中編
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あの日を境に、ファンの間ではひかるがゆめを過保護に守る姿が定番の尊いコンビとして定着していた。
けれど、守られ続けるだけではいられない。
櫻坂46のニューシングル、そのMV撮影の日は刻一刻と近づいていた。
今回の楽曲のテーマは「偽りの世界からの脱却」。
皮肉なことに、ラストシーンにはフロントメンバーであるゆめの涙のクローズアップがコンテに組み込まれていた。
監督は、妥協を許さないことで有名な気鋭のクリエイターだ。
監督「ゆめさん、このシーンでは葛藤の末に流す、深く美しい紫(怒りと悲しみ)の涙が欲しい。CGじゃなく、君の本当の感情の色を見せてくれ」
撮影現場の張り詰めた空気の中、ひかるは拳を握りしめた。
感情を昂らせれば昂らせるほど、ゆめの瞳から溢れるのはどこまでも透明な水だ。
それがカメラに捉えられれば、一発で彼女の秘密が露呈してしまう。
ゆめ(どうする……私がまた、遮る? でも、MVの撮影じゃそれは通用しない……)
ひかるの焦りを感じ取ったのかゆめはひかるの手をそっと握り、静かに首を振った。
その瞳には、かつてのような怯えはなく、どこか覚悟を決めたような強い光が宿っていた。
ゆめ「大丈夫だよ、ひかる」
スタッフ「本番、いきまーす! 3、2、1……アクション!」
激しいダンスシーンが終わり、静寂が訪れる。
カメラがじりじりとゆめの顔に寄っていく。
強いライトに照らされた彼女の顔は、神々しいほどに美しかった。
ゆめは、じっとレンズの向こうを見つめる。
彼女の脳裏に去来するのは、この息苦しい世界への怒り。
そして、一人で怯えていた自分を暗闇から救い出してくれた、ひかるの温もり。
ゆめ(私は、私のままでいい。色なんて、世界に決めさせない──)
感情が最高潮に達した瞬間、ゆめの目から、一滴の大きな雫が溢れ落ちた。
美しい流線を描いて、頬を伝う。
──やはり、そこには何の色もなかった。
監督「……え?」
カメラマンが、そしてモニターを見ていた監督が、息を呑む。
撮影現場が、凍りついたような静寂に包まれた。
監督「色が……ない?」
スタッフ「どういうことだ、機材のトラブルか!?」
ざわめき始めるスタッフたち。
誰もが混乱し、ゆめを異物を見るような目で見つめ始める。
その不穏な空気を破ったのは、モニターを一心に見つめていた監督の震えるような声だった。
監督「いや……違う。これは……」
監督は立ち上がり、画面を凝視した。
色のついた涙が当たり前になったこの世界で、誰もが記号化された感情を消費していた。
赤だから怒り、青だから悲しみ。
まるで答え合わせをするように。
だが、ゆめの流した透明な涙は、ライトの光をすべての方向に乱反射させ、まるで虹のようなありとあらゆる輝きを放っていたのだ。
監督「赤でも青でもない……すべてを内包した、新しい光だ」
監督の言葉に、現場の空気が一変する。
それは異物への恐怖ではなく、圧倒的な美への感嘆だった。
監督「カット!……素晴らしい。これで行こう。世界をひっくり返す映像になるぞ」
撮影が終了し、撤収作業に追われる喧騒の中。
誰もいないロケバスの最後列で、二人は並んで座っていた。
ひかる「……心臓、破裂するかと思った」
ひかるが大きなため息をつきながら、ゆめの肩に頭を預ける。
ゆめ「ふふ、私も。でもね、不思議と怖くなかったよ。ひかるがずっと味方でいてくれたから」
ゆめはそう言うと、ひかるの髪を愛おしそうに撫でた。
彼女の涙は、世界を騙す「黒」ではなかった。
世界に迎合するどんな色でもなかった。
何色にも染まらないその透明さは、世界への静かな反逆であり彼女だけの純粋な証明だった。
ゆめ「ねぇ、ひかる。私の涙、綺麗だった?」
ひかる「うん。世界で一番、綺麗だったよ」
窓の外には、夕暮れのグラデーションが広がっている。
どんな色に満ちた世界だろうと、二人が紡ぐ透明な物語は、誰にも汚されることはない。
ひかるは顔を上げ、少し悪戯っぽく笑うと、ゆめの唇にそっと自分からキスをした。
けれど、守られ続けるだけではいられない。
櫻坂46のニューシングル、そのMV撮影の日は刻一刻と近づいていた。
今回の楽曲のテーマは「偽りの世界からの脱却」。
皮肉なことに、ラストシーンにはフロントメンバーであるゆめの涙のクローズアップがコンテに組み込まれていた。
監督は、妥協を許さないことで有名な気鋭のクリエイターだ。
監督「ゆめさん、このシーンでは葛藤の末に流す、深く美しい紫(怒りと悲しみ)の涙が欲しい。CGじゃなく、君の本当の感情の色を見せてくれ」
撮影現場の張り詰めた空気の中、ひかるは拳を握りしめた。
感情を昂らせれば昂らせるほど、ゆめの瞳から溢れるのはどこまでも透明な水だ。
それがカメラに捉えられれば、一発で彼女の秘密が露呈してしまう。
ゆめ(どうする……私がまた、遮る? でも、MVの撮影じゃそれは通用しない……)
ひかるの焦りを感じ取ったのかゆめはひかるの手をそっと握り、静かに首を振った。
その瞳には、かつてのような怯えはなく、どこか覚悟を決めたような強い光が宿っていた。
ゆめ「大丈夫だよ、ひかる」
スタッフ「本番、いきまーす! 3、2、1……アクション!」
激しいダンスシーンが終わり、静寂が訪れる。
カメラがじりじりとゆめの顔に寄っていく。
強いライトに照らされた彼女の顔は、神々しいほどに美しかった。
ゆめは、じっとレンズの向こうを見つめる。
彼女の脳裏に去来するのは、この息苦しい世界への怒り。
そして、一人で怯えていた自分を暗闇から救い出してくれた、ひかるの温もり。
ゆめ(私は、私のままでいい。色なんて、世界に決めさせない──)
感情が最高潮に達した瞬間、ゆめの目から、一滴の大きな雫が溢れ落ちた。
美しい流線を描いて、頬を伝う。
──やはり、そこには何の色もなかった。
監督「……え?」
カメラマンが、そしてモニターを見ていた監督が、息を呑む。
撮影現場が、凍りついたような静寂に包まれた。
監督「色が……ない?」
スタッフ「どういうことだ、機材のトラブルか!?」
ざわめき始めるスタッフたち。
誰もが混乱し、ゆめを異物を見るような目で見つめ始める。
その不穏な空気を破ったのは、モニターを一心に見つめていた監督の震えるような声だった。
監督「いや……違う。これは……」
監督は立ち上がり、画面を凝視した。
色のついた涙が当たり前になったこの世界で、誰もが記号化された感情を消費していた。
赤だから怒り、青だから悲しみ。
まるで答え合わせをするように。
だが、ゆめの流した透明な涙は、ライトの光をすべての方向に乱反射させ、まるで虹のようなありとあらゆる輝きを放っていたのだ。
監督「赤でも青でもない……すべてを内包した、新しい光だ」
監督の言葉に、現場の空気が一変する。
それは異物への恐怖ではなく、圧倒的な美への感嘆だった。
監督「カット!……素晴らしい。これで行こう。世界をひっくり返す映像になるぞ」
撮影が終了し、撤収作業に追われる喧騒の中。
誰もいないロケバスの最後列で、二人は並んで座っていた。
ひかる「……心臓、破裂するかと思った」
ひかるが大きなため息をつきながら、ゆめの肩に頭を預ける。
ゆめ「ふふ、私も。でもね、不思議と怖くなかったよ。ひかるがずっと味方でいてくれたから」
ゆめはそう言うと、ひかるの髪を愛おしそうに撫でた。
彼女の涙は、世界を騙す「黒」ではなかった。
世界に迎合するどんな色でもなかった。
何色にも染まらないその透明さは、世界への静かな反逆であり彼女だけの純粋な証明だった。
ゆめ「ねぇ、ひかる。私の涙、綺麗だった?」
ひかる「うん。世界で一番、綺麗だったよ」
窓の外には、夕暮れのグラデーションが広がっている。
どんな色に満ちた世界だろうと、二人が紡ぐ透明な物語は、誰にも汚されることはない。
ひかるは顔を上げ、少し悪戯っぽく笑うと、ゆめの唇にそっと自分からキスをした。