俺の恋刀は天然でちょっと鈍い

 吸い込まれそうに大きな翡翠の瞳が見開かれる様を俺はじっと見つめた。死刑宣告でも受けるかのような心持ちだった。しかしいつまで経っても否の言葉は聞こえてこない。もしやこのまま聞かなかったことにでもするつもりだろうか。永遠かと思われた沈黙から数刻の後、零れ落ちそうな瞳を瞬かせ、それをパチパチと数回繰り返した後、薄桃色の小さな唇が震えるように上下を離した。
「俺も……あんたのことは憎からず思っている」
 ニクカラズオモッテイル……ニクカラズ、オモッテイル……オモッテイル。
 今度はこっちが固まってしまった。停止しそうな思考を無理やり動かし耳から脳内に届いた言葉を懸命に咀嚼した。つまりっ!
「山姥切っ!」
「うわっ、なんだ急に!」
  一歩踏み出した俺から仰け反るように一歩引いた山姥切を逃す気はなかった。もう俺の間合いだ。
「ははっ! きみには驚かさせてばかりだ」
「はぁ? ちょ、近いっ」
 白布でも隠せない距離で頬が薄らに昇る朱を見つけると俺の気分も最高潮だ。
「これで恋人同士だな!」
「は?」
「ん? あ、恋刀同士……ってことだろう?」
 好き合ってるんだから。今こうして想いを伝えあったんだから。当然だ。ああ早く山姥切国広は、この可愛い刀は俺のものだと、俺だけのものだと皆に知らしめたい。
「別にあんたを俺のものにしたいなんて思っていないが?」
「へっ?」
「あんたのことは……そうだな、ほかの刀とは違う感じだとは思う。俺の中では特別だ」
「! だったら!」
「けど恋刀だなんだと言われてもな……あんた俺と同衾したいと思うか?」
「もちろんだっ!」
「……そう、なのか……」
「山姥切は違うのか?」
 しょんぼりとした声になった俺に焦ったのか山姥切は必死で弁解をしてきた。
「違うというか考えたこともなかったというかっ……あんたのことはさっきも言ったように勝手に目が追ってしまうくらいには俺の中では特別だ。だが、だからと言ってどうこうしたいと思っているわけではなくて、だな……その、視界に入っていれば良いというか」
「ん? ちょっと待て! 山姥切、きみは俺の何処が好きなんだ?」
「顔」
 顔かーーーーっ!
「あと本体……あんたの刀身はほんとにうっとりするほど美しいな」
「……っ、そ、そりゃあどーも」
 くそっ、赤くなってなんてないぞっ! ちゃんと考えろ。せっかくのチャンスなんだ。山姥切は俺の本体と顔を好いていてつい目で追ってしまうほどで。俺も山姥切が好きだ、全部が好きだ! やっぱり両想いじゃないか! だろう⁈
「山姥切っ!」
「うわ、なんだ!?」
「やっぱり俺たちは両想いだ! 恋仲だ! そうだろう?」
「…………」
「ダメ、なのか?」
「……いや、あんたがそういうのなら」
 俺の頭で祝福の鐘が鳴り響いた。
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