中嶋優月
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個室の扉が閉まると、外のざわめきがすっと遠のいた。
落ち着いた照明と、木のぬくもりを感じる空間。
向かい合って座るふたりの間には、まだ手をつけていない料理が並んでいる。
けれど——
ゆづき「……ねぇ、りか」
りか「んー?」
ゆづき「ほんとにさ、どうしよう」
りか「急に重いじゃん」
ゆづきは箸を持ったまま、ふっと視線を落とした。
ゆづき「ゆめのこと、好きすぎてさ」
りか「……あー、出た」
ゆづき「もうさ、普通にしてられないんだけど」
りか「いや、もうバレてるレベルだと思うよ?」
ゆづき「え、うそ」
りか「うそじゃないって。見てて分かるもん」
ゆづきは頭を抱えるようにして、テーブルに軽く突っ伏す。
ゆづき「終わった……」
りか「いや終わってない終わってない」
りかは笑いながらも、少しだけ真剣な目をした。
りか「で、どこがそんなに好きなの?」
ゆづき「全部」
りか「雑」
ゆづき「だってほんとに全部なんだもん……」
少し間を置いて、ゆづきはぽつりと続ける。
ゆづき「笑った顔も、ちょっと抜けてるとこも、優しいとこも……あと、たまに距離近いのとか」
りか「それは意識するやつだね」
ゆづき「するでしょ!?するよね!?」
その声は少しだけ大きくなってしまった。
——その時。
隣の個室。
ひかる「……今、名前出たよね?」
てん「出たね」
ゆめ「……え、なに?」
ひかる「いや、ゆめの話してる」
ゆめ「え?」
てんは壁の方に軽く耳を傾ける。
てん「めっちゃガチなトーン」
ひかる「これ、盗み聞きしてるみたいであれだけどさ」
ゆめ「やめなって……」
そう言いながらも、ゆめも自然と静かになる。
壁は薄い。
完全に聞こえるわけじゃないけど、声のトーンや断片は拾える。
——再び、隣の個室。
ゆづき「ねぇ、どうしたらいいと思う?」
りか「告白すれば?」
ゆづき「無理」
りか「即答すぎ」
ゆづき「だって関係壊れたら無理だもん……」
りかは少し考えてから、優しく言う。
りか「じゃあさ、少しずつでいいんじゃない?」
ゆづき「少しずつ?」
りか「距離縮めてさ、相手の気持ちもちゃんと見て」
ゆづき「……それで、もしダメだったら?」
りか「その時はその時」
ゆづき「軽いなぁ」
りか「でもさ」
りかはふっと笑う。
りか「何も言わないまま後悔する方が、絶対しんどいよ」
その言葉に、ゆづきは黙り込む。
そして、小さく息を吐いた。
ゆづき「……怖いんだよ」
りか「うん」
ゆづき「でも、好きなんだよね」
りか「うん」
ゆづき「どうしようもないくらい」
——隣の個室。
沈黙。
ゆめは視線を落としていた。
ひかる「……どうするの?」
てん「どうするの、じゃないでしょ」
ゆめ「……」
ひかる「聞いちゃった以上、もう知らないフリできないよ」
てん「しかもあの感じ、ガチだよ」
ゆめは少しだけ笑って、でもどこか困ったような顔をする。
ゆめ「……ずるいなぁ」
ひかる「なにが?」
ゆめ「そんな風に思われてるって知ったらさ」
てん「うん」
ゆめ「意識しちゃうじゃん」
ひかる「もうしてるでしょ」
ゆめ「……してる、前からね」
その一言に、空気が少しだけ変わった。
てん「じゃあさ」
てんはニヤッと笑う。
てん「このあと、どう動くかだね」
——再び、ゆづきたちの個室。
ゆづき「……とりあえず、今日は普通にする」
りか「それが一番むずいけどね」
ゆづき「無理だったらどうしよ」
りか「顔に出るタイプだもんね」
ゆづき「やめて」
その時。
コンコン、と軽くノックの音。
ゆづき「……え?」
店員かと思って、ゆづきが扉を少し開ける。
そこに立っていたのは——
ゆめ「やっほ」
ゆづき「…………え?」
りか「うわ、タイミング」
後ろには、ひかるとてんが楽しそうに立っている。
ゆづきの頭は、一瞬で真っ白になった。
ゆめは少しだけ困ったように笑って、
ゆめ「……ちょっと、話していい?」
その一言で。
扉がゆっくり閉まる。
さっきまでの空気が嘘みたいに、静かで張り詰めた空間になる。
ゆづきは固まったまま、目の前のゆめを見つめていた。
ゆづき「……なんで、ここに……」
ひかる「ごめん、偶然隣でさ」
てん「しかも、まあまあ聞こえちゃった」
りか「最悪じゃん……」
ゆづき「ほんとに最悪……」
顔を覆うゆづき。
耳まで真っ赤になっている。
ゆめは少しだけ距離を詰めた。
ゆめ「……ごめん」
ゆづき「なんでゆめが謝るの……」
ゆめ「盗み聞きみたいになっちゃったし」
りか「いや、壁が悪い」
てん「それはそう」
ひかる「でもまぁ、聞いちゃったものはしょうがないよね〜」
空気を軽くしようとする声たちの中で、ゆづきは小さく息を吸った。
ゆづき「……全部、聞いたの?」
ゆめ「……うん」
その一言で、逃げ場はなくなった。
ゆづきは少しだけ俯いて、笑う。
ゆづき「じゃあ、もういいや」
りか「え?」
ゆづき「どうせバレてるならさ」
ゆづきは顔を上げた。
まっすぐ、ゆめを見る。
震えているけど、目だけは逃げていない。
ゆづき「好きだよ」
一瞬、誰も何も言わない。
ゆづき「ずっと好きだった」
ゆづき「でも、言うつもりなかった」
ゆづき「今みたいな形じゃなければ」
少しだけ笑う。
ゆづき「……かっこ悪いね」
りか「そんなことないでしょ」
小さく背中を押すような声。
ひかるとてんも、黙って見守っている。
ゆめは、しばらく何も言わなかった。
ただ、ゆづきを見ている。
その沈黙が、やけに長く感じる。
ゆづき「……返事、今じゃなくていいから」
耐えきれなくなったように、視線を逸らす。
ゆづき「困らせたくないし」
その瞬間——
ゆめ「困ってないよ」
ゆづき「……え」
ゆめは一歩、さらに近づく。
ゆめ「びっくりはしたけど」
ゆめ「嬉しかった」
ゆづきの目が揺れる。
ゆづき「……ほんとに?」
ゆめ「うん」
少しだけ照れたように笑う。
ゆめ「正直、前から気になってた」
りか「ほらね」
てん「そうだよね〜」
ひかる「うんうん」
ゆづき「ちょっと待って、情報多い」
頭を抱えるゆづきに、ゆめは優しく言う。
ゆめ「でもさ」
ゆめ「ちゃんと聞かせてほしい」
ゆづき「……なにを?」
ゆめ「ゆづきの言葉で」
ゆめ「さっきの、ちゃんと全部」
ゆづきは一瞬戸惑って、でも小さく頷く。
ゆづき「……好き」
ゆづき「優しいとことか、たまに距離近いとことか」
ゆづき「あと、名前呼ばれるだけで嬉しくなるとことか」
ゆづき「……全部」
声は震えているけど、言葉は止まらない。
ゆづき「どうしようもないくらい好き」
静かな空間に、その想いだけが残る。
ゆめは、ふっと息を吐いて——
ゆっくり、ゆづきの手を取った。
ゆづき「……っ」
ゆめ「じゃあさ」
少しだけ意地悪そうに笑う。
ゆめ「こっちも、ちゃんと返さないとね」
ゆづき「……え」
ゆめ「好きだよ」
その一言は、驚くくらいあっさりしていて、でも真っ直ぐだった。
ゆづき「……ほんとに?」
ゆめ「うん」
ゆめ「さっき言ったでしょ、意識してるって」
ひかる「はい成立〜」
てん「おめでとー!!!」
りか「良かったじゃん、ほんとに」
ゆづきは何も言えなくなって、
ただ、握られた手をぎゅっと握り返した。
ゆづき「……夢じゃないよね」
ゆめ「だったらどうする?」
ゆづき「絶対起きない」
小さく笑い合うふたり。
その距離は、さっきまでとはまるで違っていた。
てん「じゃあ、私たち邪魔だね」
ひかる「空気読んで出ますか」
りか「最初からそのつもり〜」
3人はそっと席を立つ。
扉の前で、りかが振り返る。
りか「あとで詳しく聞かせてね」
ゆづき「やめてほんとに」
笑い声と一緒に、扉が閉まる。
静かになった個室。
向かい合うふたり。
さっきまでの「壁」はもうない。
ゆづき「……ねぇ」
ゆめ「ん?」
ゆづき「これから、どうする?」
ゆめは少し考えてから、優しく言う。
ゆめ「とりあえず、ご飯ちゃんと食べよっか」
ゆづき「……それはそう」
ふたりで笑う。
でも、その笑いの奥にあるのは——
もう隠さなくていい恋だった。
落ち着いた照明と、木のぬくもりを感じる空間。
向かい合って座るふたりの間には、まだ手をつけていない料理が並んでいる。
けれど——
ゆづき「……ねぇ、りか」
りか「んー?」
ゆづき「ほんとにさ、どうしよう」
りか「急に重いじゃん」
ゆづきは箸を持ったまま、ふっと視線を落とした。
ゆづき「ゆめのこと、好きすぎてさ」
りか「……あー、出た」
ゆづき「もうさ、普通にしてられないんだけど」
りか「いや、もうバレてるレベルだと思うよ?」
ゆづき「え、うそ」
りか「うそじゃないって。見てて分かるもん」
ゆづきは頭を抱えるようにして、テーブルに軽く突っ伏す。
ゆづき「終わった……」
りか「いや終わってない終わってない」
りかは笑いながらも、少しだけ真剣な目をした。
りか「で、どこがそんなに好きなの?」
ゆづき「全部」
りか「雑」
ゆづき「だってほんとに全部なんだもん……」
少し間を置いて、ゆづきはぽつりと続ける。
ゆづき「笑った顔も、ちょっと抜けてるとこも、優しいとこも……あと、たまに距離近いのとか」
りか「それは意識するやつだね」
ゆづき「するでしょ!?するよね!?」
その声は少しだけ大きくなってしまった。
——その時。
隣の個室。
ひかる「……今、名前出たよね?」
てん「出たね」
ゆめ「……え、なに?」
ひかる「いや、ゆめの話してる」
ゆめ「え?」
てんは壁の方に軽く耳を傾ける。
てん「めっちゃガチなトーン」
ひかる「これ、盗み聞きしてるみたいであれだけどさ」
ゆめ「やめなって……」
そう言いながらも、ゆめも自然と静かになる。
壁は薄い。
完全に聞こえるわけじゃないけど、声のトーンや断片は拾える。
——再び、隣の個室。
ゆづき「ねぇ、どうしたらいいと思う?」
りか「告白すれば?」
ゆづき「無理」
りか「即答すぎ」
ゆづき「だって関係壊れたら無理だもん……」
りかは少し考えてから、優しく言う。
りか「じゃあさ、少しずつでいいんじゃない?」
ゆづき「少しずつ?」
りか「距離縮めてさ、相手の気持ちもちゃんと見て」
ゆづき「……それで、もしダメだったら?」
りか「その時はその時」
ゆづき「軽いなぁ」
りか「でもさ」
りかはふっと笑う。
りか「何も言わないまま後悔する方が、絶対しんどいよ」
その言葉に、ゆづきは黙り込む。
そして、小さく息を吐いた。
ゆづき「……怖いんだよ」
りか「うん」
ゆづき「でも、好きなんだよね」
りか「うん」
ゆづき「どうしようもないくらい」
——隣の個室。
沈黙。
ゆめは視線を落としていた。
ひかる「……どうするの?」
てん「どうするの、じゃないでしょ」
ゆめ「……」
ひかる「聞いちゃった以上、もう知らないフリできないよ」
てん「しかもあの感じ、ガチだよ」
ゆめは少しだけ笑って、でもどこか困ったような顔をする。
ゆめ「……ずるいなぁ」
ひかる「なにが?」
ゆめ「そんな風に思われてるって知ったらさ」
てん「うん」
ゆめ「意識しちゃうじゃん」
ひかる「もうしてるでしょ」
ゆめ「……してる、前からね」
その一言に、空気が少しだけ変わった。
てん「じゃあさ」
てんはニヤッと笑う。
てん「このあと、どう動くかだね」
——再び、ゆづきたちの個室。
ゆづき「……とりあえず、今日は普通にする」
りか「それが一番むずいけどね」
ゆづき「無理だったらどうしよ」
りか「顔に出るタイプだもんね」
ゆづき「やめて」
その時。
コンコン、と軽くノックの音。
ゆづき「……え?」
店員かと思って、ゆづきが扉を少し開ける。
そこに立っていたのは——
ゆめ「やっほ」
ゆづき「…………え?」
りか「うわ、タイミング」
後ろには、ひかるとてんが楽しそうに立っている。
ゆづきの頭は、一瞬で真っ白になった。
ゆめは少しだけ困ったように笑って、
ゆめ「……ちょっと、話していい?」
その一言で。
扉がゆっくり閉まる。
さっきまでの空気が嘘みたいに、静かで張り詰めた空間になる。
ゆづきは固まったまま、目の前のゆめを見つめていた。
ゆづき「……なんで、ここに……」
ひかる「ごめん、偶然隣でさ」
てん「しかも、まあまあ聞こえちゃった」
りか「最悪じゃん……」
ゆづき「ほんとに最悪……」
顔を覆うゆづき。
耳まで真っ赤になっている。
ゆめは少しだけ距離を詰めた。
ゆめ「……ごめん」
ゆづき「なんでゆめが謝るの……」
ゆめ「盗み聞きみたいになっちゃったし」
りか「いや、壁が悪い」
てん「それはそう」
ひかる「でもまぁ、聞いちゃったものはしょうがないよね〜」
空気を軽くしようとする声たちの中で、ゆづきは小さく息を吸った。
ゆづき「……全部、聞いたの?」
ゆめ「……うん」
その一言で、逃げ場はなくなった。
ゆづきは少しだけ俯いて、笑う。
ゆづき「じゃあ、もういいや」
りか「え?」
ゆづき「どうせバレてるならさ」
ゆづきは顔を上げた。
まっすぐ、ゆめを見る。
震えているけど、目だけは逃げていない。
ゆづき「好きだよ」
一瞬、誰も何も言わない。
ゆづき「ずっと好きだった」
ゆづき「でも、言うつもりなかった」
ゆづき「今みたいな形じゃなければ」
少しだけ笑う。
ゆづき「……かっこ悪いね」
りか「そんなことないでしょ」
小さく背中を押すような声。
ひかるとてんも、黙って見守っている。
ゆめは、しばらく何も言わなかった。
ただ、ゆづきを見ている。
その沈黙が、やけに長く感じる。
ゆづき「……返事、今じゃなくていいから」
耐えきれなくなったように、視線を逸らす。
ゆづき「困らせたくないし」
その瞬間——
ゆめ「困ってないよ」
ゆづき「……え」
ゆめは一歩、さらに近づく。
ゆめ「びっくりはしたけど」
ゆめ「嬉しかった」
ゆづきの目が揺れる。
ゆづき「……ほんとに?」
ゆめ「うん」
少しだけ照れたように笑う。
ゆめ「正直、前から気になってた」
りか「ほらね」
てん「そうだよね〜」
ひかる「うんうん」
ゆづき「ちょっと待って、情報多い」
頭を抱えるゆづきに、ゆめは優しく言う。
ゆめ「でもさ」
ゆめ「ちゃんと聞かせてほしい」
ゆづき「……なにを?」
ゆめ「ゆづきの言葉で」
ゆめ「さっきの、ちゃんと全部」
ゆづきは一瞬戸惑って、でも小さく頷く。
ゆづき「……好き」
ゆづき「優しいとことか、たまに距離近いとことか」
ゆづき「あと、名前呼ばれるだけで嬉しくなるとことか」
ゆづき「……全部」
声は震えているけど、言葉は止まらない。
ゆづき「どうしようもないくらい好き」
静かな空間に、その想いだけが残る。
ゆめは、ふっと息を吐いて——
ゆっくり、ゆづきの手を取った。
ゆづき「……っ」
ゆめ「じゃあさ」
少しだけ意地悪そうに笑う。
ゆめ「こっちも、ちゃんと返さないとね」
ゆづき「……え」
ゆめ「好きだよ」
その一言は、驚くくらいあっさりしていて、でも真っ直ぐだった。
ゆづき「……ほんとに?」
ゆめ「うん」
ゆめ「さっき言ったでしょ、意識してるって」
ひかる「はい成立〜」
てん「おめでとー!!!」
りか「良かったじゃん、ほんとに」
ゆづきは何も言えなくなって、
ただ、握られた手をぎゅっと握り返した。
ゆづき「……夢じゃないよね」
ゆめ「だったらどうする?」
ゆづき「絶対起きない」
小さく笑い合うふたり。
その距離は、さっきまでとはまるで違っていた。
てん「じゃあ、私たち邪魔だね」
ひかる「空気読んで出ますか」
りか「最初からそのつもり〜」
3人はそっと席を立つ。
扉の前で、りかが振り返る。
りか「あとで詳しく聞かせてね」
ゆづき「やめてほんとに」
笑い声と一緒に、扉が閉まる。
静かになった個室。
向かい合うふたり。
さっきまでの「壁」はもうない。
ゆづき「……ねぇ」
ゆめ「ん?」
ゆづき「これから、どうする?」
ゆめは少し考えてから、優しく言う。
ゆめ「とりあえず、ご飯ちゃんと食べよっか」
ゆづき「……それはそう」
ふたりで笑う。
でも、その笑いの奥にあるのは——
もう隠さなくていい恋だった。