石森璃花
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大学の講義室。
前の方の席に座るその人を、璃花はいつも少しだけ遠くから見ていた。
真面目そうで、でも時々ふっと笑う顔がやわらかくて。
——好き、なんだと思う。
でも、話したことはほとんどない。
同じ授業を取ってるだけの、ただの“同じ大学の人”。
それ以上でも、それ以下でもない距離。
りか「……はぁ」
小さくため息をついて、ノートに視線を落とす。
名前を呼ぶことも、まだちゃんとできてない。
——ゆめ。
その名前を、心の中でだけ何度も繰り返している。
放課後。
璃花はバイト先へ向かっていた。
少し派手な看板が並ぶ通りの奥。
そこにあるのが、彼女の働く場所。
メイドカフェ。
制服に着替えて、鏡の前で軽く身だしなみを整える。
りか「……よし」
スイッチを切り替える。
ドアを開けて、営業開始。
りか「おかえりなさいませ、ご主人様♡」
いつも通りの声。
いつも通りの笑顔。
——のはずだった。
ふと、カウンター席に目がいく。
その瞬間、思考が止まる。
りか「……え」
そこにいたのは。
見間違えるはずのない顔。
ゆめ。
ゆめ はメニューを見ながら、何気ない様子で座っている。
りか「……なんで」
頭が真っ白になる。
こんなところで会うなんて、思ってもみなかった。
しかも、メイド服姿で。
最悪だ。
いや、最悪じゃないけど——最悪に恥ずかしい。
りか(……気づかないよね、さすがに)
大学ではほとんど話してない。
顔を覚えられてるかも怪しい距離感。
だから、大丈夫。
きっとただの“店員”として扱われる。
そう思って、震える手を抑えながら近づく。
りか「ご、ご注文はお決まりですか、お嬢様……?」
声が少しだけぎこちない。
でも、なんとか笑顔を保つ。
そのとき。
ゆめ「……あれ?」
りか「……っ」
ゆめ が顔を上げる。
目が、合う。
ゆめ「石森じゃん」
りか「……え」
一瞬、呼吸が止まる。
りか「……お、覚えてたの?」
ゆめ「え、そりゃ覚えてるよ。同じ授業だし」
りか「……」
想像してなかった言葉に、心臓がドクンと大きく鳴る。
ゆめ「てか、ここでバイトしてたんだ」
りか「……うん、まぁ」
恥ずかしさで視線を逸らす。
りか「……忘れてくれてよかったのに」
ぽつりと漏らす。
ゆめ「なんでだよ」
りか「……だって、こういう格好だし」
ゆめ「いや、普通に似合ってるけど」
りか「……っ」
思わず顔が熱くなる。
りか「……そういうこと、さらっと言うのやめて」
ゆめ「え、なんで?」
りか「……なんでも」
ごまかすようにメモを取り出す。
りか「……で、ご注文は?」
ゆめ「じゃあおすすめで」
りか「……ざっくりすぎる」
ゆめ「石森のおすすめならなんでもいい」
りか「……」
その一言が、妙に嬉しくて。
でもそれを悟られたくなくて、少しだけぶっきらぼうに返す。
りか「……じゃあ、後悔しないでよ」
ゆめ「しないしない」
注文を運びながらも、ずっと気になってしまう。
なんで来たのか。
たまたまなのか。
それとも——
りか(……そんなわけないか)
自分に言い聞かせる。
接点なんてほとんどない。
ただの片想い。
それ以上でも、それ以下でもない。
料理を置いて、少しだけ勇気を出す。
りか「……あのさ」
ゆめ「ん?」
りか「……なんでここ来たの」
ゆめ「んー、友達におすすめされた」
りか「……そっか」
やっぱり、ただの偶然。
少しだけ胸がちくっとする。
ゆめ「でもさ」
りか「……?」
ゆめ「石森いるなら、当たりじゃん」
りか「……え」
ゆめ「知ってる人いると安心するし」
りか「……」
胸の奥が、じんわりあたたかくなる。
りか「……それ、ずるい」
ゆめ「なにが?」
りか「……なんでもない」
思わず笑ってしまう。
さっきまでの緊張が、少しずつ溶けていく。
帰り際。
ゆめ は立ち上がって、軽く手を振る。
ゆめ「じゃあまた大学で」
りか「……うん」
少しだけ間を置いて。
りか「……また来てもいいよ」
ゆめ「え、いいの?」
りか「……その代わり」
ゆめ「?」
りか「……今度は、ちゃんと話して」
ゆめ「……」
一瞬だけ驚いた顔をして。
すぐに、柔らかく笑う。
ゆめ「うん、約束」
りか「……」
ドアが閉まる音。
静かになった店内で、璃花は小さく息を吐いた。
りか「……覚えてくれてたんだ」
それだけで、こんなに嬉しいなんて。
まだ始まってもいない関係。
でもきっと、今日で少しだけ変わった。
メイド服のまま、鏡の前で小さく笑う。
りか「……次は、もうちょっと近づけたらいいな」
前の方の席に座るその人を、璃花はいつも少しだけ遠くから見ていた。
真面目そうで、でも時々ふっと笑う顔がやわらかくて。
——好き、なんだと思う。
でも、話したことはほとんどない。
同じ授業を取ってるだけの、ただの“同じ大学の人”。
それ以上でも、それ以下でもない距離。
りか「……はぁ」
小さくため息をついて、ノートに視線を落とす。
名前を呼ぶことも、まだちゃんとできてない。
——ゆめ。
その名前を、心の中でだけ何度も繰り返している。
放課後。
璃花はバイト先へ向かっていた。
少し派手な看板が並ぶ通りの奥。
そこにあるのが、彼女の働く場所。
メイドカフェ。
制服に着替えて、鏡の前で軽く身だしなみを整える。
りか「……よし」
スイッチを切り替える。
ドアを開けて、営業開始。
りか「おかえりなさいませ、ご主人様♡」
いつも通りの声。
いつも通りの笑顔。
——のはずだった。
ふと、カウンター席に目がいく。
その瞬間、思考が止まる。
りか「……え」
そこにいたのは。
見間違えるはずのない顔。
ゆめ。
ゆめ はメニューを見ながら、何気ない様子で座っている。
りか「……なんで」
頭が真っ白になる。
こんなところで会うなんて、思ってもみなかった。
しかも、メイド服姿で。
最悪だ。
いや、最悪じゃないけど——最悪に恥ずかしい。
りか(……気づかないよね、さすがに)
大学ではほとんど話してない。
顔を覚えられてるかも怪しい距離感。
だから、大丈夫。
きっとただの“店員”として扱われる。
そう思って、震える手を抑えながら近づく。
りか「ご、ご注文はお決まりですか、お嬢様……?」
声が少しだけぎこちない。
でも、なんとか笑顔を保つ。
そのとき。
ゆめ「……あれ?」
りか「……っ」
ゆめ が顔を上げる。
目が、合う。
ゆめ「石森じゃん」
りか「……え」
一瞬、呼吸が止まる。
りか「……お、覚えてたの?」
ゆめ「え、そりゃ覚えてるよ。同じ授業だし」
りか「……」
想像してなかった言葉に、心臓がドクンと大きく鳴る。
ゆめ「てか、ここでバイトしてたんだ」
りか「……うん、まぁ」
恥ずかしさで視線を逸らす。
りか「……忘れてくれてよかったのに」
ぽつりと漏らす。
ゆめ「なんでだよ」
りか「……だって、こういう格好だし」
ゆめ「いや、普通に似合ってるけど」
りか「……っ」
思わず顔が熱くなる。
りか「……そういうこと、さらっと言うのやめて」
ゆめ「え、なんで?」
りか「……なんでも」
ごまかすようにメモを取り出す。
りか「……で、ご注文は?」
ゆめ「じゃあおすすめで」
りか「……ざっくりすぎる」
ゆめ「石森のおすすめならなんでもいい」
りか「……」
その一言が、妙に嬉しくて。
でもそれを悟られたくなくて、少しだけぶっきらぼうに返す。
りか「……じゃあ、後悔しないでよ」
ゆめ「しないしない」
注文を運びながらも、ずっと気になってしまう。
なんで来たのか。
たまたまなのか。
それとも——
りか(……そんなわけないか)
自分に言い聞かせる。
接点なんてほとんどない。
ただの片想い。
それ以上でも、それ以下でもない。
料理を置いて、少しだけ勇気を出す。
りか「……あのさ」
ゆめ「ん?」
りか「……なんでここ来たの」
ゆめ「んー、友達におすすめされた」
りか「……そっか」
やっぱり、ただの偶然。
少しだけ胸がちくっとする。
ゆめ「でもさ」
りか「……?」
ゆめ「石森いるなら、当たりじゃん」
りか「……え」
ゆめ「知ってる人いると安心するし」
りか「……」
胸の奥が、じんわりあたたかくなる。
りか「……それ、ずるい」
ゆめ「なにが?」
りか「……なんでもない」
思わず笑ってしまう。
さっきまでの緊張が、少しずつ溶けていく。
帰り際。
ゆめ は立ち上がって、軽く手を振る。
ゆめ「じゃあまた大学で」
りか「……うん」
少しだけ間を置いて。
りか「……また来てもいいよ」
ゆめ「え、いいの?」
りか「……その代わり」
ゆめ「?」
りか「……今度は、ちゃんと話して」
ゆめ「……」
一瞬だけ驚いた顔をして。
すぐに、柔らかく笑う。
ゆめ「うん、約束」
りか「……」
ドアが閉まる音。
静かになった店内で、璃花は小さく息を吐いた。
りか「……覚えてくれてたんだ」
それだけで、こんなに嬉しいなんて。
まだ始まってもいない関係。
でもきっと、今日で少しだけ変わった。
メイド服のまま、鏡の前で小さく笑う。
りか「……次は、もうちょっと近づけたらいいな」