森田ひかる
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放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘みたいに静かで、窓から差し込む夕陽が床に長い影を落としていた。
廊下を駆ける足音がその静けさを破る。
ゆめ「せんぱーい!森田先輩!」
ゆめの声は、校舎の端から端まで届きそうなほど元気で、思わず振り返ってしまうくらい大きい。
呼ばれた本人――森田ひかるは、ロッカーの前で立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。切れ長の目に落ち着いた表情、少し冷たく見える雰囲気。
だけど、よく知る人は知っている。
彼女の中に、誰にも見せない柔らかさがあることを。
ひかる「……何?」
短く、そっけない返事。けれどゆめはそれだけで満足そうに笑う。
ゆめ「今日もかっこいいなって思って!」
ひかる「意味わかんない」
森田はそう言いながらも、ほんのわずかに口元を緩めた。
ゆめは入学してすぐ、森田ひかるに一目惚れした。
初めて見たのは体育館での全校集会。整列する上級生の中で、ひとりだけ空気が違って見えた。背筋が伸びて、視線は前を向いたまま、無駄な動きがない。その姿に、胸がどくんと音を立てた。
それ以来、ゆめの視線は自然と森田を追いかけるようになった。
先輩後輩の関係は、最初はただそれだけだった。挨拶をするだけ、廊下ですれ違うだけ。
でもゆめは止まらなかった。元気と明るさを武器に、毎日のように話しかけた。
「先輩お弁当なに入ってるんですか?」
「部活どこですか?」
「今日の授業どうでした?」
森田は最初、戸惑っていた。
こんなに距離感の近い後輩は初めてで、どう接していいかわからなかったから。
でも無視するほど冷たくもなれなくて、短い返事を返す日々が続いた。
ある日、夕焼けが校舎を染める中で、ゆめは急に真剣な顔になった。
ゆめ「先輩、ちょっと時間いいですか」
いつもの軽い調子じゃない。その声に、森田は不思議そうに頷いた。
ひかる「……いいけど」
校舎裏のベンチに並んで座る。風が制服の裾を揺らす。しばらく沈黙が続いて、ゆめは深呼吸をした。
ゆめ「私、森田先輩のこと、好きです」
まっすぐな言葉だった。飾りも逃げ道もない。森田は一瞬、言葉を失った。
ひかる「……ごめん」
考える時間もほとんどなく、口から出たのはその一言だった。
ひかる「今は、そういうの考えられない」
それ以上は何も言えなかった。傷つけたくなかったけど、曖昧にするのはもっと残酷だと思った。
ゆめは一瞬、目を見開いて、それから少しだけ困ったように笑った。
ゆめ「そっか。ありがとうございます、ちゃんと答えてくれて」
泣かなかった。怒りもしなかった。ただ立ち上がって、いつもの元気な声で「じゃあまた明日!」と言った。
それからも、ゆめは変わらなかった。
いや、正確には、変わらないようにしていた。
朝は「おはようございます!」と笑い、昼休みには遠くから手を振り、放課後にはまた話しかけてくる。
森田は、その姿を見るたびに胸が少しだけ痛んだ。拒絶したはずなのに、距離は縮まっていく。
ひかる「なんで、そんな普通でいられるの」
思わず漏れた言葉に、ゆめは首を傾げた。
ゆめ「普通ですよ?好きって言ったからって、先輩と話しちゃいけないわけじゃないし」
ひかる「……諦めたの?」
その質問に、ゆめは少し考えてから、にっと笑った。
ゆめ「いいえ。全然」
森田は言葉を失った。
ひかる「振られたのに?」
ゆめ「はい。でも、好きな気持ちは私のものなので」
その言葉は、妙に胸に残った。
日々は過ぎていく。テスト期間、行事、季節の移り変わり。森田は相変わらずクールで、ゆめは相変わらず賑やかだった。でも、いつの間にか森田は気づいていた。
ゆめがいないと、放課後が少し静かすぎること。
いつもの声が聞こえないと、自然と周囲を探してしまうこと。
雨の日、ゆめが傘を忘れて困っていたとき、森田は無意識に声をかけていた。
ひかる「……一緒に帰る?」
ゆめは驚いた顔をして、それから満面の笑みを浮かべた。
ゆめ「いいんですか!?」
ひかる「……たまたま方向一緒だから」
言い訳しながら歩く帰り道。傘の下で、距離が近い。心臓の音がやけに大きく聞こえた。
ゆめ「先輩って、優しいですよね」
ひかる「そう見えるってよく言われる」
ゆめ「私は最初から思ってました」
その言葉に、森田は何も返せなかった。
ある日、ゆめが部活の後輩に囲まれて笑っているのを見た。楽しそうで、誰にでも優しくて、明るい。胸の奥に、ちくりとした感情が生まれる。
ひかる「……何これ」
自分でも理解できなかった。
その日の放課後、森田は珍しく自分から声をかけた。
ひかる「ゆめ、少し話せる?」
ゆめ「はい!」
ベンチに座る。前と同じ場所。
ひかる「この前……誰とでもああやって笑うんだなって思って」
ゆめ「え?」
ひかる「別に、責めてるわけじゃない」
言葉を選びながら、森田は続けた。
ひかる「……ちょっと、嫌だった」
ゆめは目を丸くして、それから静かに笑った。
ゆめ「先輩、嫉妬ですか?」
ひかる「ちが……」
否定しようとして、言葉が詰まる。
ゆめ「私、先輩以外にはそういう意味でドキドキしませんよ」
ひかる「……私は、まだ答え出てない」
正直な気持ちだった。
ゆめ「それでもいいです」
ゆめは迷いなく言った。
ゆめ「待つの、得意なので」
夕陽が沈んでいく。オレンジ色の空の下で、森田は初めて、自分の気持ちから逃げないでいようと思った。
ひかる「……私、ゆめといると、変になる」
ゆめ「それ、嬉しいです」
小さく笑うゆめを見て、森田は気づいた。
拒絶したはずの気持ちは、いつの間にか形を変えて、ここにあった。
風が吹く。制服の袖が触れ合う。
森田は、ほんの少しだけ勇気を出して、隣に座るゆめの手に、自分の指先を重ねた。
ひかる「……まだ、答えは先でもいい?」
ゆめ「はい。先輩のペースで」
その言葉に、胸の奥が温かくなる。
クールでいたはずの心に、確かな揺らぎが生まれていた。
それは、明るくてうるさくて、どうしようもなく真っ直ぐな後輩が、長い時間をかけて残した、大切な痕だった。
廊下を駆ける足音がその静けさを破る。
ゆめ「せんぱーい!森田先輩!」
ゆめの声は、校舎の端から端まで届きそうなほど元気で、思わず振り返ってしまうくらい大きい。
呼ばれた本人――森田ひかるは、ロッカーの前で立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。切れ長の目に落ち着いた表情、少し冷たく見える雰囲気。
だけど、よく知る人は知っている。
彼女の中に、誰にも見せない柔らかさがあることを。
ひかる「……何?」
短く、そっけない返事。けれどゆめはそれだけで満足そうに笑う。
ゆめ「今日もかっこいいなって思って!」
ひかる「意味わかんない」
森田はそう言いながらも、ほんのわずかに口元を緩めた。
ゆめは入学してすぐ、森田ひかるに一目惚れした。
初めて見たのは体育館での全校集会。整列する上級生の中で、ひとりだけ空気が違って見えた。背筋が伸びて、視線は前を向いたまま、無駄な動きがない。その姿に、胸がどくんと音を立てた。
それ以来、ゆめの視線は自然と森田を追いかけるようになった。
先輩後輩の関係は、最初はただそれだけだった。挨拶をするだけ、廊下ですれ違うだけ。
でもゆめは止まらなかった。元気と明るさを武器に、毎日のように話しかけた。
「先輩お弁当なに入ってるんですか?」
「部活どこですか?」
「今日の授業どうでした?」
森田は最初、戸惑っていた。
こんなに距離感の近い後輩は初めてで、どう接していいかわからなかったから。
でも無視するほど冷たくもなれなくて、短い返事を返す日々が続いた。
ある日、夕焼けが校舎を染める中で、ゆめは急に真剣な顔になった。
ゆめ「先輩、ちょっと時間いいですか」
いつもの軽い調子じゃない。その声に、森田は不思議そうに頷いた。
ひかる「……いいけど」
校舎裏のベンチに並んで座る。風が制服の裾を揺らす。しばらく沈黙が続いて、ゆめは深呼吸をした。
ゆめ「私、森田先輩のこと、好きです」
まっすぐな言葉だった。飾りも逃げ道もない。森田は一瞬、言葉を失った。
ひかる「……ごめん」
考える時間もほとんどなく、口から出たのはその一言だった。
ひかる「今は、そういうの考えられない」
それ以上は何も言えなかった。傷つけたくなかったけど、曖昧にするのはもっと残酷だと思った。
ゆめは一瞬、目を見開いて、それから少しだけ困ったように笑った。
ゆめ「そっか。ありがとうございます、ちゃんと答えてくれて」
泣かなかった。怒りもしなかった。ただ立ち上がって、いつもの元気な声で「じゃあまた明日!」と言った。
それからも、ゆめは変わらなかった。
いや、正確には、変わらないようにしていた。
朝は「おはようございます!」と笑い、昼休みには遠くから手を振り、放課後にはまた話しかけてくる。
森田は、その姿を見るたびに胸が少しだけ痛んだ。拒絶したはずなのに、距離は縮まっていく。
ひかる「なんで、そんな普通でいられるの」
思わず漏れた言葉に、ゆめは首を傾げた。
ゆめ「普通ですよ?好きって言ったからって、先輩と話しちゃいけないわけじゃないし」
ひかる「……諦めたの?」
その質問に、ゆめは少し考えてから、にっと笑った。
ゆめ「いいえ。全然」
森田は言葉を失った。
ひかる「振られたのに?」
ゆめ「はい。でも、好きな気持ちは私のものなので」
その言葉は、妙に胸に残った。
日々は過ぎていく。テスト期間、行事、季節の移り変わり。森田は相変わらずクールで、ゆめは相変わらず賑やかだった。でも、いつの間にか森田は気づいていた。
ゆめがいないと、放課後が少し静かすぎること。
いつもの声が聞こえないと、自然と周囲を探してしまうこと。
雨の日、ゆめが傘を忘れて困っていたとき、森田は無意識に声をかけていた。
ひかる「……一緒に帰る?」
ゆめは驚いた顔をして、それから満面の笑みを浮かべた。
ゆめ「いいんですか!?」
ひかる「……たまたま方向一緒だから」
言い訳しながら歩く帰り道。傘の下で、距離が近い。心臓の音がやけに大きく聞こえた。
ゆめ「先輩って、優しいですよね」
ひかる「そう見えるってよく言われる」
ゆめ「私は最初から思ってました」
その言葉に、森田は何も返せなかった。
ある日、ゆめが部活の後輩に囲まれて笑っているのを見た。楽しそうで、誰にでも優しくて、明るい。胸の奥に、ちくりとした感情が生まれる。
ひかる「……何これ」
自分でも理解できなかった。
その日の放課後、森田は珍しく自分から声をかけた。
ひかる「ゆめ、少し話せる?」
ゆめ「はい!」
ベンチに座る。前と同じ場所。
ひかる「この前……誰とでもああやって笑うんだなって思って」
ゆめ「え?」
ひかる「別に、責めてるわけじゃない」
言葉を選びながら、森田は続けた。
ひかる「……ちょっと、嫌だった」
ゆめは目を丸くして、それから静かに笑った。
ゆめ「先輩、嫉妬ですか?」
ひかる「ちが……」
否定しようとして、言葉が詰まる。
ゆめ「私、先輩以外にはそういう意味でドキドキしませんよ」
ひかる「……私は、まだ答え出てない」
正直な気持ちだった。
ゆめ「それでもいいです」
ゆめは迷いなく言った。
ゆめ「待つの、得意なので」
夕陽が沈んでいく。オレンジ色の空の下で、森田は初めて、自分の気持ちから逃げないでいようと思った。
ひかる「……私、ゆめといると、変になる」
ゆめ「それ、嬉しいです」
小さく笑うゆめを見て、森田は気づいた。
拒絶したはずの気持ちは、いつの間にか形を変えて、ここにあった。
風が吹く。制服の袖が触れ合う。
森田は、ほんの少しだけ勇気を出して、隣に座るゆめの手に、自分の指先を重ねた。
ひかる「……まだ、答えは先でもいい?」
ゆめ「はい。先輩のペースで」
その言葉に、胸の奥が温かくなる。
クールでいたはずの心に、確かな揺らぎが生まれていた。
それは、明るくてうるさくて、どうしようもなく真っ直ぐな後輩が、長い時間をかけて残した、大切な痕だった。