田村保乃×大園玲
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広大なキャンパスの喧騒の中、私はまた無意識にあの後ろ姿を探してしまっている。
私と保乃ちゃんは、高校時代から付き合っていた。
あの頃は毎日が眩しくて、二人で同じ大学に進学が決まった時はこれからもずっと一緒にいられるのだと疑いもしなかった。
だけど、大学に入ってから全てが変わってしまった。
新しい人間関係、バラバラの講義スケジュール、サークル活動。
すれ違う時間が増えるにつれて、あんなに近かった二人の距離は少しずつ、けれど確実に離れていった。
「もう、終わりにしよっか」
どちらからともなく言い出した別れ。
引き止める勇気も理由もなくて、私たちはあっけなく恋人ではなくなった。
同じ大学を選んでしまったのが、最大の失敗だったのかもしれない。
広い講義室でも、賑やかな食堂でも、気づけば視線が保乃ちゃんを追ってしまう。
ほの「あ、れいちゃん! おつかれ〜」
すれ違いざま、保乃ちゃんは昔と変わらない柔らかい笑顔で手を振ってくる。
もう特別な関係じゃないのに、そんな気さくな態度をとられるたび、胸の奥がキュッと締め付けられる。
れい「……うん、おつかれ」
素っ気なく返事をして、そっと視線を逸らした。
本当は、もう未練なんてないフリをしたい。
引きずっているのは自分だけだと思いたくて、別に好きじゃないよって自分に言い聞かせるけれど心はちっとも嘘をついてくれない。
そんなある日、学内のカフェテリアで保乃ちゃんの姿を見かけた。
でも、一人じゃない。
隣には、楽しそうに笑い合う女の子がいた。
ほの「ほんまに〜? もう、冗談やめてよ〜笑」
あんな風に愛おしそうに相手を見つめる目も、柔らかく肩が触れ合う距離感も、全部かつて私だけのものだったはずの特等席だ。
れい(……新しい彼女、できたんだ)
噂では聞いていたけれど、実際に目にしてしまうと息が止まりそうになる。
保乃ちゃんはもう次の恋へ歩き出しているのに、私だけが過去の残像に取り残されている。
「好きじゃない、もう好きじゃない」
何度も心の中で呪文みたいに呟いてみるけれど、溢れてくるのは嫉妬と後悔ばかりだ。
別れを選んだのは自分たちなのに。
嫌いになって別れたわけじゃないからこそ、諦め方がわからない。
遠くで幸せそうに笑う保乃ちゃんの横顔を、私は今日も物陰から見つめることしかできなかった。
視線を遮るように大粒の雨が降り出し、キャンパスの景色を白く煙らせていた。
私は食堂の軒下で立ち尽くし、鞄の中にある折り畳み傘を開く気力もないまま雨音に耳を澄ませていた。
胸の奥にこびりついた冷たい痛みが、一向に消えてくれない。
れい(もう好きじゃない。終わったことなんだから)
そう自分に言い聞かせるたび、保乃ちゃんの笑顔や、隣にいた女の子の楽しそうな声がフラッシュバックする。
私だけが、あの楽しかった思い出の場所に置き去りにされているみたいだ。
ほの「……れいちゃん?」
ふいに名前を呼ばれ、ハッと振り返る。
そこに立っていたのは、相合傘をした保乃ちゃんと、あの新しい彼女だった。
ほの「やっぱりれいちゃんや。傘持ってへんの? 結構降ってきたで」
れい「あ……うん。忘れてちゃって……でも大丈夫、すぐ止むと思うし」
咄嗟に作り笑いを浮かべて距離をとる。
保乃ちゃんの隣にいる女の子は、不思議そうに私を見つめていた。
ひかる「ほのちゃん、お友達?」
ほの「あ、うん! 高校からの友達で、大園玲ちゃん。れいちゃん、こちらは……今の彼女の、ひかるちゃん」
友達という言葉が、鋭い刃物のように胸に突き刺さる。
かつては私の恋人だった人が、目の前で他の子を彼女と紹介している。
その現実が恐ろしいほど鮮明に突きつけられて、呼吸が浅くなった。
ひかる「れいちゃん、よかったらこの傘使って? 私たち、ほのちゃんの大きな傘で一緒に入るから大丈夫だし!」
れい「えっ……ううん、申し訳ないよ、悪いから――」
ほの「ええよれいちゃん、受け取って? 濡れて風邪ひかれたら嫌やし」
保乃ちゃんは優しく微笑んで、私の手元にビニール傘を押し付けた。
その手が一瞬触れて、懐かしい温もりが伝わってくる。
でも、次の瞬間には、保乃ちゃんはひかるちゃんの肩を抱き寄せるようにして、相合傘の中に納まっていた。
ほの「じゃあねれいちゃん、また大学で!」
二人で一つの傘に入り、身を寄せ合って雨の中に消えていく後ろ姿。
私に渡された一本の傘を持ちながら、私はその場から一歩も動けなくなっていた。
れい「……優しくしないでよ」
ぽつりと漏れた声は、雨音にかき消された。
私にくれた優しさは、もう特別な愛なんかじゃなくて、ただの友達への気遣いなんだ。
それが痛いほど分かってしまうから余計に辛い。
差した傘に当たる雨音が、心の中で「好きじゃない、好きじゃない」と繰り返す私の虚しい嘘を、優しく笑い飛ばすように響いていた。
私と保乃ちゃんは、高校時代から付き合っていた。
あの頃は毎日が眩しくて、二人で同じ大学に進学が決まった時はこれからもずっと一緒にいられるのだと疑いもしなかった。
だけど、大学に入ってから全てが変わってしまった。
新しい人間関係、バラバラの講義スケジュール、サークル活動。
すれ違う時間が増えるにつれて、あんなに近かった二人の距離は少しずつ、けれど確実に離れていった。
「もう、終わりにしよっか」
どちらからともなく言い出した別れ。
引き止める勇気も理由もなくて、私たちはあっけなく恋人ではなくなった。
同じ大学を選んでしまったのが、最大の失敗だったのかもしれない。
広い講義室でも、賑やかな食堂でも、気づけば視線が保乃ちゃんを追ってしまう。
ほの「あ、れいちゃん! おつかれ〜」
すれ違いざま、保乃ちゃんは昔と変わらない柔らかい笑顔で手を振ってくる。
もう特別な関係じゃないのに、そんな気さくな態度をとられるたび、胸の奥がキュッと締め付けられる。
れい「……うん、おつかれ」
素っ気なく返事をして、そっと視線を逸らした。
本当は、もう未練なんてないフリをしたい。
引きずっているのは自分だけだと思いたくて、別に好きじゃないよって自分に言い聞かせるけれど心はちっとも嘘をついてくれない。
そんなある日、学内のカフェテリアで保乃ちゃんの姿を見かけた。
でも、一人じゃない。
隣には、楽しそうに笑い合う女の子がいた。
ほの「ほんまに〜? もう、冗談やめてよ〜笑」
あんな風に愛おしそうに相手を見つめる目も、柔らかく肩が触れ合う距離感も、全部かつて私だけのものだったはずの特等席だ。
れい(……新しい彼女、できたんだ)
噂では聞いていたけれど、実際に目にしてしまうと息が止まりそうになる。
保乃ちゃんはもう次の恋へ歩き出しているのに、私だけが過去の残像に取り残されている。
「好きじゃない、もう好きじゃない」
何度も心の中で呪文みたいに呟いてみるけれど、溢れてくるのは嫉妬と後悔ばかりだ。
別れを選んだのは自分たちなのに。
嫌いになって別れたわけじゃないからこそ、諦め方がわからない。
遠くで幸せそうに笑う保乃ちゃんの横顔を、私は今日も物陰から見つめることしかできなかった。
視線を遮るように大粒の雨が降り出し、キャンパスの景色を白く煙らせていた。
私は食堂の軒下で立ち尽くし、鞄の中にある折り畳み傘を開く気力もないまま雨音に耳を澄ませていた。
胸の奥にこびりついた冷たい痛みが、一向に消えてくれない。
れい(もう好きじゃない。終わったことなんだから)
そう自分に言い聞かせるたび、保乃ちゃんの笑顔や、隣にいた女の子の楽しそうな声がフラッシュバックする。
私だけが、あの楽しかった思い出の場所に置き去りにされているみたいだ。
ほの「……れいちゃん?」
ふいに名前を呼ばれ、ハッと振り返る。
そこに立っていたのは、相合傘をした保乃ちゃんと、あの新しい彼女だった。
ほの「やっぱりれいちゃんや。傘持ってへんの? 結構降ってきたで」
れい「あ……うん。忘れてちゃって……でも大丈夫、すぐ止むと思うし」
咄嗟に作り笑いを浮かべて距離をとる。
保乃ちゃんの隣にいる女の子は、不思議そうに私を見つめていた。
ひかる「ほのちゃん、お友達?」
ほの「あ、うん! 高校からの友達で、大園玲ちゃん。れいちゃん、こちらは……今の彼女の、ひかるちゃん」
友達という言葉が、鋭い刃物のように胸に突き刺さる。
かつては私の恋人だった人が、目の前で他の子を彼女と紹介している。
その現実が恐ろしいほど鮮明に突きつけられて、呼吸が浅くなった。
ひかる「れいちゃん、よかったらこの傘使って? 私たち、ほのちゃんの大きな傘で一緒に入るから大丈夫だし!」
れい「えっ……ううん、申し訳ないよ、悪いから――」
ほの「ええよれいちゃん、受け取って? 濡れて風邪ひかれたら嫌やし」
保乃ちゃんは優しく微笑んで、私の手元にビニール傘を押し付けた。
その手が一瞬触れて、懐かしい温もりが伝わってくる。
でも、次の瞬間には、保乃ちゃんはひかるちゃんの肩を抱き寄せるようにして、相合傘の中に納まっていた。
ほの「じゃあねれいちゃん、また大学で!」
二人で一つの傘に入り、身を寄せ合って雨の中に消えていく後ろ姿。
私に渡された一本の傘を持ちながら、私はその場から一歩も動けなくなっていた。
れい「……優しくしないでよ」
ぽつりと漏れた声は、雨音にかき消された。
私にくれた優しさは、もう特別な愛なんかじゃなくて、ただの友達への気遣いなんだ。
それが痛いほど分かってしまうから余計に辛い。
差した傘に当たる雨音が、心の中で「好きじゃない、好きじゃない」と繰り返す私の虚しい嘘を、優しく笑い飛ばすように響いていた。