村山美羽
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流し台から聞こえる、食器がぶつかるカチャカチャという小気味いい音。
ベランダから吹き込む夜風は、どこか湿っていてあの頃と全く同じ夏の匂いがした。
私、村山美羽には大学1年の夏から付き合っている恋人がいる。
ゆめ。優しくて、ちょっぴり子供っぽいところがあって、一緒にいると信じられないくらい楽しくて、心が落ち着く人。
半年前に始めたこのアパートでの同棲生活は、毎日が宝探しみたいにキラキラしていた。
ゆめ「ねぇみう、見て! アイス、綺麗に2つに割れた!」
キッチンから嬉しそうに声をかけてくる
ゆめの笑顔は、3年前の夏に出会った時のままだ。
無邪気で、眩しくて、愛おしい。
みう「うん、すごいね」
私はソファーに座ったまま、なるべくいつも通りのトーンで返事をする。
だけど、膝の上には黒いリクルートスーツと書きかけのエントリーシートが広がっていた。
私たちは、もう大学4年生だ。
周りの友達はみんな髪を黒く染め、将来の話ばかりしている。
インターン、内定、就職、自立。
いやでも押し寄せてくる大人という現実の波。
みう(私……このまま、ゆめと一緒に大人になってもいいのかな)
頭の中で、最近ずっと同じ問いかけがぐるぐると渦巻いている。
ゆめといる時間は、本当に心地いい。
子供のままでいられる。
でも、だからこそ怖かった。
お互いに就活で余裕がなくなって現実の荒波に揉まれたとき、この楽しくて優しい関係のまま大人になれるのだろうか。
私が就職して、環境が変わったらきっと今みたいに笑い合ってばかりはいられない。
私の重い将来の不安で、ゆめのあの綺麗な笑顔を曇らせてしまうかもしれない。
みう(大好きだけど。本当に、宇宙で一番好きだけど……別れた方が、お互いのためなのかな)
一度生まれたネガティブな思考は、夏の熱気に煽られるように私の頭を支配していく。
ゆめ「はい、みうのぶん。ちゃんと半分こね」
気づけば、ゆめが目の前にしゃがみ込んで、私にアイスを差し出していた。
その瞳が、私の膝の上のリクルートスーツを静かに見つめる。
ゆめ「みう、最近ずっと難しい顔してる。……就活、大変?」
みう「……うん。ちょっとね。色々、考えちゃって」
ゆめは私からアイスを受け取ると、テーブルに置きそっと私の大きな手を両手で包み込んだ。
その手が、驚くほど温かくて私の頑なな心がじわりと解けていく。
ゆめ「あのね、みう。私ね、子供っぽいってよくみうに言われるし自分でもそう思う。でもね、みうが真面目で一人で全部抱え込んじゃうことも知ってるよ」
みお「ゆめ……?」
ゆめ「大人になるの、私も怖いよ。うちらの関係が変わっちゃうのかなって、不安になることもある。でもね……」
ゆめは少しだけ涙目を潤ませながら、だけど真っ直ぐに私を見上げた。
ゆめ「別れるための理由を探すんじゃなくて、一緒に大人になる方法を、一緒に探したい。私は、みうの隣で大人になりたいの」
頭の中のぐるぐるが、ストンと消えた気がした。
私の不器用な迷いも、終わらせようとしていたズルさも、ゆめの真っ直ぐな優しさには全部お見通しだったんだ。
みう「……バカだね、私」
私は差し出されたアイスを掴むように、ゆめの小さな身体をぎゅっと抱きしめた。
付き合ったあの夏から、季節は何度も巡ったけれど。
私はやっぱりこの人の隣で新しい季節を迎えたい。
ベランダから吹き込む風はまだ少し熱を帯びていたけれど、私たちのこれからの未来を優しく祝福してくれているような気がした。
ベランダから吹き込む夜風は、どこか湿っていてあの頃と全く同じ夏の匂いがした。
私、村山美羽には大学1年の夏から付き合っている恋人がいる。
ゆめ。優しくて、ちょっぴり子供っぽいところがあって、一緒にいると信じられないくらい楽しくて、心が落ち着く人。
半年前に始めたこのアパートでの同棲生活は、毎日が宝探しみたいにキラキラしていた。
ゆめ「ねぇみう、見て! アイス、綺麗に2つに割れた!」
キッチンから嬉しそうに声をかけてくる
ゆめの笑顔は、3年前の夏に出会った時のままだ。
無邪気で、眩しくて、愛おしい。
みう「うん、すごいね」
私はソファーに座ったまま、なるべくいつも通りのトーンで返事をする。
だけど、膝の上には黒いリクルートスーツと書きかけのエントリーシートが広がっていた。
私たちは、もう大学4年生だ。
周りの友達はみんな髪を黒く染め、将来の話ばかりしている。
インターン、内定、就職、自立。
いやでも押し寄せてくる大人という現実の波。
みう(私……このまま、ゆめと一緒に大人になってもいいのかな)
頭の中で、最近ずっと同じ問いかけがぐるぐると渦巻いている。
ゆめといる時間は、本当に心地いい。
子供のままでいられる。
でも、だからこそ怖かった。
お互いに就活で余裕がなくなって現実の荒波に揉まれたとき、この楽しくて優しい関係のまま大人になれるのだろうか。
私が就職して、環境が変わったらきっと今みたいに笑い合ってばかりはいられない。
私の重い将来の不安で、ゆめのあの綺麗な笑顔を曇らせてしまうかもしれない。
みう(大好きだけど。本当に、宇宙で一番好きだけど……別れた方が、お互いのためなのかな)
一度生まれたネガティブな思考は、夏の熱気に煽られるように私の頭を支配していく。
ゆめ「はい、みうのぶん。ちゃんと半分こね」
気づけば、ゆめが目の前にしゃがみ込んで、私にアイスを差し出していた。
その瞳が、私の膝の上のリクルートスーツを静かに見つめる。
ゆめ「みう、最近ずっと難しい顔してる。……就活、大変?」
みう「……うん。ちょっとね。色々、考えちゃって」
ゆめは私からアイスを受け取ると、テーブルに置きそっと私の大きな手を両手で包み込んだ。
その手が、驚くほど温かくて私の頑なな心がじわりと解けていく。
ゆめ「あのね、みう。私ね、子供っぽいってよくみうに言われるし自分でもそう思う。でもね、みうが真面目で一人で全部抱え込んじゃうことも知ってるよ」
みお「ゆめ……?」
ゆめ「大人になるの、私も怖いよ。うちらの関係が変わっちゃうのかなって、不安になることもある。でもね……」
ゆめは少しだけ涙目を潤ませながら、だけど真っ直ぐに私を見上げた。
ゆめ「別れるための理由を探すんじゃなくて、一緒に大人になる方法を、一緒に探したい。私は、みうの隣で大人になりたいの」
頭の中のぐるぐるが、ストンと消えた気がした。
私の不器用な迷いも、終わらせようとしていたズルさも、ゆめの真っ直ぐな優しさには全部お見通しだったんだ。
みう「……バカだね、私」
私は差し出されたアイスを掴むように、ゆめの小さな身体をぎゅっと抱きしめた。
付き合ったあの夏から、季節は何度も巡ったけれど。
私はやっぱりこの人の隣で新しい季節を迎えたい。
ベランダから吹き込む風はまだ少し熱を帯びていたけれど、私たちのこれからの未来を優しく祝福してくれているような気がした。