山下瞳月
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私、山下瞳月には、どうしても素直になれない相手がいる。
同期のメンバーである、ゆめのことだ。
楽屋のソファの隅っこ。
私は膝を抱えながら、他のメンバーと楽しそうに話しているゆめをじっと見つめていた。
ただ目が合うだけで嬉しいくせに、いざ近づかれるとどうしていいか分からなくなる。
ゆづきは隣にすっと座って、しづきの顔を覗き込む
しづき「……な、なに、ゆーづ」
ゆづき「いや〜? 顔にね、『もう!なんでこんなに素直になれないんや!』ってデカデカと書いてあるな〜と思って」
しづき「な、書いてないし! ……ていうか、ゆーづには関係ないやろ」
ゆづき「あはは、かわいいねぇ〜。あ、噂をすればゆめがこっち来るよ? ほら、ちゃんとお顔戻して!」
ゆーづに言われてハッと前を向くと、ゆめが両手にお菓子を持って、トコトコと私たちのところに歩いてくるところだった。
その姿を見ただけで、心臓が跳ね上がる。
ゆめ「しづき、ゆづきー! 差し入れでもらったんだけど、これたべる〜?」
本当は、ゆめの手からだったら何だって貰いたい。
めちゃくちゃ食べたい。
なのに、緊張と恥ずかしさのせいで、私の口から出たのは真逆の冷たい言葉だった。
しづき「ううん大丈夫」
ぷいっと目を逸らす
ゆめ「そっかぁ、じゃあゆづきにあげるね。あ、そうだ! これからちょっと自販機に飲み物買いに行こうと思うんだけど一緒にいく?」
しづき「いかない(即答)」
ゆめ「そ、そっか……。じゃあゆづき、一緒に行こ?」
ゆづき「うん、いこいこー! しづき、お留守番よろしくね〜」
ニヤニヤしながら手を振るゆづき。
二人が楽しそうに楽屋を出ていく後ろ姿を見送りながら、私ははぁーっと深い溜め息をついて、ソファに顔をうずめた。
……いつもそう。
本当は一緒に行きたいし、お喋りしたいのに。
なんでこんなにそっけなくなっちゃうんだろう。
その日の夜。
ダンスレッスンの居残りで、スタジオには私とゆめの二人きりになっていた。
大きな鏡の前で、一人でステップを確認していると、背後からゆめが心配そうな顔で近づいてきた。
ゆめ「しづき……。あのさ、今日ずっと元気なくない? 私、何か怒らせちゃうことした……?」
ゆめの優しさに触れて、胸の奥がぎゅーっと苦しくなる。
怒ってなんかいない。
怒っているのは、素直になれない自分に対してだ。
これ以上、あまのじゃくな態度のままでいたら、本当にゆめがどこかへ行ってしまうかもしれない。
そう思ったら怖くなって、気づけば私は、ゆめのレッスンスウェットの裾をぎゅっと掴んでいた。
しづき「……おこってない」
ゆめ「え?」
しづき「怒ってない。怒ってないけど……っ」
私は掴んだ裾を握りしめたまま、ゆっくりと顔を上げた。
上目遣いでゆめの目をじっと見つめる。
心臓の音が耳の奥でうるさいくらいに鳴り響いていて、顔が沸騰しそうに熱い。
しづき「……いつになったら、振り向いてくれるの??」
ゆめ「……えっ!?」
しづき「いつも誰にでも優しくして……、ゆづきにも、他のメンバーにもそうやってすぐ声かけて。……私が、どれだけゆめのこと特別に思ってるか、全然わかってない」
ゆめの綺麗な瞳に、涙目で顔を真っ赤にしている自分が映っている。
しづき「そっけなくしちゃうのは、ゆめのことが好きすぎて……どうしていいか分からんくなるから。……もう、ばか。全然気づいてくれん」
これ以上ないくらいメロメロで、だけど精一杯の告白。
言い切ると同時に恥ずかしさが限界に達して、私がまたそっぽを向こうとした瞬間。
ゆめは驚きに目を見開いたあと、愛おしそうにふにゃりと微笑んで、私の両手を優しく包み込んだ。
ゆめに両手を優しく包み込まれて、私の心臓はさらに大きく跳ね上がった。
手のひらから伝わってくるゆめの体温が心地よくて、だけど恥ずかしくて私は赤くなった顔を隠すように俯くことしかできない。
ゆめ「しづき、こっち向いて?」
しづき「……むり。いま、絶対変な顔しとるもん」
ゆめ「ふふ、そんなことないよ。ねぇ、しづき」
優しく名前を呼ばれて、恐る恐る視線を上げると、そこには今まで見たこともないくらい柔らかくて少し照れたようなゆめの笑顔があった。
ゆめ「私ね、しづきにそっけなくされるたび、実はちょっと落ち込んでたんだよ? 何か嫌われることしちゃったかな、って。でもね、本当は……しづきが他のメンバーと楽しそうに話してるのを見るのが、一番寂しかったの」
しづき「え……? それって……」
ゆめ「私こそ、気づくのが遅くてごめんね。私も、しづきのこと……特別に思ってるよ」
その言葉が頭の中でリピートされた瞬間、頭が真っ白になった。
「特別」って、それってつまり――。
しづき「……うそ。じゃあ、なんで今日ゆーづとお菓子食べたり、自販機行ったりしたん」
嬉しさが込み上げてくるのを隠せなくて、ついまた尖った声が出てしまう。
私のそんなあまのじゃくなところを見て、ゆめはクスクスと楽しそうに笑った。
ゆめ「それはね、しづきに断られて寂しかったから、ゆづきに慰めてもらってたの。ゆづき、全部知ってたみたいで、『しづき、今ごろ楽屋で大後悔中だよ〜』って教えてくれたんだよ?」
しづき「なっ……! ゆーづのやつ、余計なことを……っ」
恥ずかしさが限界突破して、私がゆめの手を振りほどいて逃げようとした瞬間。
ぎゅっと、体が温かいものに包まれた。
ゆめが、私の体を正面から優しく抱きしめていた。
しづき「っ……ゆめ……?」
ゆめ「もう逃がさないよ。これからは、そっけなくしちゃダメ。…私だけに、その可愛いところ見せて?」
耳元で囁かれた甘い言葉に、私の体から完全に力が抜けてしまう。
ゆめの肩に顔をうずめながら、私はトク、トク、と重なる二人の心拍数を感じていた。
しづき「……いじわる。ずるい。……でも、もう、絶対に離さんといてな?」
ゆめの背中にそっと手を回しながら、私はようやく、心の底から幸せな笑みをこぼしたのだった。
同期のメンバーである、ゆめのことだ。
楽屋のソファの隅っこ。
私は膝を抱えながら、他のメンバーと楽しそうに話しているゆめをじっと見つめていた。
ただ目が合うだけで嬉しいくせに、いざ近づかれるとどうしていいか分からなくなる。
ゆづきは隣にすっと座って、しづきの顔を覗き込む
しづき「……な、なに、ゆーづ」
ゆづき「いや〜? 顔にね、『もう!なんでこんなに素直になれないんや!』ってデカデカと書いてあるな〜と思って」
しづき「な、書いてないし! ……ていうか、ゆーづには関係ないやろ」
ゆづき「あはは、かわいいねぇ〜。あ、噂をすればゆめがこっち来るよ? ほら、ちゃんとお顔戻して!」
ゆーづに言われてハッと前を向くと、ゆめが両手にお菓子を持って、トコトコと私たちのところに歩いてくるところだった。
その姿を見ただけで、心臓が跳ね上がる。
ゆめ「しづき、ゆづきー! 差し入れでもらったんだけど、これたべる〜?」
本当は、ゆめの手からだったら何だって貰いたい。
めちゃくちゃ食べたい。
なのに、緊張と恥ずかしさのせいで、私の口から出たのは真逆の冷たい言葉だった。
しづき「ううん大丈夫」
ぷいっと目を逸らす
ゆめ「そっかぁ、じゃあゆづきにあげるね。あ、そうだ! これからちょっと自販機に飲み物買いに行こうと思うんだけど一緒にいく?」
しづき「いかない(即答)」
ゆめ「そ、そっか……。じゃあゆづき、一緒に行こ?」
ゆづき「うん、いこいこー! しづき、お留守番よろしくね〜」
ニヤニヤしながら手を振るゆづき。
二人が楽しそうに楽屋を出ていく後ろ姿を見送りながら、私ははぁーっと深い溜め息をついて、ソファに顔をうずめた。
……いつもそう。
本当は一緒に行きたいし、お喋りしたいのに。
なんでこんなにそっけなくなっちゃうんだろう。
その日の夜。
ダンスレッスンの居残りで、スタジオには私とゆめの二人きりになっていた。
大きな鏡の前で、一人でステップを確認していると、背後からゆめが心配そうな顔で近づいてきた。
ゆめ「しづき……。あのさ、今日ずっと元気なくない? 私、何か怒らせちゃうことした……?」
ゆめの優しさに触れて、胸の奥がぎゅーっと苦しくなる。
怒ってなんかいない。
怒っているのは、素直になれない自分に対してだ。
これ以上、あまのじゃくな態度のままでいたら、本当にゆめがどこかへ行ってしまうかもしれない。
そう思ったら怖くなって、気づけば私は、ゆめのレッスンスウェットの裾をぎゅっと掴んでいた。
しづき「……おこってない」
ゆめ「え?」
しづき「怒ってない。怒ってないけど……っ」
私は掴んだ裾を握りしめたまま、ゆっくりと顔を上げた。
上目遣いでゆめの目をじっと見つめる。
心臓の音が耳の奥でうるさいくらいに鳴り響いていて、顔が沸騰しそうに熱い。
しづき「……いつになったら、振り向いてくれるの??」
ゆめ「……えっ!?」
しづき「いつも誰にでも優しくして……、ゆづきにも、他のメンバーにもそうやってすぐ声かけて。……私が、どれだけゆめのこと特別に思ってるか、全然わかってない」
ゆめの綺麗な瞳に、涙目で顔を真っ赤にしている自分が映っている。
しづき「そっけなくしちゃうのは、ゆめのことが好きすぎて……どうしていいか分からんくなるから。……もう、ばか。全然気づいてくれん」
これ以上ないくらいメロメロで、だけど精一杯の告白。
言い切ると同時に恥ずかしさが限界に達して、私がまたそっぽを向こうとした瞬間。
ゆめは驚きに目を見開いたあと、愛おしそうにふにゃりと微笑んで、私の両手を優しく包み込んだ。
ゆめに両手を優しく包み込まれて、私の心臓はさらに大きく跳ね上がった。
手のひらから伝わってくるゆめの体温が心地よくて、だけど恥ずかしくて私は赤くなった顔を隠すように俯くことしかできない。
ゆめ「しづき、こっち向いて?」
しづき「……むり。いま、絶対変な顔しとるもん」
ゆめ「ふふ、そんなことないよ。ねぇ、しづき」
優しく名前を呼ばれて、恐る恐る視線を上げると、そこには今まで見たこともないくらい柔らかくて少し照れたようなゆめの笑顔があった。
ゆめ「私ね、しづきにそっけなくされるたび、実はちょっと落ち込んでたんだよ? 何か嫌われることしちゃったかな、って。でもね、本当は……しづきが他のメンバーと楽しそうに話してるのを見るのが、一番寂しかったの」
しづき「え……? それって……」
ゆめ「私こそ、気づくのが遅くてごめんね。私も、しづきのこと……特別に思ってるよ」
その言葉が頭の中でリピートされた瞬間、頭が真っ白になった。
「特別」って、それってつまり――。
しづき「……うそ。じゃあ、なんで今日ゆーづとお菓子食べたり、自販機行ったりしたん」
嬉しさが込み上げてくるのを隠せなくて、ついまた尖った声が出てしまう。
私のそんなあまのじゃくなところを見て、ゆめはクスクスと楽しそうに笑った。
ゆめ「それはね、しづきに断られて寂しかったから、ゆづきに慰めてもらってたの。ゆづき、全部知ってたみたいで、『しづき、今ごろ楽屋で大後悔中だよ〜』って教えてくれたんだよ?」
しづき「なっ……! ゆーづのやつ、余計なことを……っ」
恥ずかしさが限界突破して、私がゆめの手を振りほどいて逃げようとした瞬間。
ぎゅっと、体が温かいものに包まれた。
ゆめが、私の体を正面から優しく抱きしめていた。
しづき「っ……ゆめ……?」
ゆめ「もう逃がさないよ。これからは、そっけなくしちゃダメ。…私だけに、その可愛いところ見せて?」
耳元で囁かれた甘い言葉に、私の体から完全に力が抜けてしまう。
ゆめの肩に顔をうずめながら、私はトク、トク、と重なる二人の心拍数を感じていた。
しづき「……いじわる。ずるい。……でも、もう、絶対に離さんといてな?」
ゆめの背中にそっと手を回しながら、私はようやく、心の底から幸せな笑みをこぼしたのだった。