小田倉麗奈
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春。
新しいキャンパス、新しい生活。
人で溢れる大学の中で、れなは少しだけ浮いていた。
れな(……やっぱり、こういうの苦手)
綺麗に整えられた服上品な立ち振る舞い、自然と周りと距離ができる。
――大手企業の社長令嬢。
それが、小田倉麗奈。
望んだわけじゃないのに、勝手に“遠い人”にされる。
そんな中で。
ゆめ「あ、すみません!」
ドン、と軽くぶつかる。
れな「……大丈夫です」
顔を上げると、少しだけ息を切らした相手がいた。
ゆめ「ほんとにごめん、急いでて」
素直に頭を下げる姿。
れな(……なんか、普通)
変に気を遣うわけでもなく、媚びるわけでもない。
れな「気をつけてください」
ゆめ「うん、ありがとう」
それだけで、もう走っていってしまう。
れな(……変な人)
でも、なぜか少しだけ気になった。
――数日後。
講義室。
れなは前の方の席に座っていた。
すると――
ゆめ「あ、ここ空いてる?」
あのときの人。
れな「……どうぞ」
隣に座る。
ゆめ「ありがと。あんまり席なくてさ」
自然な会話。
れな(……やっぱり、普通だ)
その“普通”が、れなにとっては新鮮だった。
講義が終わったあと。
ゆめ「ねえ、さっきのとこ分かった?」
れな「え?」
ノートを覗き込んでくる。
ゆめ「この式のとこ」
れな「……はい、分かりましたけど」
ゆめ「教えてくれない?」
ためらいもなく頼ってくる。
れな「……いいですよ」
説明を始めると、ゆめは真剣に聞く。
ゆめ「なるほど、ありがとう!」
れな「いえ」
その笑顔が、妙にまっすぐで。
れな(……なんでこんなに)
胸が、少しだけざわつく。
――それから、ふたりで話すことが増えた。
ゆめは特待生で、バイトをいくつも掛け持ちしているらしい。
ゆめ「今日もバイトなんだよね」
れな「大変ですね」
ゆめ「まあ、慣れた」
笑って言うけど、その手は少し荒れている。
れな(……こんなに違うんだ)
自分とは、何もかも。
育った環境も、生活も、価値観も。
でも――
ゆめ「れなってさ、なんかすごいよね」
れな「なにがですか」
ゆめ「ちゃんとしてるっていうか、しっかりしてる」
当たり前みたいに言う。
れな(……初めて、そんなふうに言われた)
肩書きじゃなくて、自分自身を見られている気がして。
少しだけ、嬉しかった。
――ある日。
夕方のキャンパス。
ゆめが、ベンチで参考書を開いているのを見つける。
れな「まだ帰ってなかったんですね」
ゆめ「あ、れな」
顔を上げて笑う。
ゆめ「バイトまで時間あるから勉強してた」
その姿が、やけに真剣で。
れな(……かっこいい)
ふと、そう思ってしまう。
れな「……少し、隣いいですか」
ゆめ「もちろん」
隣に座る。
れな「……すごいですね」
ゆめ「なにが?」
れな「そんなに頑張れるの」
ぽつりとこぼす。
ゆめ「別にすごくないよ」
軽く笑う。
ゆめ「やらなきゃいけないから、やってるだけ」
その言葉が、やけに重くて。
れな(……わたしとは、違う)
でも――
れな「……素敵です」
自然と、言葉が出た。
ゆめ「え?」
少し驚いた顔。
れな「わたしには、ないものだから」
視線を少し落とす。
れな「……羨ましい」
静かな声。
ゆめ「れなにだってあるよ」
れな「ありません」
即答する。
ゆめ「あるって」
少しだけ真剣な顔。
ゆめ「れな、ちゃんと周り見てるし、人の話もちゃんと聞くし」
一つ一つ、言葉を重ねる。
ゆめ「そういうの、すごいと思う」
胸の奥が、じんわり温かくなる。
れな(……この人は)
ちゃんと見てくれる。
肩書きじゃなくて、自分を。
――その瞬間、気づいてしまう。
れな(……好き、かも)
――数日後。
帰り道。
れな「ゆめ」
ゆめ「ん?」
少しだけ立ち止まる。
れな「わたし、あなたのこと……」
言葉が詰まる。
でも、逃げたくない。
れな「好きです」
真っ直ぐに伝える。
ゆめ「……え?」
驚いた顔。
ゆめ「ほんとに?」
戸惑っているのが分かる。
ゆめ「わたし、れなと全然違うよ?」
れな「知ってます」
それでも。
れな「だから、好きになったんです」
少しだけ笑う。
れな「あなたの世界に、触れたくて」
その言葉に、ゆめは少しだけ黙る。
そして――
ゆめ「……ずるいな、それ」
小さく笑う。
ゆめ「そんなふうに言われたら、断れないじゃん」
少しだけ照れた顔。
ゆめ「……わたしも、れなのこと気になってた」
胸が高鳴る。
れな「……ほんとに?」
ゆめ「うん」
ゆっくり頷く。
ゆめ「最初から、なんか違うなって思ってたけど」
少しだけ近づく。
ゆめ「今は、それがいいって思ってる」
その距離に、息が少しだけ止まる。
れな「……わたしもです」
静かに笑う。
違う世界で生きてきたふたり。
それでも。
少しずつ、近づいていく。
れな(……きっとこれからも)
知らないことばかりだけど、それが楽しみだと思えた。
新しいキャンパス、新しい生活。
人で溢れる大学の中で、れなは少しだけ浮いていた。
れな(……やっぱり、こういうの苦手)
綺麗に整えられた服上品な立ち振る舞い、自然と周りと距離ができる。
――大手企業の社長令嬢。
それが、小田倉麗奈。
望んだわけじゃないのに、勝手に“遠い人”にされる。
そんな中で。
ゆめ「あ、すみません!」
ドン、と軽くぶつかる。
れな「……大丈夫です」
顔を上げると、少しだけ息を切らした相手がいた。
ゆめ「ほんとにごめん、急いでて」
素直に頭を下げる姿。
れな(……なんか、普通)
変に気を遣うわけでもなく、媚びるわけでもない。
れな「気をつけてください」
ゆめ「うん、ありがとう」
それだけで、もう走っていってしまう。
れな(……変な人)
でも、なぜか少しだけ気になった。
――数日後。
講義室。
れなは前の方の席に座っていた。
すると――
ゆめ「あ、ここ空いてる?」
あのときの人。
れな「……どうぞ」
隣に座る。
ゆめ「ありがと。あんまり席なくてさ」
自然な会話。
れな(……やっぱり、普通だ)
その“普通”が、れなにとっては新鮮だった。
講義が終わったあと。
ゆめ「ねえ、さっきのとこ分かった?」
れな「え?」
ノートを覗き込んでくる。
ゆめ「この式のとこ」
れな「……はい、分かりましたけど」
ゆめ「教えてくれない?」
ためらいもなく頼ってくる。
れな「……いいですよ」
説明を始めると、ゆめは真剣に聞く。
ゆめ「なるほど、ありがとう!」
れな「いえ」
その笑顔が、妙にまっすぐで。
れな(……なんでこんなに)
胸が、少しだけざわつく。
――それから、ふたりで話すことが増えた。
ゆめは特待生で、バイトをいくつも掛け持ちしているらしい。
ゆめ「今日もバイトなんだよね」
れな「大変ですね」
ゆめ「まあ、慣れた」
笑って言うけど、その手は少し荒れている。
れな(……こんなに違うんだ)
自分とは、何もかも。
育った環境も、生活も、価値観も。
でも――
ゆめ「れなってさ、なんかすごいよね」
れな「なにがですか」
ゆめ「ちゃんとしてるっていうか、しっかりしてる」
当たり前みたいに言う。
れな(……初めて、そんなふうに言われた)
肩書きじゃなくて、自分自身を見られている気がして。
少しだけ、嬉しかった。
――ある日。
夕方のキャンパス。
ゆめが、ベンチで参考書を開いているのを見つける。
れな「まだ帰ってなかったんですね」
ゆめ「あ、れな」
顔を上げて笑う。
ゆめ「バイトまで時間あるから勉強してた」
その姿が、やけに真剣で。
れな(……かっこいい)
ふと、そう思ってしまう。
れな「……少し、隣いいですか」
ゆめ「もちろん」
隣に座る。
れな「……すごいですね」
ゆめ「なにが?」
れな「そんなに頑張れるの」
ぽつりとこぼす。
ゆめ「別にすごくないよ」
軽く笑う。
ゆめ「やらなきゃいけないから、やってるだけ」
その言葉が、やけに重くて。
れな(……わたしとは、違う)
でも――
れな「……素敵です」
自然と、言葉が出た。
ゆめ「え?」
少し驚いた顔。
れな「わたしには、ないものだから」
視線を少し落とす。
れな「……羨ましい」
静かな声。
ゆめ「れなにだってあるよ」
れな「ありません」
即答する。
ゆめ「あるって」
少しだけ真剣な顔。
ゆめ「れな、ちゃんと周り見てるし、人の話もちゃんと聞くし」
一つ一つ、言葉を重ねる。
ゆめ「そういうの、すごいと思う」
胸の奥が、じんわり温かくなる。
れな(……この人は)
ちゃんと見てくれる。
肩書きじゃなくて、自分を。
――その瞬間、気づいてしまう。
れな(……好き、かも)
――数日後。
帰り道。
れな「ゆめ」
ゆめ「ん?」
少しだけ立ち止まる。
れな「わたし、あなたのこと……」
言葉が詰まる。
でも、逃げたくない。
れな「好きです」
真っ直ぐに伝える。
ゆめ「……え?」
驚いた顔。
ゆめ「ほんとに?」
戸惑っているのが分かる。
ゆめ「わたし、れなと全然違うよ?」
れな「知ってます」
それでも。
れな「だから、好きになったんです」
少しだけ笑う。
れな「あなたの世界に、触れたくて」
その言葉に、ゆめは少しだけ黙る。
そして――
ゆめ「……ずるいな、それ」
小さく笑う。
ゆめ「そんなふうに言われたら、断れないじゃん」
少しだけ照れた顔。
ゆめ「……わたしも、れなのこと気になってた」
胸が高鳴る。
れな「……ほんとに?」
ゆめ「うん」
ゆっくり頷く。
ゆめ「最初から、なんか違うなって思ってたけど」
少しだけ近づく。
ゆめ「今は、それがいいって思ってる」
その距離に、息が少しだけ止まる。
れな「……わたしもです」
静かに笑う。
違う世界で生きてきたふたり。
それでも。
少しずつ、近づいていく。
れな(……きっとこれからも)
知らないことばかりだけど、それが楽しみだと思えた。