丈夫」
そう答えたけれど、実際は少し、胸が重かった。
雨の日は、どうしても思い出してしまう。
事故の日も、
病室の窓も、
全部、雨だった。
授業中、先生の声が遠くなる。
ノートは取っているはずなのに、文字が頭に入ってこない。
ふと、手が震えていることに気づいた。
ひかる(……だめ)
深呼吸しようとした、そのとき。
前の席の保乃が、さりげなくノートをこちらにずらした。
ページの端に、小さな字で書いてある。
「無理しない」
それだけ。
でも、ひかるの喉がきゅっと詰まった。
昼休み。
今日は輪に入る気力がなくて、ひかるは一人で屋上へ向かった。
雨で湿った空気。
灰色の空。
フェンスにもたれかかって、目を閉じる。
ひかる(私、まだ……)
何も乗り越えていない。
忘れられていない。
ただ、蓋をしているだけ。
「やっぱり、ここにいた」
声がした。
振り向くと、保乃が傘を持ったまま立っていた。
ひかる「……どうして」
ほの「勘」
それだけ言って、隣に立つ。
距離は、少しだけ離れている。
触れない距離。
でも、逃げない距離。
ほの「雨の日、苦手?」
ひかる「……ううん」
嘘だった。
でも、全部言う勇気もなかった。
保乃は、それ以上聞かない。
代わりに、フェンスの向こうを見ながら言った。
ほの「私さ。失くしたものって、増えるときもあると思ってて」
ひかるは、ゆっくりと保乃を見る。
ほの「失くしたら、空っぽになると思ってたけど意外と、違う形で増えてくる」
ひかるの胸が、少しだけ熱くなる。
ひかる(……この人)
知ってる。
失う痛みを。
だから、無理に聞かない。
ほの「森田」
ひかる「……なに」
ほの「ここにいる間はさ」
ほの「私の隣、空いてるから」
その言葉は、慰めでも、約束でもなかった。
ただの、事実みたいな口調。
ひかるは、小さく笑った。
ひかる「……ずるい」
ほの「なにが?」
ひかる「そういう言い方」
保乃は、少しだけ困ったように笑う。
チャイムが鳴り、屋上を出る。
階段を降りながら、ひかるは思った。
失くしたものは、戻らない。
でも。
増えているものも、確かにある。
名前を呼んでくれる人。
隣に立ってくれる人。
触れなくても、離れない距離。
ひかる(……ここにいていい)
まだ、確信じゃない。
でも心の中に、
小さな居場所ができ始めていた。
朝からずっと、細く、静かに。
教室の窓に当たる雨粒が、
一定のリズムで音を立てている。
ひかるは、その音を聞きながら、ぼんやりと外を見ていた。
(雨、嫌いじゃない)
濡れるのは苦手だけど、世界が少しだけ静かになる感じがする。
「森田、体調大丈夫?」
隣の席から、遠藤光莉が声をかけてきた。
ひかり「顔色、ちょっと薄いかも」
ひかる「……大丈夫」
そう答えたけれど、実際は少し、胸が重かった。
雨の日は、どうしても思い出してしまう。
事故の日も、
病室の窓も、
全部、雨だった。
授業中、先生の声が遠くなる。
ノートは取っているはずなのに、文字が頭に入ってこない。
ふと、手が震えていることに気づいた。
ひかる(……だめ)
深呼吸しようとした、そのとき。
前の席の保乃が、さりげなくノートをこちらにずらした。
ページの端に、小さな字で書いてある。
「無理しない」
それだけ。
でも、ひかるの喉がきゅっと詰まった。
昼休み。
今日は輪に入る気力がなくて、ひかるは一人で屋上へ向かった。
雨で湿った空気。
灰色の空。
フェンスにもたれかかって、目を閉じる。
ひかる(私、まだ……)
何も乗り越えていない。
忘れられていない。
ただ、蓋をしているだけ。
「やっぱり、ここにいた」
声がした。
振り向くと、保乃が傘を持ったまま立っていた。
ひかる「……どうして」
ほの「勘」
それだけ言って、隣に立つ。
距離は、少しだけ離れている。
触れない距離。
でも、逃げない距離。
ほの「雨の日、苦手?」
ひかる「……ううん」
嘘だった。
でも、全部言う勇気もなかった。
保乃は、それ以上聞かない。
代わりに、フェンスの向こうを見ながら言った。
ほの「私さ。失くしたものって、増えるときもあると思ってて」
ひかるは、ゆっくりと保乃を見る。
ほの「失くしたら、空っぽになると思ってたけど意外と、違う形で増えてくる」
ひかるの胸が、少しだけ熱くなる。
ひかる(……この人)
知ってる。
失う痛みを。
だから、無理に聞かない。
ほの「森田」
ひかる「……なに」
ほの「ここにいる間はさ」
ほの「私の隣、空いてるから」
その言葉は、慰めでも、約束でもなかった。
ただの、事実みたいな口調。
ひかるは、小さく笑った。
ひかる「……ずるい」
ほの「なにが?」
ひかる「そういう言い方」
保乃は、少しだけ困ったように笑う。
チャイムが鳴り、屋上を出る。
階段を降りながら、ひかるは思った。
失くしたものは、戻らない。
でも。
増えているものも、確かにある。
名前を呼んでくれる人。
隣に立ってくれる人。
触れなくても、離れない距離。
ひかる(……ここにいていい)
まだ、確信じゃない。
でも心の中に、
小さな居場所ができ始めていた。