中編
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あの夜、誰もいないレッスン場で交わした秘密は、二人の距離を急速に縮めていた。
ゆめ「ひかる、おはよう」
ひかる「ん……ゆめ、おはよう。早いね」
楽屋に入ってきたゆめは、少し照れくさそうに微笑みながらひかるの隣の席に座る。
メンバーの目が届かないテーブルの下で、そっと指先が触れ合い、どちらからともなく恋人のように指を絡ませた。
ゆめの涙が「無色透明」であること。
それは、感情がすべて暴かれるこの世界において、致命的な異端だ。
もし公になれば、世間は彼女を感情のないサイコパスか、あるいは新種の病として好奇の目で見るだろう。
だからこそ、ひかるは誓った。
何があっても、彼女のその透明な秘密を守り抜くと。
しかし、世界は容赦なく彼女たちの日常を侵食していく。
その日の午後、グループに激震が走った。
次のシングルでのフロントメンバーが発表されたのだ。
センターのひかるを支える重要なポジション。
そこに選ばれたのは、ゆめだった。
てん「おめでとう〜ゆめ!」
ほの「楽しみにしてるね!」
メンバーたちから祝福の声が上がる。
けれど、その輪の中心にいるゆめの表情はどこか強張っていた。
ゆめ「……ありがとうございます。頑張ります」
そう答えたゆめの瞳が、かすかに潤んでいるのをひかるは見逃さなかった。
ゆめ(だめ、ここでは泣かないで……!)
ひかるの心臓がドクンと跳ねる。
幸いにもゆめはぐっと涙を堪え、その場は事なきを得た。
しかし、本当の試練は数日後に控えたライブツアーの幕開け、そしてライブ直後の生配信特番だった。
司会「それでは、新フロントメンバーに選ばれました、ゆめさん! 今の率直な気持ちをファンの皆さんへお願いします!」
ライブの熱気が冷めやらぬステージ裏。
カメラのレンズと配信の向こうにいる何万人もの視聴者の視線が、一斉にゆめへと注がれる。
張り詰めた空気の中、ゆめはマイクを握りしめた。
ゆめ「私は……自分がこの位置に立っていいのか、ずっと不安でした。でも、今日のライブで皆さんの最高の笑顔を見て……」
言葉が詰まる。
張り詰めていた感情の糸が限界を迎えた。
彼女の大きな瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。
周囲のメンバーやスタッフ、そして画面越しのファンが固唾を呑んで彼女の涙の色を確かめようとした。
喜びのピンクかプレッシャーの青かあるいは──。
ひかるは息を止めた。
ゆめの目から、一滴の雫が溢れそうになる。
照明を浴びてきらめくその雫は、どこまでも澄み切った、色のない純粋な水。
ひかる(見られる……!)
その瞬間、ひかるの身体は本能的に動いていた。
ひかる「──ゆめっ!」
ひかるはカメラの前に割り込むようにして、ゆめの身体を強く抱きしめた。
ゆめの顔を自分の胸元に深く埋めさせ、客席からもカメラからも完全にその表情を隠す。
司会「わっ、ひかるちゃん!?」
司会者の驚いた声が響くが、ひかるは構わなかった。
ひかる「……すいません、ゆめは今、言葉にならないくらい感極まっていて。
この涙の理由は、私たちが一番よく知っています。だから……今は二人だけのものにさせてください」
悪戯っぽく、だけど誰も踏み込ませない強い視線でカメラを見据えてひかるが笑う。
それは、センターとしての圧倒的なカリスマ性と同期への深い愛が混ざり合った完璧なアドリブだった。
司会「お、おおっと! センター森田ひかるからの熱い抱擁! これぞ櫻坂の絆ですね!」
配信のコメント欄が「尊い」「ひかるかっこよすぎる」「神展開」と、歓喜の渦に包まれていく。
誰も、ゆめの涙に色がないことなど疑いもしなかった。
生配信が終わり、楽屋への通路。
他のメンバーより一歩遅れて歩く二人は、薄暗い廊下の陰に滑り込んだ。
ひかるの衣装の胸元には、ゆめが流した涙の跡が、色移りすることなくただの水たまりとして濡れている。
ゆめ「ありがと、ひかる。……また、守ってもらっちゃったね」
ゆめはまだ少し潤んだ目で、愛おしそうにひかるを見上げた。
ひかる「もう。心臓が止まるかと思ったんだからね」
ひかるは呆れたように息を吐きながらも、その頬を優しく指で拭う。
触れた指先から、ゆめの体温が伝わってくる。
ひかる「世界が何と言おうと、私には分かってるよ。今のゆめの涙はね、私へのありがとうと、ちょっとの大好きが混ざった色。……ピンクよりも、ずっとずっと可愛い色だよ」
ゆめ「……うん。正解」
ゆめは小さく笑うと、ひかるの首に腕を絡ませ、誰にも見えない暗がりのなかで静かに唇を重ねた。
色に支配された世界で二人の間だけには、誰も定義できない透明な愛が確かにきらめいていた。
ゆめ「ひかる、おはよう」
ひかる「ん……ゆめ、おはよう。早いね」
楽屋に入ってきたゆめは、少し照れくさそうに微笑みながらひかるの隣の席に座る。
メンバーの目が届かないテーブルの下で、そっと指先が触れ合い、どちらからともなく恋人のように指を絡ませた。
ゆめの涙が「無色透明」であること。
それは、感情がすべて暴かれるこの世界において、致命的な異端だ。
もし公になれば、世間は彼女を感情のないサイコパスか、あるいは新種の病として好奇の目で見るだろう。
だからこそ、ひかるは誓った。
何があっても、彼女のその透明な秘密を守り抜くと。
しかし、世界は容赦なく彼女たちの日常を侵食していく。
その日の午後、グループに激震が走った。
次のシングルでのフロントメンバーが発表されたのだ。
センターのひかるを支える重要なポジション。
そこに選ばれたのは、ゆめだった。
てん「おめでとう〜ゆめ!」
ほの「楽しみにしてるね!」
メンバーたちから祝福の声が上がる。
けれど、その輪の中心にいるゆめの表情はどこか強張っていた。
ゆめ「……ありがとうございます。頑張ります」
そう答えたゆめの瞳が、かすかに潤んでいるのをひかるは見逃さなかった。
ゆめ(だめ、ここでは泣かないで……!)
ひかるの心臓がドクンと跳ねる。
幸いにもゆめはぐっと涙を堪え、その場は事なきを得た。
しかし、本当の試練は数日後に控えたライブツアーの幕開け、そしてライブ直後の生配信特番だった。
司会「それでは、新フロントメンバーに選ばれました、ゆめさん! 今の率直な気持ちをファンの皆さんへお願いします!」
ライブの熱気が冷めやらぬステージ裏。
カメラのレンズと配信の向こうにいる何万人もの視聴者の視線が、一斉にゆめへと注がれる。
張り詰めた空気の中、ゆめはマイクを握りしめた。
ゆめ「私は……自分がこの位置に立っていいのか、ずっと不安でした。でも、今日のライブで皆さんの最高の笑顔を見て……」
言葉が詰まる。
張り詰めていた感情の糸が限界を迎えた。
彼女の大きな瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。
周囲のメンバーやスタッフ、そして画面越しのファンが固唾を呑んで彼女の涙の色を確かめようとした。
喜びのピンクかプレッシャーの青かあるいは──。
ひかるは息を止めた。
ゆめの目から、一滴の雫が溢れそうになる。
照明を浴びてきらめくその雫は、どこまでも澄み切った、色のない純粋な水。
ひかる(見られる……!)
その瞬間、ひかるの身体は本能的に動いていた。
ひかる「──ゆめっ!」
ひかるはカメラの前に割り込むようにして、ゆめの身体を強く抱きしめた。
ゆめの顔を自分の胸元に深く埋めさせ、客席からもカメラからも完全にその表情を隠す。
司会「わっ、ひかるちゃん!?」
司会者の驚いた声が響くが、ひかるは構わなかった。
ひかる「……すいません、ゆめは今、言葉にならないくらい感極まっていて。
この涙の理由は、私たちが一番よく知っています。だから……今は二人だけのものにさせてください」
悪戯っぽく、だけど誰も踏み込ませない強い視線でカメラを見据えてひかるが笑う。
それは、センターとしての圧倒的なカリスマ性と同期への深い愛が混ざり合った完璧なアドリブだった。
司会「お、おおっと! センター森田ひかるからの熱い抱擁! これぞ櫻坂の絆ですね!」
配信のコメント欄が「尊い」「ひかるかっこよすぎる」「神展開」と、歓喜の渦に包まれていく。
誰も、ゆめの涙に色がないことなど疑いもしなかった。
生配信が終わり、楽屋への通路。
他のメンバーより一歩遅れて歩く二人は、薄暗い廊下の陰に滑り込んだ。
ひかるの衣装の胸元には、ゆめが流した涙の跡が、色移りすることなくただの水たまりとして濡れている。
ゆめ「ありがと、ひかる。……また、守ってもらっちゃったね」
ゆめはまだ少し潤んだ目で、愛おしそうにひかるを見上げた。
ひかる「もう。心臓が止まるかと思ったんだからね」
ひかるは呆れたように息を吐きながらも、その頬を優しく指で拭う。
触れた指先から、ゆめの体温が伝わってくる。
ひかる「世界が何と言おうと、私には分かってるよ。今のゆめの涙はね、私へのありがとうと、ちょっとの大好きが混ざった色。……ピンクよりも、ずっとずっと可愛い色だよ」
ゆめ「……うん。正解」
ゆめは小さく笑うと、ひかるの首に腕を絡ませ、誰にも見えない暗がりのなかで静かに唇を重ねた。
色に支配された世界で二人の間だけには、誰も定義できない透明な愛が確かにきらめいていた。