田村保乃
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治療が終わったと聞いた日のことを、
ゆめは意外なほど淡々と覚えている。
医師の口から出た「経過は良好です」という言葉は、拍子抜けするほど静かで、涙が出るような劇的さはなかった。
ただ――
胸の奥で、長い間張りつめていた糸が、ゆっくり緩んだ気がした。
ほのに報告したとき、彼女は一瞬、言葉を失ってから、
ほの「……ほんとに?」
と、確認するように聞いた。
ゆめ「うん。まだ通院はあるけど」
ほの「……よかった」
それだけ言って、ほのはゆめを抱きしめた。
泣くわけでもなく、大きく喜ぶわけでもなく、ただ、確かめるみたいに。
ほの「ちゃんと、生きてるね」
ゆめ「……うん」
回復していく過程は、
ドラマみたいに一直線じゃなかった。
体力は戻る日もあれば、急に疲れが出る日もある。
それでも、以前と決定的に違ったのは――
一人じゃなかったことだった。
ほのは、過剰に気を遣わなかった。
「大丈夫?」を言いすぎない。でも、ちゃんと見ている。
ほの「今日は歩く?」
ゆめ「……少しだけ」
ほの「じゃあ、あの公園まで」
ゆっくり、ゆっくり。
ペースを合わせるのが上手で、追い越すことも、急かすこともない。
ゆめ(支えるってこういうことなんだ)
ある日、久しぶりに少し遠出をした。
以前なら当たり前だった街並みが、少しだけ違って見える。
ゆめ「ねえ」
ほの「なに?」
ゆめ「前さ、別れようって言った時」
ほのは立ち止まらず、でもちゃんと聞く姿勢のまま答えた。
ほの「うん」
ゆめ「本気で、嫌われたって思った?」
少し間があった。
ほの「……正直ねわからなかった。嫌われたのか、離れたかったのか。でも、どっちでも苦しかった」
ゆめは、深く息を吸った。
ゆめ「ごめん」
ほの「ううん。今、ここにいるから」
それ以上、過去を責める言葉はなかった。
回復してから、ゆめは少し変わった。
未来の話を、怖がらずにするようになった。
ゆめ「来年さ」
ほの「んー?」
ゆめ「旅行とか、行けるかな」
ほのは、少し驚いた顔をしてから、柔らかく笑った。
ほの「行こうよ!無理しない日程で」
ゆめ「……即答だね」
ほの「だって、楽しみやん」
その「楽しみ」という言葉が、胸に落ちた。
以前のゆめは、未来を“考えないように”していた。
でも今は違う。
ゆめ(未来って、こんなに静かでいいんだ)
ある夜、ソファで並んで座っていたとき。
特別な話はしていなかった。
テレビの音と、時計の秒針。
ゆめ「ねえ、ほの」
ほの「ん?」
ゆめ「あの時、戻ってきてくれてありがとう」
ほのは少し照れたように、視線を逸らした。
ほの「……当たり前やん、好きなんだから」
その言葉は、前よりずっと強く、前よりずっと現実的だった。
治療を終えた未来は、特別な奇跡で満ちているわけじゃない。
朝起きて、一緒にごはんを食べて、仕事に行って、疲れたら寄り添う。
でも。
ゆめ(生きてるって、こういうことか)
逃げた過去も、泣いた夜も、
全部含めて――
今がある。
ほの「今日さ」
ゆめ「ん?」
ほの「おかえりって言えるの、嬉しい」
ゆめは、少し笑って答えた。
ゆめ「……ただいま」
終わりじゃない。
それは、ちゃんと続いていく未来の始まりだった。
ゆめは意外なほど淡々と覚えている。
医師の口から出た「経過は良好です」という言葉は、拍子抜けするほど静かで、涙が出るような劇的さはなかった。
ただ――
胸の奥で、長い間張りつめていた糸が、ゆっくり緩んだ気がした。
ほのに報告したとき、彼女は一瞬、言葉を失ってから、
ほの「……ほんとに?」
と、確認するように聞いた。
ゆめ「うん。まだ通院はあるけど」
ほの「……よかった」
それだけ言って、ほのはゆめを抱きしめた。
泣くわけでもなく、大きく喜ぶわけでもなく、ただ、確かめるみたいに。
ほの「ちゃんと、生きてるね」
ゆめ「……うん」
回復していく過程は、
ドラマみたいに一直線じゃなかった。
体力は戻る日もあれば、急に疲れが出る日もある。
それでも、以前と決定的に違ったのは――
一人じゃなかったことだった。
ほのは、過剰に気を遣わなかった。
「大丈夫?」を言いすぎない。でも、ちゃんと見ている。
ほの「今日は歩く?」
ゆめ「……少しだけ」
ほの「じゃあ、あの公園まで」
ゆっくり、ゆっくり。
ペースを合わせるのが上手で、追い越すことも、急かすこともない。
ゆめ(支えるってこういうことなんだ)
ある日、久しぶりに少し遠出をした。
以前なら当たり前だった街並みが、少しだけ違って見える。
ゆめ「ねえ」
ほの「なに?」
ゆめ「前さ、別れようって言った時」
ほのは立ち止まらず、でもちゃんと聞く姿勢のまま答えた。
ほの「うん」
ゆめ「本気で、嫌われたって思った?」
少し間があった。
ほの「……正直ねわからなかった。嫌われたのか、離れたかったのか。でも、どっちでも苦しかった」
ゆめは、深く息を吸った。
ゆめ「ごめん」
ほの「ううん。今、ここにいるから」
それ以上、過去を責める言葉はなかった。
回復してから、ゆめは少し変わった。
未来の話を、怖がらずにするようになった。
ゆめ「来年さ」
ほの「んー?」
ゆめ「旅行とか、行けるかな」
ほのは、少し驚いた顔をしてから、柔らかく笑った。
ほの「行こうよ!無理しない日程で」
ゆめ「……即答だね」
ほの「だって、楽しみやん」
その「楽しみ」という言葉が、胸に落ちた。
以前のゆめは、未来を“考えないように”していた。
でも今は違う。
ゆめ(未来って、こんなに静かでいいんだ)
ある夜、ソファで並んで座っていたとき。
特別な話はしていなかった。
テレビの音と、時計の秒針。
ゆめ「ねえ、ほの」
ほの「ん?」
ゆめ「あの時、戻ってきてくれてありがとう」
ほのは少し照れたように、視線を逸らした。
ほの「……当たり前やん、好きなんだから」
その言葉は、前よりずっと強く、前よりずっと現実的だった。
治療を終えた未来は、特別な奇跡で満ちているわけじゃない。
朝起きて、一緒にごはんを食べて、仕事に行って、疲れたら寄り添う。
でも。
ゆめ(生きてるって、こういうことか)
逃げた過去も、泣いた夜も、
全部含めて――
今がある。
ほの「今日さ」
ゆめ「ん?」
ほの「おかえりって言えるの、嬉しい」
ゆめは、少し笑って答えた。
ゆめ「……ただいま」
終わりじゃない。
それは、ちゃんと続いていく未来の始まりだった。