あとらんてぃっくじゃいあんと

「とりっくおあ~、とりーとー!」

 思い思いの仮装に身を包み、短刀たちは魔法の呪文を練習中だ。なんでもはろうぃんという西洋の催しらしい。合言葉を言えばお菓子が貰えるとあって張り切ってしまった粟田口を中心に、本丸中がオレンジと紫と黒で装飾されている。
 遠征連中が帰ってきたら間違って別の本丸に帰還したのかと戸惑うかもしれない。
主も楽しいこと大いに結構な御仁なので特別にイベント手当なるものまで出してくれた。せっかくだから楽しまないと損だ。

 そんな中いつもならイベントごとでは一二を争う気合いを見せる鶴丸国永がやけに静かだった。嵐の前の静けさか、あの面白いこと好きな常に驚きを求める刀が黙っていられるわけが無い。一体何をするつもりなのか。近侍だろう、聞いておいてくれと頼まれて断れず、渋々山姥切国広は鶴丸国永の部屋へと向かった。
今日は非番のはずだ。
「鶴丸、ちょっと良いか?」
 戸を開ける前に声をかけるが返事がない。どこかへ出かけているのか? そういえば本丸内にあの楽しげに響く声は聞こえない。
「失礼する」
 気配はないが一応と部屋の戸を開けてみたがやはり中は無人だった。一体どこへ。
 仕方なく厨に向かった。同じ伊達の刀の燭台切光忠がいるはずだ。
「え、鶴さん? 今日は朝餉のあとは見てないなぁ……万屋にでも行ったんじゃないかな? 貞ちゃんと伽羅ちゃんも買い出しに行っているし」
 万屋に行くならこれも頼めるかなと追加の買い物メモを渡されてしまった。鶴丸を探すついでだからまぁ構わないのだが。

 万屋まで来てみたが鶴丸はいないのが店に入る前からわかった。中にいたらやれ面白いものを見つけただの、やれこの調味料を味見しようだのとにかく煩いのだ。
 店先で出会った太鼓鐘貞宗と大倶利伽羅にも念のため聞いてみるがやはり見ていないという。追加のメモは二振りに託して万屋を出た。

 一体どこへ──。

 ダメ元で馬小屋や洗い場にも行ってみたが来ていないという。仕方がない、こうなったら畑にも行ってみるか。

 鶴丸は何にでも興味を示し、驚きのためなら労苦を厭わないところがあるのだが、当番でもないのに畑に行ったりはしなさそうだ。
 今日の畑当番は確か……。
「そろそろトマトは終わりだよー」
「そうなのか、残念だ」
「秋はやっぱり根菜かなぁ。さつまいもでしょ、人参でしょ、蓮根に」
「赤色はないのか……」
「んー、あるにはあるけど真っ赤ってわけじゃないかなぁ」
 そう、今日の畑当番は桑名江と松井江だった。桑名江は当番でなくても毎日のように畑に来ているようだが。
「あれ? 山姥切?」
「どうかしたのか?」
「鶴丸を見なかったか?」
 その時白い探し人が現れた。
「お、山姥切?」
「鶴丸! ここにいたのか」
 やっと見つけた。白い内番着が泥だらけだ。珍しく畑当番を手伝っていたのだろうか。……隠したいようだが隠れていない足元の物体が目についた。

「……それは?」
「んー、内緒にしとこうかと思ったんだが」
 鶴丸の後ろには巨大な橙色の丸い物体がある。
「なんだこれは? 形は南瓜に似てなくもないが」
「ふっふっふっ、聞いて驚けっ! これはな、なんと昨年から計画し、桑名江の助言を受けてようやくここまで育ったじゃっくおらんたん! になる予定の南瓜だ」
「昨年からっ!? ……デカイな」
「だろう? せっかく作るんなら被れるくらいが良いと思ってな」
「被る……あんたが? 重たくないか?」
「どうかな。その前に中をくり抜かないとなんだが。本丸に持って帰るのも難儀でな。ちょうど良かった! 手伝ってくれ。荷車は収穫した野菜で満員なんだ」
「はぁ、全くお前は」
 鶴丸がはろうぃんにするらしいことは分かったから良しとするか。山姥切はやれやれと内番着の袖を捲り直した。
「せーの、よっ! ……っ、ほんとに重いな! 何キロあるんだ!?」
「さあな、これだけあれば暫く南瓜料理には困らないな」
 二振りで持ち上げるのがやっとの重さだ。
「あー、それ甘みほとんどないから煮物には向かないよ。そうだねえ、ぱんぷきんぱいとかお菓子系が良いかなぁ」
「ぱんぷきんぱいか! 光坊に頼もう!」
「ちょ、鶴丸! 手を放すなっ!」
「うわっ! すまんすまん」

 日が西へと沈む中、夕日と同じ色をした巨大南瓜が無事に本丸に到着したかどうかは神のみぞ知る。
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