中嶋優月
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数ヶ月前のある夜、私のスマートフォンが激しく震えた。
画面に表示されたのは、大学の同級生で私がずっと片思いをしている中嶋優月の名前。
慌てて通話ボタンを押すと受話器の向こうから聞こえてきたのは今にも消えそうな泣き声だった。
ゆづき「……別れちゃった。私、振られちゃった、ゆめ……っ」
大好きな優月が泣いている。
胸が痛んだ。
……それなのに、私の心のどこかで小さな、だけど確かな喜びの灯がともったのを感じていた。
これで、優月は誰のものでもなくなったんだ、と。
傷ついている彼女を前にそんなことを考えてしまう自分が、本当に最低で嫌気がさした。
それから、数ヶ月が経った。
別れた直後の優月を励ますために始まった電話は、いつしか毎日の習慣になっていた。
お互いに実家暮らしの大学生。
夜、お風呂を上がってベッドに入り時計の針がてっぺんを回る頃にどちらからともなく発信ボタンを押す。
他愛のない大学の講義の話最近ハマっているお菓子の話。
画面越しに聞こえる優月の、少し落ち着いた、でも楽しそうな笑い声。
今ではこの時間が、私の1日の終わりの何よりの楽しみになっていた。
ゆめ「あ、そういえばさ、今日の課題の提出期限って明日だよね?」
ゆづき「えっ、嘘!? 嘘でしょ、まだ半分もやってないよ〜!」
いつものようにベッドに寝転がりながら、受話器の向こうの優月の慌てる声を聞いて私はクスッと笑う。
今日も変わらない、愛おしい夜。
ずっと、この時間が続けばいいのに。
そう願っていた。
けれど、不意に優月の笑い声が止まった。
静まり返る部屋に、受話器からかすかに聞こえる彼女の吐息だけが響く。
ゆめ「ゆづき? どうしたの、急に静かになって」
ゆづき「……ねぇ、ゆめ」
少し緊張したような、いつもより低くて真剣な声。
私の心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
ゆづき「私ね、実はね」
ゆめ「うん……何?」
ゆづき「……あのさ、数ヶ月前に前の人と別れたとき、私、すっごく大泣きしてゆめに電話したでしょ? あの涙の理由、ずっとちゃんと言えなくて」
ゆめ「うん……」
受話器の向こうで、優月が小さく息を吸い込む音が聞こえた。
ゆづき「あの時ね、元カレから『お前、付き合ってても全然俺のこと見てない。他に好きな奴いるだろ』って言われて振られたの。その瞬間ね、悲しいとかじゃなくて、あ、バレちゃった、って思っちゃったんだよね。付き合ってる間も、私、無意識にずっとゆめのことばかり考えてたから……」
ゆめ「え……」
ゆづき「最低だよね。相手にそんなこと言わせるくらい不誠実だった自分が嫌で、申し訳なくて、自己嫌悪でボロボロ泣けてきちゃって。……でもね、それ以上に怖かったの」
優月の声が、ほんの少し震えを帯びる。
ゆづき「誰の恋人でもなくなって、自分の気持ちに言い訳ができなくなったとき私、もうゆめのことしか見えなくなっちゃうって確信したから。もしこの気持ちをゆめに知られて、引かれたら、もう友達にも戻れない。本当にゆめを失っちゃうかもって、怖くてパニックになって、泣きながら電話したの」
ゆめ「ゆづき……」
ゆづき「一番ずるいのはね、そうやって振られて傷ついてる可哀想な私になれば、優しいゆめは絶対に突き放さないって分かってたこと。失恋を口実にして、真っ先にゆめの声が聴きたくて電話しちゃったの。傷ついてるはずなのに、心のどこかでこれでやっとゆめにたくさん甘えられるってホッとしてる自分がいて……本当に最低だなってずっと思ってた」
優月は、堰を切ったように心の奥底に隠していた本音を吐き出していく。
それは、私がこの数ヶ月間抱えていた「嬉しさを半分覚えていた罪悪感」と、全く同じ痛みの色をしていた。
ゆづき「でも、毎日電話して、ゆめが私のために毎晩時間を使ってくれるのが、本当に、本当に嬉しくて……。もう、自分のずるさから目を背けるのはやめる。……私、実はね。元カレと付き合う前から、ずっと、ゆめのことが大好きなんだよ」
受話器の向こうから届いた優月の告白は、優しくて、でも絶対に揺るがない強さを持っていた。
自分が最低だと思っていたあの夜。
まさか、優月も同じように、それ以上に私を想って自分を責めて泣いていたなんて。
ゆめ「ゆづき……っ、私、私もね……!」
涙がボロボロと溢れて、言葉がうまく続かない。
ゆめ「ゆづきから電話が来たとき、私……どこかで嬉しいって、チャンスだって思っちゃったの。傷ついてる優月を見てホッとした私は、世界一最低な奴だって、ずっと自分を責めてた……」
私の告白を聞いて、受話器の向こうで優月が「えへへ」と、涙混じりに小さく笑った。
ゆづき「なんだぁ。うちら、お揃いだね。2人ともおんなじくらい最低で、おんなじくらい、お互いのことばっかり考えてたんだね」
ゆめ「うん……本当に、バカみたいだね」
ゆづき「うん、バカだねぇ。……じゃあさ、この最低で最高な毎晩の電話、明日からは友達としてじゃなくて、恋人としてかけ直してもいい?」
優月の優しい声が、私の胸を温かい幸せで満たしていく。
毎晩の電話の終わりは、いつも「また明日」だった。
だけど明日の朝からは、私たちはもっと特別な2人として歩き出すんだ。
画面に表示されたのは、大学の同級生で私がずっと片思いをしている中嶋優月の名前。
慌てて通話ボタンを押すと受話器の向こうから聞こえてきたのは今にも消えそうな泣き声だった。
ゆづき「……別れちゃった。私、振られちゃった、ゆめ……っ」
大好きな優月が泣いている。
胸が痛んだ。
……それなのに、私の心のどこかで小さな、だけど確かな喜びの灯がともったのを感じていた。
これで、優月は誰のものでもなくなったんだ、と。
傷ついている彼女を前にそんなことを考えてしまう自分が、本当に最低で嫌気がさした。
それから、数ヶ月が経った。
別れた直後の優月を励ますために始まった電話は、いつしか毎日の習慣になっていた。
お互いに実家暮らしの大学生。
夜、お風呂を上がってベッドに入り時計の針がてっぺんを回る頃にどちらからともなく発信ボタンを押す。
他愛のない大学の講義の話最近ハマっているお菓子の話。
画面越しに聞こえる優月の、少し落ち着いた、でも楽しそうな笑い声。
今ではこの時間が、私の1日の終わりの何よりの楽しみになっていた。
ゆめ「あ、そういえばさ、今日の課題の提出期限って明日だよね?」
ゆづき「えっ、嘘!? 嘘でしょ、まだ半分もやってないよ〜!」
いつものようにベッドに寝転がりながら、受話器の向こうの優月の慌てる声を聞いて私はクスッと笑う。
今日も変わらない、愛おしい夜。
ずっと、この時間が続けばいいのに。
そう願っていた。
けれど、不意に優月の笑い声が止まった。
静まり返る部屋に、受話器からかすかに聞こえる彼女の吐息だけが響く。
ゆめ「ゆづき? どうしたの、急に静かになって」
ゆづき「……ねぇ、ゆめ」
少し緊張したような、いつもより低くて真剣な声。
私の心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
ゆづき「私ね、実はね」
ゆめ「うん……何?」
ゆづき「……あのさ、数ヶ月前に前の人と別れたとき、私、すっごく大泣きしてゆめに電話したでしょ? あの涙の理由、ずっとちゃんと言えなくて」
ゆめ「うん……」
受話器の向こうで、優月が小さく息を吸い込む音が聞こえた。
ゆづき「あの時ね、元カレから『お前、付き合ってても全然俺のこと見てない。他に好きな奴いるだろ』って言われて振られたの。その瞬間ね、悲しいとかじゃなくて、あ、バレちゃった、って思っちゃったんだよね。付き合ってる間も、私、無意識にずっとゆめのことばかり考えてたから……」
ゆめ「え……」
ゆづき「最低だよね。相手にそんなこと言わせるくらい不誠実だった自分が嫌で、申し訳なくて、自己嫌悪でボロボロ泣けてきちゃって。……でもね、それ以上に怖かったの」
優月の声が、ほんの少し震えを帯びる。
ゆづき「誰の恋人でもなくなって、自分の気持ちに言い訳ができなくなったとき私、もうゆめのことしか見えなくなっちゃうって確信したから。もしこの気持ちをゆめに知られて、引かれたら、もう友達にも戻れない。本当にゆめを失っちゃうかもって、怖くてパニックになって、泣きながら電話したの」
ゆめ「ゆづき……」
ゆづき「一番ずるいのはね、そうやって振られて傷ついてる可哀想な私になれば、優しいゆめは絶対に突き放さないって分かってたこと。失恋を口実にして、真っ先にゆめの声が聴きたくて電話しちゃったの。傷ついてるはずなのに、心のどこかでこれでやっとゆめにたくさん甘えられるってホッとしてる自分がいて……本当に最低だなってずっと思ってた」
優月は、堰を切ったように心の奥底に隠していた本音を吐き出していく。
それは、私がこの数ヶ月間抱えていた「嬉しさを半分覚えていた罪悪感」と、全く同じ痛みの色をしていた。
ゆづき「でも、毎日電話して、ゆめが私のために毎晩時間を使ってくれるのが、本当に、本当に嬉しくて……。もう、自分のずるさから目を背けるのはやめる。……私、実はね。元カレと付き合う前から、ずっと、ゆめのことが大好きなんだよ」
受話器の向こうから届いた優月の告白は、優しくて、でも絶対に揺るがない強さを持っていた。
自分が最低だと思っていたあの夜。
まさか、優月も同じように、それ以上に私を想って自分を責めて泣いていたなんて。
ゆめ「ゆづき……っ、私、私もね……!」
涙がボロボロと溢れて、言葉がうまく続かない。
ゆめ「ゆづきから電話が来たとき、私……どこかで嬉しいって、チャンスだって思っちゃったの。傷ついてる優月を見てホッとした私は、世界一最低な奴だって、ずっと自分を責めてた……」
私の告白を聞いて、受話器の向こうで優月が「えへへ」と、涙混じりに小さく笑った。
ゆづき「なんだぁ。うちら、お揃いだね。2人ともおんなじくらい最低で、おんなじくらい、お互いのことばっかり考えてたんだね」
ゆめ「うん……本当に、バカみたいだね」
ゆづき「うん、バカだねぇ。……じゃあさ、この最低で最高な毎晩の電話、明日からは友達としてじゃなくて、恋人としてかけ直してもいい?」
優月の優しい声が、私の胸を温かい幸せで満たしていく。
毎晩の電話の終わりは、いつも「また明日」だった。
だけど明日の朝からは、私たちはもっと特別な2人として歩き出すんだ。