田村保乃
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「ゆめちゃーん、今日も世界一可愛いなぁ!」
昨日までは、それが当たり前の日常だった。
保乃の大きな瞳が私だけを映して、少し高めの声が楽屋に響く。
私はいつも「はいはい、ありがとう」と、どこか余裕を持ってその愛を受け流していた。
愛されているという絶対的な自信。それが私の傲慢さだったのかもしれない。
ゆめ(あれ?)
楽屋のドアを開けた瞬間、いつもの熱気が来ないことに違和感を覚えた。
保乃はソファーの隅で、ひぃちゃんと寄り添って一冊の雑誌を読んでいる。
ゆめ「……ほの、おはよう」
わざと近くを通って声をかけた。
けれど、保乃は雑誌から目を離さずに、ふんわりとした笑顔で応えるだけ。
ほの「あ、ゆめちゃん。おはよー。今日のお洋服も似合ってるなぁ」
ゆめ「あ、ありがとう。……それで、終わり?」
ほの「ん? 何がー? ……あ、ひぃちゃん、この服めっちゃ可愛くない?」
保乃はすぐに視線をひかるに戻してしまった。
いつもなら「こっち向いてー!」と抱きついてくるはずなのに。
胸の奥に、冷たい水がぽたぽたと落ちるような、得体の知れない焦りが広がり始める。
撮影の合間、私は無意識に保乃の姿を目で追っていた。
彼女は他のメンバーと笑い、お菓子を食べ、楽しそうに過ごしている。
そこには「私の知っている保乃」がいるのに、その中心に「私」だけがいない。
ゆめ(……なんで。どうして、今日は一度も近くに来てくれないの?)
追われることに慣れきっていた私は、自分からどう話しかければいいのか分からなくなっていた。
皮肉なことに、保乃が私を見なくなればなるほど、私の世界は保乃一色に染まっていく。
「好き」と言われないことが、こんなにも息苦しいなんて知らなかった。
リハーサルが終わり、最後の一人になった保乃を呼び止めた。
鏡張りの部屋に、私の荒い呼吸と保乃の穏やかな空気が混ざり合う。
ゆめ「ねえ、ほの。……はっきり言って。私、嫌われるようなことした?」
ほの「嫌い? まさかぁ。ほのがゆめちゃんを嫌いになるわけないやん」
保乃は首を傾げて、柔らかく微笑む。でも、その瞳はどこか遠い。
ゆめ「嘘だよ! 今日、一回も抱きついてこなかった。名前も、一回しか呼んでくれなかった! ……いつもみたいに、好きって言ってよ」
叫ぶように伝えると、保乃の表情がふっと変わった。
微笑みは消え、代わりに底の見えない、深く濃い熱がその瞳に宿る。
保乃はゆっくりと歩み寄り、私の背中を鏡に押し付けた。
ほの「……やっと言ってくれた。……ずっと待ってたんよ、ゆめちゃんがそうやって、ほのを求めてくれるのを」
ゆめ「……っ、待ってたって、どういうこと?」
ほの「ほのな、不安やったんよ。ほのばっかりが追いかけて、ゆめちゃんはいつも涼しい顔してて。……やから、賭けをしてみたん。ほのが引いたら、ゆめちゃんはどうするかなーって」
保乃の指先が、私の頬を優しく、でも逃がさないようになぞる。
ほの「結果は、ほのの勝ち。……ゆめちゃん、今、ほののことしか考えてへん顔してる」
ゆめ「……ずるいよ、ほの。そんなの、もう追いかけるしかないじゃん」
ほの「ふふ、ええよ。覚悟しぃ? これからはほのが逃げる番。……追いつけるかな?」
保乃は私の耳元でそう囁くと、唇が触れるか触れないかの距離で止まった。
立場が入れ替わった、甘くて残酷な関係。
私はもう、彼女の手のひらの上で踊らされることしかできないのだと、激しく刻む鼓動が認めていた。
昨日までは、それが当たり前の日常だった。
保乃の大きな瞳が私だけを映して、少し高めの声が楽屋に響く。
私はいつも「はいはい、ありがとう」と、どこか余裕を持ってその愛を受け流していた。
愛されているという絶対的な自信。それが私の傲慢さだったのかもしれない。
ゆめ(あれ?)
楽屋のドアを開けた瞬間、いつもの熱気が来ないことに違和感を覚えた。
保乃はソファーの隅で、ひぃちゃんと寄り添って一冊の雑誌を読んでいる。
ゆめ「……ほの、おはよう」
わざと近くを通って声をかけた。
けれど、保乃は雑誌から目を離さずに、ふんわりとした笑顔で応えるだけ。
ほの「あ、ゆめちゃん。おはよー。今日のお洋服も似合ってるなぁ」
ゆめ「あ、ありがとう。……それで、終わり?」
ほの「ん? 何がー? ……あ、ひぃちゃん、この服めっちゃ可愛くない?」
保乃はすぐに視線をひかるに戻してしまった。
いつもなら「こっち向いてー!」と抱きついてくるはずなのに。
胸の奥に、冷たい水がぽたぽたと落ちるような、得体の知れない焦りが広がり始める。
撮影の合間、私は無意識に保乃の姿を目で追っていた。
彼女は他のメンバーと笑い、お菓子を食べ、楽しそうに過ごしている。
そこには「私の知っている保乃」がいるのに、その中心に「私」だけがいない。
ゆめ(……なんで。どうして、今日は一度も近くに来てくれないの?)
追われることに慣れきっていた私は、自分からどう話しかければいいのか分からなくなっていた。
皮肉なことに、保乃が私を見なくなればなるほど、私の世界は保乃一色に染まっていく。
「好き」と言われないことが、こんなにも息苦しいなんて知らなかった。
リハーサルが終わり、最後の一人になった保乃を呼び止めた。
鏡張りの部屋に、私の荒い呼吸と保乃の穏やかな空気が混ざり合う。
ゆめ「ねえ、ほの。……はっきり言って。私、嫌われるようなことした?」
ほの「嫌い? まさかぁ。ほのがゆめちゃんを嫌いになるわけないやん」
保乃は首を傾げて、柔らかく微笑む。でも、その瞳はどこか遠い。
ゆめ「嘘だよ! 今日、一回も抱きついてこなかった。名前も、一回しか呼んでくれなかった! ……いつもみたいに、好きって言ってよ」
叫ぶように伝えると、保乃の表情がふっと変わった。
微笑みは消え、代わりに底の見えない、深く濃い熱がその瞳に宿る。
保乃はゆっくりと歩み寄り、私の背中を鏡に押し付けた。
ほの「……やっと言ってくれた。……ずっと待ってたんよ、ゆめちゃんがそうやって、ほのを求めてくれるのを」
ゆめ「……っ、待ってたって、どういうこと?」
ほの「ほのな、不安やったんよ。ほのばっかりが追いかけて、ゆめちゃんはいつも涼しい顔してて。……やから、賭けをしてみたん。ほのが引いたら、ゆめちゃんはどうするかなーって」
保乃の指先が、私の頬を優しく、でも逃がさないようになぞる。
ほの「結果は、ほのの勝ち。……ゆめちゃん、今、ほののことしか考えてへん顔してる」
ゆめ「……ずるいよ、ほの。そんなの、もう追いかけるしかないじゃん」
ほの「ふふ、ええよ。覚悟しぃ? これからはほのが逃げる番。……追いつけるかな?」
保乃は私の耳元でそう囁くと、唇が触れるか触れないかの距離で止まった。
立場が入れ替わった、甘くて残酷な関係。
私はもう、彼女の手のひらの上で踊らされることしかできないのだと、激しく刻む鼓動が認めていた。