中嶋優月
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福岡の夏は、思っていたよりもずっと暑い。
大学が夏休みに入り、キャンパスから人が消えるといつもの街並みもどこか余白が増えたように思えた。
付き合って半年の彼女、ゆめが大阪の実家に帰省してから1ヶ月。
一人暮らしの部屋は広すぎるように感じられて、なかじまゆづきはカレンダーの数字を眺めては溜め息をつく日々を送っていた。
そんなある夜、1週間ぶりにスマホの画面が明るくなった。
待ちに待った着信通知。
胸が跳ねるのを抑えながら、通話ボタンをタップする。
ゆづき「もしも〜し」
ゆめ「やっほ〜!なんか久々やんね」
ゆづき「ゆめの声だぁ〜笑」
ゆめ「なになに、寂しかったん〜?」
ゆづき「まぁね。大阪はどう? 暑い?」
ゆめ「めっちゃ暑いよ! でもたこ焼き食べたし、地元の友達とも会えて楽しんどるよ」
画面越しに聴こえるゆめの声はいつも通り明るくて、少しだけ聞こえる関西の空気感が距離を改めて思い出させる。
お互いの近況やサークルの話、夏休みの課題の進捗など、たわいもない話を小一時間ほどして電話を切ることになった。
ゆめ「じゃあね、また連絡する!」
ゆづき「うん、おやすみ」
通話が終了し、画面が暗転する。
プチッと音がして途切れた回線の向こう側。
シーンと静まり返った寝室は、さっきまで声が響いていた分やけに寂しく感じた。
ポツリと、暗闇の中に呟きが漏れる。
ゆづき「……ゆめに会いたいな。」
あと半月もすれば夏休みは終わる。
分かってはいるけれど、一度膨らんだ会いたい気持ちは、夜の静けさに溶けて大きくなっていくばかりだった。
それから数日後。
今夜もまた電話をする約束をしていた。
優月は夕方のうちにシャワーを浴び、お気に入りの部屋着を着て、スマホを片手にその時を待っていた。
けれど、約束の時間直前に届いたメッセージ。
ゆめ:ごめん!!急遽電話できなくなった!!
画面を見つめたまま、優月はぽつりと息を吐く。
楽しみにしていた分、胸の奥がキュッと締め付けられた。
でも、実家にいるなら家族の用事や地元の友達との予定だってあるはずだ。
ゆづき:ううん!大丈夫だよ!また電話しよ!!
努めて明るい文面とスタンプを返して、スマホをベッドに放り投げる。
分かってる、しょうがない。
わがままを言っちゃダメだ。
そう自分に言い聞かせようとしたのに、視界がじんわりと滲んできた。
ポロポロと枕に涙がこぼれ落ちる。
一度あふれ出した寂しさは止められなくて、優月は一人、暗い部屋で膝を抱えて泣いた。
どれくらい経っただろう。
ピロン
メッセージの通知音が静かな部屋に響いた。
涙を拭いながら画面を見る。
ゆめ:ねぇ、まだ起きてる??
ゆづき:起きてるけど……どしたの?
打ち込みながら、何かあったのかなと首をかしげる。
すると、すぐに次のメッセージが届いた。
ゆめ:外みてみて
ゆづき「え……?」
優月は半信半疑のままベッドを抜け出し、ベランダのカーテンをそっと開けた。
街灯が照らす夜の路上。
アパートの真下に、小さな影がひとつ立っていた。
見間違いじゃない。
見慣れたシルエットが、スマホの画面を光らせながら大きく手を振っている。
ゆづき「…なんでっ」
考えるより先に、身体が動いていた。
靴も突っかけるようにして履き、エレベーターを待つ時間すら惜しくて階段を駆け下りる。
夜の生ぬるい風を切って、エントランスのドアを押し開けた。
ゆめ「あ!ゆづき!来ちゃった笑」
少し汗ばんだおでこに髪を張り付かせ、大きなキャリーケースを引いたゆめが、困ったようなでもとびきり愛おしそうな笑顔でそこに立っていた。
優月は限界だった感情が一気に弾けて、そのままの勢いでゆめに抱きついた。
ゆめ「っ!ゆづき?」
しっかりと腕を回し、ゆめの首元に顔をうずめる。
大阪から長距離を移動してきたからか、少しだけ夜風と新幹線のにおいがした。
ゆづき「……なんで……なんでここにいるの……っ」
ゆめ「あはは、驚かせたかったんよ。本当は明日戻る予定やってんけど……さっきの電話のメッセージ見てたら、もう耐えられへんくなって。新幹線飛び乗っちゃった」
ゆめの手が、優月の背中を優しく撫でる。
ゆめ「ていうかゆづき、泣いとったん? 目真っ赤やん」
ゆづき「泣いてない……っ、ううん、泣いてた……ゆめが電話できないって言うから……」
ゆめ「ごめんね。今から新幹線乗るって言ったらサプライズにならへんからさ。驚いてくれた?」
ゆづき「……驚きすぎて、心臓止まるかと思った」
腕の中の温もり。
大好きな声。画面越しでも、波長越しでもない本物のゆめが今ここにいる。
ゆめは優月の体を少し離すと、愛おしそうに目元の涙を指で拭ってくれた。
ゆめ「私もね、ずっと会いたかったよ。1ヶ月、めちゃくちゃ長かった」
ゆづき「うん……本当に長かった……」
ゆめ「ただいま、ゆづき」
ゆづき「……お帰り、ゆめ」
夜の静けさの中、ふたりの影がひとつに重なる。
まだ残る夏休みの半分は、きっと今までで一番あたたかくて特別な時間になるのだと優月は確信していた。
大学が夏休みに入り、キャンパスから人が消えるといつもの街並みもどこか余白が増えたように思えた。
付き合って半年の彼女、ゆめが大阪の実家に帰省してから1ヶ月。
一人暮らしの部屋は広すぎるように感じられて、なかじまゆづきはカレンダーの数字を眺めては溜め息をつく日々を送っていた。
そんなある夜、1週間ぶりにスマホの画面が明るくなった。
待ちに待った着信通知。
胸が跳ねるのを抑えながら、通話ボタンをタップする。
ゆづき「もしも〜し」
ゆめ「やっほ〜!なんか久々やんね」
ゆづき「ゆめの声だぁ〜笑」
ゆめ「なになに、寂しかったん〜?」
ゆづき「まぁね。大阪はどう? 暑い?」
ゆめ「めっちゃ暑いよ! でもたこ焼き食べたし、地元の友達とも会えて楽しんどるよ」
画面越しに聴こえるゆめの声はいつも通り明るくて、少しだけ聞こえる関西の空気感が距離を改めて思い出させる。
お互いの近況やサークルの話、夏休みの課題の進捗など、たわいもない話を小一時間ほどして電話を切ることになった。
ゆめ「じゃあね、また連絡する!」
ゆづき「うん、おやすみ」
通話が終了し、画面が暗転する。
プチッと音がして途切れた回線の向こう側。
シーンと静まり返った寝室は、さっきまで声が響いていた分やけに寂しく感じた。
ポツリと、暗闇の中に呟きが漏れる。
ゆづき「……ゆめに会いたいな。」
あと半月もすれば夏休みは終わる。
分かってはいるけれど、一度膨らんだ会いたい気持ちは、夜の静けさに溶けて大きくなっていくばかりだった。
それから数日後。
今夜もまた電話をする約束をしていた。
優月は夕方のうちにシャワーを浴び、お気に入りの部屋着を着て、スマホを片手にその時を待っていた。
けれど、約束の時間直前に届いたメッセージ。
ゆめ:ごめん!!急遽電話できなくなった!!
画面を見つめたまま、優月はぽつりと息を吐く。
楽しみにしていた分、胸の奥がキュッと締め付けられた。
でも、実家にいるなら家族の用事や地元の友達との予定だってあるはずだ。
ゆづき:ううん!大丈夫だよ!また電話しよ!!
努めて明るい文面とスタンプを返して、スマホをベッドに放り投げる。
分かってる、しょうがない。
わがままを言っちゃダメだ。
そう自分に言い聞かせようとしたのに、視界がじんわりと滲んできた。
ポロポロと枕に涙がこぼれ落ちる。
一度あふれ出した寂しさは止められなくて、優月は一人、暗い部屋で膝を抱えて泣いた。
どれくらい経っただろう。
ピロン
メッセージの通知音が静かな部屋に響いた。
涙を拭いながら画面を見る。
ゆめ:ねぇ、まだ起きてる??
ゆづき:起きてるけど……どしたの?
打ち込みながら、何かあったのかなと首をかしげる。
すると、すぐに次のメッセージが届いた。
ゆめ:外みてみて
ゆづき「え……?」
優月は半信半疑のままベッドを抜け出し、ベランダのカーテンをそっと開けた。
街灯が照らす夜の路上。
アパートの真下に、小さな影がひとつ立っていた。
見間違いじゃない。
見慣れたシルエットが、スマホの画面を光らせながら大きく手を振っている。
ゆづき「…なんでっ」
考えるより先に、身体が動いていた。
靴も突っかけるようにして履き、エレベーターを待つ時間すら惜しくて階段を駆け下りる。
夜の生ぬるい風を切って、エントランスのドアを押し開けた。
ゆめ「あ!ゆづき!来ちゃった笑」
少し汗ばんだおでこに髪を張り付かせ、大きなキャリーケースを引いたゆめが、困ったようなでもとびきり愛おしそうな笑顔でそこに立っていた。
優月は限界だった感情が一気に弾けて、そのままの勢いでゆめに抱きついた。
ゆめ「っ!ゆづき?」
しっかりと腕を回し、ゆめの首元に顔をうずめる。
大阪から長距離を移動してきたからか、少しだけ夜風と新幹線のにおいがした。
ゆづき「……なんで……なんでここにいるの……っ」
ゆめ「あはは、驚かせたかったんよ。本当は明日戻る予定やってんけど……さっきの電話のメッセージ見てたら、もう耐えられへんくなって。新幹線飛び乗っちゃった」
ゆめの手が、優月の背中を優しく撫でる。
ゆめ「ていうかゆづき、泣いとったん? 目真っ赤やん」
ゆづき「泣いてない……っ、ううん、泣いてた……ゆめが電話できないって言うから……」
ゆめ「ごめんね。今から新幹線乗るって言ったらサプライズにならへんからさ。驚いてくれた?」
ゆづき「……驚きすぎて、心臓止まるかと思った」
腕の中の温もり。
大好きな声。画面越しでも、波長越しでもない本物のゆめが今ここにいる。
ゆめは優月の体を少し離すと、愛おしそうに目元の涙を指で拭ってくれた。
ゆめ「私もね、ずっと会いたかったよ。1ヶ月、めちゃくちゃ長かった」
ゆづき「うん……本当に長かった……」
ゆめ「ただいま、ゆづき」
ゆづき「……お帰り、ゆめ」
夜の静けさの中、ふたりの影がひとつに重なる。
まだ残る夏休みの半分は、きっと今までで一番あたたかくて特別な時間になるのだと優月は確信していた。