村井優
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「あ、入った!」
乾いた体育館の床に、バウンドしたボールの音が響く。
綺麗にリングをくぐり抜けたバスケットボールを見届け、私は深呼吸をした。
大学生になって初めて経験した「一目惚れ」。
相手は、学部も違う村井優だ。
たまたま受けた教養の講義で隣の席になり、その柔らかい笑顔と気さくな雰囲気に一瞬で心を奪われた。
だけど、共通の友人もいない私と優の接点は、週に一度のその授業だけ。
どうしてももっと近づきたくて、風の噂で優がバスケットボールサークルに入ると知り私も勢いで見学に行くことにしたのだ。
中学・高校と帰宅部で、体育の授業くらいしか運動をしてこなかった私。
正直、ついていけるか不安だったけれど、いざボールを触ってみると意外と筋がいいらしくシュートも面白いように決まる。
ゆう「え、すごい!かっこいいね!」
コートの脇から、キラキラと目を輝かせた優が走ってやってきた。
ゆめ「えっ、私?」
ゆう「うん!! ゆめちゃん、めちゃくちゃシュート綺麗!未経験ってホント? すごすぎるよ〜!」
無邪気に私の手をとって喜んでくれる優。
跳ねるような笑顔と、触れ合う手の温もりに私の心臓はうるさいくらいに脈打ち始めた。
その日を境に、私たちはサークルの練習帰りに一緒にカフェへ行ったり夜遅くまでLINEをしたりする間柄になった。
だけど、ここからが問題だった。
サークルの帰り道、少し冷えてきた夜風の中で、私は意を決して優の顔を覗き込んだ。
ゆめ「ゆうって、今気になる人とかいないの?」
ゆう「気になる人? うーん、サークルの先輩たちはみんな優しいし……あ、でも一番一緒にいて楽しいのはゆめちゃんだよ!」
ゆめ「えっ……それって、どういう……」
ゆう「だってゆめちゃん、私のくだらない話も笑って聞いてくれるし! 大親友だと思ってる!」
ゆめ「っ……あはは、そっか。親友かぁ……」
満面の笑みで言われ、私は心の中でガクッと肩を落とした。
優は本当に、びっくりするくらい鈍感なのだ。
「可愛いね」「大好きだよ」と、ちょっとしたアピールを言葉に混ぜてみても、「私もゆめちゃんのこと大好き〜!」と、すべて綺麗な友情の返答として打ち返されてしまう。
でも、諦めるつもりなんてサラサラなかった。
季節が過ぎ、サークルの合宿の夜。
打ち上げの賑やかな部屋を抜け出し、私は風にあたろうと宿の庭に出た。
夜空には星が綺麗に輝いている。
ゆう「あ、こんなところにいた。ゆめちゃん、探したよ」
後ろからタオルケットを羽織った優が現れた。
私の隣に並んで座り自分の羽織っていたタオルケットを半分、私の肩にふわりとかけてくれる。
ゆめ「ゆう、寒くないの?」
ゆう「二人で入れば温かいよ」
距離が近い。
息が詰まりそうになる。
いつもなら茶化して誤魔化すところだけど、静かな夜の雰囲気が私の背中を押した。
ゆめ「……ねぇ、ゆう」
ゆう「なぁに?」
ゆめ「私ね、バスケサークルに入ったの、運動がしたかったからじゃないんだよ」
優が不思議そうに首をかしげる。
ゆう「え? どういうこと?」
ゆめ「あの教養の授業で一目惚れして……ゆうともっと一緒にいたかったから、追いかけて入ったの」
少しだけ声が震えてしまった。
優の目が丸くなり、そのまま固まる。
ゆめ「親友としてじゃなくて、特別な一人になりたいの。ずっと前から、優のことが好きなんだよ」
ずっと言えなかった気持ちを、全部言葉にして吐き出した。
夜の静寂が二人を包み込む。
優の顔が、街灯の光の下でじわじわと赤くなっていくのが見えた。
ゆう「え……あ……ええっ!?」
ようやく事態を理解したらしい優が、声を裏返らせて立ち上がった。
ゆう「ひ、一目惚れ!? 追いかけてきたって……えっ、じゃあ今までの好きって、全部そういう……!?」
ゆめ「うん。ずっとアピールしてたんだけど、全然気づいてくれなかったでしょ」
少し意地悪く微笑むと、優は両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
ゆう「うぅ……全然気づかなかった……私、バカだ……」
ゆめ「ふふ、鈍感すぎるよ。でも、それがゆうらしいんだけどね」
返事は今すぐじゃなくていいよ、と声をかけようとしたその時、しゃがみ込んでいた優が勢いよく顔を上げた。
その顔は耳まで真っ赤だったけれど、目はまっすぐに私を見つめていた。
ゆう「私ね……っ! ゆめちゃんが他の人と楽しそうにしてると、なんか胸がモヤモヤして、嫌だったの……」
ゆめ「え……?」
ゆう「それが何なのか自分でも分かってなかったんだけど……今、ゆめちゃんに好きって言われて、すごく心臓がドキドキしてる。これって……」
優は照れくさそうに、でも愛おしそうに私の手をぎゅっと握り返した。
ゆう「私も、ゆめちゃんのこと特別な人として好きになってもいい……?」
予想外の展開に、今度は私の方が固まってしまう。
ボールを追いかけて飛び込んだこのコートで、私は一番欲しかったシュートを決めることができたらしい。
ゆめ「……いいに決まってるじゃん」
繋いだ手から伝わる体温が秋の夜風をすっかり忘れさせてくれるほど、優しく温かかった。
乾いた体育館の床に、バウンドしたボールの音が響く。
綺麗にリングをくぐり抜けたバスケットボールを見届け、私は深呼吸をした。
大学生になって初めて経験した「一目惚れ」。
相手は、学部も違う村井優だ。
たまたま受けた教養の講義で隣の席になり、その柔らかい笑顔と気さくな雰囲気に一瞬で心を奪われた。
だけど、共通の友人もいない私と優の接点は、週に一度のその授業だけ。
どうしてももっと近づきたくて、風の噂で優がバスケットボールサークルに入ると知り私も勢いで見学に行くことにしたのだ。
中学・高校と帰宅部で、体育の授業くらいしか運動をしてこなかった私。
正直、ついていけるか不安だったけれど、いざボールを触ってみると意外と筋がいいらしくシュートも面白いように決まる。
ゆう「え、すごい!かっこいいね!」
コートの脇から、キラキラと目を輝かせた優が走ってやってきた。
ゆめ「えっ、私?」
ゆう「うん!! ゆめちゃん、めちゃくちゃシュート綺麗!未経験ってホント? すごすぎるよ〜!」
無邪気に私の手をとって喜んでくれる優。
跳ねるような笑顔と、触れ合う手の温もりに私の心臓はうるさいくらいに脈打ち始めた。
その日を境に、私たちはサークルの練習帰りに一緒にカフェへ行ったり夜遅くまでLINEをしたりする間柄になった。
だけど、ここからが問題だった。
サークルの帰り道、少し冷えてきた夜風の中で、私は意を決して優の顔を覗き込んだ。
ゆめ「ゆうって、今気になる人とかいないの?」
ゆう「気になる人? うーん、サークルの先輩たちはみんな優しいし……あ、でも一番一緒にいて楽しいのはゆめちゃんだよ!」
ゆめ「えっ……それって、どういう……」
ゆう「だってゆめちゃん、私のくだらない話も笑って聞いてくれるし! 大親友だと思ってる!」
ゆめ「っ……あはは、そっか。親友かぁ……」
満面の笑みで言われ、私は心の中でガクッと肩を落とした。
優は本当に、びっくりするくらい鈍感なのだ。
「可愛いね」「大好きだよ」と、ちょっとしたアピールを言葉に混ぜてみても、「私もゆめちゃんのこと大好き〜!」と、すべて綺麗な友情の返答として打ち返されてしまう。
でも、諦めるつもりなんてサラサラなかった。
季節が過ぎ、サークルの合宿の夜。
打ち上げの賑やかな部屋を抜け出し、私は風にあたろうと宿の庭に出た。
夜空には星が綺麗に輝いている。
ゆう「あ、こんなところにいた。ゆめちゃん、探したよ」
後ろからタオルケットを羽織った優が現れた。
私の隣に並んで座り自分の羽織っていたタオルケットを半分、私の肩にふわりとかけてくれる。
ゆめ「ゆう、寒くないの?」
ゆう「二人で入れば温かいよ」
距離が近い。
息が詰まりそうになる。
いつもなら茶化して誤魔化すところだけど、静かな夜の雰囲気が私の背中を押した。
ゆめ「……ねぇ、ゆう」
ゆう「なぁに?」
ゆめ「私ね、バスケサークルに入ったの、運動がしたかったからじゃないんだよ」
優が不思議そうに首をかしげる。
ゆう「え? どういうこと?」
ゆめ「あの教養の授業で一目惚れして……ゆうともっと一緒にいたかったから、追いかけて入ったの」
少しだけ声が震えてしまった。
優の目が丸くなり、そのまま固まる。
ゆめ「親友としてじゃなくて、特別な一人になりたいの。ずっと前から、優のことが好きなんだよ」
ずっと言えなかった気持ちを、全部言葉にして吐き出した。
夜の静寂が二人を包み込む。
優の顔が、街灯の光の下でじわじわと赤くなっていくのが見えた。
ゆう「え……あ……ええっ!?」
ようやく事態を理解したらしい優が、声を裏返らせて立ち上がった。
ゆう「ひ、一目惚れ!? 追いかけてきたって……えっ、じゃあ今までの好きって、全部そういう……!?」
ゆめ「うん。ずっとアピールしてたんだけど、全然気づいてくれなかったでしょ」
少し意地悪く微笑むと、優は両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
ゆう「うぅ……全然気づかなかった……私、バカだ……」
ゆめ「ふふ、鈍感すぎるよ。でも、それがゆうらしいんだけどね」
返事は今すぐじゃなくていいよ、と声をかけようとしたその時、しゃがみ込んでいた優が勢いよく顔を上げた。
その顔は耳まで真っ赤だったけれど、目はまっすぐに私を見つめていた。
ゆう「私ね……っ! ゆめちゃんが他の人と楽しそうにしてると、なんか胸がモヤモヤして、嫌だったの……」
ゆめ「え……?」
ゆう「それが何なのか自分でも分かってなかったんだけど……今、ゆめちゃんに好きって言われて、すごく心臓がドキドキしてる。これって……」
優は照れくさそうに、でも愛おしそうに私の手をぎゅっと握り返した。
ゆう「私も、ゆめちゃんのこと特別な人として好きになってもいい……?」
予想外の展開に、今度は私の方が固まってしまう。
ボールを追いかけて飛び込んだこのコートで、私は一番欲しかったシュートを決めることができたらしい。
ゆめ「……いいに決まってるじゃん」
繋いだ手から伝わる体温が秋の夜風をすっかり忘れさせてくれるほど、優しく温かかった。