サンタクロースがやってくる

「きっときみはこない~……ってな」
 街が赤と緑に包まれる季節になるとどこかしらから聞こえる曲を口ずさみながら鶴丸国永は氷のように冷たくなった両の手に息を吐きかけた。
 ドアに背をあずけて立っている鶴丸のほかは野良猫いっぴき見当たらない。それはそうだろう。今は外気温が氷点下に迫ろうかというクリスマスイブの深夜だ。
 約束をしたわけではなかった。むしろ約束は出来ないと十二月に入って早々に断られていたのだ。もしかして他に過ごす相手がと探りを入れてみたがなんのことはない、ただのバイトだった。
 何も好き好んでクリスマスイブに働かなくてもと思うのだが特別手当が出るらしく嬉々としていた山姥切を止められなかった。
 バイト代の倍は出すから一緒に過ごしてくれと喉まで出かかったが不思議そうな顔をされるだけだと思って耐えた。パパ活をする気は無いなどと言われてみろ、立ち直れない。
 そんなこんなで約束は取り付けられなかったものの、どうしても顔が見たくなって家の前で待っている、というわけだ。言い訳のかわりに有名ホテルの限定クリスマスケーキ持参である。大人になると行動に理由が必要なのだ。
 そろそろ日付が変わりそうだ。クリスマスイブのピザ屋だからって拘束時間が長すぎないか? やっぱり店の前で待つべきだったかとストーカーに間違われそうなことを考えながら腕時計に目をやった。長針と短針が重なり合う寸前だった。

 ──クリスマス当日になってすぐ、サンタクロースが現れた。赤と白の特徴的なユニフォーム、トナカイ連れではなかったが、手には大きな白い袋を持っている。あっけに取られて口をぽかんとあけた鶴丸の目の前までやってきたサンタは、口ひげを取り去ると呆れた声で行った。
「何してるんだあんた」
「や、まんばぎり?」
「今日はバイトがあると言っただろう?」
「その格好……」
「ん? ああ、今日の制服だ。洗って返すから防寒具代わりにそのまま着て帰ってきた」
「ほんとに、サンタかと思った」
「まあこの格好ならな。驚いたか?」
「あ、ああ。驚いた」
 驚かせるつもりが逆に驚かされてしまった。山姥切サンタが玄関の鍵を開けている。さすがに都内のボロアパートに煙突はない。
「どうした? 入らないのか?」
「え、入っていいのか?」
「……変なやつだな。いつもズカズカ勝手に上がり込むくせに」
 クリスマスに会えたという事実と山姥切の衣装にどうにも調子が狂っている。
「……っ、あんたいつからいたんだ!?」
 鶴丸の手を引いた山姥切があまりの冷たさに驚きの声をあげる。
「さっさと入れ!」
 今風呂を沸かすからと言われてそれを必死で固辞しながらいつまで自分は押し掛け狼にならずに耐えられるだろうかと頭を押さえる鶴丸。
 ──誰にでもこんなことしてないよな!?

 聞けない問いを飲み込んだまま深夜のクリスマスパーティーが始まるのだった。
1/1ページ
    スキ