村井優
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放課後の体育館。
ボールの音と、シューズが床を擦る音が響く中で、村井優の視線はいつも一人に向いていた。
キャプテン、ゆめ。
誰よりも上手くて、誰よりも声を出して、誰よりも周りを見ている人。
厳しいのに、ちゃんと一人一人を見てくれる。
だからみんなに好かれているし、当然——
遠い存在だった。
ゆう(……かっこいいな)
そんなこと、口に出せるわけもなくて。
ある日の練習後。
ゆう「ナイスシュートでした」
ゆめ「お、優。ありがと。優も今日よかったよ」
その一言だけで、心臓が跳ねる。
ゆう「え、ほんとですか…?」
ゆめ「うん。最近めっちゃ成長してる」
優しく笑うその顔に、視線を合わせられない。
ゆう(こんなの、好きにならない方が無理じゃん…)
それから少しして。
なぜか二人の距離は、少しずつ変わり始めた。
きっかけは、ほんの些細なことだった。
夜、課題についてLINEで聞いたこと。
その流れで——
通話になった。
ゆう「…あ、聞こえますか」
ゆめ「聞こえてるよ。なんか新鮮だね」
ゆう「ですね…」
最初はぎこちなくて、沈黙も多かった。
でも。
ゆめ「優ってさ、意外と負けず嫌いだよね」
ゆう「え、なんでですか」
ゆめ「顔に出てる」
ゆう「出てます!?」
くすっと笑う声が、耳元で近く感じる。
体育館よりもずっと近い距離に、ゆめがいる気がして——
少しだけ、胸が苦しくなる。
それからというもの。
通話は、気づけば“毎日”になっていた。
特に約束したわけでもないのに、夜になると自然と繋がる。
ゆう「今日もお疲れ様です」
ゆめ「優もね。今日は結構走ったもんね」
ゆう「キャプテンが走らせるからですよ」
ゆめ「あ、文句?」
ゆう「ち、違います!」
そんな他愛もない会話。
でも、それが何よりも嬉しかった。
ある日。
ゆう「……あの」
ゆめ「ん?」
ゆう「なんで、毎日通話してくれるんですか」
少しの沈黙。
心臓の音だけがうるさくなる。
ゆめ「優と話すの、楽しいから」
その一言で、全部が報われた気がした。
通話はそのまま続いて。
気づけば、時間は深夜を回っていた。
ゆめ「そろそろ寝る?」
ゆう「…もうちょっとだけ」
ゆめ「ふは、かわいいこと言うじゃん」
ゆう「っ……」
顔が熱くなる。
見られてないのに、恥ずかしい。
やがて。
会話が途切れて、静かな時間になる。
でも、通話は切らない。
お互いの呼吸だけが、微かに聞こえる。
ゆめ「……優、寝た?」
ゆう「……まだです」
ゆめ「そっか」
少し安心したような声。
ゆう(この時間、好きだな)
体育館では遠かった人が今はこんなにも近くにいる。
声だけなのに、すぐ隣にいるみたいで。
ゆう「キャプテン」
ゆめ「んー?」
ゆう「…明日も通話、いいですか」
少しだけ、勇気を出して。
ゆめ「いいよ。むしろ、優がいいなら毎日でも」
ゆう「……ほんとに?」
ゆめ「ほんとに」
その優しさが、また苦しい。
ゆう(これ以上好きになったら、どうするの)
届かないって思ってたはずなのに。
少しずつ近づいてる気がして。
でも——
それが“勘違い”だったら怖い。
沈黙のあと。
ゆめ「優」
ゆう「はい」
ゆめ「……ちゃんと寝ろよ」
優しい声。
でもどこか、少しだけ特別な響き。
ゆう「キャプテンも」
ゆめ「うん」
通話は切られないまま。
どちらからともなく、眠りに落ちていく。
ゆう(このまま、朝まで繋がってたい)
言えない気持ちを抱えたまま。
それでも。
“今”だけは、確かに繋がっていた。
放課後の体育館。
いつもと同じはずなのに、今日はやけに居心地が悪かった。
理由はわかってる。
ゆう(……見たくない)
コートの端で、ゆめが他の部員に囲まれて笑っている。
その中に、自分はいない。
ゆう(やっぱり、特別じゃないよね)
毎日通話して、寝落ちして。
少しだけ期待してしまっていた自分が、恥ずかしくなる。
その日の夜。
スマホが震える。
【ゆめ:通話】
画面を見つめたまま、指が動かない。
ゆう(出たら、また期待する)
数秒迷って——
ゆうは、通話を切った。
それから、数日。
通話は一度もしていない。
体育館でも、できるだけ目を合わせないようにしていた。
練習終わり。
荷物をまとめて、誰よりも早く帰ろうとしたとき。
ゆめ「優」
呼び止められる。
逃げられない距離。
ゆう「……お疲れ様です」
ゆめ「最近、なんか避けてる?」
ゆう「そんなことないです」
即答。でも、声が少し震える。
ゆめ「じゃあなんで通話出ないの」
ゆう「……」
答えられない。
沈黙が落ちる。
体育館の外、夕焼けが差し込む廊下。
逃げ場がない。
ゆう「……もう、やめた方がいいと思います」
やっと絞り出した言葉。
ゆめ「なにを」
ゆう「……通話とか」
ゆめ「なんで?」
ゆう「迷惑だと思うし」
ゆめ「思ってない」
即答。
優しい声なのに、それが逆に苦しい。
ゆう「でも……」
喉が詰まる。
言いたくないのに、止まらない。
ゆう「……好きになっちゃうので」
空気が、止まる。
言ってしまった。
終わった、と思った。
ゆう「……すみません」
顔を上げられない。
ゆう「忘れてください」
そのまま通り過ぎようとした瞬間——
腕を掴まれる。
ゆめ「待って」
ゆう「……離してください」
ゆめ「無理」
ゆう「なんでですか」
ゆめ「それ、もう遅いから」
ゆう「……え」
ゆっくり、引き寄せられる。
逃げ場が、なくなる。
ゆめ「優が好きになる前から、こっちは好き」
ゆう「……嘘」
ゆめ「嘘じゃない」
真っ直ぐな声。
逃げられない。
ゆめ「毎日通話してたのも、理由あると思ってた?」
ゆう「……優しいから、だと思ってました」
ゆめ「違う」
一歩、距離が縮まる。
ゆめ「好きだからだよ」
頭が真っ白になる。
理解が追いつかない。
ゆう「……でも、私なんか」
ゆめ「“なんか”って言うな」
少しだけ強い声。
でも、優しさは変わらない。
ゆめ「優じゃなきゃダメなんだって」
その一言で——
張り詰めていたものが、全部崩れた。
ゆう「……っ」
気づいたら、涙が落ちていた。
ゆう「だって……届かないと思ってて…」
ゆう「好きになっちゃいけないって、思ってて……」
声が震える。
止められない。
ゆめ「遅いって言ったでしょ」
ゆう「……」
ゆめ「もうとっくに、優のこと好きだから」
優しく、頭に手が乗る。
その温もりが、現実だって教えてくる。
ゆう「……ずるいです」
ゆめ「なにが」
ゆう「そんなの……」
涙を拭いながら。
ゆう「……もっと好きになるじゃないですか」
少しの沈黙。
そのあと、くすっと笑う声。
ゆめ「それでいいよ」
ゆっくりと、手を握られる。
ゆめ「これからは、遠慮しないで好きでいて」
ゆう「……はい」
小さく、でも確かに答える。
その日の夜。
久しぶりに繋がった通話。
ゆう「……なんか、緊張します」
ゆめ「前までと何が違うの」
ゆう「全部です」
ゆめ「かわいい」
ゆう「やめてください……」
しばらくして、静かな時間。
でも今日は、前よりずっと安心している。
ゆめ「優」
ゆう「はい」
ゆめ「好きだよ」
不意打ち。
一瞬で顔が熱くなる。
ゆう「……私も、好きです」
通話は切られないまま。
いつも通り、でも少し特別な夜。
今度はちゃんと、届いてる
ボールの音と、シューズが床を擦る音が響く中で、村井優の視線はいつも一人に向いていた。
キャプテン、ゆめ。
誰よりも上手くて、誰よりも声を出して、誰よりも周りを見ている人。
厳しいのに、ちゃんと一人一人を見てくれる。
だからみんなに好かれているし、当然——
遠い存在だった。
ゆう(……かっこいいな)
そんなこと、口に出せるわけもなくて。
ある日の練習後。
ゆう「ナイスシュートでした」
ゆめ「お、優。ありがと。優も今日よかったよ」
その一言だけで、心臓が跳ねる。
ゆう「え、ほんとですか…?」
ゆめ「うん。最近めっちゃ成長してる」
優しく笑うその顔に、視線を合わせられない。
ゆう(こんなの、好きにならない方が無理じゃん…)
それから少しして。
なぜか二人の距離は、少しずつ変わり始めた。
きっかけは、ほんの些細なことだった。
夜、課題についてLINEで聞いたこと。
その流れで——
通話になった。
ゆう「…あ、聞こえますか」
ゆめ「聞こえてるよ。なんか新鮮だね」
ゆう「ですね…」
最初はぎこちなくて、沈黙も多かった。
でも。
ゆめ「優ってさ、意外と負けず嫌いだよね」
ゆう「え、なんでですか」
ゆめ「顔に出てる」
ゆう「出てます!?」
くすっと笑う声が、耳元で近く感じる。
体育館よりもずっと近い距離に、ゆめがいる気がして——
少しだけ、胸が苦しくなる。
それからというもの。
通話は、気づけば“毎日”になっていた。
特に約束したわけでもないのに、夜になると自然と繋がる。
ゆう「今日もお疲れ様です」
ゆめ「優もね。今日は結構走ったもんね」
ゆう「キャプテンが走らせるからですよ」
ゆめ「あ、文句?」
ゆう「ち、違います!」
そんな他愛もない会話。
でも、それが何よりも嬉しかった。
ある日。
ゆう「……あの」
ゆめ「ん?」
ゆう「なんで、毎日通話してくれるんですか」
少しの沈黙。
心臓の音だけがうるさくなる。
ゆめ「優と話すの、楽しいから」
その一言で、全部が報われた気がした。
通話はそのまま続いて。
気づけば、時間は深夜を回っていた。
ゆめ「そろそろ寝る?」
ゆう「…もうちょっとだけ」
ゆめ「ふは、かわいいこと言うじゃん」
ゆう「っ……」
顔が熱くなる。
見られてないのに、恥ずかしい。
やがて。
会話が途切れて、静かな時間になる。
でも、通話は切らない。
お互いの呼吸だけが、微かに聞こえる。
ゆめ「……優、寝た?」
ゆう「……まだです」
ゆめ「そっか」
少し安心したような声。
ゆう(この時間、好きだな)
体育館では遠かった人が今はこんなにも近くにいる。
声だけなのに、すぐ隣にいるみたいで。
ゆう「キャプテン」
ゆめ「んー?」
ゆう「…明日も通話、いいですか」
少しだけ、勇気を出して。
ゆめ「いいよ。むしろ、優がいいなら毎日でも」
ゆう「……ほんとに?」
ゆめ「ほんとに」
その優しさが、また苦しい。
ゆう(これ以上好きになったら、どうするの)
届かないって思ってたはずなのに。
少しずつ近づいてる気がして。
でも——
それが“勘違い”だったら怖い。
沈黙のあと。
ゆめ「優」
ゆう「はい」
ゆめ「……ちゃんと寝ろよ」
優しい声。
でもどこか、少しだけ特別な響き。
ゆう「キャプテンも」
ゆめ「うん」
通話は切られないまま。
どちらからともなく、眠りに落ちていく。
ゆう(このまま、朝まで繋がってたい)
言えない気持ちを抱えたまま。
それでも。
“今”だけは、確かに繋がっていた。
放課後の体育館。
いつもと同じはずなのに、今日はやけに居心地が悪かった。
理由はわかってる。
ゆう(……見たくない)
コートの端で、ゆめが他の部員に囲まれて笑っている。
その中に、自分はいない。
ゆう(やっぱり、特別じゃないよね)
毎日通話して、寝落ちして。
少しだけ期待してしまっていた自分が、恥ずかしくなる。
その日の夜。
スマホが震える。
【ゆめ:通話】
画面を見つめたまま、指が動かない。
ゆう(出たら、また期待する)
数秒迷って——
ゆうは、通話を切った。
それから、数日。
通話は一度もしていない。
体育館でも、できるだけ目を合わせないようにしていた。
練習終わり。
荷物をまとめて、誰よりも早く帰ろうとしたとき。
ゆめ「優」
呼び止められる。
逃げられない距離。
ゆう「……お疲れ様です」
ゆめ「最近、なんか避けてる?」
ゆう「そんなことないです」
即答。でも、声が少し震える。
ゆめ「じゃあなんで通話出ないの」
ゆう「……」
答えられない。
沈黙が落ちる。
体育館の外、夕焼けが差し込む廊下。
逃げ場がない。
ゆう「……もう、やめた方がいいと思います」
やっと絞り出した言葉。
ゆめ「なにを」
ゆう「……通話とか」
ゆめ「なんで?」
ゆう「迷惑だと思うし」
ゆめ「思ってない」
即答。
優しい声なのに、それが逆に苦しい。
ゆう「でも……」
喉が詰まる。
言いたくないのに、止まらない。
ゆう「……好きになっちゃうので」
空気が、止まる。
言ってしまった。
終わった、と思った。
ゆう「……すみません」
顔を上げられない。
ゆう「忘れてください」
そのまま通り過ぎようとした瞬間——
腕を掴まれる。
ゆめ「待って」
ゆう「……離してください」
ゆめ「無理」
ゆう「なんでですか」
ゆめ「それ、もう遅いから」
ゆう「……え」
ゆっくり、引き寄せられる。
逃げ場が、なくなる。
ゆめ「優が好きになる前から、こっちは好き」
ゆう「……嘘」
ゆめ「嘘じゃない」
真っ直ぐな声。
逃げられない。
ゆめ「毎日通話してたのも、理由あると思ってた?」
ゆう「……優しいから、だと思ってました」
ゆめ「違う」
一歩、距離が縮まる。
ゆめ「好きだからだよ」
頭が真っ白になる。
理解が追いつかない。
ゆう「……でも、私なんか」
ゆめ「“なんか”って言うな」
少しだけ強い声。
でも、優しさは変わらない。
ゆめ「優じゃなきゃダメなんだって」
その一言で——
張り詰めていたものが、全部崩れた。
ゆう「……っ」
気づいたら、涙が落ちていた。
ゆう「だって……届かないと思ってて…」
ゆう「好きになっちゃいけないって、思ってて……」
声が震える。
止められない。
ゆめ「遅いって言ったでしょ」
ゆう「……」
ゆめ「もうとっくに、優のこと好きだから」
優しく、頭に手が乗る。
その温もりが、現実だって教えてくる。
ゆう「……ずるいです」
ゆめ「なにが」
ゆう「そんなの……」
涙を拭いながら。
ゆう「……もっと好きになるじゃないですか」
少しの沈黙。
そのあと、くすっと笑う声。
ゆめ「それでいいよ」
ゆっくりと、手を握られる。
ゆめ「これからは、遠慮しないで好きでいて」
ゆう「……はい」
小さく、でも確かに答える。
その日の夜。
久しぶりに繋がった通話。
ゆう「……なんか、緊張します」
ゆめ「前までと何が違うの」
ゆう「全部です」
ゆめ「かわいい」
ゆう「やめてください……」
しばらくして、静かな時間。
でも今日は、前よりずっと安心している。
ゆめ「優」
ゆう「はい」
ゆめ「好きだよ」
不意打ち。
一瞬で顔が熱くなる。
ゆう「……私も、好きです」
通話は切られないまま。
いつも通り、でも少し特別な夜。
今度はちゃんと、届いてる