小田倉麗奈
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れいな「ねぇゆめ、聞いて! 今日の講義の教授、私に当てたあと感動して涙ぐんでたんだよ!」
キャンパスの学食。
向かい側に座る小田倉麗奈は、身振り手振りを交えながら熱弁を振るっていた。
いつも通りの大袈裟なジェスチャーと、どこまでが本当か分からない言葉の数々。
ゆめ「はいはい〜。また始まった。涙ぐんでたんじゃなくて、ただの欠伸でしょ」
ゆめはスプーンでカレーをすくいながら、心底慣れた様子で受け流す。
れいな「違うってば! 本当に私の発言が鋭すぎて感極まってたの!……あ、あとね、さっき中庭で白馬に乗った王子様みたいなイケメンに連絡先聞かれたんだから!」
ゆめ「はいはい。で、その王子様は白馬をどこに駐輪したの?」
れいな「うっ……それは……学外のパーキング……」
ゆめ「絶対嘘じゃん」
あからさまに目を泳がせる麗奈を見て、ゆめはクスッと笑う。
生まれたときからの幼なじみ。
親同士が仲良くて、赤ん坊の頃の写真にはいつも二人が並んで写っていた。
小・中・高、そしてこの大学に至るまで、ずっと隣にいた存在だ。
だからこそ、ゆめには分かっている。
麗奈がこうして突拍子もない嘘をついたり、話を100倍くらいに盛ってしまうのは、昔からの悪い癖だということを。
でも麗奈がその「嘘」をつくとき、必ず耳たぶがほんのり赤くなることまでは本人も気づいていないだろう。
れいな「もう、ゆめったら冷たい! 幼なじみの危機なんだからもっと心配してくれてもいいのに!」
ゆめ「危機でもなんでもないでしょ。れいなが大袈裟なのは今に始まったことじゃないし」
れいな「……そりゃそうだけど……」
麗奈は急に声のトーンを落とし、スプーンでパフェの上のクリームをすくいながらボソッと呟いた。
れいな「ゆめには、ちゃんと聞いてほしいのに……」
ゆめ「ん? なんか言った?」
れいな「な、なんでもない! とにかく! 私ってば最近めちゃくちゃモテ期到来してて、来週には石油王と結婚してドバイに行っちゃうかもしれないんだからね!」
ゆめ「はいはい、ドバイ行ったらお土産に高級デーツ買ってきてね〜」
れいな「……ばか」
小さく吐き出されたその言葉に、胸がちくりとした。
だけど、麗奈はすぐにいつもの気取り気味な笑顔に戻ってしまう。
れいな(本当は、全部嘘なんだよ)
麗奈は胸の中で小さく叫んでいた。
白馬の王子様なんていない。
教授が感動したなんていうのもただの誇張。
本当は、ゆめの気を引きたいだけ。
「そんな奴ほっとけよ」とか「私以外の奴のところに行くな」とかそんな言葉を期待して、いつもバカみたいな嘘を重ねてしまう。
素直に「好き」と言えばいいのに。
幼なじみという近すぎる距離が邪魔をして、本音を言おうとすると喉がキュッと詰まってしまうのだ。
学食を出て、ふたりで夕暮れ時の帰り道を歩く。
影が長く伸びていく。
れいな「ねぇ、ゆめ」
ゆめ「なに?」
れいな「私ね、実は……心臓の病気なの」
ゆめ「はぁ? またそんな不吉な嘘ついて……怒るよ?」
さすがに呆れた顔を向けると、麗奈は立ち止まりじっとゆめを見つめた。
いつものふざけた顔じゃない。
夕日に照らされた彼女の瞳は、吸い込まれそうなほど真剣で、そして耳たぶが真っ赤になっていた。
れいな「嘘じゃないよ。本当に、病気なの。……ゆめが隣にいると、心臓が爆発しそうなくらいバクバクいって、苦しくて息ができなくなるの」
ゆめ「れいな……?」
れいな「毎日、地球がひっくり返るくらいゆめのことが好きで、四六時中ゆめのことばっかり考えちゃって……頭がおかしくなりそうなの。これも全部、大袈裟だと思う?」
風がふたりの間を吹き抜けていく。
いつもの「はいはい〜」という返答は、ゆめの喉に引っかかって出てこなかった。
麗奈はギュッと自分の服の裾を握りしめ、泣きそうな顔でゆめを見つめている。
れいな「……これもまた、いつもの変な嘘だって……受け流す?」
握りしめられた手は震えていた。
いつも大袈裟で、お調子者で、素直になれない幼なじみ。
だけど今の言葉だけは、これまでつかれてきたどんな嘘よりも、まっすぐで、透明で、痛いくらいに本気だった。
ゆめはゆっくりと歩み寄り、麗奈の震える手をそっと包み込んだ。
ゆめ「……受け流すわけないでしょ、バカ」
れいな「っ……!」
ゆめ「心臓が爆発しそうとか、地球がひっくり返るくらいとか……相変わらず表現は大袈裟だけどさ」
ゆめの体温が伝わると、麗奈の瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちた。
ゆめ「その好きだけは、嘘じゃないって分かるよ」
れいな「……うぅ……っ、ゆめ……!」
ずっと言えなかった本音があふれ出し、麗奈はその場にしゃがみ込んで泣き出してしまった。
ゆめは呆れつつも愛おしさに胸を締めつけられながら、その肩を優しく抱き寄せる。
れいな「私……私ね……本当は石油王となんて結婚したくない……っ、ゆめの隣がいいの……!」
ゆめ「知ってるよ。ドバイ行かれたら困るから、ずっとここにいて」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、麗奈はゆめの胸に顔を埋めた。
これから先もきっと、麗奈は小さな嘘や大袈裟な話をついてゆめを困らせるのだろう。
だけど、その度に耳を赤くする彼女の本当の気持ちをゆめはもう二度と見逃さない。
世界でいちばん誇張された、けれど世界でいちばん純粋な好きをずっと隣で受け止めていくのだから。
キャンパスの学食。
向かい側に座る小田倉麗奈は、身振り手振りを交えながら熱弁を振るっていた。
いつも通りの大袈裟なジェスチャーと、どこまでが本当か分からない言葉の数々。
ゆめ「はいはい〜。また始まった。涙ぐんでたんじゃなくて、ただの欠伸でしょ」
ゆめはスプーンでカレーをすくいながら、心底慣れた様子で受け流す。
れいな「違うってば! 本当に私の発言が鋭すぎて感極まってたの!……あ、あとね、さっき中庭で白馬に乗った王子様みたいなイケメンに連絡先聞かれたんだから!」
ゆめ「はいはい。で、その王子様は白馬をどこに駐輪したの?」
れいな「うっ……それは……学外のパーキング……」
ゆめ「絶対嘘じゃん」
あからさまに目を泳がせる麗奈を見て、ゆめはクスッと笑う。
生まれたときからの幼なじみ。
親同士が仲良くて、赤ん坊の頃の写真にはいつも二人が並んで写っていた。
小・中・高、そしてこの大学に至るまで、ずっと隣にいた存在だ。
だからこそ、ゆめには分かっている。
麗奈がこうして突拍子もない嘘をついたり、話を100倍くらいに盛ってしまうのは、昔からの悪い癖だということを。
でも麗奈がその「嘘」をつくとき、必ず耳たぶがほんのり赤くなることまでは本人も気づいていないだろう。
れいな「もう、ゆめったら冷たい! 幼なじみの危機なんだからもっと心配してくれてもいいのに!」
ゆめ「危機でもなんでもないでしょ。れいなが大袈裟なのは今に始まったことじゃないし」
れいな「……そりゃそうだけど……」
麗奈は急に声のトーンを落とし、スプーンでパフェの上のクリームをすくいながらボソッと呟いた。
れいな「ゆめには、ちゃんと聞いてほしいのに……」
ゆめ「ん? なんか言った?」
れいな「な、なんでもない! とにかく! 私ってば最近めちゃくちゃモテ期到来してて、来週には石油王と結婚してドバイに行っちゃうかもしれないんだからね!」
ゆめ「はいはい、ドバイ行ったらお土産に高級デーツ買ってきてね〜」
れいな「……ばか」
小さく吐き出されたその言葉に、胸がちくりとした。
だけど、麗奈はすぐにいつもの気取り気味な笑顔に戻ってしまう。
れいな(本当は、全部嘘なんだよ)
麗奈は胸の中で小さく叫んでいた。
白馬の王子様なんていない。
教授が感動したなんていうのもただの誇張。
本当は、ゆめの気を引きたいだけ。
「そんな奴ほっとけよ」とか「私以外の奴のところに行くな」とかそんな言葉を期待して、いつもバカみたいな嘘を重ねてしまう。
素直に「好き」と言えばいいのに。
幼なじみという近すぎる距離が邪魔をして、本音を言おうとすると喉がキュッと詰まってしまうのだ。
学食を出て、ふたりで夕暮れ時の帰り道を歩く。
影が長く伸びていく。
れいな「ねぇ、ゆめ」
ゆめ「なに?」
れいな「私ね、実は……心臓の病気なの」
ゆめ「はぁ? またそんな不吉な嘘ついて……怒るよ?」
さすがに呆れた顔を向けると、麗奈は立ち止まりじっとゆめを見つめた。
いつものふざけた顔じゃない。
夕日に照らされた彼女の瞳は、吸い込まれそうなほど真剣で、そして耳たぶが真っ赤になっていた。
れいな「嘘じゃないよ。本当に、病気なの。……ゆめが隣にいると、心臓が爆発しそうなくらいバクバクいって、苦しくて息ができなくなるの」
ゆめ「れいな……?」
れいな「毎日、地球がひっくり返るくらいゆめのことが好きで、四六時中ゆめのことばっかり考えちゃって……頭がおかしくなりそうなの。これも全部、大袈裟だと思う?」
風がふたりの間を吹き抜けていく。
いつもの「はいはい〜」という返答は、ゆめの喉に引っかかって出てこなかった。
麗奈はギュッと自分の服の裾を握りしめ、泣きそうな顔でゆめを見つめている。
れいな「……これもまた、いつもの変な嘘だって……受け流す?」
握りしめられた手は震えていた。
いつも大袈裟で、お調子者で、素直になれない幼なじみ。
だけど今の言葉だけは、これまでつかれてきたどんな嘘よりも、まっすぐで、透明で、痛いくらいに本気だった。
ゆめはゆっくりと歩み寄り、麗奈の震える手をそっと包み込んだ。
ゆめ「……受け流すわけないでしょ、バカ」
れいな「っ……!」
ゆめ「心臓が爆発しそうとか、地球がひっくり返るくらいとか……相変わらず表現は大袈裟だけどさ」
ゆめの体温が伝わると、麗奈の瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちた。
ゆめ「その好きだけは、嘘じゃないって分かるよ」
れいな「……うぅ……っ、ゆめ……!」
ずっと言えなかった本音があふれ出し、麗奈はその場にしゃがみ込んで泣き出してしまった。
ゆめは呆れつつも愛おしさに胸を締めつけられながら、その肩を優しく抱き寄せる。
れいな「私……私ね……本当は石油王となんて結婚したくない……っ、ゆめの隣がいいの……!」
ゆめ「知ってるよ。ドバイ行かれたら困るから、ずっとここにいて」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、麗奈はゆめの胸に顔を埋めた。
これから先もきっと、麗奈は小さな嘘や大袈裟な話をついてゆめを困らせるのだろう。
だけど、その度に耳を赤くする彼女の本当の気持ちをゆめはもう二度と見逃さない。
世界でいちばん誇張された、けれど世界でいちばん純粋な好きをずっと隣で受け止めていくのだから。