中嶋優月
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高校3年の春。教室は体育祭の種目決めで、文化祭前のような浮ついた空気に包まれていた。
学級委員の中嶋優月は、黒板の前でチョークを走らせる。
ゆづき「……はい、じゃあ最後。目玉の学年対抗リレーの女子アンカーだけど。」
いとは「そんなのゆめしかいないでしょ!」
ゆめ「えー、私リレーも出るのに? どんだけ走らせるの笑」
文句を言いながらも、ゆめは楽しそうに笑っている。
1年生の時からずっと同じクラス。
運動も勉強もできて、誰に対しても分け隔てなく接する彼女は、まさに学校中の憧れだった。
優月は、そんな彼女と同じグループで、たまに一緒に下校もする。
でも、どれだけ距離が縮まっても、心の奥にある好きという言葉だけは、喉の奥で渋滞して出てこなかった。
ゆづき「……じゃあ、ゆめに決定ね。頼んだよ?」
ゆめ「了解。ゆづきがそう言うなら、絶対1位でゴールしてあげる。」
そう言ってウインクしてくる彼女に、優月の心臓はいつだってオーバーヒート寸前だった。
砂埃が舞い、熱狂に包まれる校庭。
プログラム12番、借り物競走。ゆめがスタートラインに立つと、黄色い歓声が上がった。
ピストルの音とともに、彼女は弾丸のように飛び出す。
コースの中盤で紙を拾い、立ち止まった彼女は、一瞬だけ困ったような、でもどこか覚悟を決めたような顔をして観客席を振り返った。
ゆめ「ゆづき! どこ!? 中嶋優月!!」
マイクを通さない生の声が、優月の耳に届く。
ゆづき「え、私!?」
ゆめ「いいから早く、こっち!!」
呆然とする優月の腕を、駆け寄ってきたゆめが力強く掴んだ。
繋がれた手。全校生徒の視線。
爆速で走る彼女に必死についていきながら、優月は自分の足音よりも激しい鼓動を聞いていた。
ゆづき「ちょ、早すぎるって……!」
ゆめ「我慢して! すぐゴールだから!」
二人はそのまま、トップでゴールテープを切った。
審判の先生に紙を見せ、照れくさそうに笑うゆめ。
優月は肩で息をしながら、「お題、何だったの?」と聞こうとしたが、彼女は「後でね」とだけ言い残して、次のリレーの準備へ向かってしまった。
すべての競技が終わり、後片付けも済んだ校門前。
夕日はオレンジ色というより、少し紫がかった切ない色をしていた。
二人きりで歩きながら、優月は我慢できずに口を開いた。
ゆづき「ねぇ、いい加減教えてよ。今日のお題、なんだったの?」
ゆめ「……秘密。」
ゆづき「えー、私あんなに全力疾走させられたのに!」
ゆめ「あはは、ごめん。でも、ゆづきがいてくれないと成立しなかったんだもん。」
ゆめは少しだけ歩幅を落として、影を長く伸ばす。
優月は、少し意地悪な気持ちと、本当の答えを知るのが怖い気持ちを混ぜて、わざと茶化すように言った。
ゆづき「もしかしてだけど……『好きな人』とかだったりして? 笑。もしそうなら、私、勘違いしちゃうよー?」
冗談っぽく笑って、彼女の顔を覗き込む。
いつもなら「なわけないじゃん!」と笑い飛ばしてくれるはずだった。
けれど。
ゆめ「……。」
ゆめは足を止め、俯いた。
夕焼けのせいかと思ったけれど、明らかに彼女の耳たぶは真っ赤に染まっている。
ゆづき「え……ちょ、 ゆめ?」
ゆめ「……勘違いじゃないから。」
ゆづき「……え?」
ゆめ「わざと言ってるでしょ。あのお題、ゆづき以外を連れていく選択肢なんて、私の中に一ミリもなかったよ。」
ゆめは、ポケットから四つ折りにされた紙を取り出し、優月に突きつけた。
手が震えているのが見て取れる。
優月がおずおずとそれを受け取って広げると、そこにはこう書かれていた。
『あなたの、好きな人』
ゆづき「…… ゆめ、これ。」
ゆめ「3年間、ずっと同じクラスで……ずっと一緒に帰りたくて、部活がない日を狙ってた。」
ゆづき「え……それ、私も同じだった。」
ゆめ「……え?」
今度はゆめが驚いて顔を上げる。
優月は、握りしめた紙を胸に当てて、今までで一番勇気を出した。
ゆづき「私の方こそ、ずっとずっと、 ゆめの特別になりたいって思ってた。……お題、それにしてくれて、ありがとう。」
ゆめ「……あー、もう。かっこつけて損した。」
ゆめは恥ずかしそうに髪を掻きむしると、今度は優月の手を、指を絡めるようにしてしっかりと握りしめた。
ゆめ「借り物じゃないから。……これから先も、ずっと隣にいてくれる?」
ゆづき「……うん。喜んで。」
人気のない帰り道。
二人の影は、もうどちらがどちらか分からないくらい、ぴったりと重なっていた。
学級委員の中嶋優月は、黒板の前でチョークを走らせる。
ゆづき「……はい、じゃあ最後。目玉の学年対抗リレーの女子アンカーだけど。」
いとは「そんなのゆめしかいないでしょ!」
ゆめ「えー、私リレーも出るのに? どんだけ走らせるの笑」
文句を言いながらも、ゆめは楽しそうに笑っている。
1年生の時からずっと同じクラス。
運動も勉強もできて、誰に対しても分け隔てなく接する彼女は、まさに学校中の憧れだった。
優月は、そんな彼女と同じグループで、たまに一緒に下校もする。
でも、どれだけ距離が縮まっても、心の奥にある好きという言葉だけは、喉の奥で渋滞して出てこなかった。
ゆづき「……じゃあ、ゆめに決定ね。頼んだよ?」
ゆめ「了解。ゆづきがそう言うなら、絶対1位でゴールしてあげる。」
そう言ってウインクしてくる彼女に、優月の心臓はいつだってオーバーヒート寸前だった。
砂埃が舞い、熱狂に包まれる校庭。
プログラム12番、借り物競走。ゆめがスタートラインに立つと、黄色い歓声が上がった。
ピストルの音とともに、彼女は弾丸のように飛び出す。
コースの中盤で紙を拾い、立ち止まった彼女は、一瞬だけ困ったような、でもどこか覚悟を決めたような顔をして観客席を振り返った。
ゆめ「ゆづき! どこ!? 中嶋優月!!」
マイクを通さない生の声が、優月の耳に届く。
ゆづき「え、私!?」
ゆめ「いいから早く、こっち!!」
呆然とする優月の腕を、駆け寄ってきたゆめが力強く掴んだ。
繋がれた手。全校生徒の視線。
爆速で走る彼女に必死についていきながら、優月は自分の足音よりも激しい鼓動を聞いていた。
ゆづき「ちょ、早すぎるって……!」
ゆめ「我慢して! すぐゴールだから!」
二人はそのまま、トップでゴールテープを切った。
審判の先生に紙を見せ、照れくさそうに笑うゆめ。
優月は肩で息をしながら、「お題、何だったの?」と聞こうとしたが、彼女は「後でね」とだけ言い残して、次のリレーの準備へ向かってしまった。
すべての競技が終わり、後片付けも済んだ校門前。
夕日はオレンジ色というより、少し紫がかった切ない色をしていた。
二人きりで歩きながら、優月は我慢できずに口を開いた。
ゆづき「ねぇ、いい加減教えてよ。今日のお題、なんだったの?」
ゆめ「……秘密。」
ゆづき「えー、私あんなに全力疾走させられたのに!」
ゆめ「あはは、ごめん。でも、ゆづきがいてくれないと成立しなかったんだもん。」
ゆめは少しだけ歩幅を落として、影を長く伸ばす。
優月は、少し意地悪な気持ちと、本当の答えを知るのが怖い気持ちを混ぜて、わざと茶化すように言った。
ゆづき「もしかしてだけど……『好きな人』とかだったりして? 笑。もしそうなら、私、勘違いしちゃうよー?」
冗談っぽく笑って、彼女の顔を覗き込む。
いつもなら「なわけないじゃん!」と笑い飛ばしてくれるはずだった。
けれど。
ゆめ「……。」
ゆめは足を止め、俯いた。
夕焼けのせいかと思ったけれど、明らかに彼女の耳たぶは真っ赤に染まっている。
ゆづき「え……ちょ、 ゆめ?」
ゆめ「……勘違いじゃないから。」
ゆづき「……え?」
ゆめ「わざと言ってるでしょ。あのお題、ゆづき以外を連れていく選択肢なんて、私の中に一ミリもなかったよ。」
ゆめは、ポケットから四つ折りにされた紙を取り出し、優月に突きつけた。
手が震えているのが見て取れる。
優月がおずおずとそれを受け取って広げると、そこにはこう書かれていた。
『あなたの、好きな人』
ゆづき「…… ゆめ、これ。」
ゆめ「3年間、ずっと同じクラスで……ずっと一緒に帰りたくて、部活がない日を狙ってた。」
ゆづき「え……それ、私も同じだった。」
ゆめ「……え?」
今度はゆめが驚いて顔を上げる。
優月は、握りしめた紙を胸に当てて、今までで一番勇気を出した。
ゆづき「私の方こそ、ずっとずっと、 ゆめの特別になりたいって思ってた。……お題、それにしてくれて、ありがとう。」
ゆめ「……あー、もう。かっこつけて損した。」
ゆめは恥ずかしそうに髪を掻きむしると、今度は優月の手を、指を絡めるようにしてしっかりと握りしめた。
ゆめ「借り物じゃないから。……これから先も、ずっと隣にいてくれる?」
ゆづき「……うん。喜んで。」
人気のない帰り道。
二人の影は、もうどちらがどちらか分からないくらい、ぴったりと重なっていた。