長編
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朝の校舎は、まだ静かだった。
昇降口に差し込む光が、床に長い影を落としている。
ひかるは、その影を踏まないように歩きながら、
教室へ向かっていた。
昨日よりも、胸の奥が少しだけ軽い。
それが嬉しい反面、なぜか落ち着かない。
ひかる(……慣れちゃだめ)
心のどこかで、そう自分に言い聞かせていた。
「おはよ」
教室に入ると、先に来ていた保乃が声をかけてきた。
ひかる「……おはよう」
昨日より、自然に返せた気がする。
それだけで、胸がちくっとする。
ひかる(なんで、こんなことで)
ひかるは、自分の席に座り、カバンを机に置いた。
保乃は、ひかるの一つ前の席。
振り返れば、すぐそこにいる距離。
でも――
保乃は、振り返らない。
ひかる「ねえ、保乃」
ひかるが声をかけると、少し間があってから振り向いた。
ほの「なに?」
その間が、ひかるにはわからなかった。
ひかる(嫌だったのかな)
昨日、輪に入ったこと。笑ったこと。
ひかる(距離、詰めすぎた?)
ひかる「……昨日のこと」
言いかけて、言葉を探す。
ひかる「無理させてたら、ごめん」
保乃は、ほんの一瞬だけ目を見開いた。
ほの「え?」
ひかる「私……途中から、なんか、調子に乗ってたかも」
自分でも、うまく説明できない。
でも、このままにしておきたくなかった。
保乃は、しばらく黙ってから、小さく息を吐いた。
ほの「違う」
ひかる「……え」
ほの「私が、距離わからなくなってただけ」
その声は、ひかるよりも少し低く、静かだった。
保乃は、ひかるから視線を外したまま話す。
ほの「森田が、笑ってるの見て……昨日嬉しかった」
ひかるの胸が、跳ねる。
ほの「でもさ」
保乃は、机の端を指でなぞった。
ほの「私が近づきすぎると、森田、壊れそうな気がして」
その言葉に、ひかるは息を止めた。
ひかる(……まただ)
優しさ。
触れない選択。
それは、ひかるがこれまで何度も受け取ってきたもの。
でも。
ひかる「……私、ガラスじゃないよ」
思わず、口から出た。
保乃が、はっとして振り向く。
ひかる「壊れそうって、思われるの、ちょっと嫌」
声は震えていたけど、目は逸らさなかった。
ひかる「私が壊れるかどうかは……私が決めたい」
教室の空気が、一瞬止まったように感じた。
保乃は、驚いたようにひかるを見つめ、それから、少し困ったように笑った。
ほの「……強いね」
ひかる「強くない」
ひかるは、首を振る。
ひかる「ただ……独りに戻る方が、もっと怖い」
その言葉は、胸の奥から出てきた本音だった。
チャイムが鳴る。
会話は、そこで途切れた。
でも。
授業中、ひかるは気づく。
前の席の保乃が、いつもより少しだけ、肩の力を抜いていること。
振り返らない距離は、変わらない。
触れもしない。
それでも――
逃げるための距離じゃなくなっていた。
放課後。
ひかるが昇降口で靴を履いていると、横に影が落ちた。
「一緒に帰る?」
保乃だった。
ひかる「……いいの?」
ほの「うん」
理由は、聞かれない。
ひかるは、少しだけ笑った。
並んで歩く帰り道。
会話は多くない。
でも、沈黙が怖くなかった。
ひかる(触れなくても、離れなくても)
そう思えたのは、初めてだった。
ひかるは、空を見上げる。
夕焼けが、昨日よりもやさしく見えた。
ひかる(ここにいていい、かもしれない)
まだ、確信はない。
でも、触れない距離の中で、ちゃんと繋がっている感覚があった。
それは、ひかるにとって、
何よりも大切な一歩だった。
昇降口に差し込む光が、床に長い影を落としている。
ひかるは、その影を踏まないように歩きながら、
教室へ向かっていた。
昨日よりも、胸の奥が少しだけ軽い。
それが嬉しい反面、なぜか落ち着かない。
ひかる(……慣れちゃだめ)
心のどこかで、そう自分に言い聞かせていた。
「おはよ」
教室に入ると、先に来ていた保乃が声をかけてきた。
ひかる「……おはよう」
昨日より、自然に返せた気がする。
それだけで、胸がちくっとする。
ひかる(なんで、こんなことで)
ひかるは、自分の席に座り、カバンを机に置いた。
保乃は、ひかるの一つ前の席。
振り返れば、すぐそこにいる距離。
でも――
保乃は、振り返らない。
ひかる「ねえ、保乃」
ひかるが声をかけると、少し間があってから振り向いた。
ほの「なに?」
その間が、ひかるにはわからなかった。
ひかる(嫌だったのかな)
昨日、輪に入ったこと。笑ったこと。
ひかる(距離、詰めすぎた?)
ひかる「……昨日のこと」
言いかけて、言葉を探す。
ひかる「無理させてたら、ごめん」
保乃は、ほんの一瞬だけ目を見開いた。
ほの「え?」
ひかる「私……途中から、なんか、調子に乗ってたかも」
自分でも、うまく説明できない。
でも、このままにしておきたくなかった。
保乃は、しばらく黙ってから、小さく息を吐いた。
ほの「違う」
ひかる「……え」
ほの「私が、距離わからなくなってただけ」
その声は、ひかるよりも少し低く、静かだった。
保乃は、ひかるから視線を外したまま話す。
ほの「森田が、笑ってるの見て……昨日嬉しかった」
ひかるの胸が、跳ねる。
ほの「でもさ」
保乃は、机の端を指でなぞった。
ほの「私が近づきすぎると、森田、壊れそうな気がして」
その言葉に、ひかるは息を止めた。
ひかる(……まただ)
優しさ。
触れない選択。
それは、ひかるがこれまで何度も受け取ってきたもの。
でも。
ひかる「……私、ガラスじゃないよ」
思わず、口から出た。
保乃が、はっとして振り向く。
ひかる「壊れそうって、思われるの、ちょっと嫌」
声は震えていたけど、目は逸らさなかった。
ひかる「私が壊れるかどうかは……私が決めたい」
教室の空気が、一瞬止まったように感じた。
保乃は、驚いたようにひかるを見つめ、それから、少し困ったように笑った。
ほの「……強いね」
ひかる「強くない」
ひかるは、首を振る。
ひかる「ただ……独りに戻る方が、もっと怖い」
その言葉は、胸の奥から出てきた本音だった。
チャイムが鳴る。
会話は、そこで途切れた。
でも。
授業中、ひかるは気づく。
前の席の保乃が、いつもより少しだけ、肩の力を抜いていること。
振り返らない距離は、変わらない。
触れもしない。
それでも――
逃げるための距離じゃなくなっていた。
放課後。
ひかるが昇降口で靴を履いていると、横に影が落ちた。
「一緒に帰る?」
保乃だった。
ひかる「……いいの?」
ほの「うん」
理由は、聞かれない。
ひかるは、少しだけ笑った。
並んで歩く帰り道。
会話は多くない。
でも、沈黙が怖くなかった。
ひかる(触れなくても、離れなくても)
そう思えたのは、初めてだった。
ひかるは、空を見上げる。
夕焼けが、昨日よりもやさしく見えた。
ひかる(ここにいていい、かもしれない)
まだ、確信はない。
でも、触れない距離の中で、ちゃんと繋がっている感覚があった。
それは、ひかるにとって、
何よりも大切な一歩だった。