ランドライドパレード
「……なんだ、ここは」
時空転移を終えてクリアになった視界。山姥切国広の目前にはカラフルな今まで見たこともないような建物と大勢の人、人、人。
時折「キャー!」と悲鳴が聞こえるが誰かが襲われているわけではなく、頭上を超高速で通過していった乗り物のせいであろう。
「てーまぱーく、ってところらしいぜ」
「……本当にここで合っているのか?」
警戒態勢を取る山姥切に対してのんびりとした雰囲気の鶴丸国永。
遠征先が西暦二〇二二年の冬ということでそれに見合う服をそれぞれ身にまとっていた。山姥切はいつもの襤褸ではなく白のロングパーカーを着ている。普段より丈が短く落ち着かない。鶴丸も見慣れぬ洋装だがこちらは特に気にしていないようだ。常に纏う白とは違い、黒に近いチェスターコートをスラリと着こなしている。
今回の遠征は珍しく二振り編成だった。そう難しい任務ではない、はずなのだが。
「んー、座標軸は問題ないぜ。ここが目的地だ」
「こんなところに時間遡行軍が」
「まぁ、あいつらの考えていることはわからんからなぁ、ってわけで行くか。主の指令書によればまずはぽっぷこーんってのを買うらしい」
「ぽっぷこーん?」
「菓子のたぐいらしいぜ。ふんふん、塩味も良いがきゃらめる味もおすすめらしい。どうする?」
キャラメル……確か南蛮渡来の茶色くて甘い飴だったような気がする。山姥切の表情から勝手に判断したのか鶴丸は入り口でもらった紙のマップを手にスタスタと歩き出した。
「お! あれも指令書に書いてあるな」
「おい、鶴丸っ。勝手に行くな」
太刀のくせになんでそんなに素早いんだ。人混みではぐれまいと山姥切が鶴丸に追いつくころには鶴丸の手には見慣れないものがあった。
「どっちが良い?」
「……なんだこれは」
「だからこれも指令なんだって。ここではこれを頭に付けておく必要があるらしいぜ」
なるほど、あたりを見渡せば行き交う人々は皆なにかしら頭に装飾品をつけている。
郷に入っては郷に従え、仕方がないか。
鶴丸の手にある二つを見比べる。ひとつは白地に黒いものが二つくっついている。もうひとつは同型だがくっついているのは茶色いフサフサだ。これは耳……なのだろうか?
「かちゅーしゃって言うらしいぜ。頭につける装飾品だな。この時代の兜みたいなもんか」
そのわりには防御力は低そうだ。素材もフワフワしているし大きさも心もとない。こんなもので敵の攻撃が防げるのか。
「んー、こっちの方が似合うかな。白だし」
いつまでも選ばない山姥切に埒が明かないと思ったのか、鶴丸が強引に白黒の方を頭にはめてきた。鶴丸もすでに同じものを付けている。
「おー、似合う似合う。よし、今度こそぽっぷこーんに行くぞ」
自分の頭がどうなっているのかわからないが被っていたフードの上からカチューシャとやらを被せられた。落ちてしまわないかと心配で落ち着かない。
ポップコーンワゴンはすぐに見つかった。近づくにつれ甘い匂いが漂ってきて吸い寄せられたのだ。
「鶴丸、良い匂いがするな」
「原材料はとうもろこしらしいぜ。それを熱するとあんなふうに弾けるみたいだな。こりゃ愉快だ」
鶴丸は匂いや味よりもその作り方に興味があるようだ。機械から弾けて次々に下に零れ落ちるさまを熱心に見ている。ざっと二十人くらいが列をなしていて随分と人気の菓子のようだ。
「不思議なもんだなぁ。ポンポン音もするし」
行列が進み、山姥切たちの順番が回ってきた。
「味が選べるらしいぜ。山姥切は……甘いほうだな」
「まだ何も言っていないが⁉」
「主はこの入れ物が目当てらしい。ぽっぷこーんは食べて良いんじゃないか? 湿気ると美味くないしな」
出来立てのポップコーンを入れてもらったバケツ……というには不思議な形のそれを受け取った。円を模った炎の中に立ち姿のヒトがくっついている。
「何の形なんだ、これは……ヒトが炎に包まれている?」
「俺にも良くわからんが、これだけは絶対買ってこいとのことだ」
鶴丸が示した指令書には赤字で『これだけは絶対‼』と書かれている。
「これも任務か……ってちょっとまて! これが任務なのか⁉ 時間遡行軍はどうした⁉」
「今回の任務は二振りでこの時代のてーまぱーくに赴き、主の名代としてぽっぷこーんばけつと限定ぐっずを入手すること、だな」
「だましたな!」
「人聞きが悪いなぁ。誰も戦闘があるなんて言ってないぜ」
指令が書かれた紙を鶴丸がヒラヒラと揺らす。
「おっとそろそろ次に行くか。ここのこーすたーは凄そうだぜ」
「鶴丸っ!」
どうしたって鶴丸は止められない。戦じゃないんだから肩の力を抜けよと言われて、山姥切は仕方なくコースター待ちの列に並んだ。
「いやー、凄かったな」
「あぁ」
「楽しんだかい?」
「……そうだな。鶴丸、本当にこれは主に言われた任務なのか?」
これではテーマパークでただ遊んでいるだけだ。
「あー……怒らないか?」
「それは内容によるな」
***
「山姥切が足りない……」
鶴丸は限界だった。真面目な山姥切は本丸にいると非番の日でもあれやこれやと動いている。最古参の初期刀ゆえ頼まれごとも多い。本丸にいるとなかなか二振りきりにはなれないのだ。かといってどこか出かけようとしても本丸を私用で離れるなんてと山姥切が難色を示すだろう。
ならば任務にしてしまえばよいのでは⁉
冬のデート特集なる雑誌を乱藤四郎から借りて主に直談判に行くと、意外にも乗り気でいろいろと都合をつけてくれた上、プランも一緒に考えてくれた。そして今日、主はちゃっかり自分の買い物を頼み、楽しんでらっしゃいと送り出してくれたのだ。
***
「やれやれ」
白状した鶴丸にあきれ顔の山姥切。決して鶴丸と一緒に過ごしたくないわけではないし、自分のことをあれこれ考えてくれる鶴丸の気持ちは嬉しいのだ。嬉し
いのだが……どう反応すれば正解なのかがわからない。
任務中はまだ良い。他の刀がいる時も。二振りきりになると途端にどう行動すれば良いのかわからなくなるのだ。鶴丸の金色に捕らえられて、その金色の瞳が自分だけを写していることを意識してしまうと、逃げたいような、そのまま身を委ねたいような、そしてなりたくもないのに頬に朱が差して何も言えなくなってしまう。
目は口程に物を言うとはよく言ったもので、山姥切が真っ赤になって二の句が継げられなくなっても鶴丸にとっては愛しい恋刀だ。ぐるぐる頭の中で考えてくれているのがわかって、それがわかるだけでも嬉しい。
独り占めしたいのが本音だがそんなことは出来ないし、山姥切自身も望んでいない。今日のように時々で良い。許された時間だけ一時共にあれればそれで良いのだ。
「くしゃんっ」
「冷えてきたな。大丈夫か?」
海沿いにあるテーマパークは師走ともなると日が落ちると同時に一気に気温が下がる。
「ちょっとここで座って待っていてくれるかい?」
そう言うと鶴丸は地面に敷物を広げた。
「あぁ、わかった」
「ん? ひとりじゃ心細いか?」
「誰がっ! さっさと行ってこい」
鶴丸にくらべればかなり年下なのは確かだが時折必要以上に子ども扱いされるのは不満だ。
ピウッと冷たい風が山姥切の体温を奪っていく。
「待たせたな、ほら」
手渡されたのは湯気の立った紙コップ。
「! ありがとう」
「火傷するなよ」
そんなヘマはしない。が、忠告は素直に聞くかとフウフウと冷ましてから口に含んだ。暖かい茶にホッと息が漏れた。
「……まだ、帰らないのか?」
鶴丸の手には大ぶりの買い物袋がある。主に頼まれていた品はだいたい買えたようだ。あとは本丸の皆への土産も買った。
「もう少しだけ付き合ってくれ。今からあっと驚く大舞台が始まるんだ」
「? それはどういう」
山姥切が言い終わる前にそれは始まった。
ファンファーレと共に光と音の洪水が溢れてくる。園内を一周するナイトパレードの始まりだった。
「すごい……!」
次々と現れる光源、フロートにはパークの人気キャラクターが乗っていてパレードルートの両側に集まった観客からの歓声に答えている。
「え?」
その中の一人が山姥切の方を指さしてから自分の両耳を持ち上げておどけた仕草を見せた。
「なんだ?」
「たぶん山姥切と耳がお揃いって喜んでいたんじゃないか?」
「これか……」
黒いたれ耳のカチューシャはいつの間にか付けているのを忘れるくらい頭に馴染んでいたようだ。
パレードのフィナーレは巨大なクリスマスツリーの点灯式だった。地上からではてっぺんにあるはずの星が見えないくらいに高い。この時代の日本で一番高いツリーだそうだ。赤・白・金のクリスマスカラーの電飾が冬の夜空を煌々と照らしだす。
「綺麗だな」
「あぁ、きれいだ」
鶴丸は山姥切の方を向いて言ったのだがツリーに目を奪われている山姥切は気付かない。どんなに光るイルミネーションよりもキラキラ輝く山姥切の瞳の方がずっと綺麗だと鶴丸は思った。
ひと際大きく歓声が上がり、夜空に大輪の花が咲いた。
「花火⁉」
「へぇ、冬に花火とは乙なもんだな……国広、」
鶴丸は二振りきりの時にしか呼ばない呼び名で注意を引くと、山姥切の唇に己のそれでそっと触れた。
「なっ、こんな所で」
「誰も見てない。俺たち以外は皆花火に夢中だからな」
空に咲き誇る花の下、二振りのシルエットが再び重なった。
「さーてと、帰るか。すっかり暗くなったなぁ」
「鶴丸……その、今日は」
「楽しめたかい?」
「あ、あぁ」
「なら良かった」
鶴丸に柔らかく微笑まれた山姥切は、なんて顔をするんだとこれ以上伸びないフードを無理やりに引っ張った。
時空転移を終えてクリアになった視界。山姥切国広の目前にはカラフルな今まで見たこともないような建物と大勢の人、人、人。
時折「キャー!」と悲鳴が聞こえるが誰かが襲われているわけではなく、頭上を超高速で通過していった乗り物のせいであろう。
「てーまぱーく、ってところらしいぜ」
「……本当にここで合っているのか?」
警戒態勢を取る山姥切に対してのんびりとした雰囲気の鶴丸国永。
遠征先が西暦二〇二二年の冬ということでそれに見合う服をそれぞれ身にまとっていた。山姥切はいつもの襤褸ではなく白のロングパーカーを着ている。普段より丈が短く落ち着かない。鶴丸も見慣れぬ洋装だがこちらは特に気にしていないようだ。常に纏う白とは違い、黒に近いチェスターコートをスラリと着こなしている。
今回の遠征は珍しく二振り編成だった。そう難しい任務ではない、はずなのだが。
「んー、座標軸は問題ないぜ。ここが目的地だ」
「こんなところに時間遡行軍が」
「まぁ、あいつらの考えていることはわからんからなぁ、ってわけで行くか。主の指令書によればまずはぽっぷこーんってのを買うらしい」
「ぽっぷこーん?」
「菓子のたぐいらしいぜ。ふんふん、塩味も良いがきゃらめる味もおすすめらしい。どうする?」
キャラメル……確か南蛮渡来の茶色くて甘い飴だったような気がする。山姥切の表情から勝手に判断したのか鶴丸は入り口でもらった紙のマップを手にスタスタと歩き出した。
「お! あれも指令書に書いてあるな」
「おい、鶴丸っ。勝手に行くな」
太刀のくせになんでそんなに素早いんだ。人混みではぐれまいと山姥切が鶴丸に追いつくころには鶴丸の手には見慣れないものがあった。
「どっちが良い?」
「……なんだこれは」
「だからこれも指令なんだって。ここではこれを頭に付けておく必要があるらしいぜ」
なるほど、あたりを見渡せば行き交う人々は皆なにかしら頭に装飾品をつけている。
郷に入っては郷に従え、仕方がないか。
鶴丸の手にある二つを見比べる。ひとつは白地に黒いものが二つくっついている。もうひとつは同型だがくっついているのは茶色いフサフサだ。これは耳……なのだろうか?
「かちゅーしゃって言うらしいぜ。頭につける装飾品だな。この時代の兜みたいなもんか」
そのわりには防御力は低そうだ。素材もフワフワしているし大きさも心もとない。こんなもので敵の攻撃が防げるのか。
「んー、こっちの方が似合うかな。白だし」
いつまでも選ばない山姥切に埒が明かないと思ったのか、鶴丸が強引に白黒の方を頭にはめてきた。鶴丸もすでに同じものを付けている。
「おー、似合う似合う。よし、今度こそぽっぷこーんに行くぞ」
自分の頭がどうなっているのかわからないが被っていたフードの上からカチューシャとやらを被せられた。落ちてしまわないかと心配で落ち着かない。
ポップコーンワゴンはすぐに見つかった。近づくにつれ甘い匂いが漂ってきて吸い寄せられたのだ。
「鶴丸、良い匂いがするな」
「原材料はとうもろこしらしいぜ。それを熱するとあんなふうに弾けるみたいだな。こりゃ愉快だ」
鶴丸は匂いや味よりもその作り方に興味があるようだ。機械から弾けて次々に下に零れ落ちるさまを熱心に見ている。ざっと二十人くらいが列をなしていて随分と人気の菓子のようだ。
「不思議なもんだなぁ。ポンポン音もするし」
行列が進み、山姥切たちの順番が回ってきた。
「味が選べるらしいぜ。山姥切は……甘いほうだな」
「まだ何も言っていないが⁉」
「主はこの入れ物が目当てらしい。ぽっぷこーんは食べて良いんじゃないか? 湿気ると美味くないしな」
出来立てのポップコーンを入れてもらったバケツ……というには不思議な形のそれを受け取った。円を模った炎の中に立ち姿のヒトがくっついている。
「何の形なんだ、これは……ヒトが炎に包まれている?」
「俺にも良くわからんが、これだけは絶対買ってこいとのことだ」
鶴丸が示した指令書には赤字で『これだけは絶対‼』と書かれている。
「これも任務か……ってちょっとまて! これが任務なのか⁉ 時間遡行軍はどうした⁉」
「今回の任務は二振りでこの時代のてーまぱーくに赴き、主の名代としてぽっぷこーんばけつと限定ぐっずを入手すること、だな」
「だましたな!」
「人聞きが悪いなぁ。誰も戦闘があるなんて言ってないぜ」
指令が書かれた紙を鶴丸がヒラヒラと揺らす。
「おっとそろそろ次に行くか。ここのこーすたーは凄そうだぜ」
「鶴丸っ!」
どうしたって鶴丸は止められない。戦じゃないんだから肩の力を抜けよと言われて、山姥切は仕方なくコースター待ちの列に並んだ。
「いやー、凄かったな」
「あぁ」
「楽しんだかい?」
「……そうだな。鶴丸、本当にこれは主に言われた任務なのか?」
これではテーマパークでただ遊んでいるだけだ。
「あー……怒らないか?」
「それは内容によるな」
***
「山姥切が足りない……」
鶴丸は限界だった。真面目な山姥切は本丸にいると非番の日でもあれやこれやと動いている。最古参の初期刀ゆえ頼まれごとも多い。本丸にいるとなかなか二振りきりにはなれないのだ。かといってどこか出かけようとしても本丸を私用で離れるなんてと山姥切が難色を示すだろう。
ならば任務にしてしまえばよいのでは⁉
冬のデート特集なる雑誌を乱藤四郎から借りて主に直談判に行くと、意外にも乗り気でいろいろと都合をつけてくれた上、プランも一緒に考えてくれた。そして今日、主はちゃっかり自分の買い物を頼み、楽しんでらっしゃいと送り出してくれたのだ。
***
「やれやれ」
白状した鶴丸にあきれ顔の山姥切。決して鶴丸と一緒に過ごしたくないわけではないし、自分のことをあれこれ考えてくれる鶴丸の気持ちは嬉しいのだ。嬉し
いのだが……どう反応すれば正解なのかがわからない。
任務中はまだ良い。他の刀がいる時も。二振りきりになると途端にどう行動すれば良いのかわからなくなるのだ。鶴丸の金色に捕らえられて、その金色の瞳が自分だけを写していることを意識してしまうと、逃げたいような、そのまま身を委ねたいような、そしてなりたくもないのに頬に朱が差して何も言えなくなってしまう。
目は口程に物を言うとはよく言ったもので、山姥切が真っ赤になって二の句が継げられなくなっても鶴丸にとっては愛しい恋刀だ。ぐるぐる頭の中で考えてくれているのがわかって、それがわかるだけでも嬉しい。
独り占めしたいのが本音だがそんなことは出来ないし、山姥切自身も望んでいない。今日のように時々で良い。許された時間だけ一時共にあれればそれで良いのだ。
「くしゃんっ」
「冷えてきたな。大丈夫か?」
海沿いにあるテーマパークは師走ともなると日が落ちると同時に一気に気温が下がる。
「ちょっとここで座って待っていてくれるかい?」
そう言うと鶴丸は地面に敷物を広げた。
「あぁ、わかった」
「ん? ひとりじゃ心細いか?」
「誰がっ! さっさと行ってこい」
鶴丸にくらべればかなり年下なのは確かだが時折必要以上に子ども扱いされるのは不満だ。
ピウッと冷たい風が山姥切の体温を奪っていく。
「待たせたな、ほら」
手渡されたのは湯気の立った紙コップ。
「! ありがとう」
「火傷するなよ」
そんなヘマはしない。が、忠告は素直に聞くかとフウフウと冷ましてから口に含んだ。暖かい茶にホッと息が漏れた。
「……まだ、帰らないのか?」
鶴丸の手には大ぶりの買い物袋がある。主に頼まれていた品はだいたい買えたようだ。あとは本丸の皆への土産も買った。
「もう少しだけ付き合ってくれ。今からあっと驚く大舞台が始まるんだ」
「? それはどういう」
山姥切が言い終わる前にそれは始まった。
ファンファーレと共に光と音の洪水が溢れてくる。園内を一周するナイトパレードの始まりだった。
「すごい……!」
次々と現れる光源、フロートにはパークの人気キャラクターが乗っていてパレードルートの両側に集まった観客からの歓声に答えている。
「え?」
その中の一人が山姥切の方を指さしてから自分の両耳を持ち上げておどけた仕草を見せた。
「なんだ?」
「たぶん山姥切と耳がお揃いって喜んでいたんじゃないか?」
「これか……」
黒いたれ耳のカチューシャはいつの間にか付けているのを忘れるくらい頭に馴染んでいたようだ。
パレードのフィナーレは巨大なクリスマスツリーの点灯式だった。地上からではてっぺんにあるはずの星が見えないくらいに高い。この時代の日本で一番高いツリーだそうだ。赤・白・金のクリスマスカラーの電飾が冬の夜空を煌々と照らしだす。
「綺麗だな」
「あぁ、きれいだ」
鶴丸は山姥切の方を向いて言ったのだがツリーに目を奪われている山姥切は気付かない。どんなに光るイルミネーションよりもキラキラ輝く山姥切の瞳の方がずっと綺麗だと鶴丸は思った。
ひと際大きく歓声が上がり、夜空に大輪の花が咲いた。
「花火⁉」
「へぇ、冬に花火とは乙なもんだな……国広、」
鶴丸は二振りきりの時にしか呼ばない呼び名で注意を引くと、山姥切の唇に己のそれでそっと触れた。
「なっ、こんな所で」
「誰も見てない。俺たち以外は皆花火に夢中だからな」
空に咲き誇る花の下、二振りのシルエットが再び重なった。
「さーてと、帰るか。すっかり暗くなったなぁ」
「鶴丸……その、今日は」
「楽しめたかい?」
「あ、あぁ」
「なら良かった」
鶴丸に柔らかく微笑まれた山姥切は、なんて顔をするんだとこれ以上伸びないフードを無理やりに引っ張った。
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