長編
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「森田」
その呼び方に、ひかるは一瞬だけ反応が遅れた。
転校してきてから、
「森田さん」と呼ばれることはあっても、
苗字だけで呼ばれることは、ほとんどなかった。
「これ、回してくれる?」
声の主は松田里奈だった。
柔らかい笑顔で、プリントを差し出してくる。
ひかる「あ、うん……」
ひかるは受け取り、後ろへ回す。
それだけのやり取りなのに、胸の奥がざわっとした。
ひかる(名前を、呼ばれた)
たったそれだけなのに、自分が“ここにいる”と確認されたような気がした。
その日の国語の授業。
石森璃花の声が、教室に落ち着いたリズムを作る。
「今日は短歌の鑑賞ね。
二人組になって、感じたことを話してみて」
ざわ、と教室が動く。
ひかるは、机に視線を落とした。
ひかる(また、余る)
そう思った瞬間。
「森田さん」
声をかけてきたのは、遠藤理子だった。
りこ「一緒にやろ」
迷いのない言葉。
ひかる「……いいよ」
断る理由は、見つからなかった。
二人で短歌を読む。
理子は、思ったことを素直に口にするタイプで、
沈黙が続くと、すぐに言葉を足してくる。
りこ「これさ、寂しい感じしない?」
ひかる「……うん」
りこ「森田さんは、どう思う?」
問いかけられて、少し考える。
ひかる(本当のこと、言っていいのかな)
でも、嘘をつくのも違う気がした。
ひかる「……大切なものほど、失う前から怖くなる、みたいな」
理子は一瞬黙って、
それから、ふっと笑った。
りこ「それ、いいね」
否定されなかった。
それだけで、胸の奥が少し緩む。
昼休み。
山崎天が、ひかるの席の近くで立ち止まった。
てん「ねえ、森田」
また、名前。
てん「今度さ、みんなでコンビニ行くんだけど、来る?」
軽い誘い。
深い意味は、たぶんない。
ひかるは一瞬、言葉に詰まる。
ひかる(断ってもいい、でも……)
ひかる「……行けたら」
曖昧な返事。
それでも天は気にしない。
てん「うん!じゃ、行けたらね」
去り際に、守屋麗奈がちらっと振り返って言った。
れな「森田ひかる、だよね」
下の名前まで。
れな「覚えた」
その一言に、胸がきゅっと締まる。
ひかる(覚えられた)
それは、持たないようにしていたものだったはずなのに。
放課後。
ひかるは、昇降口で靴を履き替えていると、横に並ぶ気配を感じた。
「今日も一緒に帰れる?」
田村保乃だった。
ひかる「……うん」
返事は、昨日より少しだけ自然だった。
校舎を出ると、夕方の空気がひんやりしている。
ほの「今日、どうだった?」
ひかる「……普通」
でも、保乃は分かっているようだった。
ほの「名前、呼ばれた?」
ひかるは、少し驚いて保乃を見る。
ひかる「……なんで分かるの」
ほの「顔」
保乃は、くすっと笑う。
ほの「ちょっとだけ、柔らかかった」
ひかるは、何も言えなかった。
否定も、肯定も、できない。
ひかる(気づかれてる)
それが、少し怖くて、
でも――
嫌じゃなかった。
その夜。
ひかるは、スマホのメモを開いた。
そこには、もう使わないと決めていた名前が、昔、たくさん並んでいた。
一度、消したはずなのに。
今日、新しく、心の中に浮かんだ名前がある。
保乃。
理子。
天。
松田さん。
ひかる(増えてる)
怖い。
でも、名前を呼ばれるたびに、胸の奥で、小さな灯りが増えていく。
――ここに、名前を呼ばれる場所がある。
まだ確信はない。
それでも、ひかるは思ってしまった。
ひかる(もし、少しずつなら大切にしても……いいのかな)
その問いは、次の日へと、静かにつながっていった。
その呼び方に、ひかるは一瞬だけ反応が遅れた。
転校してきてから、
「森田さん」と呼ばれることはあっても、
苗字だけで呼ばれることは、ほとんどなかった。
「これ、回してくれる?」
声の主は松田里奈だった。
柔らかい笑顔で、プリントを差し出してくる。
ひかる「あ、うん……」
ひかるは受け取り、後ろへ回す。
それだけのやり取りなのに、胸の奥がざわっとした。
ひかる(名前を、呼ばれた)
たったそれだけなのに、自分が“ここにいる”と確認されたような気がした。
その日の国語の授業。
石森璃花の声が、教室に落ち着いたリズムを作る。
「今日は短歌の鑑賞ね。
二人組になって、感じたことを話してみて」
ざわ、と教室が動く。
ひかるは、机に視線を落とした。
ひかる(また、余る)
そう思った瞬間。
「森田さん」
声をかけてきたのは、遠藤理子だった。
りこ「一緒にやろ」
迷いのない言葉。
ひかる「……いいよ」
断る理由は、見つからなかった。
二人で短歌を読む。
理子は、思ったことを素直に口にするタイプで、
沈黙が続くと、すぐに言葉を足してくる。
りこ「これさ、寂しい感じしない?」
ひかる「……うん」
りこ「森田さんは、どう思う?」
問いかけられて、少し考える。
ひかる(本当のこと、言っていいのかな)
でも、嘘をつくのも違う気がした。
ひかる「……大切なものほど、失う前から怖くなる、みたいな」
理子は一瞬黙って、
それから、ふっと笑った。
りこ「それ、いいね」
否定されなかった。
それだけで、胸の奥が少し緩む。
昼休み。
山崎天が、ひかるの席の近くで立ち止まった。
てん「ねえ、森田」
また、名前。
てん「今度さ、みんなでコンビニ行くんだけど、来る?」
軽い誘い。
深い意味は、たぶんない。
ひかるは一瞬、言葉に詰まる。
ひかる(断ってもいい、でも……)
ひかる「……行けたら」
曖昧な返事。
それでも天は気にしない。
てん「うん!じゃ、行けたらね」
去り際に、守屋麗奈がちらっと振り返って言った。
れな「森田ひかる、だよね」
下の名前まで。
れな「覚えた」
その一言に、胸がきゅっと締まる。
ひかる(覚えられた)
それは、持たないようにしていたものだったはずなのに。
放課後。
ひかるは、昇降口で靴を履き替えていると、横に並ぶ気配を感じた。
「今日も一緒に帰れる?」
田村保乃だった。
ひかる「……うん」
返事は、昨日より少しだけ自然だった。
校舎を出ると、夕方の空気がひんやりしている。
ほの「今日、どうだった?」
ひかる「……普通」
でも、保乃は分かっているようだった。
ほの「名前、呼ばれた?」
ひかるは、少し驚いて保乃を見る。
ひかる「……なんで分かるの」
ほの「顔」
保乃は、くすっと笑う。
ほの「ちょっとだけ、柔らかかった」
ひかるは、何も言えなかった。
否定も、肯定も、できない。
ひかる(気づかれてる)
それが、少し怖くて、
でも――
嫌じゃなかった。
その夜。
ひかるは、スマホのメモを開いた。
そこには、もう使わないと決めていた名前が、昔、たくさん並んでいた。
一度、消したはずなのに。
今日、新しく、心の中に浮かんだ名前がある。
保乃。
理子。
天。
松田さん。
ひかる(増えてる)
怖い。
でも、名前を呼ばれるたびに、胸の奥で、小さな灯りが増えていく。
――ここに、名前を呼ばれる場所がある。
まだ確信はない。
それでも、ひかるは思ってしまった。
ひかる(もし、少しずつなら大切にしても……いいのかな)
その問いは、次の日へと、静かにつながっていった。