大園玲
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楽屋は、いつも穏やかな空気が流れている。
その中心には大抵、一際落ち着いた佇まいの大園玲がいた。
年下の恋人であるゆめは、少し離れた席からその光景を苦々しく見つめていた。
れい「ふふ、その髪型、すごく似合ってる。もっと自信持っていいんだよ?」
玲は、優の髪を一房すくい上げ、耳にかけながら微笑む。言われた相手は顔を真っ赤にして、
「れいさん……!」と感激の声を漏らしている。
ゆめ(……まただ。れいは、自分がどれだけ相手を惑わせてるか、ちっとも分かってない)
ゆめは雑誌をめくる手が止まり、ページが少しだけくしゃっとなった。
玲の優しさは本物だ。けれど、その本物の優しさを誰にでも、それも至近距離で振りまくのは、恋人のゆめからすれば猛毒でしかない。
仕事が終わり、帰り道。
二人きりになった夜道で、玲はいつも通り穏やかに語りかけてきた。
れい「ゆめちゃん、今日はあまり元気なかったかな? 何かあったら、私に話してほしいな」
れい「私、ゆめちゃんの味方だからね」
そう言って、玲はゆめの頬に優しく手を添えた。
その瞳には一点の曇りもない。
その純粋さが、かえってゆめの胸を締め付けた。
ゆめ「……れいは、ゆうにもあんなこと言ってたよね」
れい「え? ああ、ゆうちゃん?最近悩んでたみたいだから。元気づけてあげたくて」
ゆめ「元気づけるだけで、あんなに近くに行く必要ある? 頭撫でたり、見つめたり……」
れい「それは、言葉だけじゃ伝わらないこともあるから。相手を大切に思う気持ちを、表現しただけだよ?」
玲は不思議そうに小首を傾げる。
彼女にとってそれは善意であって浮気心ではない。けれど、ゆめが欲しいのは、その特別な表現を自分だけに取っておいてくれることだった。
ゆめ「……もういい。れいの大切なんて、安売りしすぎてて価値がないよ」
れい「ゆめちゃん? それはどういう意味かな……」
玲がさらに一歩踏み込もうとした瞬間、ゆめのなかで何かが弾けた。
ゆめ「誰にでもそうやって優しくして、期待させて、私を不安にさせて……最低だよ!」
ゆめ「もう、れいなんて大っ嫌い!!」
ゆめは、玲の驚いた顔を直視できず、そのまま夜の闇の中へ駆け出した。
れい「ゆめちゃん……っ!」
背後で、いつも冷静な玲の、少し動揺した声が響く。
追いかけてきてほしい。でも、今は顔を見たくない。
年下彼女の精一杯の反抗は、冷たい夜風に吹かれながら、涙と一緒にこぼれ落ちた。
走り去るゆめさんの背中を見送ることしかできなかった玲は、その場に立ち尽くしていた。
「大嫌い」という言葉の鋭い痛みが、彼女の胸にゆっくりと広がっていく。
翌日。
ダンスレッスン中、二人の間には目に見えない壁ができていた。
ゆめは一度も玲と目を合わせようとせず、休憩時間も他の同期メンバーとだけ話している。
れい(……どうすれば、いいんだろう)
玲は隅のベンチに座り、ペットボトルの水を一口含んだ。
自分はただ、みんなが笑っていられればいいと思って接してきた。けれど、それが最愛の恋人を傷つけていたのだと、昨夜ようやく気づいたのだ。
レッスン終了後。
玲は意を決して、帰る準備をしていたゆめの腕を掴んだ。
れい「ゆめちゃん、少しだけ……お話できないかな」
ゆめ「……離して。今は話すことなんてないよ」
れい「お願い。昨日、ゆめちゃんをあんなに悲しませた理由、私なりにずっと考えてたの」
玲の瞳は少し赤く、昨夜あまり眠れなかったことを物語っていた。
その様子にゆめは毒気を抜かれ、渋々、人気のない衣装部屋へと付いていった。
扉が閉まると同時に、玲はゆめを包み込むように抱きしめた。
ゆめ「……っ、ちょっと、何……! れいなんて嫌いだって言ったでしょ」
れい「うん。言われちゃった。……私ね、ゆめちゃんに嫌われるのが、世界で一番怖いって初めて知ったよ」
れい「みんなに優しくするのは、アイドルとして、人として正しいことだと思ってた。でも、そのせいで一番近くにいる人を泣かせてしまったら、それはちっとも正しくないよね」
ゆめの肩に、玲が顔を埋める。
れい「……ゆめちゃんだけにしか見せない顔、もっとたくさん作るから。私からゆめちゃんを奪おうとする人がいたら、ちゃんと私のものだって主張するから」
ゆめ「……れいに、そんなことできるの? いつもニコニコして、みんなにいい顔してるのに」
ゆめ「ゆうにだって、また優しくするんでしょ」
れい「……仕事としてアドバイスはするけど、もう頭を撫でたりはしない。だって、私の手が触れていいのは、ゆめちゃんだけだもん」
玲は顔を上げると、少し意地悪そうに、でも愛おしそうに目を細めた。
れい「それとも、今ここで……他の子には絶対に見せないような、だらしない私の顔、見てみる?」
ゆめ「……、……ばか。れいのばか」
ゆめの瞳から、堪えていた涙が溢れ出した。
玲はその涙を指で優しく拭い、今度は誰のためでもない、恋人だけのための深い口づけを落とした。
ゆめ「……まだ、許したわけじゃないからね」
れい「ふふ、いいよ。一生かけて、私だけを好きでいてもらえるように、独占させてあげる」
無自覚なたらしは、卒業。
これからは、自覚を持って君だけを甘やかす。
そんな決意を秘めた玲の微笑みは、昨日の誰に向けたものよりも、ずっと熱を帯びていた。
その中心には大抵、一際落ち着いた佇まいの大園玲がいた。
年下の恋人であるゆめは、少し離れた席からその光景を苦々しく見つめていた。
れい「ふふ、その髪型、すごく似合ってる。もっと自信持っていいんだよ?」
玲は、優の髪を一房すくい上げ、耳にかけながら微笑む。言われた相手は顔を真っ赤にして、
「れいさん……!」と感激の声を漏らしている。
ゆめ(……まただ。れいは、自分がどれだけ相手を惑わせてるか、ちっとも分かってない)
ゆめは雑誌をめくる手が止まり、ページが少しだけくしゃっとなった。
玲の優しさは本物だ。けれど、その本物の優しさを誰にでも、それも至近距離で振りまくのは、恋人のゆめからすれば猛毒でしかない。
仕事が終わり、帰り道。
二人きりになった夜道で、玲はいつも通り穏やかに語りかけてきた。
れい「ゆめちゃん、今日はあまり元気なかったかな? 何かあったら、私に話してほしいな」
れい「私、ゆめちゃんの味方だからね」
そう言って、玲はゆめの頬に優しく手を添えた。
その瞳には一点の曇りもない。
その純粋さが、かえってゆめの胸を締め付けた。
ゆめ「……れいは、ゆうにもあんなこと言ってたよね」
れい「え? ああ、ゆうちゃん?最近悩んでたみたいだから。元気づけてあげたくて」
ゆめ「元気づけるだけで、あんなに近くに行く必要ある? 頭撫でたり、見つめたり……」
れい「それは、言葉だけじゃ伝わらないこともあるから。相手を大切に思う気持ちを、表現しただけだよ?」
玲は不思議そうに小首を傾げる。
彼女にとってそれは善意であって浮気心ではない。けれど、ゆめが欲しいのは、その特別な表現を自分だけに取っておいてくれることだった。
ゆめ「……もういい。れいの大切なんて、安売りしすぎてて価値がないよ」
れい「ゆめちゃん? それはどういう意味かな……」
玲がさらに一歩踏み込もうとした瞬間、ゆめのなかで何かが弾けた。
ゆめ「誰にでもそうやって優しくして、期待させて、私を不安にさせて……最低だよ!」
ゆめ「もう、れいなんて大っ嫌い!!」
ゆめは、玲の驚いた顔を直視できず、そのまま夜の闇の中へ駆け出した。
れい「ゆめちゃん……っ!」
背後で、いつも冷静な玲の、少し動揺した声が響く。
追いかけてきてほしい。でも、今は顔を見たくない。
年下彼女の精一杯の反抗は、冷たい夜風に吹かれながら、涙と一緒にこぼれ落ちた。
走り去るゆめさんの背中を見送ることしかできなかった玲は、その場に立ち尽くしていた。
「大嫌い」という言葉の鋭い痛みが、彼女の胸にゆっくりと広がっていく。
翌日。
ダンスレッスン中、二人の間には目に見えない壁ができていた。
ゆめは一度も玲と目を合わせようとせず、休憩時間も他の同期メンバーとだけ話している。
れい(……どうすれば、いいんだろう)
玲は隅のベンチに座り、ペットボトルの水を一口含んだ。
自分はただ、みんなが笑っていられればいいと思って接してきた。けれど、それが最愛の恋人を傷つけていたのだと、昨夜ようやく気づいたのだ。
レッスン終了後。
玲は意を決して、帰る準備をしていたゆめの腕を掴んだ。
れい「ゆめちゃん、少しだけ……お話できないかな」
ゆめ「……離して。今は話すことなんてないよ」
れい「お願い。昨日、ゆめちゃんをあんなに悲しませた理由、私なりにずっと考えてたの」
玲の瞳は少し赤く、昨夜あまり眠れなかったことを物語っていた。
その様子にゆめは毒気を抜かれ、渋々、人気のない衣装部屋へと付いていった。
扉が閉まると同時に、玲はゆめを包み込むように抱きしめた。
ゆめ「……っ、ちょっと、何……! れいなんて嫌いだって言ったでしょ」
れい「うん。言われちゃった。……私ね、ゆめちゃんに嫌われるのが、世界で一番怖いって初めて知ったよ」
れい「みんなに優しくするのは、アイドルとして、人として正しいことだと思ってた。でも、そのせいで一番近くにいる人を泣かせてしまったら、それはちっとも正しくないよね」
ゆめの肩に、玲が顔を埋める。
れい「……ゆめちゃんだけにしか見せない顔、もっとたくさん作るから。私からゆめちゃんを奪おうとする人がいたら、ちゃんと私のものだって主張するから」
ゆめ「……れいに、そんなことできるの? いつもニコニコして、みんなにいい顔してるのに」
ゆめ「ゆうにだって、また優しくするんでしょ」
れい「……仕事としてアドバイスはするけど、もう頭を撫でたりはしない。だって、私の手が触れていいのは、ゆめちゃんだけだもん」
玲は顔を上げると、少し意地悪そうに、でも愛おしそうに目を細めた。
れい「それとも、今ここで……他の子には絶対に見せないような、だらしない私の顔、見てみる?」
ゆめ「……、……ばか。れいのばか」
ゆめの瞳から、堪えていた涙が溢れ出した。
玲はその涙を指で優しく拭い、今度は誰のためでもない、恋人だけのための深い口づけを落とした。
ゆめ「……まだ、許したわけじゃないからね」
れい「ふふ、いいよ。一生かけて、私だけを好きでいてもらえるように、独占させてあげる」
無自覚なたらしは、卒業。
これからは、自覚を持って君だけを甘やかす。
そんな決意を秘めた玲の微笑みは、昨日の誰に向けたものよりも、ずっと熱を帯びていた。